1
登場人物…太陽、地球、水星、土星、木星
「地球、見舞いに来たぞ」
「ゴホッゴホッ…太陽、いつもありがとう。来てくれるだけでも…ゴホッゴホッ!」
「おい!まだ、体調が悪いだろーが、寝てろよ」
「うん…。そうさせてもらうよ」
そう言って、僕は部屋に戻ろうとしたら、太陽に抱えられて部屋に運ばれる。背中と足を支える太陽の腕が、いつの間にか逞しいことに気付いた。ひょろひょろの僕とは、えらい違いがある。でも、太陽の優しさに甘えるのもいいかもしれない。いるも、ぶっきらぼうに接してくるけど、二人の時だけは優しい。
ベッドに寝かされ、毛布を書けられる。体が弱く体調を崩しがちである僕のために、皆が選んでくれた低反発のベッド。優しく僕を包み込んでくれる心地に、眠くなってくる。
「地球、寝ていろ。皆が来たら、起こしてやるから」
「……ありがとう、太陽」
熱だろうか、いつもより眠たくなる。目を閉じ、皆の顔を思い出しながら、眠っていく。
「やっと。寝たか。楽しい夢でも見ていろよ」
太陽は眠っている地球の髪を優しく、撫でてから部屋を出た。地球が起きた時のために、お粥でも作るのだろう。台所に向かって、足を進めた。太陽は何回も来ているせいか、迷うことなく目的地に着く。
「たく…地球はよく体調を崩すなぁー。いつになったら、元気になるんだよ」
そう呟く、太陽の顔は不安に満ちていた。遊びに行く度に、玄関に倒れている姿を見かけるから。どうして、無理してまで玄関にいたのか、聞いてみたら「太陽が家まで来てくれるのに、ベッドに寝込んでいたら失礼だから」と。自分の体調が悪化するだろうに、ここまで律儀にするのは地球だけ。
「また、風邪が悪化しているだろーが。俺はお前の無理して笑う姿が痛々しいんだ」
太陽にしては、珍しい呟きだった。いつも、地球のことを見てきた太陽だからこそ、地球の異変に気付いたのだろう。作ったような笑みが、地球の異変の象徴だから。
***
僕はいつも太陽に迷惑かけている。治らない風邪が体を蝕む。焼け付くように熱い熱が、僕の意識を浮つかせる。
「太陽…。熱いよ…」
白い僕の部屋。窓から差し込む太陽光を吸収して、部屋の温度を一定にしてくれる。近くには、病院から借りてきた点滴がある。腕に繋がれているのを見て、太陽がやってくれたのだと分かった。重い体を無理して起き上がらせ、台所へ足を進めた。重い足取りで、ひんやりと冷たい廊下を歩く。健康体の時は近いように思えたけど、今は遠く思える。
「た…い、よう…。み…ず…」
「おい!地球、無理したらまずいだろ!まだ、体調が万全じゃないんだろーがっ!!」
「だい、じょ…ぶだ、から。いつか、なお…る、よ」
そう返したら、体がぐらついた。目が回るように、景色が変わっていく。
太陽の心配した顔が、僕の胸を締め付ける。どうして、いつも僕は皆に心配させてしまうんだろう。そんな顔させたくて、風邪になったんじゃないのに。
「……太陽、そんな顔しないで。僕は、死なないから。いつか、元気になれたら太陽の家を紹介して」
そう言って、僕は床に倒れる。もう、立っていられないくらい、胸が苦しい。
いつか、僕だけが皆を残して死んでしまう未来が近付いている。
「お、おい!地球、今すぐベッドに連れていくからな」
そう言って、太陽は気を失っている地球を抱えて、地球の部屋に向かう。
ベッドに寝かしつけた太陽は、地球のパジャマを脱がす。露になった地球の体には、たくさんの黒い痣と大小の傷跡があった。
と、その時、玄関のドアが開く音がした。そして、勢いのある足音がする。
「地球お兄ちゃんー、遊びに来たよ。……どうして、地球お兄ちゃんの体が酷いの!?」
そう言って、入ってきたのは小さな少年だった。
「……水星か。地球には、人間たちがいるだろ。その人間たちが環境破壊する度に、こうして地球の体に現れるんだ。もしかしたら、地球は自分が死ぬかもしれないと分かっていたんじゃないか」
「酷い…。地球お兄ちゃんが人間を信じて、今まで平和にしていたのに…」
水星は地球の近くに近寄って、泣き始めた。昔から、水星は地球のことを「お兄ちゃん」と呼んで、付いてきた。
「た…い、よう…。すい、せい…」
「……!おい、地球大丈夫か!」
「地球お兄ちゃん!どうして、人間を信じ続けるの?ボクたちを残して、先に死なないでよ!」
「…ごめんね。僕は、彼らがいないと、美しい星で、いられないんだよ。それに、僕は彼らが生きていける、環境だから。皆のは、彼らが生きていくには、辛い環境だから」
息絶え絶えに、水星の頭を撫でて笑う。
「おい、地球!無理して笑う癖、止めろ。見ていて、痛々しいんだよ」
「…お願い、地球お兄ちゃん。ボクは、地球お兄ちゃんに無理して笑ってほしくないんだ」
二人に言われてしまっては、無理して笑うのは限界だったのか。
「…分かった。実は、笑うのも限界なんだ。今も激痛が体に走るんだよ。……太陽、お願い。僕を助けて!」
初めて、僕は太陽に助けを求めた。溢れる涙を拭っても、いつまでも止まらない。
「分かった。あとは、俺に任せろ。お前が頑張る理由は、もうない」
そう言って、太陽は僕を抱きしめる。太陽の逞しい胸板に、僕は泣きつく。今まで、耐えてきた肩の荷が降りた気がした。
「ごめん。しばらく、このままにしていいかな?」
それは、僕の最初のお願い。弱くなったこの感情は、なんと言えばいいのだろうか。もう、僕は長く生きられる確率が少ないと実感する。彼らが生きている間は、体は黒い痣が増え、風邪が治らない。太陽たちのように、無人ならどれだけ僕は長く生きられたのかな?
