5.平常な日常3
トンと彼女は右のイヤリングを揺らした。すると彼女の右肩に半透明な薄緑の妖精が現れる。
それは、アーディナイスが発掘した製造装置で製造され、高性能なAI機器だと言われている。おそらくは量子コンピューターでエネルギー源は不明だ。それが暗色のアクセサリーであることから光子エネルギーと推察されるが、それだとホログラムを作るエネルギーに充たない。
「この記者さんがあなたに質問があるようだけど」
「はぁ……」
妖精は軽くコメカミを押えて呆れたというアクションをとった。
「まだ表現する言葉すら無いのにどう説明しろってのよぉ」
アーディナイスのピクティンは現在もっとも高ランクの妖精である。人類の様々な知識を分析して対人コミュニケーションには定評がある。しかし、言葉で定義されてない事柄を説明するのは困難を究める。一般人に量子コンピューターを説明する様なものである。
「IT部門の記者をやってますから、コンピューターとかプログラム系はある程度の知識がありますよ」
和人はそう応えるが彼女は笑顔で言った。
「答えをもらえるかは質問次第ですよ。頑張ってください」
うむむ。これはグルグルで検索する様なものだな。有効な回答を得る為には、適切な質問をしないといけない。そうしないと膨大な情報に彷徨うことになる。
和人は職業柄インターネットで検索することは良くある。必要な情報に辿りつけなかったことも多々ある。
一例としてうろ覚えの歌詞の歌を検索したことがあるが、全く関係のないものばかりだった。そこでダメもとでQ&Aサイトに質問を書き込むと一日で判明した。つまり、質問の仕方で無限の回答か100年掛かっても解らない回答になりかねない。
情報は先ずは浅く、少しずつだな。
「最初の質問ですが………」
結局、答えが和人の理解度を越えループするまで一時間程だった。無理だぁ、量子力学なんて解らない学問で説明されても訳わからん、と和人は頭を抱えた。
判ったことは大まかに5つだ。
1.アーディナイスのピクティンの呼び名がセラフと言うこと。これで、何故か好感度がアップした。
2.言葉の学習は最初はアーディナイスが行ったこと。
3.インターネットとの接続は地上のあちこちで行っていて量子通信でセラフが纒めている。ピクティン間の通信も量子通信だ。
4.ホログラムは個別のピクティン毎に違い、多色である。実現方法は聞くな、専門外だ。
5.基本構造がアナログとデジタルを組み合わせたハイブリッドコンピュータであること。
人間をサポートするのだから、20桁とか100桁の精度は要らない。それよりパターン認識して対応する速さが大切だと割り切った設計である。例えば、足にハンディキャップを負った人が転びそうになった場合、早く気付けばほんの少しのサポートで修正できる。遅くなれば重力の加速が増え大きな力が必要になる。
人間の基礎的運動パターンはおよそ80程度と言われているので、その位今のコンピューターでも楽勝じゃないの?
しかし、実現が遥かに遠いのを知っている和人だった。