女
京介は優しい。
俺のことを気遣ってくれる。
紀世彦に初めて抱かれた日、京介は知っていたからこそ、様子を見に来てくれたのだと、今は思っている。
前に、京介が一緒に流れ星を見ようと誘ってくれた事があった。
俺は嬉しくて、その夜、夜が更けるまで二人でずっと縁側で話し込んでいた。京介のそばに居れば、紀世彦だってわざわざ邪魔をしに来ないだろうと勝手に思っていた。しかし、夜が更ける頃になって、紀世彦が現れた。
「お前達、まだ起きていたのか」
「お父さん」
京介は少し驚いた顔で言った。
「今夜は司くんと星を見ようと思っているのです。お父さんもご一緒しませんか?」
「いや、わたしは寝る。司、おいで」
俺はそのとき、体の芯から凍ってしまうのじゃないかと思った。
紀世彦が俺を促して、俺はがくがくする膝を奮い立たせて立ち上がった。京介の顔を見てきちんと謝りたかった。だが、そんな勇気はなかった。
背中を向けた俺に京介が、
「おやすみなさい」
とだけ言った。
俺は振り向けなかった。
紀世彦は、俺の手を掴んで廊下を走るように急いだ。
「旦那様っ」
部屋に入るなり、後ろから抱きすくめられた。
「司……」
紀世彦が悲しそうに言った。
「司、悪かったな。京介と星を見たかっただろうが、今度にしてくれないか」
背の高い紀世彦は、俺の背中に顔を押し付けてそう言った。
「何か……」
あったのですか? と聞こうとしたが、紀世彦がすばやく口を塞いだ。
貪るように口づけを交わした後、紀世彦は自分から着物を脱いだ。
彼は悲しそうだった。
「司、きつく抱きしめてくれ」
頼まれ、俺は無言で頷いた。そして、背中に腕をまわした。
「旦那さま……」
紀世彦の額を撫でてやると、彼はうっとりとした顔で目を瞑った。そして、
「女に会った」
と出し抜けに言った。
「女?」
「ああ」
紀世彦はそれ以上、女の話はせず、俺たちは足を絡ませて、顔を近づけたまま黙っていた。
俺も何も聞かなかった。
紀世彦の頭を抱え込み、目を閉じた。
紀代彦の口から女、という言葉を聞いたのは、この日が初めてだった。