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第4話 魔物の饗宴

死刑執行人リサは迷宮機関のメンバーではないかと疑念をもたれてしまう。その疑念を晴らすために氷見のチームに参加する

そしてリサも氷見のチームもミュータント化して凶暴化した動物達が突如

襲撃してきた

 ジェルはタブレット端末を出した。

 自分達は第一の壁にいる。第二の壁はここより五キロ先にある。高さ三十メートル。暑さ一〇メートル

の鉄骨合金コンクリートの壁がそびえ立っている。

 終戦後にミュータント化した動物に悩まされた海側のアフリカ諸国は国境に砂漠の壁を建設した。

三十年以来襲撃はないがソラリス国からやってくる無法者や鳥形のミュータント動物をもっぱら警戒

している。

 「見学者がハンター協会から来るというのを聞いた」

 不意に声をかけられ振り向く四人。

 「ケビン」

 そこに大柄の男が立っている。特殊部隊が着るような戦闘服と防弾服を着用。精悍な顔。

髪は茶色だ。

 「パニッシャーのケビンさん」

 氷見がたずねた。

 「君らの事は聞いている」

 ケビンと呼ばれた男は口を開く。

 「あなたも上位レベルなら内陸部へ調査に行かないの?」

 氷見が疑問をぶつける。

 「今までも死刑執行人は数百人以上行った。そして帰ってこなかった。今まで何も言ってこなかった

国連本部が国際調査隊を編成するそうだ」

 ケビンは視線をそらした。

 「それはいつですか?」

 リックが身を乗り出す。

 「具体的な日時は言ってない」

 ケビンが首を振る。

 「やっと重い腰を上げたわけね」

 しれっと言う氷見。

 「だけど・・・」

 リサは最後まで言えなかった。地響きと大きな揺れにたたらを踏んだ。

 「なんだ?」

 リックは壁を見上げた。

 地響きは連続で響き、壁自体が揺れた。

 「あれを見て!!」

 ジェルが指さした。

 壁からぬうっと頭を出したのは頭に大きな角を生やした龍の頭部だった。頭部と首はメタリックな銀色

に輝き、赤い両目が周囲をにらみ吼えた。それはオーボエのようなあらゆる獣の声をかけ合わ

せたような遠吠えだった。

 「機械龍だ!!」

 声をそろえる氷見、リック、ジェル。

 ドオーン!ドドーン!

 何かが激突するような轟音が響き、壁にヒビが入った。

 「壁が壊れるぞ第二の壁へ撤退だ!!」

 ケビンは叫ぶ。

 ジープに飛び乗る五人。

 ドドーン!ドゴーン!!