「…ありがとう。もう少し、横になっているね。水星、彼らを恨まないで。僕が彼らの生きられる環境になっていたんだから」
僕はそう言って、ベッドに横になる。胸が痛いけど、我慢しないとね。
「…ようやく、地球が素直になったか」
「ねぇ、太陽…。地球お兄ちゃんは、どうして人間たちを恨まないの?信じていられるの?」
「…ああ、それは前に地球に聞いたことがある。なんでも、地球は人間がいない頃は水と陸だけの惑星だったらしい。その水には、恐竜という生命を生み出す素があった。幾億年の時が過ぎた頃には、人間が文明を生み出して、地球を銀河系で一番美しい星にしたらしい」
「………」
「それから、地球は人間たちを慈しみ持っ
て、守っている」
太陽から聞いた地球の人間に対する想い
の理由を、水星は知った。これでは、自分のすることが、地球を傷つけてしまう。
「水星、地球のことは気にするな。俺がなんとかしてやるから、思う存分してこい」
「うん、分かった。地球お兄ちゃんのこと、お願い」
そう言って、水星は外へ向かっていった。一体、何をするのかは水星しか知らない。だけど、分かることは人間たちに対して、復讐をすることだけ。
水星が出て行ったあと、太陽は地球の看病に徹する。一日でも早く、元気になって大会議を再開したい。地球が倒れた時、全ての恒星や惑星に衝撃が走った。唯一、生物が暮らす星として、水が豊富な星として知られていたから。そして、誰にでも隔てなく優しくするお母さん的な存在だったから。それだけ、地球は皆に愛されていたこと。
特に、水星や土星は誰よりも地球を慕っていた。それだけに、一番悲しみが強かった。長い間、泣き続けて皆を困らせた。だけど、皆にとって、お父さん的な存在だった太陽が二人を泣き止ませた。
「…地球、あいつらを泣かせるな。お前を一番慕っているんだぜ」
哀愁が漂う太陽の言葉は、誰よりも地球を想っていた。地球は皆を愛している。自分だけが——生物を抱えても、笑って受け入れた。その行動全てが、お母さんを思わせることになっても、笑うことだけは止めなかった。
「…太陽、月の様子はどうだった?あの子は、情緒不安定だから…今も泣いている気がしたから」
ふいに聞いてきた地球の顔には、苦痛が浮かんでいた。
「ああ、月は泣いていた。自分が地球を苦しめてしまったと責めていた。今は、俺の家で寝かせている。あとで、連れてくるからなんとかしてくれ」
「ふふ、分かった。太陽には、たくさん心配と迷惑を掛けてしまったね」
「気にするな。あいつらに、お前はお母さんみたいな存在だからな」
「土星に、これをプレゼントしてくれますか?あの子も、自分を責めるから」
「ああ、分かった。ついでに、渡してくる」
「はい、お願いします。でも、僕が皆のお母さんですか」
「ああ、気付いていなかったのか?」
「うん、恥ずかしいけどね」
僕はいつの間にか、皆のお母さんになっていました。おかしいですが、僕は皆より若いはずですけど。
「あれ?少し、体調が良くなったかな」
「そうか。水星にやらせた甲斐があるもんだ」
「……え?」
「…水星が人間たちに復讐を始めた」
太陽が言ったことが、僕の頭の中に入ってこなかった。もしかしたら、聞き間違いだったかもしれない。もしくは、認めたくなかったかもしれない。僕は頭を抱え、丸くなる。
「地球、認めたくないかもしれないが、これは事実だ。諦めろ、お前は人間たちが好きかもしれないが、俺たちはお前を失うのが嫌だ」
「……ううっ…」
僕は彼らが好きだ。美しい星だと、言ってくれたから。例え、僕が死んでしまっても構わないくらい、嬉しかったから。
「お前を慕っている水星や土星、今も情緒不安定な月を残したいのか!お前がいてくれないと、あいつらが泣き止まないんだぞ!?」
「………」
「あいつらは、お前しか頼れないんだ。だから、お前はお母さんと言われているんだ!」
「……彼らは死んでいないんだよね…?」
「…水星による。だが、多分死んでいないはずだ。水星はお前が悲しむようなことはしない」
「……分かった。彼らを殺さない程度に、してくれないですか?」
「……!?お前は、それでいいのか?俺たちを止めないのか?」
太陽は僕の言葉に驚いた顔をした。まさか、僕が認めるとは思わなかったみたい。
「うん、もう疲れたんだよ。彼らを信じていたのに、一行に体は治らないから」
僕は壊れた笑みをして、自分の手首を近くにあったカッターで切る。何回も。赤い血が流れ、意識を失うまで。
「おい!?止めろ!このままでは、お前が死ぬんだぞ!?」
「……もう、疲れたんだ。どうして、僕は彼らにしてきたことが、無駄になったのか…分からないんだ」
「……っ!もう、止めてくれ!お前が傷付く姿は、もう見たくないんだ!」
