LOA(Leads on away)
家に入ると、親父が玄関に仁王立ちしていた。
あまりの威圧感に、俺は後ずさりしそうになった。
いつものふざけた感じがすっかり消えていた・・・
ちょっと上から見下ろす感じで、親父は俺を見て、威圧感のある低い声で言った。
「まさか、佐藤しおりがあのしおりだとはな・・・」
しおりとは、全く別物の相手を飲み込む感じの張り詰めた空気が、俺の口を黙らせる。
いつもの俺ならきっとこの空気に負けていた。
でも今は違う。
俺は、妹の想いを背負ってるんだ。
今の俺は、誰であろうが戦える。
「親父・・・頼む!!しおりの母さんともう一度結婚してくれ!!」
声を張り、俺は昨日言えなかったことをはっきりと言い放った。
親父は、表情を変えず、静かでどこか威圧的な声で
「それは無理だ」
「なんでだよ!?離れ離れになった家族が、また一緒になれるのになんでだよ・・」
「お前のような馬鹿に何が分かる」
そう言い返され、たまりにたまった俺の気持ちをぶつけた。
「俺は確かに親父のように頭がよくない。でもそんな俺でもわかる。家族は、いつも一緒にいなくちゃいけないんだ。しおりの涙を見て強くそう思った。」
親父は、鼻で笑う。
「笑わせるな。家族は一緒でなければダメだ?いい加減なのは、自分の人生だけにしておけ」
「俺は、本気で言っているんだ!!いい加減な考えで言ってない!!」
「お前が本気になったことなんて一度もない。お前はいつも嫌な現実から逃げて、
楽ばかりしてきた。そんなやつが綺麗事ぬかすな」
親父のこの一言が俺の心にすごい響いた。
でも俺は諦めない。
諦めたら、しおりはきっと人に心を開かなくなってしまう。
そんな気がする。
親父の威圧で、口がうまく動かない。
それを必死で動かして言った。
「確かに今まではそうだった。でも今は違う。家族の幸せを本気で望んでる。
だから親父がどれだけ俺を、批判しようと諦めねえ!!」
鬼そのものとも言えるような目で親父は俺をにらんでいる。
でもそれに怯まず、逆に睨み返して言ってやった。
これが俺の兄としての姿なんだ・・・
親父の口元が少し微笑む。
どこか親父らしさを感じさせる声で言った。
「お前がここまで立ち向かってくるなんてな。正直驚きだ」
真っ直ぐ親父を見つめ、
「家族の運命がかかってるんだ。そんな時に逃げたら男じゃねえ」
すると親父は大爆笑した。
「おいおい。ホントに龍翔か?」
「ああ」
親父は、鬼のような目から、何かを決意したような顔つきになって言った。
「遊び半分じゃなく本気みたいだから教えてやる。」
「頼む」
親父は、うつ向いて、辛そうな表情になる。
そして声を震わしていった。
「お前の母さんは、俺たちを捨てたんだよ・・・」
え?・・・・・・
あまりにも衝撃的過ぎて、俺は言葉を失った。
親父は、手で自分の顔を覆うように隠すと、話を続ける。
「あいつは金遣いが荒かった。それが悪化して、子育ても手を抜き始めた。だから俺はそのたびに注意したんだ」
そこまで言うと、少し間を空けてから続きを話した。
「でもそれは直らなかった。」
親父の顔は、手でよく見えないが、手が玄関の明かりで光っていた。
その光ってた部分には、水滴がついていた。
そこで気づく親父は泣いていた・・・
俺は心がすごく痛んだ。
親父もきっとそうだろう・・・
でも親父は、話してくれた。
「あいつは、俺が働いてる間お前たち2人を一生懸命育てた。そのストレスがあいつをそうさせてしまった。それが原因で、ケンカが絶えなかった。そしてお前たちが5歳になるとき・・・・」
5歳・・・
俺としおりが離れ離れになった年齢のときか・・
親父は、辛そうな声で言葉につまりながらも言った。
「こんな楽しみのない、辛いだけの生活はごめんよ。と言い残して出て行こうとした。・・」
もう俺は、心が引き裂かれる感覚に陥っていた。
まさか自分の家族にここまで壮絶な出来事があった事への驚きと悲しみの両方が俺を硬直させた。
親父は、最後の力を振り絞るように言った。
「だから俺は、せめてお前の傍を誰よりも好きなしおりは、一緒に連れてってやってほしいと」
俺はそれを聞いて、親父がどれだけ家族を愛してくれていたのかを感じた。
いろいろな感情が俺の中から溢れ出す。
もう自分でもなんだか分からなかった。
気づけば俺は、大泣きしていた。
「それでな、母さんはしおりを連れてこの家を去っていった」
そういって親父は、泣き崩れた。
俺は、そんな姿を見て、とてつもなく悔しかった。
「ありがとう。親父・・・。一番家族の幸せを願っていたのは、親父だったんだな」
俺は、うずくまる親父を抱きしめて、そう口にした。
親父は、涙声で、酔っ払ってるような感じに言った。
「俺は、龍翔、しおり、母さん、お前らを誰よりも愛している。だから離婚したときは、もうー」
「それ以上言わなくていい。親父は、偉大だよ。だから泣くなよ」
俺は、自分がいかに情けない人間なんだという事を思い知らされた。
でもこの日を境に俺は思う。
本気にならなきゃ何も守れないという事を・・・
****************
親父は、再婚することを決意した。
理由は、これ以上子供たちに辛い思いはさせたくないのと、もう一度家族みんなで、楽しい生活を送りたいからだと言っていた。
お袋も、自分のおろかな行いを反省していた。
しおりをたくさん傷つけてしまったし、家族に多大な迷惑をかけてしまったことへ罪を感じていた。
親父とお袋は、俺としおりの前で仲直りし、再婚した。
それにより、しおりはこの日から佐藤しおりから、白川しおりになるのだった・・・
家族が一つになり、皆それぞれが幸せな未来に向かって進んでいた。
それは俺としおりもだ。
「龍翔。学校行くよ」
「おいお前新学期早々そんな焦ってたら、疲れちまうぜ?」
「龍翔はそんなのんきだから、遅刻が減らないんだよ?」
「わかってるわかってる」
俺としおりは、昔程ではないが、それに限りなく近いぐらい仲良しになった。
互いに助け合い、ケンカしあう、本当に兄妹に俺たちは戻ることができた。
俺は思う。
どんなに叶わないような夢でも、諦めず本気でその夢にぶつかれば、必死でそれを手に入れようと歯を食いしばって頑張れば、手に入るという事が大事なんだって・・
だからこの気持ちを忘れずに俺は、自分の人生を切り開く・・・




