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第4章アルトの過去前半2

薄暗く、コケがたくさん生えた石段のなかをウィルは歩いていた。


そう、またあの夢だ。


こう何回も見ると、怖い気持ちなんて薄れてゆく。


ウィルは何度も見た夢のとおりに道を進んでいた。




そのとき、激しく体が揺れた。


ウィルは驚いて目が覚め、ベットの横においてある杖をすかさず手に取った。


まだ地面が揺れている。


「地震?」


しだいに揺れはおさまり、部屋の小物がコトコトと左右に揺れバランスをとっていた。


「地震なんて珍しいわね」


椅子にかけてあったガウンをはおり、ウィルはベットからおりた。


箒は地震にもきづかず、ぐっすりと眠っている。


「のんきなものね」


呆れながら、箒にむかって言った。

すると、廊下の方で誰かが明りを灯しているのか、ドアの方からかすかに光りがもれていた。


こんな時間にいったい誰かしら。


持っていた杖をベットの横に戻し、肩に垂れ下がったガウンを上に持ち上げながら、ウィルはドアの方へと近付いた。


「いたか?」


「いえ。どこを探してもみあたりません」


「いったいどこにいかれたというのだ。王様に知られたら大変な事になるぞ。朝になるまえに、なんとか探しださねば」


兵士の声だ。それも、数十人の気配。


どうやら、とても焦っているようだった。


ドアを開けると、困り果てた兵士達が驚いてこちらを振り向いた。


ウィルは、なんとなく後ずさってしまった。


「どうかしたの?」

とウィル。


「いえ。何事もございませんよ……何事」


一人の兵士が首を横に振って言った。


どうみても怪しい。


ウィルは一人一人の兵士に、疑いの目を向ける。


そして、一人だけ嘘のつけない兵士が口をひらいた。

「さっきから、アダン様の姿がみあたらないのです」

後の兵士達が、ギロッと口をひらいた兵士を睨み付けた。


「パパの寝室で一緒に寝てるんじゃないの?」


「それがですね」

兵士達の声がそろった。


「私がみまわりをしていたときに、アダン様が一人でどこかに歩いて行くのが見えたんです。お声をかけても無反応で。後をつけようとおもって、角をまがるといなくなってしまったんです」


