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宇宙人と、距離

「俺、この星には宇宙人がいると思ってるんす」


「もちろんいるわね。この星、地球も宇宙の一部だもの。地球人はア・カインド・オブ宇宙人だもの」

「違うんす。そういう意味じゃないんす。地球以外の星の人間、つまり地球外人っていうか。そういうのがいると思うんす」

「どうしてそう思うの?」

「俺、超能力があるんす」

「ずいぶん話が飛ぶわね」

「飛んでないんす。いいっすか? 親。いるじゃないすか、俺にも親が。父親と母親が」

「誰にでもいるわ」

「そうっす。誰にでも親がいるんす。で、俺と妹は兄妹なわけじゃないっすか」

「あら妹さんがいたの」

「前に見せた、俺が待ち受け画面にしてるの、妹っす」

「気持ち悪いわね。シスコンなの?」

「俺、妹とは距離が2なんす」

「距離? 心の?」

「心の距離はゼロっすけど、二頭身なんす」

「ゼロって自分で言うのがまた気持ち悪いわね……。二頭身ってのは何よ? まだ赤ちゃんなの?」

「赤ちゃんでも三頭身くらいはあると思うっす。違くて、血縁関係の……」

「……ああ、二親等?」

「そうっす。それっす。俺から親が1、親から妹で2。だから妹との距離は2っす。で、これがいとこだったら距離は4なわけじゃないすか」

「そうね。四親等ね」

「で、じゃあゆかりさんと俺との距離がいくらかって行ったら、これがわかんないんす。不明なんす」

「そりゃそうでしょ。私とあなたは親戚じゃないんだし」

「でもおかしいんす。……だって、俺の家の近所に住んでる姉ちゃんは、わかるんすよ。132なんす」

「……132? え? 何が? 身長が?」

「そんな幼くないっす。百三十二親等ってことっす」

「百三十二……親等?」

「そうっす。つまり親の親の親の親の親の……親の……」

「ストップ。わかったわかった。あんたの先祖を66代遡ると、向こうの66代前の先祖につきあたるってこと?」

「そうっす。そうっす。……あ、ゲンミツには違うかもしんないすけど」

「そうね、66代は大体の数字ね。あなたの65代前が向こうの67代前とか、かもしれないもんね。一世代が何年分かは何歳で子供作るかでズレるものね」

「そういうことなんす」

「あと、親等ってことは逆方向もあるんじゃないの? 親の親の子の親の子の……みたいな感じで、直系とは限らないわよね」

「あ、それはないんす。言い忘れたっすけど、直系で辿って共通の先祖で折り返す距離っす」

「そうなの?」

「そうっす。そういう距離で言うと、俺の隣に住んでる姉ちゃんとの距離は132なんす」

「なんでわかるのよ。調べたの」

「最初に言ったじゃないすか」

「? ……ああ、それが超能力って話?」

「そうなんす。俺、それがわかる超能力があるんす」

「……へー。変わった能力持ってるわね。そうなのね。……でも、じゃあ私は? あ、わからないって言ってたか。……少なくとも132よりは遠いってことかしらね。共通の先祖が前すぎてわからないのかしら」