 何かが爆発するような地響き音が響いた。

 第一の壁から遠ざかるジープ。

 もう一度、何かが激突するような音が響き、壁に穴が開き、大きな瓦礫が吹き飛ぶ。

 ジープはその飛んでくる瓦礫をジグザグによけて第二の壁のトンネルをくぐった。

 機械龍と思われる遠吠えがまた聞こえた。それに呼応するようにミュータント化した動物達の吼え声が

不協和音となって響く。

 「こんなバカな・・・」

 運転しながら悪態をつくケビン。

 ジープがトンネルを飛び出す。

 第二の壁を太い黄金色の光線が貫いた。穴の大きさは六メートルである。

 穴から飛び出す高さ五メートルの鋼鉄の鎧の覆われた牛やアリ、蜂の群れ。続いてギリシャ神話に

出てくるような三つの頭部を持つキメラ。そして金属の大型タランチュラ。

 蜂をジープについていた機関砲で撃ち落とすリサ、氷見、リック、ジェル。

 「いつの間にこんな群れが?」

 リサは持っていた銃で接近してきたドローンを撃ち落とす。

 「大変。無線も携帯も圏外。電波妨害で連絡できない」

 ジェルの顔が真っ青になる。

 続いて隕石のような飛翔体がミサイルのように警備隊基地やハンター、ギルド詰所に着弾した。

 空から舞い降りる大鷲。ただの大鷲ではなく翼長が二〇メートルはあろうかという大鷲の群れが基地に

急降下して隊員達をつかみそのクチバシで食いちぎった。

 「仲間が・・・」

 「友軍が・・・」

 絶句するケビンとリサ。

 数十機のドローンが接近する。それは明らかに群れで動いている。一糸乱れぬ動きで生存者を

撃ち殺していた。

 ジープは機関銃を連射しながら蜂やドローンを撃墜して第三の壁のトンネルをくぐる。

 「通信が出来る所に出たらバージル達を呼ぶわよ」

 氷見が後ろを振り返る。

 トンネルの壁にヒビが入った。

 ジープは外に飛び出した。

 壁の穴から肩口から鋼鉄の角が前方向に突き出したバッファローが飛び出す。高さは六メートルで体は

鋼鉄の皮膚で覆われている。その肩口の大角でトラックを突進で蹴散らす。

 ジープの機関砲を連射する氷見。

 しかしバッファローは無視して走り去っていく。

 「武器をギルドで調達するわ」

 リサが舌打ちする。

 街からサイレンが鳴り響く。

 五人を乗せたジープはギルドの駐車場に入った。隕石のような飛翔体がいくつも飛んでいく。建物の

窓ガラスが割れ、破片や備品が散乱している。

 隊員達は出払っているのかもぬけの殻だ。リサ達は武器庫に入って残っている武器や手榴弾を手に取る。

外に飛び出す五人。

 逃げ回る人々を捕まえ魔物達はその鋭い牙で噛みつき手足を食いちぎりおいしそうに咀嚼する。道路

には食いちぎられた手足や頭が散乱している。

 プラズマライフルで熊を撃つケビンとリック。熊は熊でも体長五メートルで足が六本という熊である。

射ぬかれ倒れる熊達。

 氷見やリサ、ジェルはアラルトライフルで舞い降りる大鷲を頭部を撃ちぬく。何匹かの大鷲は

地面に落下した。

 ジープの機関銃に銃弾を補充するリック。

 人々が逃げ回る中を五人はプラズマライフルや機関銃でキメラやアリ、蜂を掃射。

 火炎放射器で飛びかかってきたコブラを焼くリサと氷見。

 ジープは走り回りながら魔物達を機関砲、マシンガンで蹴散らした。

 大通りに飛び出すジープ。

 すると半壊したビルの影からぬうっと現われる戦闘機。それはなんとなく「蛾」かエイを思わせる形を

している、機体中央埋め込まれたエンジンプロペラが回転するのが見えた。操縦席にはパイロットはいない。

自動制御なのかコクピット窓は赤く光っている。

 ケビンはアクセルを踏んだ。

 ジープは路地に飛び込んだ。

 リックはバズーカー砲を撃った。弾は熱追尾式でくだんの戦闘機に命中。黒煙を上げながら墜落した。

 「いったいどうなっているのよ!!」

 リサが銃でドローンを二機撃墜する。

 「敵はどうやら魔物達だけでなく無人戦闘機を持ち出したようね」

 氷見は周囲を見回す。

 「あの機械龍は何だ?」

 ケビンが声を荒げる。

 「知らないわよ!!」

 くってかかる氷見。

 自分も事態は飲み込めていない。突然のミュータント化して魔物化した動物が暴走して襲撃してきた。

おまけに魔物達を先導したのは角を生やした機械龍だ。三重の壁は突破されて街は大混乱になった。

この様子だとプレトリアルだけでなくヨハネスブルクも壊滅しただろう。

 街の集会場が見えた。そこの屋根を大鷲が鉤爪でめくり上げ、アリや熊が建物内に侵入するのが見え、

避難民たちの悲痛な叫び声と助けてくれと呼ぶ嗚咽とも思えない叫び声が聞こえ、ちぎれた

手足や臓物が舞い、ドアから大量の血が流れ出るのが見えた。

 ジェルは思わず耳をふさぐ。

 しばらくするとヨハネスブルグの街に入る。

 多くの瓦礫が散乱し、建物の多くは半壊。食いちぎられた手足や体の一部が路上に散乱している。

 ジープはギルドの事務所で止まった。建物は屋根が崩れている。

 「主任!!」

 倒れている女性を見て駆け寄るリサ。

 あおむけにして腰を抜かすリサ。

 瓦礫に隠れてわからなかったが下半身がなく上半身だけだった。

 「ここを出よう」

 「今、出ないと俺達は死ぬ」

 リックはリサの腕を引っ張る。

 再び走り出すジープ。

 しばらくするとヨハネスブルクの街を出た。

 「南アフリカ全域に大規模な電波妨害が起きている」

 ジェルはタブレット端末を操作する。

 「敵はモーロックじゃないわ。迷宮機関よ」

 氷見が当然のように言う。

 当然そうだろう。無法者に無人機やドローンまでは扱えないだろう。

 「魔物を操っているのがモーロックだとしたらあの無人機とドローンは迷宮機関?」

 リサが口をはさむ。

 「おかしいじゃない。私達が南アフリカに来たら魔物と敵が襲撃してきた」

 ジェルが言う。

 「それは偶然でしょ。私は買い物にここに来ただけ。有名なネイリストがここに来ているから買い物の

後で寄ろうとしたらあんた達が来た。休暇は台無しね」

 食ってかかるリサ。

 「私達は迷宮機関がいないか聞きに来ただけ。巻き込まれたの」

 声を荒げる氷見。

 「俺達に迷宮の手下がいると思ったのか?」

 ケビンがムッとする。

 リックがうなづく。

 「俺だって知りたい。三十年間静かだった魔物達が今になって襲う気になったのか」

 ケビンは顔を朱に染めた。

 「ケンカはやめましょ。疲れるだけ」

 氷見が言った。

 ジープは途中のガソリンスタンドで燃料補給すると夜通し走った。いくかの壊滅した村を通り抜け、

荒野を抜けて夜明け前に別の街に入った。

 「空飛ぶ空母?」

 小高い丘を走っている時にケビンが気づく。

 「え?バージルか?」

 身を乗り出す氷見達。

 でも様子がちがう。全長一〇〇メートル位で、空母のような艦橋構造物と全通甲板。しかし球状艦首がなく

流線型でどっちかというと映画に出てくる宇宙船のようなフォルムに近い。二基のプロペラガードと

プロペラが見え、艦尾にスクリューはなく六基のエンジンノズルが見えた。トンボというよりより「巨蛾」

に見える。

 「ちがうわ。エスペランサーじゃない。武器を装填している。そこの地下駐車場に入って!!」

 氷見は叫んだ。

船底の中央部ドームと艦尾、艦首船底から無数のバルカン砲が見えた。

ジープは急カーブを曲がって地下駐車場に飛び込んだ。せつな、バルカン砲や長距離砲のかわいた

連射音が聞こえた。

駐車場の隅に止めて実を伏せる氷見達。

連射音とともに避難民達の叫び声が響いていた。   

 思わず耳をふさぐジェル、氷見。

 その時である。地鳴りの連続音が聞こえたのは。

 「地震か?」

 リック、ケビン、リサが叫ぶ。

 ゴゴゴゴ・・!!

 小刻みに揺れていた駐車場は激しい揺れに襲われた。

 「ちがう。N2爆弾だ!!」

 ケビンが叫んだ。

 「核兵器についでもっとも威力を誇る爆弾よ。放射能がないだけ幸運!!」

 リサがジープにつかまりながら声を荒げる。

 ズドドドーン!!

 耳をつんざくような爆発音が響き、衝撃波で駐車場の壁にヒビが入り、彼らのジープも壁や天井と

一緒に吹き飛んだ。

 激しい衝撃に氷見は何がなんだかわからなくなった。


 ななか冷たい・・・

 銃声が聞こえる。ここは国連軍の船だ。なんで船上にいるのかわからない。

 氷見は飛び交う大鷲を持っていた銃で大鷲の頭部を撃つ。

 轟音が響き海から大きな角を頭部から生やす機械龍がぬうっと現われた。

 船が浸水して自分も衝撃で海に落ちた。

 兵士達と一緒に瓦礫も海底へ沈んでいく。

 海中を泳いでいるとサメが二匹近づくのが見えた。極彩色の体色といいビーチシャークだ。二匹のサメは

漂う兵士達を丸呑みにすると近づいて来た。

 急いで平泳ぎで泳いで海面を目指すがいつまでも浮上しない。

 サメの三列に並んだ牙が迫る。

 バタバタもがく氷見。

 サメの口が目の前にせまり長剣を抜いた。

 

 ベットから飛び起きる氷見。

 周囲を見回すとここは病院で自分は病室にいる。患者が着るようなパジャマで頭や腕に包帯が

巻いている。

 氷見は病室を出てロビーに出る。ロビーにリック、ジェル、リサ、ケビンがいた。ロビーのテレビが

ついていてニュースが流れる。

 「五日前の午前九時頃。南アフリカ共和国で魔物の大規模な襲撃がありました。魔物の群れは

砂漠の壁を突破し、プレトリアル、ヨハネスブルク、ダーバンを襲いました。死者は百二十万を超えると

南アフリカ政府は報告しています」

 女性アナウンサーは原稿を見ながら言う

 「これを受けて国連本部では討伐隊を編成を予定しています」

 女性アナウンサーは報告する。

 「魔物の襲撃じゃないわ」

 つぶやく氷見。

 「私だってそう思っている」

 リサが反論する。彼女は足や腕に包帯を巻いているが骨折ではないようだ。

 振り向くケビン、リック、ジェル。三人とも頭や腕、足に包帯を巻いている。

 「我々もそう思う。信号はモーロックのいるソラリス国から送信されていた。魔物を集めたのは

複数の無法者だ」

 ふいに声が聞こえて振り向く五人。

 そこにエリオット、オスカー、イリーナ、ホランドとヨセフがいた。

 「私達、頭に角を生やす機械龍が吼えるのを見たんです」

 訴えるように言うジェル。

 「そいつのミサイル攻撃と光線攻撃で壁に穴が開いて魔物の群れが入った」

 リックが口をはさむ。

 「街を攻撃する無人機と空飛ぶ空母を見たんです。空母のような艦橋と甲板があるのに宇宙船に

近い形で「蛾」みたいな感じ。二基のプロペラガードとプロペラが船体中央部にあって艦尾にはスクリュー

がなくて六基のエンジンノズルが見えた」

 氷見はふと思い出した。

 あの小型の空飛ぶ空母はなんだったのだろうか?

