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第一章前半

昔々あるところに、空に浮かぶ島が二つあった。一つの島は、魔法使いが住むラスト国。もう一つの島は、ドラゴンが住むスカイスネイクと言う国だった。とても仲のよいこの二つの国は、いつも力を合わせて生活をしていた。霧がかかる朝、空を飛び交うドラゴンと一緒に、魔法使いの子供達は小さい箒にまたがって、鬼ごっこをしていた。

地上にいる母親は微笑みながら、空にいる子供達に手を振っている。

茶色や白家が、城を守るかのようにしつたくさん建てられていた。

透明な城は中にいる人達をも見え、とんがっている一番上の塔には真っ白な砂がはいった大きな砂時計が魔法で動いている。そこに、子供の少女が窓を開けて、今日も平和な村の人達を見下ろしていた。

「いつも、わしらのミニドラゴンが世話になっているの」

頭上からしゃがれた声が聞こえた。少女は、クスッと笑い上を見上げた。

年老いたドラゴンが、大きな翼をはためかせ浮いていた。

薄黒い鱗が太陽にキラキラと反射している。

少女は窓から身を乗り出し、大きく息をすった。

とても冷たく、自然の匂いを運んでくる風が少女は好きだった。

「あんなにも小さなドラゴンが、大人になればベギスみたいに大きくなるのよね。今が一番楽しいときだわ」

「ハッハッハッ。アルト、お前はまだ子供のくせに大人みたいなことを言うのじゃな」

少し寂しげなかんじで、ベギスと呼ばれた年寄りドラゴンは、爪があたらないように大きな手で、アルトという少女の頭をなでた。

「アルト、お前はまだ子供じゃ。いつもいつも城に閉じこもって何が楽しい?子供は子供らしくしっかり遊ばんか。それが子供の仕事なんじゃぞ。あいつらを見てみろ」

空の上で遊んでいるミニドラゴンと子供達を見ながらベギスが言った。だが、アルトはその光景を見ようとはしなかった。

「私はこの国の姫なの。皆を守らなきゃいけないの。魔法だって、もっともっと覚えなきゃいけないし。母様も父様も、私に期待してくださっている…それに」

ギュッとアルトは両手を握り締めうつむいた。

「魔法の力が衰えると、この島二つとも空に浮けなくなって落ちてしまうって母様が言ってた。今は母様の力でこの二つの島はたもってるけど、もし母様がいなくなって、島二つを支えるのは私。もし私が失敗したら…村の皆や……貴方達も死んでしまう。だから今遊んでいる暇はないの」

涙目になっている瞳を、アルトはローブの袖でふきとった。

ベギスは、長い爪で自分の頭をかくと、グルッと体をひねらせ、アルトの目の前で頭を下げた。

「お前の力で、島がたもてなくとも、わしらがいる。なんのためにわしらがいるのじゃ?わしらの血かて、魔法使いに負けないぐらい威力はあるのじゃ」

優しいベギスの言葉に、アルトは気持ちが少し楽になったのか、拭いても拭いても涙が流れてきた。

「アルト。少しだけこの年老いたドラゴンについてきてはくれぬか?」

涙でいっぱいいっぱいになっている目を大きくしてアルトは顔をあげた。

「で、でも。もう少ししたら、執事が来て魔法の勉強をしなくちゃいけないの。さぼったら父様に怒られてしまう」

だが、ベギスはアルトの言葉を無視し、なかば強引にベギスは下げていた頭をアルトの足にひったかけ、背中に乗せた。

ベギスの鱗は硬く平行線だったため、アルトはあたふたとつかめる場所を探した。

落ちる!と思ったとき、タイミングよくベギスが翼を広げたので、アルトは急いでその翼をつかんだ。

「父様には帰ったら、わしが言っておこう。たまには、娘を息抜きさせろとな」

しゃがれた声で笑いながら、ベギスは後ろにいるアルトにニッと笑いかけた。

アルトはさっきまでの不安な気持ちがふきとび、ベギスに笑い返した。

翼を大きく動かし、すごい速さでベギスは飛んだ。

城はどんどん小さくないなり、わずかに執事の姿がさっきまでいた窓に顔をだして何かを叫んでいたが、アルトには全然聞こえなかった。耳元で風がきる音がし、鬼ごっこをしていたミニドラゴン達もあっという間に抜き去ってしまった。久しぶりの外に、アルトはわくわくが止まらなかった。周りをキョロキョロしていると、急に森の中へとはいっていった。