「ねえ、太陽?僕は…どうすればいいのかな?」
「お前は月よりも危ない。儚く脆いんだ!寝ろ!」
そう言って、太陽は僕の手首を治療する。こんなにも、太陽が悲しそうな顔をするなんて。
僕は、また——悲しませてしまったんだね。ごめんなさい。今まで、頑張ってきた意味を失くしてしまったんだ。
「……ううっ…。ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん。僕は、また太陽に迷惑かけた…。う、うう…うわあああああん!」
「…もう、お前は頑張った。今度は、俺たちが頑張るから。もう、眠っていいんだ」
「分かったよ…。もう、眠っていいんだね…?」
「ああ、もちろんだ」
それから、僕は太陽にしがみついたまま、長い眠りに就いた。もう、気を張らなくていいんだと、分かった途端、力が抜けた。
「…たく。お前は昔から、頑張りすぎるだろーが。今くらい、安心して眠っていろ」
そう言う太陽の目は優しい。鍛えられた体に寄りかかる、地球の体は華奢なくらい細かった。長く治らなかった風邪により、ろくに食べておらず、眠れなかった。それが、太陽の言葉によって、今まで虚勢を張っていた力が抜けた。
「俺はお前が好きなんだ。近くで見ていたからこそ、一番愛しく思えるんだぞ」
***
「太陽ー。人間たちを眠らせてきたよー」
「そうか。こっちも、ようやく地球から本音が聞けた」
「本音?」
「ああ、そうだ。“もう、疲れた”とな」
「…また、地球お兄ちゃんは切っちゃったの?」
「自分がしてきた意味を、見失ったみたいだ」
「これで、何回目なの?」
「……146回目だ。治療しても、切るみたいだな」
「………」
水星と太陽は、頭を抱えて悩みだした。地球の自傷行為が止められない。どうしても、先の尖った物を隠しても、どこからか取り出して傷つける。際限なく、切りすぎて地球の手首は傷跡が残っている。
やはり、誰かが近くで見張るしかない。治療係として。だけど、経験があるのは太陽だけ。
「仕方ない。水星、俺の家にいる月を連れてこい」
「うん。分かった!」
そう答えて、水星は太陽の家に向かう。地球の家の隣に太陽の家がある。太陽系2番地に位置しているから。
「地球、月が悲しむから止めろよ」
「太陽ー、連れてきたよー」
「そうか。月、地球がまた切った」
「……えっ!」
「ほら、こっちに寄れ」
そう言って、太陽は月を地球の近くに寄らせた。
「地球が人間思いなのは、知っているよな?その人間が地球を裏切って、どんどん地球を弱らせているんだ」
「なんで…人間が、地球を裏切るの…?」
「地球には豊富な資源がある。それを欲しがるから、どんどん掘り出す」
そう言う太陽は、地球のパジャマを捲りあげる。その下に露になった黒い痣と、増えた痛々しい傷跡があった。
「こういうことだ。毎日、環境破壊する度に地球は風邪を拗らせる。今は、人間を眠らせることで、体調が少し良くなった」
「………」
「俺たちは、地球を悲しませることはしない。だが、地球はもう…何もかも、疲れてしまった」
「……ち、きゅう…?」
月は地球の手を握って、呼びかける。しかし、返事は返ってこない。疲れて、長い眠りに就いてしまったから。
「…ああああああああああああっ!どうして、地球がこんな目に遭うんだよ!」
月は頭を掻き毟りながら、絶叫する。流れ落ちる涙は、月の悲しみを表す。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてなのっ!どうして、地球が裏切られなければならないんだよ!?」
「止めろ、月!折角、地球の治療を終えたばかりなんだ!ほら、包帯に血が滲んでしまっただろ」
太陽は地球から月を引き離して、地球の腕に巻かれた包帯を取り替える。その様子を、倒れた妻とそれを看病する夫のようだと、後日水星から聞いた太陽と地球は顔を赤らめていたのは、また別の話である。
「月、地球の容態はまだ悪いんだ。悪化させるなら、会わせないぞ」
「うう…」
「地球から許可得たから、人間たちに何かしてこい」
「…分かった。行ってくる」
そう言って、月は憎しみを宿した目をして、人間たちの元へ向かう。多分、殺すようなことはしないはず。地球が悲しむようなことは、月はしないから。地球一筋の月だから、手加減してくれるといいな。
「月、地球が悲しむようなことはするな。まだ、人間たちを信じている節がある」
「大丈夫」
「……太陽ー、月は我慢できないみたい」
「はあ…。仕方ない、自分の家に人間を連れて、何かしてろ」
それは、太陽からの黙認するような言葉だった。太陽にしては珍しい、折れ方だった。
自分の頭をくしゃくしゃと掻いて、太陽は地球の体を診察する。
「水星、台所にある鍋に水を張って、湯を沸かせ」
