父の足跡.1
閲覧ありがとうございます。
新キャラのチュン先生登場編です。
チュン先生はクーのお父さんであるソーンの弟子で、一緒に研究をしていました。
クーとどんな風に関わっていくのでしょうか……。
誤字脱字があれば、教えていただけると助かります。
父の研究資料を仕分けするから研究内容がわかる人に手伝ってほしい、と守衛の人に告げるとすぐに、適任がいますよ、と言われた。
「ソーン先生の助手を、もう10年以上していたチュン先生という方です。チュン先生はソーン先生の寮の部屋のとなりに住んでいるのですが…、」
「それなら、先に寮の私室を片付けることにします。その時にその人を訪ねれば良いですよね。教えてくれてありがとうございます」
「いえ…でもチュン先生は、もしかしたら手伝ってくれないかもしれません。ソーン先生が亡くなって以来、姿を全然見かけないんです。ソーン先生が亡くなったのがそうとうショックだったようで…辞職はしていないと聞いていますが、」
「父をそんなに慕ってくれていたんですね。なおさら会わないと。お礼も言いたいですし」
俺は学園を出て、寮へ向かう。昨日確認した職員寮の父の部屋の場所はちゃんと覚えている。学園の青い屋根のような目立つ特徴のない、地味な建物だった。いくつかの棟が並んでいる中の一番奥の棟の、4階の部屋だ。学園の職員寮は、しんとしていて人の気配がない。授業が何時から始まるのかはわからないが、こんなに人気がないものなのだろうか?と考えて…思い出す。学園の職員、つまり研究者はあまり寮に帰らないと言っていた。研究室に半ば住んでいる者も多く、父もそんなひとりだったと。
昨日学園長に渡された鍵で、父の部屋のドアを開ける。がらんとしていて、何もない部屋だ。ベッドやテーブルなど必要最低限のものはあるが、簡素で飾り気はなく持ち主の指向や人柄はまったく伝わってこない。
このテーブルは父のものなのだろうか?もしかして備え付けの物かも。そのあたりを確認していなかった。もし備え付けの物だとしたら、片付けるべき物はほとんどなさそうだ。クローゼットを開けると服が数枚かかっていた。父の私物と言ったら、これくらいなのかもしれない。
この部屋は、いいか。
貴重な物もなさそうだし、このまま処分するか次の人に使ってもらうように伝えよう。
俺はとなりの部屋に住んでいるという、父の助手を務めていた人に会いに行くことにした。
チュン先生、という名前のその人は父と同じエルフ研究を行っていたという。ふたりで研究に没頭していたとしたら、急に父が亡くなったショックは大きかっただろうな。その想像は、俺にとってはあまり実感の湧かないものだった。
俺は部屋を出て隣の部屋のドアをコンコン、と叩いた。
「チュン先生、いらっしゃいますか。チュン先生……」
部屋の奥まで聞こえるよう、やや大きめの声で呼びかける。しばらく待っていると、奥の方でガタガタと慌ただしい音が聞こえる。
俺は中で何があっているのか、にわかに心配になってきた。
「チュン先生?大丈夫です、か……」
バタン!と大きい音を立てて、ドアが開いた。
中から出てきたのは、ぼさぼさの前髪と伸び放題のひげに覆われ、よれよれの薄汚れた服を着た人。シャツの袖口から除く腕が、心配なほど痩せていた。
「ソーン先生?」
掠れた声が、泣きそうだった。
「俺は…、」
「あぁ…僕はついにおかしくなってしまったんだ。幻覚を見るようになるなんて…若い時のソーン先生が会いに来るなんて、ありえない妄想だ」
「…あの、」
「あぁっ、声まで似てる。幻覚でなければ夢?あぁ、そうだそうかもしれない。僕の部屋に来る人なんているわけないんだから…あぁ、なんだ。だったらベッドに戻らなければ」
「待ってください、俺は…」
「あぁ、あぁ聞きたくない。だって、ソーン先生は…もう……」
もう、と言うと、その人はがく、と膝から崩れ落ちた。そして体を支えきれないように、ばたりと倒れ込む。
「うぅ…っ、ソーン先生…っ。なぜ…っ」
「チュン先生、落ち着いてください。あの、俺は…」
俺は慌ててチュン先生の肩にそっと手を添える。するとチュン先生はばっとすごい勢いで身体を起こし、俺の手をつかんだ。
驚いて手を引っ込めようとするけれど、すごい力で握りこまれ、離れられない。
「ソーン先生、言ったじゃないですか。まだまだ研究したいことがあるって。明日は一緒に資料を読むって。それなのに……っ、なぜ……っ!」
「チュン先生、」
「頭が痛いとおっしゃった時に、僕がもっと強く、医者にかかるように言っていれば…!」
あぁ、そんなことがあったんだ。
それをずっと、もう1ヶ月も悔やみ続けているんだ。20年も会っていなかった俺よりもよほど、父に近かった人。
俺は何も言えず、すがるように俺の手を握る人の震える肩を抱き寄せた。
父が死んだと聞いても涙を一粒も流さない俺よりも、この人の方がよっぽど…。
宥めるように、ぽんぽん、としばらく肩を叩いていると、チュン先生の身体から力が抜けて倒れ込んできた。
…気を失ってしまったようだった。俺は少し、途方に暮れた。




