4.平常な日常2
直ぐに、クレーンで持ち上げられた。静かな浮遊感がある。和人は騙されないぞとばかりに、言葉を紡ぐのをガマンした。そうはいっても、木製の床の頼りなさは半端ないが、悪くても数メートル、建物の一階分位だろうと当たりを付けた。
アーディナイスはチョイと外を覗いていた。蓋の様に垂れ下がっている板を持ち上げると外が見えるらしい。悪戯っぽく、こっちを見る。
駕籠の中には特に明かりがないが、何だかんだと光が漏れ込んで来ている。その中では彼女の金の瞳が猫の瞳の様に光って見えた。少し細められた感じは笑みが浮んでいると、和人に確信させた。
「えぇと、時間があれば聞きたいことがありますが、良いですか?」
ここは、ビジネスライクに…。
お遊びに付き合う必要はないよな。思ったより静かだし、取材のチャンスだ。ボイスレコーダーのスイッチをいれる。片手でメモを取れる程に和人は器用ではないのだ。
「どうぞ」
軽やかな声で返事が返る。口元が悪戯っぽく少し釣り上がっている様に感じられる。眼は時折外へ向けられ何かを待っていると思わせた。
ビックリの種明かしの準備だな。ゆらりゆらりと揺れが続いている。
「ラトス島の遺跡について、何か新しく解ったことはありますか?」
世界各国が驚愕した遺跡が、ラトス島で発見された。その全貌を知っているのは、和人の目の前の女性しかいない。
「見つかったのは、爆弾と保存装置ですけど……。まだ、解析が終わったとは言えません。稼働の為のエネルギー源の解明が少し進んだ位でしょうか。」
「エネルギー源は、何なんですか?」
「外部にあると思われます。島の地下にある何か。それを伝達する機構があって、受信する機構が保存装置に備わってますね。」
保存装置と彼女が言う物は貴重品だった。まだ、たった一つしか見つかってなく、ラトス王国の生命線である。故に調査許可すら得られない。
アーディナイスの経歴も謎である。ラトスを訪れた博識の考古学者であり、王族の病気を治療し、王国に迎え入れられた。その時から、本名や誕生日を秘する様に命じられた。呪術に対する予防策の為だ。
「…ピクティンについては?」
ピクティン
それは妖精型・インターフェースのことである。可視、不可視を切り分けられる情報検索機器、ホログラム投影機能を持つ情報端末。
ある人の物は指輪、ある人はネックレスと様々なアクセサリーに埋め込まれたスマホに近い情報機器である。
開発コンセプトはハンディキャッパーの生活支援。そして、自活能力の低い科学者にも彼女が配った。
10億円、これが科学者達に配布されたピクティンの最高価格だった。