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彼方へ  作者: 春野 セイ
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いとこ



 季節は、いつ間にか秋になっていた。

 部屋の窓を開けると、風が入ってきて俺の頬を優しく撫でる。

 紀世彦に拾われてどれくらいの月日が過ぎたのだろう。

 あの時は、夏の終わりで夕方になると、山奥で蜩が鳴いていた。

 いつのまにか、蝉の鳴き声もしなくなり、地上の虫たちが音楽を奏ではじめる季節へと移った。


 俺は部屋の床に落ちていた本を黙って拾い上げた。

 今の俺にとって、本はかけがえのない存在になっている。

 意外なほど、本に夢中になれる自分がいた。

 

 俺は本を開いて、じっくりと文字を追いかけ始めた。その時、部屋の外から京介の声がした。


「司くん、今いいかな」

「はい」


 俺は本を机に置いた。


「ちょっと、おいで」


 呼ばれて部屋を出る。

 何だろうと思って京介の後をついて行った。

 階段を下りて客間に入ると、甘い花の匂いがした。見ると、部屋の中に見た事もない男が座って煙草を吹かしていた。

 未成年の少年だが、慣れた手つきでぷかぷかと煙草の煙を吐き出した。


 誰だろう。


 ただ、分かるのは、その少年がかなりの美形である事は間違いなかった。

 京介は俺がそろうと、


「司くん。紹介するよ。前から話していただろう、彼が僕の従兄弟の春生だ」


 と言った。


「え?」

「雪代春生です。よろしく」


 少年が言った。もう一度、俺は、え? と聞いていた。


 彼が春生?


 まだ、少年くらいで、それでも彼は、京介や紀世彦とは違う色気を持っている。

 さすが血の繋がった一族だけあって、綺麗な顔立ちをしていた。


 じっと見ていると春生が、煙草を灰皿に押し付けながらにっこりと笑った。


「しばらくお世話になります」

「は、はい」


 俺は頭を下げた。


「佐々木司です。よろしくお願いいたします」


 にこにこと笑う春生の笑顔はどこか不敵だった。



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