「う、うん。今、してくるよ」
水星は慌てて、台所に向かう。その間、太陽は地球の体を触診して、悪くなっていないか、確認する。
「太陽っ!お湯が沸いたよ」
「そうか、そこに置いてくれ」
「うん!」
水星は言われたように、お湯の入った桶を置く。
太陽はタオルを桶に浸して、よく絞ってから地球の体を拭く。熱で汗をかいたらしく、体が湿っていた。丁寧に拭いて、綺麗にする。
「…う、ううん…。た…い、よう…?」
「ん?地球、起きたのか」
「地球お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「水星、心配かけちゃったね。僕は大丈夫だよ」
そう言って、僕は気付いた。さっきまで、月がいた気配がする。寝ている間に、月が来たみたい。
「大会議しようか。皆に心配かけたから、会いに行きたいかな」
「分かった。あとで、皆に知らせるから、お前は安静にしてろ」
「うん…。分かっているよ」
「水星、俺と一緒に皆に知らせるぞ」
「うん!地球お兄ちゃん、まだねー」
二人が部屋から出て行き、僕一人だけが残された。手首に巻かれた包帯からは、太陽の匂いがする。ぶっきらぼうだけど、どこか優しくしてくれるから。いつか、太陽の横に居られたらいいな。そう、どこかの公園で一緒に寝たい。
僕は、彼らに裏切られてしまった。なのに、未だに信じている。ベッドに横になって、どうするか考える。
「もう、彼らを見限るか。それとも、僕の身を削り続けるか」
悩みが解決しない。
一体、僕はどうすればいいんだろうか。僕は彼らに甘いのかもしれない。
「太陽…。僕は甘いよね。もう、彼らに何もしてあげられない。滅びるしかないよ…」
それは、僕が初めて彼らに決別する瞬間だったかもしれない。
***
「地球、大会議場に向かうぞ」
「うん、それは分かっているんだけど…。足が動かせないんだ」
僕は苦笑いして、裾を上げ、見せた。突如、露になった足には、黒い痣が浮かび上がっていた。
「……っ!また、人間たちの仕業か!」
「大会議で、彼らのことを議題にしたいんだ。だけど、動けないから無理なんだ」
「そんなもん、大丈夫だ。俺が地球を抱えていく」
「じゃあ、お願いしていいかな?」
「ああ、任せろ。俺は力があるんだぜ?」
「ははは、なら安心だね」
僕は太陽に抱えられて、太陽系69番地にある大会議場に向かう。太陽、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星が話す会議を聞くために、大勢の星たちが押し掛けてくる。だから、大会議場は大きく造られている。
「では、第一万八千三十二回目の会議を始めるぜ」
太陽の言葉で、会議は始まった。ちなみに、僕は体調不良で、数百回くらい欠席している。
「最初の議題は、地球に任せるからな」
「はいはい、分かっているよ。議題は、僕を破壊し続けている彼ら——人間についてです」
「はい、調査によると地球お兄ちゃんの自然は、ほとんど失われつつあります」
水星は立ち上がって、皆に資料を配る。僕も貰って、読んでみた。確かに、自然は失われつつあるのは本当である。
「私からもあります。地球さんの資源は、ほとんど掘り尽くされています。そして、新しい資源を生み出すために、たくさんの物を合成しています。今、海は工業廃水が垂れ流しにされていました」
木星も立ち上がって、今まで調べてきた結果を発表する。その内容に、僕は驚いてしまった。体に浮かんでいた黒い痣は、もしかして工業廃水によるモノだったかもしれない。
「おい、さっきから気になっていたんだが、どうして地球は太陽に抱えられているんだ?」
「地球、言ってもいいか?」
「うん、お願いするよ」
「今から言うことは、人間たちがしてきたことで、地球の体に異変が出た。そう、地球は今、歩くことが出来ない」
「「「「……っ!」」」」
皆は驚いてしまった。証拠と言わんばかりに、太陽は僕のズボンの裾を捲り上げた。露になる足には、黒い痣が浮かんでいた。それも、どす黒くなっていた。
「あ、朝よりも濃くなっているよ…?」
「……地球兄の海が、清浄不可能までに汚れている」
土星はそう言って、映像を映し出す。そこには、汚れた海があった。彼らの技術では、清浄することが不可能だった。
「……僕は汚れているみたいだね」
悲しげに呟く僕の言葉は、大会議場に木霊する。一筋の涙が流れる。僕は手で拭く。でも、止まらない。
「あれ…?涙が止まらないよ…っ!」
「止めろ。地球、我慢しなくていいと言っただろ」
「……太陽、僕はどうすればいいの…?」
「あとは、俺たちに任せろと言っただろーが」
その言葉に、僕は太陽の胸で泣いていた。今まで、張っていた我慢がついに、破られた。長きに渡る我慢と虚勢が、ここで太陽の言葉によって、破れていった。