 「死刑執行人ギルドのデーターベースに多数のロボットやアンドロイドの部品が記載されていた。それを

ライデッカーやサムエルは買い取り、モーロックに横流しした」

 エリオットは答えた。

 「迷宮機関のスパイはどうやらハンターや執行人ギルドに入っていたようだ」

 ホランドが写真を出した。

 「主任」

 ケビンとリサが声をそろえる。

 それはたしかにヨハネスブルクの路上で死んでいた主任だった。

 「情報をもらしたのはこの女だ」

 主任の顔写真を指さすオスカー。

 「そんなバカな・・・」

 絶句するケビンとリサ。

 「じゃあ有名ネイリストが来ると教えたのは誰?」

 イリーナが聞いた。

 「主任です」

 視線をそらすリサ。

 「砂漠の壁を警備していたハンターや執行人、国連軍兵士はみんな死んだ。残らず魔物に喰われ、

街の人々もモーロックやライデッカーが横流ししたアンドロイドによって百二十万人も殺害された。

我々スクードは国連軍の討伐軍にくわわる。バージル達もだ」

 エリオットははっきり言う。

 「迷宮機関とモーロックをほっとくとおまえさんの好きなエステや買い物はできなくなるだろう」

 ヨセフがしれっと言う。

 黙ったままのリサ。

 「でもダーバンに現われた空飛ぶ空母もどきを何とかしないといけないし、敵の全容がわからないわ」

 氷見が口を開いた。

 「偵察しようにも上空は深い霧に覆われて衛星でも見えないと聞く」 

 ケビンがあっと思い出す。

 「バージルの仲間の手を借りるしかないわ。彼には他にも仲間がいただろうから」

 氷見が何か決心したように言う。

 「空飛ぶ空母はバージル、滝田の他にインドの空母とイギリスの強襲艦がいて、装甲トラック、偵察船、

宇宙船がいた。インドの空母は所在がわかっている」

 エリオットが資料出した。

 「インドにいるの?」

 リックとジェルが声をそろえる。

 「バージルと一緒に連れてきましょ。空母やアンドロイド、サイボーグは多い方がいい」

 氷見は何か決心したように言った。

 「リサ。行きたくないなら行かなくていい。強制はしない」

 ケビンがさとすように言う。

 「行くわ。私だって死刑執行人としてのプライドもあるし、また買い物やエステを楽しみたいからね」

 リサは真剣な顔になる。

 「じゃあ行きましょ」

 氷見は言った。


 二時間後。チェンナイ

 チェンナイは、南インドの東側コロマンデル海岸沿いの、ベンガル湾に面するタミル・ナードゥ州の州都。

インド有数の世界都市であり、人口は四六八万人。二〇一一年の都市圏人口は八六七万人であり、同国

第四位である。一九九六年にマドラス から正式に改名された。「南インドの玄関口」「南アジアのデトロイト」

「インドの健康首都」「インド銀行業の首都」の異名 を持つ。自動車産業、情報技術産業、ビジネス・

プロセス・アウトソーシング業が盛んである。そのチェンナイから離れた場所に目的の漁港はあった。

チェンナイやムンバイでもそうだがサドゥと呼ばれる苦行僧が普通に修行をしている。

 サドゥーはあらゆる物質的・世俗的所有を放棄し、肉体に様々な苦行を課すことや、瞑想により

ヒンズー教における第四かつ最終的な解脱を得ることを人生の目標としている。服を着る場合は、

俗世を放棄したことを示す枯葉色の衣服を身につけて数珠を首に巻く。「ナーガ」と呼ばれるサドゥーは

衣服さえ放棄し、ふんどし一枚きりか、あるいは全裸で生活し、髪を剪らず髭も剃らず、灰を体に塗っている。

サドゥーの名前は一〇種類しかない。サドゥーは入門時に俗名を捨て、一〇種の名前のうち一つを

与えられて以後それを名乗る。

サドゥーは決まった住所を持たず、各地のヒンズー寺院をはじめ、街角や河川敷、村はずれや森の中

などあらゆる場所に庵を結んだり

野宿したりしながら、さまざまな宗教的実践を行って毎日を過ごす。瞑想を行うものから、極端な禁欲や

苦行を自らに課す者も多い。断食や、僅かなバナナだけで山中に籠もる、数十年も片手を高く挙げ続ける、

何年も片足立ちを続ける、転がりながらインド大陸を横断する、柱の上で生活するなど、サドゥーの苦行には

決まった形式がない。また宗教的瞑想のため、ハシシ(大麻)を吸引する習慣を持つものも少なくない。

サドゥーのほとんどは民衆からの喜捨により生活の糧を得ているが、多くのサドゥーが、貧困と飢餓に

苦しんでいる。サドゥーは呪術医となったり、村や街の

聖者として、各種のお祓いや祈祷、結婚式で新郎新婦を祝福するなどして収入を得る場合もある。家庭内

でのもめごとや、悩みごとの相談に応じるものもいる。

サドゥーになるための手続きと儀式は宗派により異なる。 大半の宗派では、サドゥーになるためにはグル

(導師)に弟子入りする

必要がある。サドゥーの資格を得るまでには、導師のもとで数年間、無償で下働きに従事しなくては

ならない。その後、クンブ・メーラ

の承認式に参加して、正規のサドゥーの資格が与えられる。志望者は一〇代後半か二十代の若年者

が多いが、早婚のインドでは既に家庭を持つものも少なくないため家族は捨てることになる。家庭内の

不和や、借金から逃れるため、サドゥーを志望する者も少なくない

 「サドゥなのか?」

 驚きの声を上げるエリオット達。

 バージルは漁港の隅にいたサドゥに近づく。

 そのサドゥは頭は剃髪した頭に白いターバンを巻いている。肌は浅黒い色でどこから見てもインド人である。

白いヒゲとアゴヒゲを伸ばしている。アゴヒゲを腹部まで伸ばし三つ編みにしている。体には枯葉色の

外套を羽織っていた。

 「ノエル。いや空母ヴィラート。迷宮機関が動き出している。力を貸してくれないか?」

 バージルは口を開いた。

 「俺は戦う事をやめてサドゥになった。戦いに加われば誓いを破る事になる」

 ノエルと呼ばれたサドゥは答えた。

 「今の状況を見てみろよ。新聞くらいは見るだろ」

 エレミアが詰め寄る。

 「イスベル。あかぎよ。俺はお前達とはちがう。アンドロイドをもらったがそのプログラムは今は俺が

支配している」

 ノエルは顔を上げた。

 「アンドロイドなの?」

 氷見が聞いた。

 「人格がプログラムされていた。迷宮機関はターミネーターになることを望んでいた。それを終戦前に

エスペランサーがそれを解除してくれた。三十年前は俺はイギリス海軍の空母として活動した。そして

インド海軍の旗艦として任務についていた。合計で七十五年の任務を終えて退艦する事になっていた。

新しい新造艦ができたからな。迷宮機関はインド政府を騙して買い取り勝手に改造した。俺は化物に

してくれなんて言っていない!!」

