始まり
俺は白川龍翔16歳、再繋高校一年。
5歳から父子家庭で育った少し家庭に事情がある俺は・・・・
何か人より優れているものもないし、何か人より劣っているものもない平凡な高校生。
勉強、スポーツ、どれも中の中を目標に頑張ってきた。
人の上に立つより、皆と同じ位置での景色を楽しみたかった。
上など目指すことなく、無理のない、そしてあまり楽をしない立ち位置を目指す。
俺の人生に全力疾走するときはない。
どんな時も8割でやればいいじゃない。
そうすれば何事も挫折することなく続けてられる。
そんな俺は、現に何かをやめようと思ったことがない。
だからやめようと思ったときは、少し手を抜いて見るといい。
そうすればきっとやめようという気持ちも、抑まるだろう。
こんな俺の考えを、あざ笑うような天才があいにくこの1年4組にはいた。
俺の隣の席の佐藤しおり。
皆からつけられたあだ名は、孤立クイーン。
あだ名の由来は、友達をつくる気がないのか、人と関わろうとしない姿と何でも出来すぎる所を合わせたあだ名。
黒髪のウェーブのかかったふんわりした感じの長髪に、パッチリとした瞳をしている美少女。
スタイルも結構いいため、普通にしてればすごいもてるのだが、彼女の放つオーラが全てそれを消し飛ばす。
普通ではないというのを感じさせる張り付くような空気が人を寄せ付けない。
その空気を象徴とするかのように優れた能力。
勉強は常に主席、スポーツも何をやらせても飛びぬけていて、特にバスケは中学時代全国でとても名の知れた選手だったとか。
もうクラスの皆は彼女の話になると、「気が滅入る、あいつの話はやめろ」こういう人が多い。
まあそれはそうだろう。
自分より優れすぎた奴を見ているだけで、自分の能力の低さを思い知らされるっていうのに、話してるとさらに自分の無力さを思い知る事になるからな。
それに彼女は、教師からはこの学校の秘宝とまで言われている。
もう皆がついていけるような領域のはるか上を行くような存在なんだ。
正直言って気持ち悪い。
まあ佐藤の話はこの辺にしておこう。
今俺は、幼馴染の黒田優輝と話してる。
5歳のときから親同士が仲がいいという事がきっかけで出会う。
基本的に器用で、ちょっとやればある程度できてしまうタイプ。
でもとても飽き易いタイプのため長続きしないので、人よりちょっと出来るぐらいのものはたくさんあるものの特技といえるものがない。
変にナルシストでプライドが高い。
その上テンションが基本高くムカつく時もあるが、嫌な奴ではない
「お前も不運だよな・・・。となりがクイーンじゃな」
「まあ俺は相手にされてないから」
「いやあいつ、人と話してるの授業中に分からない問題聞かれるとき以外ないじゃん。」
結構厳しい事言ってるなと思って、なんか笑いがこみ上げてきた。
「お前笑うなよ」
「いやお前佐藤の話の時、やけに唯一の弱点を集中砲火するからさ」
「皆そうじゃね?」
「まあそうだけどな」
「女のくせになんで男より全然身体能力いいんだよ。その時点でどうかしてるってのに・・・頭良いとか嫌味」
「いや、だから皆何も本人に言えないんじゃないか・・・」
俺の軽率な言葉が優輝の高いプライドに傷をつけたんだろう・・
「俺、あいつに言ってくるわ。」
急に優輝が席を立ち上がって、とんでもないこと言い出したので俺は驚いた。
「やめとけよ。向こうは学校の秘宝と言われる超優等生だぞ?」
俺が引き止めるが、こちらをキッと睨み
「この俺より出来るなんて気に食わない。俺だってあきやすい性格じゃなければあいつなんかよりも優秀だ。」
あーあ・・・こりゃまた無謀な戦いを・・・
俺は心の中で盛大に嘆息する。
「やめとけって。俺ら一般生徒に勝てる相手じゃない。」
優輝は、俺の忠告を全く聞かない。
「だからその化け物を倒し、俺こそがあいつを倒した英雄と称えてもらうんだろ?」
「お前は・・・」
どこまでおめでたいんだよ・・・
強がりもここまで来ると、もう病気だな・・・
そういえば、中学のとき、学年1位の奴に俺のほうが頭いいって挑んでいってボロカスにされたの忘れたのかよ・・・
相手は5教科490とか当たり前で取ってるような奴に対して、お前は5教科で320点くらいしか取れてなかったじゃねえか・・・
確かにバカではないし、勉強はそこそこできてはいたけど、170点も差をつけられてる相手に下克上果たせるなんて普通思わねえよ・・・
あん時みたいに、自分の得意分野でとことん責めて全部答えられちゃって、焦ってるところで相手に問題出されて答えられず投了。
それの二の舞だな・・・
優輝はこちらに一旦引き返して、自信満々に言い放つ。
「あいつは頭が良すぎただけだ。でも佐藤はバカだ。いける」
「いや佐藤のほうが頭いいと思うぞ・・・。受験500点満点だったから教師から秘宝って呼ばれてるんだってよ」
俺がクラスメイトから聞いたことを言ってやると優輝は顔を真っ青にしていった。
「俺290点しかとれなかったのに・・・」
「諦めろ。勝負になんねえよ・・・。」
「いやだ。行く」
もう俺とのやりとりにしびれをきらしてしまったのか、行ってしまった・・・
これは殺されたな・・・