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自己紹介

本日も、よろしくお願いします。


 廊下を歩いていると緑や黄色といった様々な色の頭髪を見かける。


 しかし、それは別に学園がエキセントリックな不良たちの巣窟だからという分けではない。


 超能力者は、能力に覚醒すると髪の色が変わるものが多くなぜか黒に染めてもすぐに色が戻ってしまうので結果この様に頭部がカラフルなことになるのだ。


 でもなんでそうなるのだろう?という疑問は研究者もまだ答えを出せていない。


 そんなことを考えながらこれから一年お世話になる二年E組の教室にたどりつくと、ほとんどの生徒がすでに着席していた。


 さっそく、自分の席を確認する。


 すると、窓際の一番後ろに御堂天太と書かれたシールの張られた席を見つける。


「よっしゃ!」


 拳をにぎり、思わずガッツポーズどうやら最高の席を引き当てたようだ。


 この席なら思う存分居眠りできるぞ!


「おお御堂殿、お隣でござるな」


 訂正しよう、最悪の席だったようだ。


 これでは気を抜くことすら出来はしない。


 嘆息する俺をよそに、にこやか笑みながら椅子を引き、隣の席に座る忍を見ながらがっくりと肩を落とす。


 にぎった拳、このまま叩き込んでやろうかな・・・


「あれ?」


 すんでのところで拳を下ろすと、前の席に座る人も確認しておこうと思い前方に視線を移す。


 すると、どこか見覚えのある後ろ姿に思わず声が出てしまった。


「やっと、来たわね天太」


 前に座った女子生徒は、こちらの声に反応し振り返り俺の顔を確認すると俺の名を呼んだ。


 俺も相手の顔を確認すると、すぐにそれが誰だか分った。


「零子か!おまえも同じクラスだったのか」


 端正な顔立ちに切れ長の瞳、長く艶やかな黒髪を後ろで結ってポニーテールにしたそいつは幼馴染である間崎零子だった。


去年は、クラスが違って話す機会が減ってたから後ろ姿だけではすぐに気づかなかった。


「ええ、というか私の名前天太のひとつ上にあったんだから普通気づかない?」


 そういえば自分の名前に軽く目を向けただけで、基本上から順に見たから忍を見つけた事件のせいでそこから確認していなかった。


「ふん、まあ天太にとって、私が居るかなんてどうでもいいんだろうけど」


「そんなことはねえよ、すげえ嬉しい」


 すねた様に言う零子に本心でそう返した。


 常識人の知り合いがいるというのはすごくありがたい。


「そ、そう。ならいいんだけど」


 そう言うと、すぐに顔をそらし前を向いてしまう。


「御堂殿、『氷の女王』と知り合いでござるか?」


 言葉を交わす俺達を不思議に思ったのか忍がそう問いかけてくる。


 ちなみに『氷の女王』というのは、零子の二つ名である。


 こいつは、学園内でなかなかの有名人なのである。


 忍たちと比べるとベクトルは正反対だが。


「ああ言ってなかったっけか、俺と零子は幼馴染って奴だな」


「なんと!美人のツンデレ幼馴染とは、妬ましいでござる・・・」


 たまにこいつは、意味不明なことを言いやがるな・・


 ぶつぶつと呪詛の言葉を呟く忍のこめかみに、肘を叩き込んだところで教室の扉がガララと音を立てて開かれ、俺達の担任であろう人が教室へと入って来る。


 きびきび歩くその人は、きっちりとスーツを着こなした若い女性である。


 薄く紫がかった黒髪を肩のところまで伸ばしていて、美人だが目つきはかなり鋭い。


 そしてなにより人の目を引くのはスーツを押し上げる豊かな双丘である。


 あの男の目を、引き付けてやまないおっぱいには見覚えがある。


 この人は・・・


「席に着け、以後の私語は禁止だ」


 去年、大変お世話になった生活指導の鬼沢響子(おにざわきょうこ)先生だった。


 黒板に、カッカと音を立て自分の名前を板書する鬼沢先生。


 クラスメイト達は、鬼沢先生の厳しそうな雰囲気に当てられ緊張した様子でそれを見つめている。


「今日から一年、お前達の担任になる鬼沢響子だ。厳しくいくので、そのつもりでいろ」


 先生の名前を聞き生徒の多くが「やっぱり・・」と言いたげな表情になる。


 この鬼沢響子という教師は、かなり名が知れ渡っている。


 理由としては、去年の俺達に対して熱い教育指導(物理)を行っている所をかなりの生徒に見られているからであろう。


「さて、一つ私事で悪いが言っておこう御堂、服部、貴様らには特に厳しく指導するから覚悟しろ」


 おっと、響子先生から熱いラブコールを受けてしまった。


 しかし、これはきちんと言い返しておかないといけない、これではまるで俺が服部クラスの問題児のようではないか!