 語気を強めるノエル。

 「そんな事は知っている。迷宮の連中は勝手に改造した。僕だって元に戻りたい」

 滝本が口をはさむ。

 「ノエルだな」

 いきなり割り込む背広のインド人二人。

 「え?」

 「我々はインド政府の者だ」

 身分証を見せる二人。名前はルイとチャオズである。

 「何ですか?」

 氷見がわりこんだ。

 「ノエル。空母ヴィラートはどこだ?」

 無視するチャオズ。

 「どうするつもりだ」

 エリオットが聞いた。

 「あの空母は三十年前に廃艦になった。それをダイバーエージェンス播磨工業はカジノ船に改装すると

政府にウソをついて改造した。大戦中期にロボット軍団を率いて廃艦になったはずの空母が

エスペランサーやあかぎと一緒にやってきた。だから解体する」

 ルイが説明する。

 「このサドゥがノエルで空母ヴィラートであるというのを教えたのは誰だ?」

 ホランドが核心にせまる。

 「大使館だ」

 チャオズが答える。

 「わかった。それが政府の考えていることならおとなしく解体されよう」

 達観したように言うノエル。

 「ちょっと待てよ。なんにも解決していない。迷宮機関が一番喜んでる」

 リックが詰め寄る。 

 「ヴィラート。私達は簡単に死ぬようにできていない」

 ドールがわりこむ。

 「ハルベリーは片割れの機械龍が死んで力を失った。我々の場合は主体コアが機能しなくても予備電源

が機動する。そして自己修復機能で死ぬ事はできない」

 バージルははっきりと言う。

 黙ってしまうノエル。

 「国連本部は南アフリカでの魔物襲撃を受けて討伐部隊を結成する。それにはこの空母の力がいる」

 エリオットがわりこむ。

 「国連機関「スクード」がこの空母を預かる。条件はヴィラートを解体しない事」

 オスカーは許可証を見せた。

 「そんな事は聞いていない。政府から許可が出て・・・」

 チャオズが言いかけ、携帯電話が鳴った。彼はあわてて出ると顔色がくもった。

 「今、官邸から電話があった。我々は引き上げる。だが空母ヴィラート。サドゥになろうが我々は許し

はしない。貴艦が「スクード」を離脱した時点で我々はいつでも解体できるということを覚えておけ」

 ルイは目を吊り上げると捨てセリフを吐いてチャオズと一緒に立ち去った。

 「なんなのあの二人!」

 不快な顔をするリサとジェル。

 「言いたいことを言って帰った」

 ケビンがしれっと言う。

 「ノエル。行くぞ」

 エリオットは軍用トラックを指さす。

 黙ったまま乗るノエル。

 氷見達も乗り込んだ。

 「空母ヴィラートは運用年数が長いわね」

 ジェルがタブレット端末を見せた。

 「建造されたのが一九四四年でイギリス海軍「ハーミーズ」として任務につく。インド海軍は一九八六年

四月に「ハーミーズ」を購入、デヴォンポート造船所で広範囲改修を行った後、一九八七年に就役させた。

購入後も寿命延長のための度々補修作業が行われたが、一九九三年九月に浸水事故を起こしたため

その修復に数ヶ月を要した。一九九五年に現役復帰、新型レーダーが追加された。一九九九年七月から

二〇〇一年四月にかけて改修作業が行われ、推進システムの改良、防空センサーの追加、新型通信

システムの導入、バラクSAM等の追加が行われた。ほぼ二年の作業後、二〇〇一年六月に

現役復帰した。新造艦が二〇一九年に就役。それと入れ替えに廃艦になる。廃艦後はダイバーエージェンス

に売却される。同じアンドロイドでもおもしろい現象が起きたのね。空母が改造された事によって意志を持った。

隕石の力の影響もあるけど本当の意味で金属生命体になったわね」

 氷見が資料を読む。

 珍しい事例といえば珍しいのかもしれない。建造されて七十五年も任務に就いて、改造されて三十年経つから

このメンバーの中で一番年上なのかもしれない。

 「ヴィラート。あなたは金属生命体よ。簡単に死ぬようにできていないけど、迷宮機関を倒したらどうしたいの?」

 氷見は聞いた。

 「俺はサドゥだ。終わったら旅に出て隠れるつもりだ。迷宮の連中は俺を化物にした上に居場所もなくなった」

 どこか遠い目をするノエル。

 「リンゴとかブドウ、レタス農家とか農作物を作る気はないの?私の実家は長野でレタス農家なの。

レタス作らない?」

 氷見が話を切り替えた。

 「俺は終戦後。船を隠してサドゥになった。なんでかわかるか?プログラムが削除されて始めて目覚め、戦いの

映像や人々の悲鳴が夢の中に出てくるんだ」

 視線をうつすノエル。

 氷見はいきなり抱きついた。

 驚くノエル。

 「あんたの彼女変わってるわね」

 リサがささやいた。

 「俺もそう思う」

 肩をすくめるリック。

 「あなたは化物ではないわ。金属生命体だけど人間に考え方は近いわ」

 子供に言い聞かせるように言う氷見。

 自分もアンドロイドにまさか抱きつくなって思っていない。でも彼らの心は人間に近いしただの機械ではない。

抱きついている皮膚もサイバネティックスーツだろう。機械だから体温も生身の部分はない。

 そっと抱き寄せるノエル。

 自分にはもともとないものがそこにある。自分には生身の部分はない。人間は勝手である。でも捨てる

神あれば拾う神ありということわざがあるように必要であると言ってくれる人間もいるのだ。

 氷見はトラックの荷台から外を見る。

 軍用トラックはチェンマイの街に入った。

 「俺の主体コアがある空母はチェンマイ港にある・・・」

 ノエルは最後まで言えなかった。襲撃を知らせるサイレンが鳴り響いたからである。

 「止めろ」

 運転席にいる兵士に指示を出すエリオット。

 道路の隅にトラックが止まり、車外に出てくる氷見達。

 それはサイレンではなかった。港の方から吼え声が響いた。それはオーボエのように響きでいろんな獣の

遠吠えをあわせたような吼え声が響き渡った。

 人々がどよめいた。

 「機械龍だ!!」

 氷見、リック、ジェル、リサ、ケビンが声をそろえた。

 港の海が盛り上り港湾施設に接近するにつれて海水が盛り上りぬうっと太い首と巨大な体が現われた。

その姿は金属の恐竜である。草食恐竜のセイスモサウルスを連想させるものだった。

 セイスモサウルスは、中生代ジュラ紀後期の巨大竜脚類。属名は「地震トカゲ」の意で、「歩くと地震が

起きるほどの巨体」ということから命名された。推定全長三十三メートル、体重四十トン前後。長大な首と、

同様に長い尾を持つ。体格は比較的細身であった。四肢はその巨体に比してやや短い。

腰側がやや低いため、胴体は後傾する。

 ズシーン!!ズシーン!

