10.平常な日常8
洞窟の中はそれなりに広く、少し緑がかった岩肌に見える。あちこちに補強等の人手が入っている。
「遺跡はそんなに深い所じゃないんです。ただ、誰も使い方が分からなかっただけで……」
20分も進んだ所で、壁面に向き合ったモアイ像のレリーフが見えた。その真ん中には四角い顔のライオンの像と祭壇がある。祭壇は真ん中が少しだけへこんでいた。
ウアスは多分ホログラムの出力が足りないのだろう。見えない腕輪に向かって話しかけた。
「ラーイ、今日は祭壇の様子はどうだい?」
「今日はご機嫌みたい。」
「ミスター・カズト。じゃあやって見ます。」
そう聞くと、ウアスはライオンの両眼を押す仕草をして、像の横のライオンの大きさからすると小さな手を回した。
カランと音がして、黒曜石の様な欠片がライオンの口からこぼれる。
「これが、ピクティンになる石なんです。黒曜石の欠片にしか見えませんけど。」
「まだ赤ちゃんだからね。直接触れちゃダメだよ」
ピクティン・ラーイの声がした。
「大陸の知識が無いと、保護機構が働いてイニシエートモードになら無いよ」
そう聞きながら、ウアスは手袋を着けて専用ケースらしき物を取り出した。祭壇の窪みから黒い石を手袋でつまみ上げケースに収める。
「不思議だよねぇ。セラフは何だって起動出来たんだろ。今は大陸の形も無いのにね。」
ウアスは専用ケースをポケットにしまい。和人に言った。
「ラトス島は、遥か昔はあの大陸の一部だったと言われています。このモアイのレリーフで考古学者があの大陸を思い浮かべていた、というのはロマンです。
もう、他に見てもらえる物もありませんし、戻りましょう。」
ウアスはさっさと出口に向かう。和人は仕方なくウアスに続いた。
「今度の子は誰が教えるのかな。」
ピクティン・ラーイの声がした。
「モディおばさんのマハナとおもうよ。ラーイ。
マハナはモディおばさんの相手をしてるから、辛抱強いからね。」
「そうかもね。マスターに合わせるのって辛抱強くないとダメだもの。」
ピクティンにも苦労があるのかと、感心する和人であった。