「遠いからわからないってことも無いと思うんす。だって大統領と俺、8862っすもん」

「……ん? なんていった? はっせん?」

「8862っす。テレビで見た時わかったんす。間違いないっす」

「ちょっと待って。大統領って言った? どこの大統領? あ、それとも誰かのあだ名?」

「テレビで見たって言ったじゃないすか。あのほら大国の……どこだったっすかね。覚えてないすけど」

「何それ。え、どこかの本物の大統領の話なの? でも何よ八千って。ほとんど他人じゃない」

「他人の定義はどこからなんすか」

「死んだ時葬式に行く気になれなきゃ他人よ」

「じゃ俺大統領他人じゃないっす」

「行かないでしょ。ていうか行けないでしょ」

「行く気にはなるっす。招待してもらえて旅費も出るなら」

「何で上からなのよ……話それたの戻して」

「つまりだいたい大統領とは4千世代くらい遡ったら先祖が同じなんす」

「そうなの? ……でもなんか変じゃない? たかだか1万年かそこらで先祖が同じになっちゃう計算だけど」

「変すか?」

「だって人種が違うんでしょ。肌の色が。白色人種とか黒色人種との分岐は5万年だか10万年だかの昔だって聞いたけどな」

「詳しいんすね。でも時には混じることもあるじゃないすか」

「まぁね。あんただって先祖たどりゃ案外江戸時代あたりに白人の血が混じってるかもしれないしね」

「そういうことっす。だから俺、大統領のことは遠い親戚だと思ってるんす」

「親戚。まあ……思うのは勝手だけど」

「思うのも言うのも勝手っす。憲法で定められた基本的陣形っすから」

「陣形組んで何と戦うのよあなたは」

「話それたの戻していいっすか」

「え、それてたの今。ていうかごめん、本筋はどこなんだっけ」

「宇宙人っす」

「そこまで戻るの?」

「大統領は宇宙人じゃないんす」

「わかってるわよ。宇宙人が国の代表になるなんて悪夢はもうたくさん」

「なぜ宇宙人じゃないかというと、俺の親戚だからっす」

「八千親等……くらいだってわかるからってこと? それもさっき聞いたけど……」

「いいっすか? 俺は地球人っす。大統領は俺の親戚っす。地球人の親戚は地球人っす。よって大統領は地球人っす。どうっすかこの三段論法」

「四段あったけど」

「……あれ」

「まあ言いたいことはわかったわ。その理屈でいけばこの地球上の全員があんたの親戚ってことになるけどね」

「ところが、ならないんす」

「なんで?」

「いいっすか? 先祖をたどってたどって、どこかで俺と共通の祖先がいるなら、俺の親戚っす。つまり間違いなく相手も俺と同じこの地球の人類っす。どんなに遠くても親戚なら俺の能力でわかるんす。8862が最高値なわけじゃないんす。今まで見てきた中で、地球の人類なら大きいほうだと5桁とか6桁とかの人もいたんす。もちろん外国の人っすけど。テレビの旅番組で見たっす」

「……あんたのその能力、どういう理屈なのかしら。どうやってわかるのその数字」

「そこは重要じゃないんす。それより重要なのは、俺はその気になりゃ9桁でも10桁でも、わかるんす。遠すぎてわからないなんてことはないんす」

「……」

「でも、ごくたまに、意外に身近なところに、距離がわからない人がいるんす。何親等か、わからないんす」

「……」

「これ、変じゃないっすか?」

「変じゃあ、ないわよ……」

「そうっすね。変じゃあないっす。答えは簡単で、どこまで遡っても俺とは祖先が共通じゃない……。つまり」

「宇宙人?」

「そうっす」

「違うわねえ」

「違うんすか?」

「……宇宙人なんて言い出すよりもまず、言うべきは「異世界人」じゃないの?」

「異世界っすか?」

「異世界の人間よ。私たちと同じ見た目だったり、そうでもなかったりするけれど。少なくとも、この地球で昔から進化してきた私たち人類とは違うルーツの筈でしょ」

「……甘いっす」

「なにが?」

「先輩、俺がそのくらいも考えてないと思ったんすか? 異世界からわんさか人類や亜人類が来てんのは知ってんす。でもそん人たち、距離、わかるんすよ。俺には。俺との距離、何千とか何万とか、大きいと8桁くらいの時もあるんすけど」

「へえ……エルフとかも? 親戚なの? え、亜人も?」

「そうっす。エルフもドワーフも雪女もイエティも、距離がわかるなら皆、親戚っす」

「雪女とかイエティは伝説じゃなかったっけ……。でも何、距離がわかるってことはあんたや大統領と同じ先祖を持っていると?」

「そうっす。遠い遠い先祖が同じなんす」

「おかしくない? だって異世界にいる人達なのよ。いるわけないじゃない。共通の先祖なんて」

「でも事実、わかるんす。俺の考えじゃ、たぶん異世界にいる人類ももとをたどればこの地球の人類から分かれたんす。あるいは逆かもしんねっすけど」

「この地球の人類ももとをたどれば異世界人だった?」

「そう考えれば距離がわかるのは辻褄があうんす。ま、確かなことはわかんねっす。でもとにかく異世界の人類や亜人類なら距離はわかるんすよ。でも……」

「でも?」

「先輩は、わかんねんす。数字が」

「……」

「先輩だけじゃないんすけど、たまにいるんす。何百人かに一人くらいっすけど」

「……」

「最近増えてきたんす」

「……」

「先輩、宇宙人なんすよね? そうとしか考えられねんす。地球外からやってきた、全然別の生命体。だから親戚じゃないんす。俺と共通の祖先がいねえんす」

「……ぷっ」

「どうしたんすか? 図星っすか?」

「まさか。ははは……」

「どうしたんすか、突然笑い出して」

「先輩宇宙人なんすよね? ……てのは良かったわ。面白い。あなたにしてはよく考えたわね。感心した」

「そりゃどうもっすけど」

「その問いには、誠意を持って答えるわね」

「お願いしやす」

「答え1。そうです私は宇宙人です。答え2。私は最近増えてきた、クローン人間なの。この場合、親が本人なのか本人の親なのか、定義が曖昧になるから距離がわからないわけ。答え3。アンドロイドなのよ。生き物じゃないから当然あなたと共通の先祖がいるわけない。答え4。タイムマシンでやってきた、未来の人間なの。だからあなたから見た親等数は未来の情報だからわからない。逆からはわかるかもしれないけど」

「……さすが先輩っす。はぐらかすことにかけては一流っす」

「……答え、5。私には、理由がわからない。……だってね? もし答え1から答え4までの人が私の遠い先祖にいてみなよ? もしくはあんたの先祖に。そしたらそこから子孫は皆、理由もなく距離がわからないわけでしょ。なにせ、あんた以外にはわからないわけだから。その距離」

「そうっすね……」

「答え6、その数字はあんたの妄想で、何の根拠もない……って可能性もある」

「あるっすね」

「答え7。私はあんたの超能力をガードする超能力を持っている」

「……そんな能力あるんすか」

「あるかもしれないじゃない。答え8。私はあんたの頭の中で作り出した架空の存在で、実在しない」

「先輩みたいにややこしい人作り出せないっす」

「答え9……」


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