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ふいに馬車の速度が落ち、やがて完全に停止した。


「ついたのかな」


俺は馬車の小窓から外を見る。高い壁が見えた。


「あの壁の向こうが、王都ですか?」

「そうだよ。クーは、王都は初めて?」

「20年ぶりくらいです。小さなころは住んでいたんですが、覚えてなくて」


大きな門があり、長い列ができていた。徒歩の人はその列に並ぶが、馬車はその横を素通りしていく。見ていると、門には鎧を身につけた門番がいて一言、二言話している。中には金を払っている人もいる。だがこの馬車はそのまま通された。


「なにも聞かれなかったけど、良いんですか?」

「あぁ、この馬車はいいんだ。王家の紋章が入っているから、何も言われない」

「えっ?俺も一緒に入って良かったんですか?」


イーヴは王に招かれたと言っていたけど、俺はただの通りすがりだ。もしかして、お金を払わなきゃいけないんじゃないか?


「いいよ、クーはいいにおいがするから」


そんなの理由にならない気がするけど…?


「まぁ、その分ちょっと不便をかけることになる」

「不便…ですか?」

「そう、私と一緒の宿に泊まってもらわなきゃならない。一応王家の預かりで王都に入ったから」


…もしかして、王都にいる間ずっと、ということか?


「それって、監視されるってことですか?」

「……ずっとついて回られるというわけではないから、気にしなくていいよ」

「そんなの、困ります。悪いことをするわけじゃないけど、気分が悪い。だったら俺は、ここで降ります。列に並んで、王都に入りますから」


監視されるなんてまっぴらだ。

一旦外に出て、もう一度入ればそんなことにはならないだろう。なんなら門の前でジェナを待っていてもいい。門の前なら、門番もいるし危険ということはないはずだ。


「いや、そんなわけにはいかない。きみを野宿させないと、きみの連れに約束したんだから」


イーヴは慌てたように言った。俺の本気が伝わったようだ。


「本当に、監視されるわけじゃないんだ。ただ、もし君が何か悪事を働いたら、王家に連絡が行くっていう、それだけのこと。困った時は助けてもらえるから、便利だというくらいに思っていればいいよ。宿は立派だし、食事も出る。もちろん、宿代もかからない」

「そんな立派な宿に、タダで泊まるなんて俺には不釣り合いです」

「タダじゃない。きみを轢きそうになったお詫びだ」

「それなら、ここまで送ってもらっただけで十分です」

「クー…、」


急に、イーヴが弱々しい声を出した。

俺は驚いて、一瞬黙ってしまう。


「きみを不快な気持ちにさせてしまって、申し訳ない。でも宿は快適だし、どうかこのまま宿についてきてくれないか?きみの連れにも、ちゃんとお詫びをしていない」

「…そんなに気にしなくていいですよ。実際、俺は怪我もないんだし」

「クー、」


まるで懇願するように、イーヴは俺を見つめる。…かと思ったら、馬車の中で腰を浮かせ、俺のとなりに座った。馬車の座席はひとりで座るにはゆったりしているが、ふたりだとぎゅうぎゅうだ。イーヴは俺に密着し、手をぎゅっと握った。


「そんな不義理をはたらいたら、エルフの里に帰った時に長に叱られる。…頼むよ、お詫びをさせてほしい」

「そんな…言わなきゃいいでしょう」

「それに、正直に言うと、これから王都で嫌なことがあるんだ」


ふと気づくと、イーヴの手が震えていた。俺はイーヴの顔を見上げる。秀麗な眉根が悲しそうに寄せられていて、なんとも言えず同情を誘われた。


「クーはなぜ、と思うかもしれないけど、きみのそばにいると不思議と落ち着く。嫌なことがあっても、宿できみに会えると思うとがんばれそうなんだ」

「イーヴ…」

「迷惑だろうけど、その分王都の中で不自由な思いはさせないと約束する。なんでもするから…」


俺よりも体格はいいのになぜか小さく見えるイーヴを、邪険にはできなかった。

いやだけど…しょうがない。


「なんかうまいもんでも、食わせてくださいよ。俺にも、ジェナにも」

「王都で一番おいしい食事を、嫌というほど食べさせるよ」

「いやまぁ、ほどほどで…」


結局はほだされてしまったけど、しょうがない。

こんなに美しい存在のお願いを、無視できるわけなかった。


ここまで閲覧ありがとうございました。


次回から王都に入っていきます。

王都でクーは驚きの事実を知ることになるのですが…。


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