「う、うう…うわああああああん!僕はまだ、死にたくないよ!皆と一緒にいたいよ!助けてよ!」
僕の隠していた本音が、大会議場で炸裂する。太陽に抱きついたまま、言っちゃった。
「皆、聞いたな?滅多に本音を言わない地球の助けを」
太陽の言葉に、皆の士気は上がる。地球を長い間苦しめてきた人間に、今、太陽たちは復讐に立ち上がる。
「地球、ほんとにいいんだな?」
「もう、彼らをどうにかして…。僕が滅びる前に…。このままでは、僕は皆と一緒には、いられないんだよ…」
「それはほんとかっ!?お前は消えてしまうんだな!」
「……うん。その証拠に、黒い痣が拡がっているよね?全身に拡がったら、僕の最期になるんだ」
僕は服を捲る。そこに現れたのは、黒い痣に侵蝕された体。正直、感覚が失われつつある。
「……ほとんど、感覚がないんだ。いつか、僕は自力で歩くことが…出来なくなるんだよ」
「なっ!?なぜ、それを言わなかったんだ!」
「太陽に迷惑になるようなことを、したくなかったんだよ…」
僕は、赤く充血した目で太陽を見た。幼馴染みとして、一緒に過ごしてきた日々を、思い出を大切にしたかった。こんなにも、僕を好きになってくれた皆と、笑っていたかった。
「ありがとう」
心から笑うことが出来たと思うんだ。
「……っ!馬鹿野郎!!どうして、俺たちを頼ってくれねぇーんだよ!そんなに、頼りねぇーのか!?ああ!?」
「………」
「俺はお前の我が儘を聞きてぇーんだぞ!言ってくれれば、なんでもしてやるってんだ!」
「……お願い!彼らを別の世界の地球に…置いてきてっ!」
僕は徐々に、工業廃水に汚染されてきた。拡がる黒い痣は、僕の寿命を刻一刻と削っていく。荒くなってくる息が、その証拠。胸を掴んで、黒い痣に抗う。
「皆っ!!早く、行動に移れ。地球の承諾は得た、刻一刻と時間は迫ってきている!」
太陽の言葉に、皆は一斉に大会議場を出る。苦悶する僕の顔を見たのだろう。ぼやけてくる視界に、うっすらと見える太陽の悔しがる顔が見えた。
「ねえ、太陽。僕さ…太陽が好きなんだ。いつも、目が太陽を追っていたのは、知っていたかな?」
「なんでだ!まるで、死に際の言葉みたいだろーが!」
「うん、みたいだね。でも、太陽に会えてよかった」
僕は笑って、太陽の頬を撫でる。鍛えられた太陽の筋肉は、固いけど温かい。
「太陽の筋肉は固いね。でも、温かい…」
「地球、まさか…。目が見えていないのか!?」
太陽は僕の目の焦点が合っていないことに、気付いてしまった。やっぱり、僕には隠し事は出来ないみたい。こんなにも、早く見破られるとは。
「うん…見えていないよ。どうやら、彼らは環境破壊だけではなく、資源まで無くしたみたい。海は汚れて、魚や生き物は絶滅した。今、生きているのは彼ら——人間だけ」
僕は“判る”ことだけを、太陽に伝える。皆の助けで、僕は生きながらえている。
「お前は、大丈夫なのか?自分が壊されかけているのに」
「今は大丈夫だよ。皆が彼らを移してくれているから」
そう言って、僕は太陽の口にキスをする。好きだからこそ、僕は太陽のモノになりたい。
「なっ!?お前、いきなりだぞ!」
「僕は太陽と一緒になれるなら、なんでもするよ。モノにもなれるから。人形にしてもいいから」
「……お前、どうして…そこまで、卑屈になれるんだよ…」
「………」
「そんなこと言わなくても、俺はお前の“一緒にいたい”と言ってくれれば、いや…違う。“側に居させて”と言えば、叶えるに決まっているだろ!」
「なら、改めて…太陽の側に居させてください」
「ああ、いつまでも一緒だ。——地球、愛してる」
太陽の率直な言葉に、僕の顔は赤くなった。そう、僕は本心からの言葉に弱いんだ。隠し事のない、純真で真っ直ぐな愛は、体験したことないから。
「え、ええと…こちらこそ、愛しています」
そう言った途端、太陽から深いキスをされた。僕たち、星には性別という概念はないから、恋人や夫婦という関係になれる。
「地球、お前には俺のモノだという印を付けたからな」
「えっ!?いつの間に、していたの!?」
僕は驚いてしまった。印を付けられていたのだから。
そしたら、誰かの声が聞こえた。
「太陽、無事に終わりました。これで、地球さんは、滅びることはないです。あと、本当に夫婦になりましたね…地球お母さん、太陽お父さん」
「はう…。そうだったよ、僕って皆にお母さんと呼ばれていたんだ」
「はは、俺はお父さんか。地球、お前はお母さんらしいぞ。土星や水星という子供を持ち、月という生まれたての赤ん坊をあやすんだからな」
「成長した子供たちが、土星や水星、月を育てるんだね」
「……お母さん」
そう言って、抱きつくのは土星だった。というより、適応するの早い!?
