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〇二 ナムタフの魔術剣

 強化された視力で見える石壁の町は、およそ一キロちょっと先にあるようだ。

 オールAの運動力を試すために、準備運動を終わらせてから走りはじめた。

 おれの体は、自分のものではないようによく動いた。

 三秒でトップスピードまで加速し、町まで全力疾走を続けてもほとんど疲れなかった。

 クソニートを一年やって、近所のコンビニへ行くのもたらたら歩いていたとは思えない。

 石壁が近づいてくると門番がこちらを見つけた。

 重要な位置の警備を任されるからか、それなりに屈強な体つきをしている。


「見たところ荷物もないようだが、旅人か?」

「そんなもんだ。ちなみに金も身分もないのだが、入れるか?」

「無理だ。通行税として銀貨一枚が必要になる。」

「ふーむ……わかった。ありがとう」


 モンスターからアイテムが入手できるのだったらよかったが、ゴブリンを倒しても死体が消えて金がちゃりーんと落ちてこなかった。

 しかしそれはそれでいい。

 金を持ってこっちに来なかったということは、入手する機会があるということに違いない。……たぶん。

 走って門からある程度離れたところで、古代魔法から『空中浮揚(レビテーション)』を使うと、一〇メートルほど浮き上がった。

 浮き上がるだけで移動はできないが、ビルの三階ぐらいの高さから、あたりを見まわせるというのはなかなかいい。

 人工的な建造物がないせいかやたら視界が広いおかげで、高さはそれほどでもなくても遠くまで目が届く。

 あちらこちらを眺めていると三キロほど先に、二足歩行のデカいトカゲ風生物に乗った盗賊的な風貌の男たちに追いかけられている、同じくトカゲの引く車が見えた。


「これは貴族の娘さんフラグ!」


 しかし三キロ先である。

 いまなら一〇キロでも走り切る体力はあるが、スピードはそうもいかない。

 全速で走っても二分以上は絶対にかかる。

 それだけあれば、魔術のある世界なら木造の車をぶっ壊すことぐらいは可能だろう。

 本を取り出し魔術の項目を確認した。

 いくつか見ると、古代魔術にちょうど身体能力を引き上げる魔術が見つかった。


「『運動能力強化フィジカル・エンチャント敏捷性(クイックネス)』」


 全身から光が立ち上り、体がキレッキレになるのを感じる。

 何度かジャンプしてたしかめると、いまならかなりの速度で走れそうだった。

 魔法の効果時間は短いが、いまなら馬車まで一分ちょっとでたどり着けるだろう。

 強化された脚力によって二秒でトップスピードまで加速すると、土煙を巻き上げながら疾走した。

 三キロを一分で走り切るとトカゲ乗りの盗賊的な奴らが、いままさに手斧をブチこむかという瞬間だった。


「デンジャラスニートキック!」

「ぼなふっ!?」


 加速力はそのままに跳んで、足をそろえて突っこんだ。

 いわゆるドロップキックは、手斧を持った男をあたまから車にめり込ませた。

 分厚い木の板がへし折れる破壊音とともに、蹴りの反動で勢いを殺して止まる。


「な、なにィ! あの二丁手斧の使い手ザックが一瞬で! きさま何者だ!」

「悪党に名乗る名はない!」

「ならやっちまえ、てめえら!」


 ひとりぶっ倒したところで、ほかの五人の盗賊にトカゲ車ごと囲まれた。

 しかし、それはそれで好都合だ。本を手に取り、古代魔法を選んで使う。


「『火の玉(ファイア・ボール)対象拡大(マルチプル)――三倍(トリプル) 』!」

「『火の玉』だとぅ!?」


 左右正面にふたりいた盗賊どもへ向けて放たれた火の玉が直撃した。

 火球は炸裂すると数倍にも膨れ上がり、着弾点から半径三メートルに炎が吹き荒れ、盗賊どもを焼き焦がす。


「うぎゃあ!」

「ぬうおぉぉ熱ぃぃ――!」

「がは、燃えるぅ!」

「俺は見た。炎のなかに目を見たぞ!」

「汚物が消毒されちゃうぅっ!」


 盗賊たちは地面をごろごろと転がって、全身に広がる火を消していた。

 消えたところで、全身に負った火傷は軽くない。

 戦闘不能に追い込んだと思っていいだろう。

 トカゲ車にもどって、あたまから血をビュービュー流してぐったりしている盗賊を引き抜くと、空いた穴からなかを覗いた。


「無事ですか!?」

「……た、助かったでふ」


 車のなかに居たのは、これでもかと(ふと)った胡散臭いおっさんだった。

 ……ないわー。こんなあからさまなパターンでこれはないわー。


「ああ、無事ならいいんですよ。ええ……はぁ」

「恩人に申し訳ないけど、ついでに町までいっしょしてほしいでふ。もちろん助けてもらったお礼も兼ねてするでふ」

「いいですよ。こっちも町まで行きたかったんで」


 残り三キロ程度とはいえ、肥ったおっさんにとってはなにがあるかわからない。

 実際、そのあたりで盗賊に襲われたのだ。

 しかも馬に相当するトカゲを駆る余裕からして、かなり儲けている盗賊だ。

 ……ん、儲けている盗賊?


