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3.

「忘れ物はない?ジェナの言うことをちゃんと聞いてね。危ないことはしないで…」

「大丈夫だって!お母さん、俺もう24だよ」

「そうだけど…、急がなくてもいいけど、時間がかかりそうだったら、手紙を出してね」

「分かったって!」


村を出る日、母は今までにないほど過保護にあれこれ言ってきた。母の目の届かないところに行くのがはじめてだからしょうがないのかもしれないが、少し鬱陶しい。

少し離れた所で荷物の確認をしているジェナの耳に過保護な母の言葉が入っていると思うと、少しばかり恥ずかしくもあった。


「じゃぁ…ジェナ。面倒をかけるかもしれないけど、クーをよろしくね」

「おう!まかせといて!」


母がジェナに声をかける。ジェナは持ち前の、見る人を安心させる笑顔で言った。

その顔を見ると、母はほっと息をついたようだ。俺よりジェナのほうが頼りになるし、気持ちはわかるけど複雑…。


「身体に気を付けてね」

「大丈夫だって。できるだけ、早く帰るし」

「……そうね」


母は俯く。

もしかして、俺がだらだらしてちゃんと遺品の整理ができないんじゃないかって心配してる?


「本当に、大丈夫だから」

「えぇ。あのね、クー。クツィル」


クツィル、としばらくぶりに呼ばれる名前で、母は俺を呼んだ。

俺が驚いて目を瞠る。母は強い目をしていた。


「あんたは、お父さんの子だから。思うように生きなさい」

「え?どういう…」

「お母さんたちは、大丈夫だからね」


母は俺に手を伸ばし、ぎゅ、と強く抱きしめた。


「…え?」


こんなふうに抱きしめられるなんて、いつぶりだろう。

一生の別れでもないのに…。


「どうしたの、お母さん。さみしくなった?…大丈夫だよ。ちゃんと元気に帰ってくるから」

「お母さんは、あんたが幸せに生きてくれれば、それでいいんだからね」


もう一度、ぎゅっ、と強い力で抱きしめられる。

それから、さっと身を離した母はいつものように明るい笑顔だった。


「じゃあね。ジェナに迷惑かけないようにね!」

「…当たり前だよ!」


母は俺の背中をぐっ、と強く押した。



「なんかおばさん、さみしそうだったな」

「うん。…早く帰ってあげないと」


ジェナは馬の手綱を操りながら言った。

ジェナの荷馬車は大きくないが、ふたりくらいなら並んで座れる。俺はジェナのとなりに座って、ぼんやりと空を眺めた。

あんなに気弱そうな母を、初めて見た。やっぱり一時でも息子が家を空けると心細くなるのだろうか。いつもはどちらかというとさっぱりした性格で、俺がジェナの家に泊まって帰ってこなくても何も言わないような人なのに。


「まぁ、おばさんに心配かけないように、俺の言うことを聞くことだな!」


ぽん、とジェナに背中を軽くたたかれる。

俺はうん、と頷きながら、なんとなく後ろ髪を引かれる思いだった。

どうせすぐ帰ってくるんだから、こんなに寂しく思う必要はないとわかっていたけれど。


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