「はあ…。なんですか?土星」
「……抱っこして」
「それでいいの?僕は、お母さんみたいなことは、何すればいいのか分からないよ?」
「……いい。抱っこだけでいい」
「………もう少し、我が儘を言っていいんだよ。皆は、僕の子供になるんだから」
そう言って、僕は土星を抱っこする。水星と同じ身長だからか、軽く思えてしまう。でも、思わず土星の頭を撫でる。自分の子供だと思うと、微笑ましくなる。すると、なぜか木星も抱きついてきた。
「地球お母さん、太陽お父さんの手綱をしっかり握ってください」
「おい!?木星、俺は猛獣か何かか!」
「いえいえ、怒鳴り散らかすから、土星が泣いてしまうんですよ」
「……お母さん」
「あらあら、怖くないよ。太陽は、怒っていないから…大丈夫だから」
僕は泣き出す土星をあやしながら、太陽に近付いていく。そして、太陽のうなじを優しく触る。
「おおぅ…」
「駄目だよ。土星は幼いんだから、怒鳴るなら隣の部屋でお話してきなさい」
「おお!太陽お父さんは、うなじが弱いんですか」
「……ぐすん」
「もう、怖くないから。お父さんは、お母さんが懲らしめたんだよ」
なんだか、僕はお母さんみたいな。まあ、皆に言われていたみたいだからね。もう、言い返せないよ。
「木星、太陽と隣の部屋でお話してきて」
「……はい」
僕はうむも言わさず、右手に持っていたリンゴを握り潰した。昔から、なせかリンゴだけは握り潰せるんだよね。まあ、なにかと突っかかってくる金星を懲らしめるために、見せたのが悪かったのかな。それと、どこからリンゴを出したのかというツッコミはいらないよ?
「太陽も行ってきてね?」
そう言って、僕は土星を抱えたまま大会議場を出る。向かう先は、彼らに蹂躙された僕の星——地球。治せるか、治せないか。実際に見てみないと、分からない。星全体が、汚染されていて、何百年もかけて治さないといけないことが分かる。
「……元気だして」
「………」
僕は自分の星が汚されて、心に傷ついた。彼らに蹂躙され、星を壊された。治るまでに、かなりの年月が経たないといけない。どうして、僕はこんな目に遭うんだろう。住みやすい環境を整え、たくさん資源を与えた。それなのに、最後に裏切られてしまった。だから、太陽たちに頼んで、別の世界の滅んだ地球に移してもらった。あの地球には、何の資源も無い。跡形無く、掘り尽くされているから。海も汚染されていて、暮らすには過酷な環境になっている。しかも、文明も遅れているから、いずれ彼らは滅びる。もう、僕は関与したくない。
「……大丈夫だよ、土星…」
「(無理しないで。心が壊れかけているよ)」
そう、土星に言われている気がした。でも、手遅れなのかもしれない。僕の心は、少しずつ壊れているような気がするから。心からの笑顔が出てこない。
「……帰ろうか。しばらく、“僕”は治らないみたいだから」
「……我慢しないでっ!」
「……っ!?もう、星が体がボロボロなんだよ…。気付いていたのかな?僕が無理しているのを」
「……それくらい、分かるよ。お母さんは、いつも目の焦点が合っていなかった」
土星に気付かれてしまった。いつも、無表情でいるから、何を考えているか分からない。
そう思っていたら、目の前が霞んで、頭が痛くなる。そして、胸が苦しくなり、息が出来なくなった。ついに、立てなくなり倒れる。
「お母さん!ねえねえ、苦しいの?」
「……土星、太陽…を呼ん、できて…」
「う、うん!呼んでくるから」
そう言って、土星は大会議場に向かう。
***
「太陽ぉー!お母さんがぁ…!」
「なに!地球が倒れただと!?」
土星は太陽に抱きつき、地球が倒れたことを報せた。それを聞いた太陽は、土星を木星に任せて、地球の元に急ぐ。
太陽は、地球の姿を探す。倒れたのなら、どこかにいるはず。気配を察して、地球のいる場所に向かう。そこは、汚染された海の近くだった。
「地球っ!」
「…たいよ、う…。僕が、倒れ…たば、しょが分かる…んだね…」
「おい!喋るんじゃねえ!今すぐ、地球の家に運ぶぞ」
そう言うと、太陽は僕を抱えて、太陽系三番地にある僕の家に急ぐ。何億光年を越えて、速く駆けて行く。
そして、ベッドに寝かせる。触診する太陽の顔が曇った。それほどに、僕の体は酷くなっていたのだろう。