さきほど素直に言ってきた兵士が、そう答えた。


「もう部屋に戻ってるんじゃない?そこまで心配する事じゃないわよ」

もっと、大事件かとおもったウィルは、拍子抜けだった。


「しかし、アダン様もまだこの城にこられてまもないですし。もしかしたら、城のなかで迷子になってるかもしれません」


数十人の兵士達が、心配そうに顔を見合わせ頷きあう。


よっぽど兵士達にも、気に入られているのね。


「しかたないわね。私も手伝うわ」

とウィル。


いっせいに兵士達が首を横にふった。


まるで、人形のように何回も。


「いけませ。姫様にそのような事をしてもわうわけには」


面白いほどに、兵士達の声がそろっている。


「私が探したほうがはやいわよ。ようするに、アダンの魔力を感じとればいいのよ」


「そのようなことができるのですか?」


兵士達が驚いて声をあげる。


得意げにウィルは頷いた。


「おぉー」

と兵士達。


何個か持っているローソクを兵士から貰い、ウィルは魔力に集中した。


さぁーアダン。いったい、どこにいっちゃったの。




かすかに、アダンの魔力がかんじてきた。


たぶん、ここから大分離れた場所にいるに違いない。

「あっちからよ。行きましょう」


兵士達を後ろに連れ、ウィルはアダンの魔力がする方へと歩き出した。

階段を上ったりおりたり。蜘蛛の巣がはって、あまり使われていない階段を通ったり。


よくアダンは通れたものね。


髪の毛についた蜘蛛の巣をとりながら、ウィルはおもった。


迷路のようなみちのりを歩いていくと、いつのまにか見覚えのない階段へとたどりついた。


壁には、アルトの小さい頃の絵や、親と一緒にいる絵など、さまざまな絵が飾られている。


「貴方達、ここにはいったことはある?」


ウィルは、後ろにいる兵士達に聞いた。


だが、誰も来たことがないのか、兵士達全員、首を横に振った。


階段にはほこりがたまり、そこには足跡が上へとつづいていた。


髪の毛を引きずった後もある。


きっとアダンね。

ウィルと兵士達は長い階段を懸命にのぼった。


ようやく上につくと、目の前にドアが一つ立っていた。


ドアの中から、アダンの魔力の気配がする。


ドアに近付き、ウィルがドアノブに振れた瞬間、とてつもなく強い魔力を感じた。


アダンの他に誰かいる……。


ウィルはドアノブから手を離し、後ろにいる兵士から杖を取り上げ壁にへばりついた。


「ど、どうしたんですか?」


杖をとられた兵士が、あっけにとられている。


「静かに。アダンの他に誰かいるわ。それも強い魔力よ。この魔力は……」


ウィルの頭に、幼い頃の記憶が蘇ってきた。


そう、この魔力はママを殺したドラゴンの気配。


もしかしたら、アダンは……。


杖を握る手に力がはいる。


深呼吸をし、ウィルは決意を決めたのか、ドアをおもいっきり蹴飛ばした。


バンッとドアが開き、ほこりっぽい空気が漂ってきた。


ウィルは部屋にはいり杖を構え、辺りを見渡す。


続けて兵士達が杖をもち、部屋のなかにはいる。


だが、そこにはドラゴンの姿などなかった。


あるといえば、床でぐっすりと寝ているアダンの姿だけ。


でも、ドラゴンの気配は消えてはいない。


部屋中、強い魔力でビリビリしている。


兵士達が、寝転がっているアダンの体を揺さぶって起こしていた。


「何事なの?」


目を覚ましたアダンが、寝ぼけながら起き上がった。

一安心した兵士達は、ぐったりと床に座り込んでしまった。


すると、さっきまで感じていたドラゴンの気配が、フッと消えてしまった。


ウィルは杖の力を緩めた。


どうして?さっきまで、あの気配でいっぱいだったのに。


「ウィル、どうして貴方もこんな所にいるの?」


不思議そうにアダンが聞いてきた。

「こっちが聞きたいわよ。アダンこそ、どうしてこんな所で寝ていたの?」


ほこりまみれになったアダンのパジャマを、ウィルははらってあげた。

「トイレに行こうとしたの。でも道に迷っちゃって。で、この部屋にたどりついて……眠くなって。そんな感じ」


床についたブロンドの髪をかきながら、アダンが笑って答えた。


ウィルと兵士達は、溜め息をついた。


「とりあえず寝室に戻りましょう。ちゃんとベットで寝ないと風邪をひきますよ」


兵士は自分のマントをとり、アダンにかけてあげた。

兵士達とアダンは、部屋を出て行こうとしたが、ウィルだけは何かがひっかかってまらなかった。


「ウィル様」


こちらにこないウィルに、兵士が呼び掛ける。


「今行く」


床に落ちているアダンの杖を拾うと、ウィルも部屋から出て行った。






アダンを寝室へとおくり、ウィルは落ちていた杖をかえすと、自分も部屋ともどることに。


「気のせいだったのかしら」


ベットのなかにはいりなが、ウィルは独り言を呟いた。


すると、隣りにおいていた杖が、なにやら青く輝いている。


その光景を見て、ウィルは毛布をかけようかという構えにはいりながら固まってしまった。

前からは、杖はこんなに輝いていたっけ?


