1.崩壊する宇宙
宇宙は何事も無いように見えた。
この宇宙の崩壊が始まっているのに、誰も何も言わない。全てのものには終わりがあるのが彼らの認識だからだ。
しかも、彼らがいる宇宙はすべての宇宙の中では極小な部分でしかない。
「この次元への影響は?」
「極小ですね。何の影響もありませんよ。次元壁は壊れてませんし、彼女は目を開くことが無かった様ですね。」
「彼女の目が開くと、真実の崩壊が起きますからね。」
「メデュースの瞳だったか、無機質の崩壊は信じられないがな。次元壁すら抵抗すらしないとか、この世界が存在してるのが不思議だよ。」
「まあ、彼女が抵抗しない限り止まることはないから仕方ないだろう。彼女だって数千人は死んでるだろう。彼女らが目覚めていれば更に崩壊が進んだろうし、この世への執着が無かったのが幸いだったな。」
「さて、それは幸いでしょうかね。」
彼らとて、この宇宙に留まれば存在の崩壊は間違いない。この宇宙で産まれた彼らとて、この宇宙が壊れたなら存在し続けるなど不可能である。
不死不老である彼らとて、この宇宙の存在としては終了する。存在の終了は死ではないのか?
彼らもその回答は持ち得ない。意識の継続はないが、別の意識を持った存在は死の断絶なのか生の継続なのか。同一の存在ゆえにその存在を認識することは自己の崩壊を招く。
かつて、彼らは彼女に敗れ、取り込まれた。そして、この様に外部に出る迄に如何ほどの時間が掛かったのかは分からない。
一応の解答は知っている。彼女は宇宙間と次元間に伝搬するソリトン波の一種であること、その存在があまりにも低確率である故に如何なる方策を取ろうが無くすことが出来ないということを…。
存在確率0の物が存在を確認された場合、その存在を否定してもしょうがない。ルールが変わったという事である。
こう言う逸話がある。グリセリンはかつて結晶化しなかった。1920年代のある日、グリセリンが一樽、偶然に結晶化した。その後、グリセリンは結晶化するようになった。このルール変更の後で、ルール変更前の検証を行うのは不可能である。
「さて、これからどうするか?数十億年後の崩壊を待つかね?」
「私は、他の宇宙にも沢山いるから、ここに留まるよ。今更、テリトリー争いは御免被る。」
「俺はまだ、テリトリーが狭いから…」
「そうだな。」
「では、あの彼女を転移させて我らも同乗させて貰うか。」
彼らは、目に付いた彼女を一瞬覚醒させ、一緒に転移する。一瞬の覚醒とは言え、強化された彼女は別宇宙の存在と融合した様だ。このまま強化されれば面白いのだが、ほとんどの場合そうはならない。
やはり、経験値の高い個体に統合されるようだ。要素4の集合と要素5の集合を重ねた場合、要素5に見えるという事。
そして、存在の強化によって転移の確認をする彼ら。
「さて、この宇宙はどの位保つのかな。」
「それは、この宇宙次第だろう……。」
「よっ!俺は、この宇宙の俺と遊んで来るわ。」
別の宇宙とはいえ、彼らに取っては薄皮一枚の違いでしかない。さて、彼らはパンドラの希望なのか、悪意なのか。