「地球!どうして、無理するんだ。まだ、治っていないのに動き回るのは無茶だぞ」
「僕の星が…治せるのか、調べたかったんだよ」
「そりゃあ、お前が実際に見てみないと治るか分からないかもしれない。だが、今回のは命に関わるほど、重くはない」
太陽の顔は、心配したと言っていた。まあ、僕は心配かけてしまったと思う。
「土星は泣いていませんよね?あとで、謝らないといけないから」
「まあ、俺はお前が無事なら何も言わないからな」
「ええ、今度からは太陽に付き添ってもらうよ」
僕は太陽の愛する人だから。いつか、家族というモノを経験してみたい。いや、もう経験している最中かな。夫婦という関係になっているけど、木星や水星、土星しか子供を見ていない。
「地球、愛してる」
「はい、僕も愛していますよ」
愛の確かめ合いも、しておかないと。太陽は皆の前でストレートに言うから、恥ずかしくなっちゃった。
「今、お粥用意してくる。大人しく寝てろ」
「大丈夫だよ。動けないから」
僕は太陽に、そう言って笑う。心が壊れかけているのを、悟られないように隠す。そうかと言って、太陽は台所に向かっていった。
速く星を治したいけど、僕の体調が優れないうちは、どうにも出来ない。あとは、皆に頼んで頑張ってもらおうか。時間を巻き戻せたら、どんなに良かったのだろうか。
「地球、お前の星は皆が頑張って、治しているぞ」
「えっ?どうして、皆が治してくれているのかな」
いつの間にか、帰ってきた太陽に教えられた。
「前に言っただろ。地球の星は銀河系で一番美しいんだ」
「…そうか。美しいんだ」
僕は自分が銀河系で一番美しくあり続けていたんだ。今は、もう美しいとは言えない。彼らに壊された僕。そして、治らないと思っていたのに、皆が我が子が治そうと頑張ってくれている。ここで、僕が出来ることは体調を良くすること。今は動くこともままならないけど、いつか太陽と歩けたらいいな。皆と自然の中を笑い合えたら、きっと素敵な思い出になるよね。夢だけど、いつか叶えたい。僕が死ぬ確率が、かなり下がったと思う。
「太陽、いつか皆と旅行出来たらいいね…」
「ああ、いつか叶うだろ。地球のお願いなら、あいつらは従うぜ?」
「……うん、そうかな」
僕は太陽の言葉に少し、寂しさが混じった。治るまで、何年かかるか分からない。だけど、治りたい。いつも、体調を崩しては皆に迷惑と心配をさせてしまった。もう、何もかも皆のお荷物になりたくない。
「太陽、少し眠るね」
「ああ、休め」
深い眠りに入る僕は、太陽が悲しそうな顔をしていたことに気付かなかった。
「地球…負い目になっていたんだな」
ぽつりと呟いた太陽は、地球の口にキスして部屋を出ていった。どうして、地球が無茶をするのか、それは太陽しか知らない。
だけど、地球が体調を崩してまで無理をするのには理由がある。それは、地球が太陽にお願いして連れていってもらった花見。桜が見たいから。その時に、地球が立ち眩みで倒れそうになる。そこを、太陽に支えてもらって、立とうとしたら足下にあった缶を踏み、足を滑らした。そして、太陽を押し倒してしまった時に気付いた。地面に突き出ていた杭が、太陽に刺さってしまう。結果、太陽の背中に怪我をさせてしまった。
それから、地球は太陽に負い目を感じて、無茶と無理をするようになった。もちろん、太陽は気にするなと言っているが、地球は気にしていた。
「……ごめんなさい、太陽。僕はやっぱり、弱いです」
地球の寝言は、あの出来事に関係していた。いつまでも、夢の中で懺悔をしている。終わらない後悔が、地球を卑屈にさせていく。
地球の性格をよく知る太陽は、どうすれば地球が謝らないようになるか、悩んでいた。
卑屈気味な地球の性格に、太陽は嫌気が差していた。
「仕方ないな…」
太陽は地球の部屋に入って、地球の側でずっと見守り続ける。茶色の髪が、地球だと教える。いつも、撫でているこの感触が、まだ手に残っている。