いいえ。杖がこんなに輝いた事はないわ。えっ……何が起こったっていうの。


頭のなかは、パニック状態だった。

ウィルはベットの横で眠っている箒に手をのばし、つついた。


「くすぐったいなぁ〜。やめてよぉー」


夢のなかの箒は、聞いたこともないような甘え口調になっていた。


それでもウィルは、箒をつつく。


ついには、バランスを崩し箒は床にたたき付けられてしまった。


「いったぁー。いや、本当にいたい」


箒が体を揺すりながら、やっとのことで起きてくれた。


ウィルに激怒しようと、箒がベットにあがろうとしたが、それよりも先に輝いている杖に目がいったらしい。


箒はじっと立ったまま、無言だ。


「どうおもう?」

ウィルが先に口をひらいた。


「杖も俺みたいに生きているからな。なんか、ご不満があって輝いてるんじゃないのか?」


「不満って?」


「さぁー」


と箒は体をくねらせる。


青い輝きを放った杖が、一人でにフワッと浮くと、二人の目の前を通過した。


杖はドアの前で止まり、じっとこちらを見ているようなきがした。


ふと、おもいついたかのよいに箒がしゃべった。


「俺とでも話せるんだから、杖とも話せるんじゃないのか?」


「無理なこと言わないでよ。ここ何十年、この杖と共にいるけど、言葉をはっしたことなんて一度もないんだから」


「もしかしたら、無口かもしれないぜ」


「貴方がおしゃべりすぎなの」


そうこうしているうちに、杖はみずからドアを押し開け廊下へと出て行ってしまった。


「追わないのか?」


冷静に箒が聞く。

「追うに決まってるでしょ」


ウィルは箒の先をつかみ、杖の後を追った。


呪文を唱えていないのに、杖からは魔力はっしている。


器用に階段をのぼり、ついてきている二人の歩調を合わせるように、一回止まっては歩きを繰り返していた。


身軽な杖は、階段の最上階にのぼるなり、クルッと向きを変え、疲れているウィルを見下ろしながら、トントンとステップをふんでいた。


「余裕じゃないの。杖さん」


言葉が通じているのかわからないが、ウィルはなんとなく杖が余裕をかましているかのように見えたので、ついつい話しかけてしまった。


無論、杖が言葉をかえしてくれるはずもない。


やっとのことで上についた。


ウィルはフーと一息ついた。


そうついた場所とは、さきほど兵士達と一緒にきた場所だった。


杖はウィルの回りを一周し、

「おいで」

と言うかのように、ドアのなかへとはいっていった。


「におうな」


渋い声で箒が言った。


「行くわよ」


ウィルはドアの前で突っ立っている箒を後ろから押しながら、部屋のなかにはいった。


あいかわらず、部屋のなかはほこりまみれで、光りは青く光っている杖の灯りだけだった。


杖の光りが、ますます強くなる。


ついには、真っ暗だった部屋のなかを、すべて照らし出すまで光り輝き出した。


あまりの眩しさに、ウィルは目がくらんだ。


青い光が、しだいに白い色へと姿をかえてゆく。


ウィルは、ゆっくりと目を開けた。

ただ何もない部屋だとおもっていたが、天井や壁には、たくさんの絵が飾られていた。


まるで、倉庫のようだ。


箒も、辺りを見渡し、天井を眺めている。


どれもこれもすべつ、アルトの絵だった。


とても幸せそうな顔をしている。


すると、杖の後ろにある壁に目がいった。


あちこちに飾られてある絵よりも、遥かに大きな絵が飾られていたのだ。


ウィルは、壁のほうへと歩み寄って行く。


銀のがくぶちで飾られた絵は、どうも家族全員の絵が書かれているようだ。


「えっ!」


おもわず、ウィルは声をあげた。


ウロウロしていた箒が、ウィルの声を聞きすっとんできた。


そう、家族の絵には、まったく同じ顔がふたつあったのだ。


「アルト女王様が二人……」

と箒。

呆然と二人は絵に見入っていた。


「そろそろ、本題にはいりましょうか」


部屋中に、男の声が響き渡った。


驚いた箒がウィルの後ろに隠れる。

ウィルも、絵から目を離し声の主を探した。


「驚くことはないでしょう。さきほど箒さんも言ってたじゃないですか。杖も生きているんですよ」


そう、声の主はあきらかに杖だった。


ウィルは喉につっかかった唾を飲み込んだ。


「だ、だって。さっきまで何も、しゃべらなかったじゃない」


「これは失礼」


硬いはずの杖がクニャッと前に折れ、お辞儀のポーズをした。


さすがの箒も、ここまではできないだろう。


「私は三百年前から、ここラスト国に使えているルーでございます。と言っても、誰も私を名前で呼ぶことはないのですがね」


ガッカリといわんばかりに、杖は溜め息をついた。


「三百年前、私も普通に皆様とおしゃべりをしていました。しかし、口が軽いために、女王様から強くお叱りをうけ、呪いの魔法をあびせられたのです」


「じゃぁー、なぜ今は言葉が話せるの?」


「簡単なことですよ」


クルッ杖がまわった。


きっと、背を向けたにちがいない。

「女王様は、この日がくることを知っていました。そう三百年前から、ずっと。だから、私が話せるようになったのは、そのときが来たということです」


話がまったく読み込めないウィルと箒は、頭のなかが混乱していた。


「もったいつけるなって」


しびれをきらした箒が杖につっこむ。


杖がくすくすと笑った。


「これは失礼。三百年も前から生きていると、色々あるんですよ。たとえば、私の特技は記憶のなかへと送り込む事。過去へとね」


ドアがきちんと閉まっているはずなのに、どこからか暖かい風が足下をすりぬけていく。

「私は話好きですが、説明をするのは苦手なのですよ。だから、これから貴方達に女王様へ申し付けられていた過去へとご案内させていただきます」


「ちょっ、ちょっとまってよ」


暖かい風が強くなっていく。


足下に集まった風が杖の方へと集中的に流れ、大きな円を円を描き始めた。


杖がなにやら呪文を唱えている。


次の瞬間、風が渦巻きとかし、部屋全体へと風が飛び散っていった。


あまりの強い風にウィルは立っていられなくなり、床にしがみついた。

箒はというと、足も手もないため、そのまま爆風に巻き込まれ飛んでいってしまった。


しだいに風はやみ、ウィルは床にへばりついたまま顔をあげた。


さっきまでなかった真っ暗なマンホールの上を、杖が浮いている。


「さぁー行きましょう。アルト女王様の過去へと」


ウィルと、壁にぶつかって倒れている箒の返事すら聞かずに、杖がまた呪文を唱えはじめた。


マンホールの中から、ゴォーと地鳴りのような音が聞こえてくる。


次はいったいなんなのよ。


すると、少しづつウィルの体がマンホールへと引っ張られていく。


だが、こんなにも優しく扱われるのは今だけだった。

尻が浮かびあがり、ウィルは石ころのように転がりながらマンホールへと引き寄せられていった。


目が回って気持ち悪い。


「キャァー」


女の叫び声をあげながら、箒が先にマンホールのなかへと飲み込まれていった。


「吐きそう」


あまりの気持ち悪さに、ウィルはフッと意識が遠のいてしまった。

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