 地響きとともに地面が揺れた。

 機械恐竜が上陸して再び吼えた。

 それと呼応するようにミュータント化した動物達が吼え、不協和音のように響いた。

 「俺は戦う。バージル行くぞ」

 何か決心したように言うノエル。

 「私達は基地へ行く」

 エリオットが機械龍を見ながら言う。

 「量子間テレポートでインドの国連軍基地に送ります」

 バージルがわりこむ。

 「俺とホランド、イリーナだ。そこの運転しているおまえも来い」

 エリオットがうなづく。

 運転席から出てくる国連軍兵士。

 武藤は虎男に変身した。

 オスカーも変身した。

 エリオット、ホランド、イリーナ、兵士が青色の光に包まれてテレポートした。

 トラックの幌を取るリック。

 無人機が着陸してドールが乗り込む。

 「俺達は船へ戻る。正体をさらすことになるが構わないさ」

 エレミアは真剣な顔で言う。

 「わかったわ。私達は魔物をなんとかする」

 氷見はトラックに乗り込み、リサは機関砲をトラックの荷台に据えつける。

 バージル達は三手に別れた。

 上陸してくるサメタコとビーチシャーク。

 空から舞い降りてくる大鷲。

 ケビンはトラックを運転する。

 トラックが走り出す。

 アスファルトを割りながら進むビーチシャーク。背びれだけが路上に見える。

 リサは機関銃を連射した。

 路上をタコ足を動かして走るサメタコを何匹か撃つ。

 上空を舞いながらバルカン砲を連射。ビルに這い回っているアリを二十匹撃ち落とす。

 サブマシンガンを連射するリック、氷見、ジェル。

 接近してきた大鷲の頭部を撃ち抜き、何羽か撃墜した。

 地響きがして機械恐竜が歩き出す。歩く度に地面が揺れた。

 逃げ惑う人々。

 「敵の数が多すぎるわ」

 リサは銃弾を装填しながら叫ぶ。

 「あの機械恐竜をなんとかしないといけないけど私達の術や通常兵器が効かないわ」

 周囲を見回しながら声を荒げる氷見。

 操っているのはモーロックか迷宮だろう。機械恐竜が親玉なのはわかっている。あの巨体では機関銃

や自分達が持っている能力は効き目がなさそうだ。

 地面が割れ飛び出す赤色のアリと黒色のあり。全長一〇メートルのアリである。

 プラズマショットガンをを撃つリック、ジェル。

 頭部や体を吹き飛ばされ何匹も地面に転がるアリ達。

 突進してくるアイアンバッファロー。

 全部、銃弾は鋼鉄の皮膚に弾かれる。肩口の大きな角がトラックにせまった。

 街角から飛び出す装甲列車。黒色の車体。車輪はキャタピラで二両編成。先頭車両がサメかクジラに

見える。それがなんだかわかった。エレミアが乗るイスベル号だ。

 ドゴオッ!!ドン!

