6
順調な旅路だったのに、最後にトラブルが起こった。
荷馬車の車輪が外れてしまったのだ。
「あ~…まいったな」
ジェナが珍しく、本当に困ったようすで頭をかく。
荷馬車には王都で売るさまざまな物が乗っているので、置いていくことはできない。
「修理するしかないけど…、」
ジェナはちら、と俺を見る。
なんだその目?
「俺も貸し馬屋では馬車も触ってたし、手伝うよ。多少は役に立つと思うけど…」
「いや、そうじゃなくて…修理してたら、最悪閉門に間に合わないんだよ。そうしたら野宿になる。お前だけでも先に行かせてやりたいが……」
徒歩では間に合わないだろう。この付近を歩いている人たちは野宿を覚悟して、それなりの準備をしている。
「いや、俺だけ先に行くわけないだろ。修理も手伝うし、野宿になっても文句なんか言わないよ」
「それじゃおばさんに申し訳が立たない。お前を野宿なんかさせられるか」
「お母さんは関係ないだろ。俺だって野宿くらいできる!」
「できるだろうけど、させたくないんだよ、俺が」
「だからなんで…わっ!」
「あぶない!」
喧嘩になりかけた俺とジェナのすぐ横を、立派な馬車が通り抜けた。俺の腕をぐいっとジェナがひっぱって抱きとめる。
王都に近付いてきたからか、田舎っぽい荷馬車だけでなくまるで貴族が乗っているようなピカピカの馬車が道を通るようになってきた。
思ったより近くを通ったので、もう少しでひかれるところだった。ジェナに引き寄せられなければ大怪我をしていたかもしれない。
「び…っくりした、」
俺はジェナの腕の中で固まってしまう。
「あぶねぇなぁ…」
珍しく苛立った声で、ジェナは馬車を見た。いつも優しいジェナだが、さすがに怪我をしかけたのだ。怒るのも当然のことだ。
「すまない!怪我はないか?」
通り過ぎた馬車がゆっくりと停まって、慌てたようすの御者が駆け寄ってくる。
立派な馬車に乗っている人だから、俺たちのことなんか無視して行ってしまうかと思ったが、意外といい人だったようだ。
「ちょ…ちょっとジェナ。離して」
いつまでも俺を抱き締めているジェナの腕の中から逃れようと訴えた。大の男が同じく大の男に庇われてるなんて、恥ずかしすぎる。
「あぁ、まぁ…けがはないですよ」
ジェナはあからさまに不機嫌を隠そうともせず、そっけなく言った。人当たりの良いジェナには珍しい態度だ。自分がひかれかけてもジェナはこんなに怒らないと思うから、それだけ心配をかけてしまったのだろう。
「本当に申し訳ない。何か……」
コンコン、と何かを叩く音がした。
どうやら立派な馬車から音がしたようで、御者は「すまない、ちょっと待っていてくれ」と俺たちにことわってから馬車に戻った。馬車に乗っている人と何か話をしているようだ。
しばらくすると、馬車のドアが開けられて足場がセットされる。中から降りてきたのは、深緑のローブを目深にかぶった青年だった。