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〇八 赤毛のアンナ

 昼飯を食べたあと、かるく荷物の整理をして宿を出た。

 もともと大した荷物はない。鎧と剣を抜かせば、荷物になるようなものはしじみぐらいだ。

 あれから、すこし後悔していた。昨晩、働きすぎてダメになっていると反省したばかりだというのに。

 しかし、約束を破るほうが怖いのは目に見えている。


「ふいー、そろそろ行くかぁ」


 狩人ギルドのある場所は聞いていた。冒険者ギルドの近くにあるらしい。

 というより、ギルドという互助会自体が寄り集まっているというのが正しい。

 武器防具を揃える物騒な区画を抜けて、その互助会区画へと足を運ぶ。

 このあたりはビキニアーマーだったり、無駄に肌を露出している女冒険者が多くて非常に助かる。深夜のソロ活動的な意味で。

 肉体労働の気が強い冒険者は、肉体が引き締まっているというか、肥っていては話にならない。その点を見てもスタイルが必然的によくなるため、まったくもってありがたかった。

 ビキニどころかお前それTバックじゃねえか、防御力なんてあるわけないだろ! というプリンプリンの尻を堪能してから、ほっこりした気持ちになって狩人ギルドを訪れた。

 冒険者ギルドはかなり大きな建物だったが、狩人ギルドはそれほど大きくはない。その代わり、併設された倉庫兼作業場が広くとられている。買い取ったり採取した獲物や薬草を管理するためだろう。

 この建物に入ってくる冒険者の層も、静音行動に不利な金属鎧などほとんどいない。大体は革の装備で固めているか、布の鎧で隠密に特化している。

 そのなかでは比較的重装備で、どうみても顔を見たこともないだろうおれは、はっきり注目されていた。値踏みするというよりは警戒色が強い。縄張りを荒らされたような感覚に近いのだろうか。

 視線に負けて怯えた態度を取れば侮られる。毅然として窓口まで歩き、冒険者ギルドのハートさんとはまたちがう美人の前に立った。胸は控えめだがリードしてくれそうなタイプだ。