***
俺は太陽。そして、地球の夫である。どんなに、俺が無茶をしても地球は優しい笑顔で受け入れてくれた。正しく、全てのお母さんと言ってもいいだろう。だが、怒らせてはいけない。地球の怒りは、どこにいても轟く。そして、何が起こるか予測出来ない。一番、苦しかったのは、地球の毒舌だった。あれは、心に突き刺さってくる。それも、秘密にしていた事を、笑いながらズバズバと吐き捨てる。あれは正しく、外道だった。何度、心が折れたことか。だが、土星と水星の場合は…優しく諭す。扱いの差が、激しい。
「…たく、地球は卑屈になり過ぎるだろーが。俺はあの時の事なんか、気にしてないって言ってるだろ」
「…うん。僕は気にしちゃうんだ」
「あれは、俺がお前を受け止めきれなかったんだぞ!お前が気にすんな」
「でも!」
「しつこいぞ!なら、毎日俺に奉仕しろ」
「…ほう、し?何をすればいいの!」
「俺と一緒に寝ろ。そして、毎日料理を作れ。それに、ずっと側に居ろ」
「……太陽、僕を抱いて!」
「…!?珍しいな、お前から言い出すとは」
「ぼ、僕は…太陽の、つ、妻だから。夫である太陽に、付き従うのは役目だから…」
「ああ、抱いてやる。だから、笑え」
「うん!ありがとう」
俺は地球を抱きしめ、その口にキスをする。深く、そして舌を絡める。
地球も、俺の背中に手を回して、深くキスしてくる。地球らしい、不慣れな行動に俺はニヤニヤと笑う。
「もう!笑わないでよ!」
「いや、すまん。あまりにも、地球が可愛かったんだ」
「かっ…!可愛いなんて、は、恥ずかしい…よ」
地球は顔を赤らめて、俺の胸を叩いてきた。まあ、痛くないからいいけど。
「太陽は慣れているんだね。不倫した?」
「ちょっ!不倫なんか、してないから!」
「本当?いつも、女性物の香水の匂いがするのは…気にせい?」
地球の目から、光が消えていく。そう、地球は嫉妬が激しい。俺から別の匂いがしただけで、すぐに襲いかかってくる。もう、ヤンデレに近い。
「しょうがない!地球!」
俺は急いで、地球の手首を掴んで、そのまま口に深いキスをする。
「……っ!?」
「ぷはー!地球、落ち着いたか?」
「ごめん…。嫉妬しちゃった」
「分かってる。あの香水は、金星が使っている物だ」
「……金星、か。……あとで、調教しないといけないね」
ボソッと呟く地球の言葉に、俺は震撼した。地球の口から、調教が出てきたこと。前なんか、折檻を呟いていた時は、どこかで聞いたんだなと思っていたが、さすがに恐怖だ。
「お、おい!どこで聞いたんだ!?」
「え?海王星からだよ?」
「あいつか!地球に余計なこと、教えやがったのは!」
俺は急いで、海王星の元に向かう。地球は純粋だから、教えられたことが正しいと思っている。
「海王星ぃぃぃぃぃっ!地球に余計なこと、教えやがって!覚悟は出来てんだよなぁ?」
「え…?何のことだよ?」
「地球に調教や折檻を教えたことだっ!地球は純粋だから、疑うことを知らねえーんだぞ!?」
そう言って、俺は海王星の腹を殴る。思いっきり強く、気絶させないように手加減しながら。収まらない怒りが、さらに過激にしていく。
「ふん。覚えていろ」
そう言って、地球の元に歩いていく。
「どうして、こうなるんだよ…。ただの冗談なのに…」
一人、お腹を抱えて踞る海王星は、そう言って気絶した。後日、それを見つけた地球が、太陽を小4時間も説教している姿が、大勢に目撃された。
***
「…んん。あれ?どうして、僕は泣いていたんだろう?」
僕は頬に流れていた涙に、気付いた。何か、泣くようなことでも、見ていたのかな?
「地球、起きたのか!」
「え、あ…うん。どうして、そんなに焦っているの?」
「…お前、俺に負い目があるんだろう」
「……っ!?止めて!あれは、僕が悪いの…。太陽の背中に、傷跡を残したんだから…」
僕は頭を振り回して、何も考えないようにする。太陽から、それを言ってくるとは。それほどに、あの時の出来事がトラウマになっていた。
「落ち着け、地球!あれは、お前が悪いんじゃねー!」
「もう、嫌ぁぁぁぁぁっ!」
半狂乱になって、何も受け付けない。
「地球!俺はお前の全てを、受け入れてやる!お前は、皆のお母さんなんだぞ!」
「………」
太陽は、ベッドに入ってきて、添い寝するように僕と寝る。
「不安になるなら、俺と一緒に寝ろ」
「……うん」
それは、まだ日が上がっている真昼間の事。太陽の温かい心に触れたら、僕はいつもより安らかに眠れた。こんなにも、愛する人が近くにいると安心出来る気がした。