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俺はひとりで歩いていた。

ひとりですごすのは、きらいじゃない。

見たことがない花を見つけて、嬉しくなった俺はお母さんに見せてあげようとその花を一輪だけつんだ。白くて小さな花びらが6枚ついていた。


お母さんにきれいな花を見せられると思って、俺は上機嫌だった。

最近、お母さんはなんだか元気がない。きれいな花を見て、少しでも笑ってくれるといい。


『~~♪~♪』


俺は自然と歌っていた。

小さなころからお気に入りの歌だ。明るくて、やさしいメロディ。


ところが急に、背中に何かがぶつかった。小さな痛みを感じて、なんだろう?とふりかえると見覚えのある顔があった。

同じ村の子どもたちだった。


『気持ちわりぃ歌うたうな!よそもの!』


先頭に立っている男の子が、俺に言った。

…俺に言っているのだろうか?

気持ち悪い歌?よそもの?


俺がじっと彼らを見返すと、思った反応ではなかったのか、彼らはう、と口ごもった。


『おれ知ってるんだからな!村の外から来たヤツのこと、よそものっていうんだ!』

『そうだそうだ!』

『村に入ってくんな!!』


村の外から来たやつ。

そう言われれば、たしかにそうだ。

俺はこの間、村に来たばかり。お母さんとおじいちゃんとおばあちゃんはいるけど、他に知り合いはいない。

――――では、村に知らない人はいなかった。


『う、歌だって!なんだよ、その歌!』

『なんて言ってるかわかんないし、気持ちわるいんだよ!』


…なんて言ってるかわからない?


『この歌は……、』


この歌は、――に教わった歌で……、


『こらー!!おまえたち、なにしてるんだ!!』


説明しようと思った時、遠くから声が聞こえた。俺たちと同じ子供の声だけど、とても大きな声だった。


『げっ!ジェナだ!』

『やべぇ逃げろ!!』


俺が説明する前に、みんな走っていってしまった。

代わりにやってきたのは、俺よりも少し大きな男の子。となりの家に住む、ジェナだ。


『くそ、あいつら逃げ足だけは早いな。…大丈夫か、えっと、クー』

『大丈夫。何も…』


何もなかった、と言おうと思ってふと気付く。さっきまで持っていた白い花が、いつの間にか地面に落ちていた。どこかのタイミングで、指をすり抜けておちてしまったのだろう。


『……花が……』

『花?あぁ…これか?』


ジェナが落ちていた花を拾う。もしかして、俺が踏んでしまったのかもしれない。花はぺちゃんこになっていた。


『お母さんに…見せたかった……』


そうしたら、喜んだかもしれないのに。

あの子たちに背中に何かぶつけられた時よりも、気持ち悪いと言われた時よりも、花がつぶれてしまったとわかった今のほうがショックだった。


『あぁ…おい、泣くな』

『泣いてない…』


ジェナは慌てて俺の肩に手を置いた。俺は俯いてるだけで、泣いてはいない。本当だ。


『泣いてないもん…』


本当に、泣いてない…。

俺が泣くと、父さんも、母さんも、――も悲しむから……。


『あー…、えっと、そうだ!俺の母さん、押し花作るのが上手なんだ』

『押し花…?』


俺が顔を上げると、ジェナはぱぁ、と嬉しそうな顔になった。…何がそんなに嬉しいんだろう?


『この花、押し花にしてお母さんにあげたらどう?押し花だったら、枯れないでずっと置いておける』

『枯れない…花…?』


俺はジェナを見上げた。


『それ、いい。押し花にしたい』

『よし、決まり。じゃぁ俺の家に行こう!」


ジェナは拾った花を優しく持ったまま、歩き始めた。花がこれ以上ぐちゃぐちゃにならないように、気を付けてくれるのがわかる。

…とっても、優しい人なんだ。


『ジェナ、…ありがとう』

『いや、となりだしな』


家がとなりと言っても、10分も歩かなきゃいけない。となりだし、なんてなんの理由にもならない。

ジェナが優しい人だから、助けてくれたんだ。


ジェナ、ありがとう……。


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