「ナムタフさんの紹介でうかがったんですが」

「ああ、あなたがモガミさん。話は聞いてるよ。おーい、アンナ」


 肉食系微乳さんは、なかなかフレンドリーな人だった。

 背後から「はーい」という声がして、ちいさな足音で歩いてくるのがわかった。

 振り返ると、そこに居たのはおっぱいだった。

 ちいさな足音には似つかわしくない巨大な双丘は、これでもかと服を張り詰めさせている。

 情熱的に波打つ赤毛は、どう見ても誘っているようにしか見えない。肉食系微乳さんとは異なる、食虫花のようなフェロモンを放つかわいらしい美女だ。


「もしかして居酒屋の……」

「あれ、昨日のお客さんじゃないですか」


 彼女はメイクを落としていたが、誘惑するような髪とおっぱいはそのままだった。

 妄想疑似透視こと曇り眼(クレヤボヤンス)も捨てたものではないらしい。その素顔はやはり、どこか甘い感じの幼さが残るかわいい系だ。

 これで背が低かったら巨乳ロリとあざとすぎるところだが、背丈はそこそこある。


「ってことは、あなたが薬草に詳しいナムタフさんの知り合いですか?」

「はい、そうなんです。あ、いま、うそくさいって思いました?」

「そんなまさか。こんなかわいい子のことを疑わないですよ」

「かわいいって……もう。そんなことより、薬草のお話しましょ」


 アンナはちょっと顔を赤らめて、ぷくっと頬をふくらます。

 ……そりゃ居酒屋のアイドルになるわ。だっておっぱいおっきい上にこれだもんよ。


「では、自生地まではどのぐらいかかる予定でしょう」

「そうですね。二、三日だと思います。辺境の希少種というわけではないんです」

「なるほど。食料は多く見積もって七日分ほど用意すればいいですかね」

「はい。あ、保存食を買うならうちの店がおすすめですよっ!」


 いたずらっぽくにこりと笑う。

 ふるりと揺れるおっぱいがじつに目の薬だ。


「ならそうさせてもらおうかな。下手な注文もつけちゃったし」

「ほんとうにいいんですか、ありがとうございます」


 ちょっと目を見開いてまるくしたあと、アンナはあたまを下げた。

 それはもう、ぶるんぶるんとしか言いようのないすごいやわらかさだった。

 おそらく、胸用の下着というのがそこまで広まっていないし発展していないのだろう。

 もしかしたら、ある程度の長さの布を巻きつけているだけかもしれない。

 でなくてはあの暴力的な揺れが起こるとは考えにくい。

 だがそれは一大事だ。揺れるのを見るのはいい。しかし、脱がしたあとにブラがあるとないのでは興奮度がちがう。

 なにより、おっぱいの形がわるくなる。それはどうしても見逃せないファクターだ。


「なら、さっそく行きましょうか。暗くなる前にある程度は進んでおきたいですし」

「はい。それじゃあよろしくお願いしますね。えーと、モガミさん……であってますよね?」

「あってますよ。そちらはアンナさんでいいんですよね?」

「はい……うわあ。なんか男の人にアンナさんなんて呼ばれると、恥ずかしいですね」


 困ったように顔を赤らめてはにかむ、その姿の魔性っぷりときたら。

 魔女だ。ナチュラルおっぱい魔女ってすごい。


「ええと、それではなんて呼べば……」

「呼び捨てでいいですよ。それに、これからいっしょに旅をするんですから」そう区切って、アンナは言葉をつづけた。「堅苦しいのはなしにしよ。ね?」

「……ああ。ならこっちも達雄って呼んでくれればいいよ。アンナ」

「うん。よろしくね、タツオくん」


 あーだめだ。ダメダメダメ。こんなの惚れるわバカか!

 もう天然だとか人工だとかそんなのはどうでもいい。

 あざとい女など「けっ!」と思っていたが、実際に触れてみるとそんな精神防御はクソの役にも立たない。

 だってかわいいんだもん。

 でもおっぱいが人工(いれちち)だったらそれは許さない。


 ふたりで狩人ギルドを出て、昨夜の居酒屋まで歩いた。昼間も開いているようで、客足はすくないが、人生の落伍者みたいなのや、仕事のない冒険者(ニート)が酒を飲んでいた。


「店長、来ましたよー」

「おう、アンナ。……ん、そっちの兄ちゃんは昨日の」

「はい。最上達雄と言います。今日から依頼で、アンナさんの護衛をすることになってます」

「そうなんですよ。それで保存食を買いに来たんです。わたしが誘ったんですから、ちょっとおまけしてくださいね?」

「バカヤロー。一食分だけだぞ?」

「わーい! ありがとうございます、店長!」


 店長はアンナに入れ込んでいた。二、三日もおれが連れていくようなものだから、下手すれば逆恨みを買うという可能性もある。

 見まわせば、落伍者もニートもアンナにデレデレだ。おそらくあのおっぱいは、親や客からの愛と差し入れで育ったのだろう。


「モガミと言ったか、兄ちゃん。くれぐれもアンナのことは頼むぜ。あんたの注文はきっちりやっておくからよ」

「ええ。ケガひとつさせないで帰して見せますよ」

「言ったな」

「男として当然のことです」

「……なら、信じよう」


 店長が奥へ引っこみ、手早く保存食の支度をしてくれた。

 野営道具などもなかったので、借り受けるということで用意してくれた。アンナは住みこみで働いているのか、同じように奥へ引っこみ、革の外套といくらかの荷物を持って出てきた。

 おれもコートぐらいは用意するべきだったろうが、いまから買いに行くというのも間抜けな話だ。


「ちいさくてもよかったら、わたしのお古使って?」

「いいの?」手に取ると、多少くたびれているがまだ使えそうだった。「助かるよ。ありがとう」


 そういって、アンナはごそごそと、俺が羽織るとポンチョぐらいになりそうな革の外套を出してくれた。

 美少女のお古。なんて素敵な響きなのだろう。新品よりもはるかに価値が高い。


「いいのいいの。それじゃあ行こうか、タツオくん」

「……そうだね。行こうかアンナ」


 ホテルへ直行したかったが、全力を振り絞ってなんとか我慢した。

 通行税をふたりぶん支払って、おれたちは薬草の自生地へと旅立った。

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