プロローグ
そこは白一色の空間であった。
見渡す限り地平線の彼方まで、どこまでも白一色で、何もない。
強いて言えば、あるのは椅子が2脚。
一方には誰も座っていないが、もう一方には……
ぶぅ~~~……!
神聖な空間に、その者の放ったフローラルな香りが漂う……!
「屁をしても一人……」
金髪碧眼の神々しいまでに煌びやかな、見目麗しい女性がそう呟いた。
身を包んだ虹色に輝く白いドレスは、ところどころに金糸で模様が縫われ、誰が見ても一目で彼女が高貴な者な存在であることを示していた。
そう、先程の放屁をしたのは彼女だ。
「おい、誰かツッコミしろよ」
彼女は、誰もいない虚空に向かって呟く……
無論、それに応えるものは存在しなかった……
「ちっくしょー……絶対誰か精霊あたり見てるくせに見て見ぬフリだものな……ったく! つまんねーわ! くそ!」
(そりゃ、関わりたくないですからね……)
(うんうん!)
空気に混じって、何者かの、聞こえるか聞こえないかギリギリのひそひそ声が、風のざわめきのように響く……
精霊が囁いたのだ。
女性はそれを確認すると「ふんっ」と鼻息を鳴らして椅子に踏ん反り返る。
彼女は、女神ヘカーティア。
屁の女神…………ではない。
転生を司る女神である。
この宇宙に……
大小合わせて3000あると言われている各世界……
その各世界で。生きとし生けるものは全て、輪廻転生の中でサイクルを繰り返している。
しかし、魔王降臨や天変地異などによって滅びゆく世界が現れれば、女神ヘカーティアの登場である。
女神は輪廻転生の輪に干渉し、ある種の適性をもった者……勇者を選出。
その勇者に特殊な技能……いわばチート能力を与えて、滅びゆく世界に派遣し、その世界を救ってもらう。
それが彼女の役目である。
まあ……
逆に言えば、三千世界に異変がなければ、女神の出番はないと言える。
女神ヘカーティアは虚ろな目で、小さく溜め息を吐いた……
「ああ、今日も一人……」
「誰も来ない……何も起こらない……平和な日……」
女神は白一色のこの空間で、一人だった。
あ、ちなみに……
余談であるが、真面目な話をすると、屁のにおいは腸内に溜まっているウ●コのにおいだそうで、どう足掻いてもフローラルな香りは到底無理なのだそうだ。
女神ヘカーティアの屁が、本気でフローラルだと思ってしまった純情な青少年の皆様には、ここで謝罪しておく。
正直すまんかった。
「ああ! もう無理! やだ! もうやだ! こんな生活!」
ぶっちゃけ、女神は飽きていた。
勇者を選抜し
転生させ
各世界を救うというこの使命に……
「早く家に帰って、積んでるBL本消化しなきゃいけないのに!」
これは、転生の女神ヘカーティアの退屈な日常を綴った物語である――
不定期更新の予定。
純愛もの書きたかったけど、この作者じゃ無理だったよ!