 走行列車は鋼鉄の牛に激突。ビルに衝突。車体から連接式の太い金属の触手を二対出すと先端を

鉄球に変えて起き上がった鋼鉄の牛の頭部へ振り下ろした。車同士がぶつかる音がして前のめりに

地面にめりこむ鋼鉄の牛。手足がピクピク痙攣して倒れた。

 装甲列車が動き出しトラックに近づく。

 「エレミア?」

 氷見が声をかけた。

 「遅れてごめん。あいつらも来る」

 エレミアが答えた。

 機械恐竜にミサイルが命中した。機械恐竜が港の方に巨体を向けた。

 トラックに飛び乗る武藤とオスカー。

 「街にいた魔物は片づけた」

 オスカーが口を開いた。

 「あれを見ろ」

 武藤が空を指さした。

 トラックと装甲列車は小高い丘を走行して道端に止めた。

 三隻の空飛ぶ空母がいる。シルエットが四基のプロペラガードのせいで羽の短いトンボに見える。

 艦首に球状艦首もあり赤い船底も見えた。

 エスペランサー、あかぎ、ヴィラートだ。

 丘の上に避難してきた人々もどよめく。

 「あれはヴィラートだ。確か三十年前に廃艦になったのを聞いたぞ」

 中年のインド人が指さす。

 「あかぎだって」

 日本人観光客が声を上げた。

 「エスペランサーは確か国連軍によって解体されたというのを聞いたぞ」

 人々は口々に言うと携帯やデジカメを出して写真や動画を撮っていた。

 機械恐竜の肩口から複数の対艦ミサイルが発射。「あかぎ」は迎撃ミサイルで撃墜。

 機械恐竜が尻尾を振った。

 テレポートしてかわすヴィラート。

 口から赤い光線を空に向かって放出する機械恐竜。

 スピードを上げてかわすエスペランサーと「あかぎ」

 機械恐竜が街から港へ歩き出し背中からいくつも砲台が飛び出す。岸壁から海に入る。

 エスペランサー、「あかぎ」、ヴィラートの船体中央部の格納ドアが開いてレールガンが発射。

機械恐竜の体の装甲をえぐった。

 機械恐竜が吼えた。

 どこからともなく蛾を思わせる無人機の編隊が現れた。

 「あかぎ」は正確にミサイルを発射して全部撃墜した。

 海から飛び出す角を頭部に生やした機械龍。

 ヴィラートに巻きついた。

 機械龍が船体に噛み付き、尻尾で何度も突き刺し、鉤爪で引っかいた。

 「ぐうぅ!!」

 よろけるヴィラート。

 エスペランサーと「あかぎ」はレールガンで機械恐竜を何度も撃つ。

 恐竜の背中の砲台を穿ち、体をえぐった。

 機械龍の口から赤い光線が発射。

 ヴィラートの船体を光線が何度も貫く。

 「ぐはっ!!」

 黒煙を上げてヴィラートは港内の岸壁に不時着した。

 「ぐあああ!!」

 ヴィラートは鋭い痛みに船体を激しく揺らした。艦内司令所の金属殻内部にあるモニターに

黒人の顔が現われた。

 「空母ヴィラート。苦しいか?」

 金属殻内部でノエルの顔が歪み、体内を何かが這い回るように激しく盛り上る。

 機械龍が尻尾で突き刺し、鉤爪で引っかき、噛みつかれるたびにノエルの体に傷口が移され、

傷口がいくつも開いてはふさがる。

 「サムエル。よくも俺を化物にしたな!!」

 ノエルはモニターごしににらんだ。

 腕や足、背中に大きな傷口が開いた。部品が飛び散る。

 ヴィラートは船体から八対の係留鎖と二対の錨を出した。

 「ヴィラート。おまえはたの機械だ。そして化物になっていくんだ。おまえに居場所はない」

 サムエルは笑い出す。

 胸に穴が開いて内部の部品が激しく蠢いているのが嫌でも見えた。

 ノエルはもがきのけぞり目を剥いた。

 「ぐああああ!!」

 電子脳の脳裏に解体される映像と今の状況がつながる。

 「陸に上がっては船は動けない。でも死ぬ事はできない」

 クスクス笑うサムエル。

 ノエルは怒りを機械龍に振り向けた。

 ヴィラートは錨を機械龍に突き刺し、八対の係留鎖を巻きつけ、船体全体が稲妻を帯び青白く光った。

 機械龍が離れようともがいた。

 稲妻と大電流が機械龍に一気に流れた。機械龍は感電して黒煙を上げて爆発して手足が吹き飛ぶ。

 「ぬああああ!!」

 怒りをぶつけるヴィラート。

 閃光とともに機械龍が爆発。衝撃波が広がり港湾施設の建物の窓ガラスや車を吹き飛ばした。

 海に潜って潜水する機械恐竜。

 ヴィラートは八対の係留鎖と二対の錨で船体を支えた。四基のプロペラとプロペラガードのせいで

横倒しにはならなかった。

 「ちくしょう!!ちくしょう!迷宮機関め。俺を化物にしたことを後悔させてやる」

 ヴィラートは怒りをぶつけた。


 丘の上からでも海に潜水していく機械恐竜が去っていくのが見えた。

 ドールが装甲列車の屋根に着地した。

 エスペランサーは錨を二対出すと青白く輝いた。青色の光線に引っ張られヴィラートが浮いた。ヴィラート

の右舷側のヴェラ二ウム推進エンジンとプロペラが損傷しているのが見えた。

 「どこに行くの?」

 エレミアに聞く氷見。

 「ムンバイの国連軍基地だ」

 エレミアが答える。

 「私達もそこへ行きましょ」

 氷見が言った。


 三時間後。ムンバイ

 ムンバイはインドの西海岸に面するマハーラーシュトラ州、ムンバイ市街県の都市。同州の州都である。

インド最大の都市であり、南アジアを代表する世界都市の一つである。

ムンバイ市域人口は一二四八万と世界でも有数。二〇一一年、ムンバイ新市街として建設された

ナビムンバイや、ムンバイの衛星都市として発展してきたターネーなどを含む都市圏人口は、

二一二九万人であり世界第六位である。二〇〇八年のムンバイの域内GDPは二〇九十億ドルで、

世界第二九位である。

二〇一四年には、アメリカのシンクタンクが公表したビジネス・人材・文化・政治などを対象とした

総合的な世界都市ランキングにおいて、世界第四一位の都市と評価されており、インドでは首都

ニューデリーを凌ぎ第一位であった。天然の良港に恵まれていることもあり、国全体の海上貨物の

半数以上を担う港湾都市でもある。

ムンバイは国内随一の商業及び娯楽の中心都市であり、国全体のGDPのうち五%、工業製品の

二五%、海運の四〇%、資本取引の七〇%を計上する。国際金融フローにおいては、アジア有数の

金融センターとして、インド準備銀行、ボンベイ証券取引所、インド国立証券取引所といった金融機関や、

多くのインド企業の本社、多国籍企業の拠点が置かれる。ビジネス機会が豊富なムンバイには、

事業機会や比較的高い生活水準を求め国内各地から多くの人が集まり、様々な宗教・文化の集積地

ともなっている。

ムンバイは商業都市であると同時にインド海軍基地と国連軍基地があった。

国連軍基地の屋根つき修理ドックに入る氷見、リック、ジェル、リサ、ケビン、エレミア、ドール。

「だいぶやられたな。普通の船だったら大破か沈没だ」

ケビンが空母ヴィラートの船体を見てつぶやいた。

「そうね」

納得する氷見。

確かに大破か沈没だろう。船体に鉤爪で引っかかれ深くえぐれた損傷がいくつもあり、尻尾で突き

刺されたり、光線が貫通した穴までいくつもある。そのうえ、甲板に噛まれたと思われる噛み跡が

いくつもついている。特にひどいのが船体中央部で主体コアと周辺装置が丸々見えている。

エンジンも何基か損傷だろう。

 艦内から桟橋を渡って岸壁に近づくバージル、滝本。

 「彼は重傷ね」

 氷見が視線をうつした。

 「そうですね。自己修復装置の機動が遅いこともあります。長年、彼はサドゥとして空母を離れていました。

離れている期間が長いほど損傷が治るのが遅くなります」

 バージルはタブレット端末を出した。

 そこには金属殻内部の様子を映しだしている。ノエルの全身が見えた。浅黒い色のサイバネティックスーツに

長いアゴひげと剃髪した頭。まぎれもなく彼だ。でも体中に深い傷や突き刺した傷、穴が全身にあった。

深い傷口から内部の金属骨格と機械の心臓と青く輝くコアと周辺装置が見え、激しく軋むケーブルや

パイプが見えた。

 「彼を出す事はできないの?」

 ジェルが疑問をぶつけた。

 「彼は長い間、主体コアのある空母と離れすぎていた。今、融合が始まっている。同調装置が働いていて

二十四時間は出せません」

 バージルが答えた。

 「エリオット長官は?」

 氷見が聞いた。

 「基地の官舎にいます。どうやら政府要人が来ているみたいです」

 滝本が答えた。

 「またあの変な二人?」

 リサがわりこむ。

 「インドの首相と日本の駐インド大使、アメリカの国務長官、ロシア大使館、国連大使が

来ているらしいんです」

 滝本がささやいた。

 「だから足早にオスカー会長達が官舎に入ったんだ」

 納得するリック。

 「また揉めそうね」

 リサがため息をつく。

 「基地の応接間にいるだろうから行ってみましょ」

 氷見が言う。

 「マジか?」

 リックとケビンが声をそろえる。

 「ヘタしたら刑務所行きじゃん。私は刑務所は嫌よ」

 リサが腕を組む。

 「僕達は政府機関から逮捕状が出ていますのでその時は仲良く入るしかないですね」

 さじを投げた医者のように言う滝本。

 「冗談でしょ」

 リサがムッとする。

 「君らが東京ハンター支部のハンターと死刑執行人ギルド東京支部の二人か」

 インド軍の兵士が六人近づいた。

 「そうですが」

 答える氷見。

 「君らを一時拘束する。政府からの命令が出ている」

 リーダーらしき兵士は言った。

 