「ベギス!いったいどこまで行くの?」

「もうすぐつくさ!」

とベギス。

森から抜け、芝生が広がる場所につくと、ベギスはゆっくりと着地した。右足をおりたため、背中からアルトを下ろした。緑や黄緑がまじった芝生は、誰かが刈っているかのように綺麗にそろっている。と、真ん中に一つだけ大きな大木がたっていた。ここは。アルトは以前ここに来た覚えがあった。

「お前と出会ったのが、この大木の下じゃよ。覚えいるかの?」

「ええ、覚えているわ」

魔法の勉強に嫌気がさしたアルトは、あるとき城を抜けだし、この森にはいって迷子になってしまったのだ。大木でうずくまっているアルトを、ベギスが見つけ城までおくってくれたのだった。あれからと言うもの、ベギスは毎日のように私に会いに来てくれている。

「あのとき、どうして魔法をつかわなかったのか、わしは不思議でたまらなかったわい」

意地悪げにベギスは言った。

恥ずかしそうに、アルトは大木に近付いた。

「だって、あのとき杖もなにもなかったから。杖無しでできると言ったら治療ぐらいだったもの」

大木はあの頃とかわらず、強く太く生きていた。アルトはその大木に手をそえ、額をあてた。大木の脈がなぜか弱っている。

「もうすぐ、この木も死んでしまうんじゃよ」

ベギスは感づいたアルトにそう言った。

「だから、ここに連れて来てくれたの?」

寂しげにアルトは大木を見上げた。上には巣作りをしている鳥達がいた。

「そうじゃよ。明後日には、森のグリフがこの木を切りに訪れる」

ベギスと初めてあった思い出の場所がなくなってしまう。アルトは、両手を重ね大木に触れ小さく息を吸うと目を閉じ呪文を唱えた。治療の呪文をつかえば、もしかしたら………もしかしたら助かるかもしれない。

「やぁーアルトや。久しぶりじゃの」

耳に入って来た声は、あきらかにベギスの声ではなかった。大木の声だ。もう少し頑張って。私が治してあげるから。心のなかでアルトは大木にといかけた。

「無駄じゃよアルト。これも運命。アルトや、運命を魔法なんかでかえてはいけない。だから、その手を離すんじゃ」自分の意思ではないのに、アルトの手がしだいに大木から離れた。これも、大木の力なのだろう。アルトは呪文を唱えるのをやめた。

「ベギスよ。アルトに会わせてくれてありがとう。礼を言うよ。あんなにも、小さくて怯えてわしにしがみついていた子が、こんなにも大きくなっている所を見れてうれしい。もう心残りはない」

「礼などいらない。静かに眠れ。また違う形で、お前に会えるのを祈っている」

とベギス。

一瞬アルトは、大木が笑っているように見えた。

眠ってしまったのか、もう大木の声は耳に聞こえてこなくなった。

と、大木の下にキラキラと光るものが二つ落ちていた。

氷でできた、ペンダントだ。

アルトは、しゃがみこみペンダントを手にした。

なんとなくアルトには、わかっていた。

大木の最後の気持ちだと。

アルトとベギスは、大木から貰ったペンダントを身に付け城へと戻った。

城に戻ると、やはり父様が怒った顔でまっていた。

父様がズカズカと歩いて来たので、おもわずアルトはベギスの後ろに隠れた。

ベギスは父様をなだめ、なんとか怒られないですんだ。

部屋に戻り、アルトは窓をあけた。夕日が沈むなか、ベギスがミニドラゴンを連れて自分の国へと帰っていく姿をアルトはずっと見ていた。これからも、何ごともなく幸せな日々が訪れますように。首にぶらさがっているペンダントを握り締め、アルトは祈り窓を閉めた。そう、誰かが国に影をもたらすともしらずに。

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