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「えーと、どういたしまして?」
ジェナの戸惑ったような声で俺は目を覚ました。見慣れた顔のドアップ。
ジェナだから嫌悪感はないけど、あまりの近さに驚いてしまう。
「どういたしましてってなに?」
「覚えてないのか?寝言で、『ジェナありがとう~』って言ってたけど」
「あぁ…、夢見てた。子供の頃の夢…」
村に来たばかりで、馴染めなかった俺を気にかけてくれたのはジェナだった。
忘れていたけれど、俺が公国語以外を話したり知らない歌を歌ったりしたからなじめなかったのだろう。
母が気にするのも仕方がないことだ。人間の社会で生きていくんだから、みんなになじまないといけない。でも子どもの頃はそんなことわからなくて…、今の俺があるのは、本当にジェナのおかげだと改めて思う。
「本当に、ありがとなジェナ」
「なんだよ、礼なんか。当たり前だろ」
「弟だから?」
「そうだよ」
ぐしゃぐしゃとジェナは俺の頭を掻き混ぜた。
俺はやめろよ、と笑いながら言って、横になっていた身体を起こした。
王都に向かって旅立ってから、1週間。
村を出てすぐは舗装されていない道で馬車の揺れもきつかったけれど、王都に近付くにつれて整備された街道になり、昨日あたりからはずいぶん楽な道になった。
旅慣れたジェナはいろんなことを心得ていて、俺はただジェナの横に座っているだけで良かった。夜はなじみの宿に泊まり、食事の世話も焼いてくれる。至れり尽くせりだ。だがもしジェナがいなかったら、次の町や村までの距離感が分からず野宿になってしまったり、食事が取れなかったりしただろうというのが、容易に想像できた。
「ジェナの弟で良かったよ…」
ありがとう、と重ねて言うのも違う気がして、俺はそう言った。
ジェナはお礼を言った時よりも嬉しそうな顔をする。
「そうだろ、頼りになるだろ」
ずっと弟が欲しかった、というジェナは頼られると喜ぶ。
自分で頑張ったところで、空回りしてしまうだろう。ここは大人しく頼ったほうがいい。
「今日の夕方には王都につくからな。そしたら、なんかうまいものでも食おう!王都にはなんでもあるぞ!」
「へぇ。楽しみだな」
村ではほとんど毎日、同じ食事だった。硬いパンとヤギのミルク、川で採ってきた魚。野菜のスープ。それで不満を感じたことはないけれど、いろんなものがある、と聞くとやっぱりわくわくする。
「王都は宿のベッドもふかふかだぞ。楽しみだな!」