「ちょっと待っててくださいね」

「わかったでふ」


 車から飛び降りると、火傷に苦しみひいひい唸っている盗賊たちは、まだ逃げていなかった。その内、もっとも立派な武器を持っていたひとりの盗賊を締め上げる。


「おい有り金を出せ。それで命だけは助けてやる」

「ひぃ……渡します。渡しますから動かさないで。火傷が擦れて痛いの!」


 盗賊たち六人から金とまともな剣をせしめると、ふたたび車へもどった。

 革袋はなかなか肥っていて、中身が期待できそうだった。


「捕らえなくていいんでふか?」

「持っていくなら同乗させることになりますよ」

「……それはいやでふ。放っておくでふ」


 隅っこに隠れていた御者に命じると、トカゲ車は動きだした。

 道のせいか、サスペンションがないせいか、車はひどく揺れる。

 気持ちわるくなるより先に、ケツがぶっ壊れそうだった。

 自転車で延々とデコボコ道を走っているようなものだ。

 これなら立っているほうがマシだろうと外に立つ。

 トカゲ車はのんびりしていたが、それでもたいして時間もかからず町までついた。

 先ほどの門番が、車に立つおれを見て目を丸くしていた。

 御者がトカゲを止まらせると、ドアを開けて肥ったおっさんが顔をのぞかせた。


「商人のナムタフでふ。これが目録と身分でふ」

「いま確認する。すこし待っていろ」


 門番は羊皮紙と彫金された鉄のプレートに目を通し、車を開けて荷物を確認していた。

 肥ったおっさんことナムタフは、後ろ暗いこともないのか、ぶふーぶふーと息苦しそうに呼吸しているが、焦った様子はない。


「うむ。問題ないな。通ってよし。つぎ!」

「ほい。ばっちり金を持ってきた」


 まるまる肥った六つの革袋を覗くと、大体は銅の貨幣が入っていたが、三割ほどの銀貨と数枚ほど金貨もみつかった。そのうち銀貨一枚を門番に手渡す。


「持ってきた以上文句はないが、……わるいことをしたのではないだろうな?」

「まさか。ナムタフさんが盗賊に襲われてたから、それを助けただけだよ」

「盗賊か。捕らえてこなかったのか?」

「縄もなかったもんで」来たほうを指しながら続けた。「一五分ぐらい前のことだけど、ここからあっちに三キロぐらいだ。現場は地面が焦げてるからすぐわかると思う」

「たいして時間は立ってないが、逃げてしまっているかもしれんな。一応、追っ手はだそう。情報感謝する」

「どういたしまして。通ってもいいか?」

「ああ。通ってよし」


 命は助けてやるといったが、そのあとどうするかは言ってない。

 おれが手にかけたわけじゃないから嘘にはならないだろう。

 壁を通って町中へ入ると、そこで肥ったおっさんことナムタフが律儀に待っていた。

 トカゲ車からは下りず、座っているだけだというのに息が上がっている。


「待ってたでふ。無事、町に着けたお礼もするでふ」

「ありがたいですが、無理はしていませんか?」

「ぼくは商人でふ。自分の命の値段をケチるつもりはないでふ」


 そういうと、ナムタフはぶひぶひ呼吸しながら荷車の荷物を漁った。

 そのなかから一振りの剣を取り出すとこちらへ差し出してきた。


「みたところ、剣も鎧も身に着けていないようでふ。この剣は一種の魔道具でふ。剣としてもいいものでふが、魔術の発動体としても使えるでふ」

「それはありがたい。では、遠慮なくいただきます」

「下手に遠慮されると困ったでふから、ありがたいでふ。またなにかあったらよろしくお願いするでふ」

「ええ。こちらこそ」


 話し過ぎたのか、ナムタフはぜーぜー肩で息をしながら言い終えると、御者に命じて大通りをトカゲ車で進んでいった。

 遠くまで見えるようになった目でその先を覗くと、市場があるようだった。

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