 三十分後。

 「本当に最悪よね!!」

 リサは留置場の中で声を荒げた。

 「これはなんかの間違いだ」

 座り込むケビンとリック。

 「なんでこうなるのよ」

 不満をぶつけるジェル。

 黙ったままの氷見。

 エリオット達に連絡を取りたいにも携帯やタブレットを取られて連絡が取れない。

 「私達は魔物を追い払っただけ。あの空母とかかわったら本当によくないことばかりが

起こっている!!」

 怒りをぶつけるリサ。

 「なんでそれを私に言うんですか?それを言うなら「チビデブ」の依頼書を持ってきた国連本部に

言いなさいよ!!」

 反論する氷見。

 「あんたがあの空母を国連基地から出したからでしょ!!」

 ビシッと指をさすリサ。

 「あれは成り行き!!国連軍も他のハンター支部とギルド支部が名乗り出ないから私になった。

あんたこそ名乗り出なさいよ」

 食ってかかる氷見。

 もみ合いになる氷見とリサ。

 「やめろ!!ケンカは」

 ケビンとリックはリサと氷見を引き離して羽交い絞めにする。

 「チビデブ」の依頼ですべてが始まって動き出したよね」

 しゃらっと言うジェル。

 「今回の事件でバージル達は表に出てきた。そしたらとたんに各国の政府はバージル達を逮捕

しようとしているし、こっちはとばっちりで留置場」

 ため息をつく氷見。

 「YOUTUBUやニコニコ動画にアップされていて、削除は簡単だけど履歴は残っていていつでも

再生できる」

 ジェルが気づいた事を言う。

 チェンマイにあった丘に避難してきた人々は携帯やタブレットで撮影していた。あっという間

にひろまっただろう。

 「みんなバージル達を恐れているのね」

 ジェルがつぶやく。

 「それはそうだろうな。第三次世界大戦は最初は人類同士だったのに途中からロボット軍団との

戦いになった。その先頭に立っていたリーダー格がバージル達だ。迷宮機関に操られていたとはいえ、

人類は危機を覚えた。終戦から二〇年経っても悪夢は忘れない」

 リックは視線をうつした。

 「今回の事件で世界は深く傷ついていてあの空母たちを排除して幕引きを図ろうとしている。俺が

思うに奴らの思うツボだ」

 ケビンが気になることを言う。

 「迷宮機関は裏切ったバージル達を排除したい。あの空母達は完全に居場所もないわ」

 ジェルが言う。

 「それはそうよね。ある意味、ホームレスと同じよ。インド政府は空母ヴィラートを追い出すでしょうね。

三十年前に廃艦になって売却したからとでも言うでしょ。しょせんお役人よね」

 リサがたんかきる。

 「イギリス海軍所属の船として任務について途中から売却されてインド海軍の旗艦だったのに

見捨てようとしている。それに自衛隊と日本政府もそうだし、各国政府は追い出そうとしている。

見捨てるのは簡単だし、知らぬフリも簡単。でも誰かがやらないといけないと思うのよ」

 氷見がどこか遠い目をする。

 どの国も厄介払いしたいのはよくわかる。でもそれは迷宮機関の思うツボだ。

 「これからどうする?」

 心配するリサ。

 「釈放されるまで待つしかないわ」

 氷見は言った。

 インド人の看守が入ってきた。

 振り向く氷見達。

 「シーボルトのおじさん」

 あっと声を上げるリック。

 よく見るとこのインド人の看守は未来人シーボルトだった。

 「本当に芸達者よね」

 感心する氷見。

 「誰?」

 ケビンが聞いた。

 「三十一世紀からきた未来人のおじさん」

 ジェルが答えた。

 「君達は討伐部隊にくわわり南アフリカの砂漠の壁の修復作戦にくわわる」

 シーボルトは口を開いた。

 「モーロックじゃないの?」

 氷見とリックが声をそろえる。

 「世界の政府機関はバージル達に重大な疑念を持っている。それは君達にも向けられている。それを

払拭するために参加するんだ」

 シーボルトが難しい顔をする。

 「冗談でしょ。私はあの連中のメンバーじゃないからこのチームにくわわっただけ」

 目を吊り上げるリサ。

 「ところが政府機関はそうは見てない。あの悪夢のような戦争は恐怖をもたらした。そしてチェンナイ

での事件であの空母達の存在が知られた。彼らは厄介払いしたいだけだ」

 腰に手を当てるシーボルト。

 「じゃあ私達も厄介払いですか?」

 不満をぶつけるジェル。

 「そういうことになる」

 うなづくシーボルト。

 「冗談じゃないよ」

 ケビンがムッとする。

 「それを払拭するために討伐部隊にくわわるんだ。ただその時に空母ヴィラートは連れていって

はいけない」

 注意するシーボルト。

 「冗談でしょ?機械恐竜が出るわ、魔物が多数出現するから連れて行った方が人手不足は

解消できる」

 氷見は目を吊り上げる。

 「あの空母は大破して修復中だ。その事で暴走しやすくなっている。あの性格では聞かなそうだが

置いていくんだ」

 シーボルトは声を低める。

 「だってサドゥだろ」

 リックがわりこむ。

 「サドゥの修行の成果で天候を操れるようになったが本人は制御しきれない。それと「あかぎ」

エスペランサーもだ。本当は三隻は置いていったほうがいい」

 シーボルトは念を押す。

 「それじゃあ何年もかかるでしょうが!!」

 リサが食ってかかる。

 「だから空母ヴィラートは置いていけと言っている」

 強く言うシーボルト。

 「いちよう忠告として聞くけど。どうしても行きたいってなったら止められないけど」

 氷見が腕を組んだ。

 「状況といい流れが最悪だろ。俺達では止められない時はしょうがないと思ってよ」

 リックがムッとした声で言う。

 ため息をつくシーボルト。

 「また来る」

 シーボルトはそう言うと出て行った。


 同時刻。基地の格納庫。

 金属殻内部でノエルは目を剥きのけぞった。全身に鋭い痛みが走り、傷口は開いたままだ。

動こうにも固定され動けない。

 「やめろ・・・俺は化物じゃない・・・」

 肩で息をするノエル。

 背中に金属の背骨にそってプラグが差し込まれていて空母の各機能と装置がリンクされていく。

 ノエルはもがいた。激しく上下する胸。胸や臀部の大きな傷口から機械の心臓や循環装置といった

機器が見え、配管やケーブルがヘビのようにのったくる。

 刺客装置に空母の損傷部分が表示される。それが自分の体の各部とリンクして同調。システムとも

シンクロしていく。

 「ちくしょう・・・やめろおおぉ!!」

 ノエルはもがきのけぞりながら叫んだ。


 翌日。

 留置場にエリオットが入ってきた。

 寝ていた氷見達は目を覚ます。

 「巻き込んですまない」

 エリオットはすまなそうに言う。

 「私達もバージル達と一緒に疑念を持たれているんですね」

 氷見は核心にせまる。

 「昨日、インドのラマディ首相、ロシア、アメリカ、日本の駐インド大使が来ていて政府が疑念を

持っている事を伝えてきた」

 ため息をつくエリオット。

 「疑われているということはあのヴィラートもですか?」

 氷見が疑問をぶつけた。

 「否定しない。インド政府は三十年前に売却したから関係ないと言ってきた。だから国外に

追い出したいそうだ」

 エリオットは答えた。

 「それってホームレスと一緒じゃん。結局、国連軍やスクードに押し付けてきた」

 ムッとするジェル。

 「南アフリカの砂漠の壁の穴はどうするの」

 氷見が話を切り替えた。

 「第三の壁を修復しなければいけないが魔物が野放しのままだ。速乾コンクリートで穴をふさぐ

作業するにはまず魔物を退治しなければいけない」

 エリオットは説明する。

 「調査しないといけないよね。エレミアとドールと私達で調査に入らない?」

 氷見がひらめいた。

 「あの空母三隻は?」

 エリオットが聞いた。

 「待機」

 リックが言う。

 「ダーバンは安全は確保できている。ヨハネスブルク、プレトリアルに大型の魔物が闊歩している。

巣を造られる前に動きたいが調査がまだなんだ」

 エリオットは地図を出した。


 基地から上昇する国連軍の輸送機。

 格納庫から見上げる滝本とバージル。

 「ドールとエレミアが調査隊にくわわるようですが心配ですね」

 滝本が口を開いた。

 「ハンター協会、ギルドも人員を出してきたようですが彼らでは魔物はなんとかできても機械恐竜や

機械龍には勝てない」

 バージルは言い切る。