 俺は勢い立ち上がり先生の目を見て、きっぱりと言い放つ。


「待ってください!響子先生、服部はともかく俺が何をしたっていうんですか!」


「去年、屋上から「俺は鳥だ!飛べるんだ!アイ・キャン・フラーイ!!」とか言いながら飛び降りたバカが、誰だったか覚えているか?」


「俺です」


「おまえが問題児だということに何か反論は?」


「ありません」


「よろしい、着席して静かにしているように」


「はい、すみません」


 俺はすみやかに着席し、背筋を伸ばした。


「あの・・・鬼沢教諭、拙者は」


「だまれ、貴様に発言する権利はない」


「待遇が酷すぎるでござる!」


 忍も何か反論しようしたようだが、発言さえ許されなかったようだ。


 まあ、学園内の監視カメラを倍に増やす原因になった人物には、妥当な対応だろう。


 今のやり取りでクラスメイト達は、俺達が誰なのか気づいたようで、先生に目を付けられて可哀想という同情の視線が「ああ、あいつらか」という、哀れみや軽蔑に変わっていることが、それを雄弁に物語っている。


 やめろ・・・そんな目で見るな!俺はただ自分の中に眠っている(かもしれない)空を飛ぶ能力を覚醒させようとしただけなんだ!


「ではお前達にも自己紹介をしてもらおう、名前の順で行うので、前の者が終わるまでに考えておけ。まず赤井、お前からだ」


 先生に指名された日向は、素早く立ち上がると元気良く自己紹介を始めた。


「赤井日向っす。趣味は散歩、好きな食べ物は甘い物、能力は秘密っす、そして尊敬する人は御堂のアニキっす!」


 思わず椅子からずり落ちそうになった。


 おいっ!普通のまま終わるのかと思ったらこれだよ!


 個性的な自己紹介を終え、再び席に着いた日向は俺のほうに顔を向けて、親指を立てサムズアップしてくる。


『なにあの人、同級生にアニキって呼ばせてるの』


『きっと、ロリコンなんだ』


『ああ、ど変態だな』


 おかげで、俺に突き刺さる視線がさらに冷たくなった

 

 勘弁してくれ、これ以上悪目立ちしたら、まともな青春を送るのがほぼ不可能になってしまう。


 たのむ!もう俺の評判を落とすようなことは何も起きないでくれ・・・


 非常に不安だった創の自己紹介は、異様なテンションの高さを除けば意外にも普通に終わり、他の生徒達も日向にならい名前の後にひとことふたこと自分について話しながら順調に進んでいく。


 そしてついに最大の難関、忍に順番が回ってくる。


 ここは細心の注意を払わなければならない。


 こいつは放っておくと平然と「好物は女子のパンツでござる」とかのたまい、教室を絶対零度の中に落としかねない。


 そんな事になれば、まこと遺憾ながら同列に扱われている俺の評価まで下がりかねない。それだけは、阻止しなくては!


 いつでも忍の意識を刈り取れるよう、俺が拳を構える中で忍の自己紹介が始まる。


 普通になんて贅沢は言わない、せめて俺の評判を落とさない程度のものであってくれ・・・


「服部忍でござる。趣味はストー・・・散歩でござる」


 おい、今ストーカーって言いかけなかったか。


「好物はパン・・・甘い物でござる」


 パンで切って良かったじゃねーか!なんでわざわざ言い直すんだよ!なんかいかがわしく聞こえるよ!


「能力は、ひ・み・つ、でござる」


 うぜえよ!はんぱじゃなくうぜえよ!


「そして愛する人物は、御堂殿でござる!」


「アウトー!!」


「がはっ!」


 すかさず腹にボディーブローを打ち込む。


 なんとかしのげるかと思ってたのに、こいつは最後の最後でとんでもねえ爆弾落としやがった!


 腹に深刻なダメージを負った忍は、呻くように呟く。


「なぜ・・親友として・・家族のように思っていると、伝えたかっただけでござるのに・・」


「それならそう言え!今のじゃ完全に、アッチの人じゃねーか!」


 いや、本来伝えたい意味もかなり気持ち悪いのだが、それにしたってあの言い方はないだろ・・・


 というか、早くみんなの誤解とかないと俺のあだ名がホモ太になってしまう。


「みんな違うんだ!最後のは、笑いを取るための冗談で本気じゃないんだ!」


「ひどいでござる・・・拙者、本気だったのに・・・」


「おまえ本当、黙っててくれよ!」


 そろそろ、取り返しがつかなくなる。


『え、あの人ロリコンな上にホモなの?』


『やばいな・・・』


『ウホッ!』


 教室が忍の本気発言に、にわかに教室が沸く中、急速に怒気を高める人物が一人。


「貴様らは本当に仲がいいなぁ・・・」


 そう、響子先生である。


 口元に薄く笑みを浮かべる彼女は、名の通りまさしく鬼のような迫力があった。


 ハエぐらいなら、近づいただけで殺せそうな気迫をまとった彼女が、ゆっくりとこちらに歩いて来る。


どうしよう、窓からダイブすれば逃げ切れるだろうか。


 そんな思考にいたった時にはすでにもう遅く、響子先生は俺達の目の前まで接近していた。


 よく見ると、額に青筋が立っている。


「貴様らの絆は良く分った、が誰がホームルーム中にじゃれつく事を許可した?」


 響子先生が手に持った出席簿を振りかぶる。


「待ってください!これには仕方のない理由があるんです!」


「言い訳を許可した覚えもない!」


 俺の必死の懇願もむなしく、すさまじい威力を誇る一撃が俺と忍の頭部を襲った。


夕方、もう一話投稿します。

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