 「ダーバンは奪還できているがヨハネスブルク、プレトリアには機械龍や金属タランチュラ、

武装ドローンがうろうろいる」

 わりこむノエル。

 振り向く二人。

 「まだ損傷が治りきってないですね」

 バージルが気づいた。

 ノエルの胸と臀部にはふさがったばかりの傷口が見えた。

 「迷宮の連中は俺を化物にした」

 つぶやきノエルは胸を引っかいた。しかし引っかいてもゴムのようにへっこみ傷がつかない。

体内から金属が軋む音が断続的に聞こえた。

 自分には生身の部分はない。でも心臓音や耳障りな軋み音が聞こえる。そして空母の機器と

システムと自動的にリンクされていくのが嫌でもわかった。それにこの体の傷も船体中央部に

大きな損傷と重なる。チェンナイの戦いで気づいた事は船も損傷する自分にも傷がうつる。

迷宮機関は傷みと苦しみに苦しむようにしたのだ。

 「滝本。あのチームにこっそりついていくんだ。彼らだけでは勝てないし、生存して帰ってくる

事も不可能だ」

 バージルが声を低めた。

 「わかった」

 滝本はうなづく。

 「君専用のアーマー装備とスカイウイングは造ってある」

 バージルが言う。

 「俺も治ったら行きたい」

 ノエルがわりこむ。

 「君はまだ機器の調整がまだだ。私達と同調する作業も済んでいない」

 バージルはノエルの胸を触った。

 ミシミシ・・ギシギシ・・・

 「ぐうぅ・・」

 ノエルは突き上げるような痛みにのけぞる。

 彼はうめき声を上げ、地面に倒れ胸や腹部を強く引っかく。引っかいてもゴムのようにへこむ。

閉じた傷口の奥で何かが這い回るかのように盛り上る。

 「行くんだ」

 バージルはあごでしょくる。

 「ノエル。損傷が治ったら来て」

 滝本はうなづくと駆け出した。


 南アフリカのダーバンにある国連軍基地に着陸する輸送機。機外から出てくる五人。

 基地内を忙しく行き交う兵士達。

 「南アフリカの兵士だけじゃなく、ハンターやギルドの執行人もいるわね」

 荷物を降ろしているハンターや執行人達を見ながら言う氷見。

 「最近では内陸部の国を取り戻そうという動きもあるみたい」

 ジェルがタブレット端末を出した。

 「内陸部がどうなっているかわからない。でも生まれ育った国に帰りたい。たぶんモーロックの

天下になっていると思うわ」

 氷見がつぶやく。

 内陸部は濃い霧に覆われて見えないという。それは衛星からでも巨大な雲に隠れて見えない

状態だという。たぶん迷宮機関のしわざだろう。

 ハンターやギルドの執行人達が駐車場に集まった。

 「我々は今からヨハネスブルクに向かう。任務は魔物を追い出すことである」

 基地司令は拡声器で口を開く。

 「これが成功したらプレトリアルの魔物だ」

 国連軍の女性将校が地図の映像を出す。

 ホログラムで地図が出る。ヨハネスブルクとプレトリアルの街や空港が映し出される。

 「調査と魔物退治がすんだら第一の壁の修復になる」

 女性将校は声を荒げる。

 「了解!!」

 ハンター達や執行人達は答えた。

 「では出発する」

 女性将校は言った。

 ハンターと執行人、兵士達は装甲トラックや装甲車に分乗して出発していく。

 氷見達は装甲列車に乗った。先頭車両はサメかクジラを思わせ、車輪ではなくキャタピラで

二両編成で、屋根に無人機が着陸している。イスベル号とドールである。

 「知り合いの魔術師からもらったんだ。姿を消せるマント」

 ケビンがバックから灰色のマントを出す。彼はマントを羽織った。せつな姿が消えた。

 「すごい・・・」

 絶句する氷見達。

 ハンターや執行人ギルドには魔術師も多数在籍している。自分達が装備する剣や短剣もその

倉庫から借りている。

 マントを取るケビン。

 「ダーバンを出てヨハネスブルクへの道路に出たわ」

 ジェルがタブレット端末を出した。

 車内から屋上へ顔を出す氷見達。

 装甲列車に変形したイスベル号は道路を走っている。

 ダーバンと他の村の境には急ごしらえの鉄の壁ができていた。おおよそその壁ではアイアン

バッファローの攻撃は防ぐ事は不可能だがないよりはマシかもしれない。

 第一次調査団は総勢七〇名。魔物の退治と生存者救出も調査の中に入っている。

 車内に戻る氷見達。

 しばらく行くといくつかの村を通り過ぎた。

 ヨハネスブルク近郊のORタンボ国際空港に入ったのは四時間後のことだった。

 空港ターミナルに入る氷見達。

 「ここには生存者はいないですね」

 ドールが答えた。

 安全を確保してターミナルビルロビーに戻ってくるハンター達。

 「ここで一泊する。明日の朝、市内に入る」

 くだんの女性将校は声を荒げた。

 解散して警戒任務につくハンター達。

 「マジでここで一泊するともり?」

 三階の屋上へ出るリサ。

 「あのキリルという司令官が決めたんだから従うしかないわね」

 氷見は双眼鏡をのぞく。

 「悪く言えば俺達はエサだな」

 ケビンは周辺を見回す。

 「ターミナルの外ではドールとエレミアがいるからいいけど、魔物は市内にいるかプレトリアル

にほとんどいるかもね」

 ジェルがタブレットで地図を出す。

 「夜行性かもな」

 リックがわりこむ。

 「動物がミュータント化したからな。アイアンヴァッファローももともとはジャコウウシやバッファロー、

家畜の牛だし、あの大鷲も北米の鷲だ。サメタコやビーチシャークはホオジロザメやシロワニといった

大型のサメからミュータント化した」

 ケビンは説明する。

 「そんなのわかっている。あの戦争で多くの化学兵器が使われたからね」

 ジェルが言う。

 「おとなしすぎるわね」

 氷見は双眼鏡をのぞく。

 この空港はヨハネスブルク近郊にある。魔物の活動も活発になる時間だが動きがみられない。

道路を歩くアイアンバッファローや大型タランチュラ、ビル街を舞う大鷲の姿が見えるがこちらが

刺激しなければここには来ないだろう。

 「逆に静かすぎてもおかしい」

 リサは腕を組んだ。

 「迷宮機関も衛星で見ているのかもな」

 ケビンは肩をすくめる。

 「魔物を仕掛けたのだって彼らかもよ」

 ジェルが言う。

 「シーボルトも警告するけど未来から来ているからどうなるかわかって来ているのかも」

 リックが推測する。

 「空母三隻を連れてくればよかったかも」

 ため息をつく氷見。

 国連軍よりも優れたレーダーを持っているのは彼らだ。迷宮機関と同様のレーダーを持っている

からどこに魔物がいて機械龍がいるか一目瞭然だろう。それに金属生命体だから普通の機械

とちがう。人間に近いから第六感だってあるだろう。

 「それにしても静かすぎね」

 リサが怪しんだ。

 「ドローンでも飛ばしてみるか?」

 リックがジュラルミンケースから二機のドローンを出した。

 「エレミアが持ってきた」

 ジェルがわりこむ。

 リックがケースから二機のドローンを出す。

 「操縦できるの?」

 氷見が聞いた。

 「造ったのは滝本とバージルだ。地図があらかじめセットされていて自動運転だ」

 リックはスイッチを入れた。

 二機のドローンが上昇して舞い上がる。

 「本当に準備がいいわね」

 感心するリサ。

 「このモニターで見られる」

 ノートPCを開くリック。

 ヨハネスブルク市内が見えた。

 氷見達は画面をのぞいた。

 「アリと蜂がいない」

 「巣穴に戻ったとか?」

 リサと氷見が指摘する。

 「サメもいない」

 リックがわりこむ。

 「あの群れをつくるドローンはどこから来たのかしら」

 リサが疑問をぶつける。

 壁が破壊された時に魔物と一緒に複数のドローンがいた。

 「やったのは迷宮だろ」

 ケビンがしれっと言う。

 「じゃあ今、私達がこの空港で野営していることは見ているわね」

 氷見が推測する。

 たぶんそうだろう。機械恐竜や機械龍まで造れる連中だ。陽動作戦かもしれない。でも脱出

するときに見た空飛ぶ空母はなんだったのだろうか。それもどこかにいるだろう。

 「連中はこっちの動きを見ているようだ」

 ケビンは言った。


ヨハネスブルク、プレトリアルから凶暴化した動物を退治するためにリサと氷見のチームは国連軍の討伐部隊に参加。調査のために乗り込む

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