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「クーって、なんだか本当にかわいいね。里の子供たちを思い出すよ」
「子供扱いしないでください。それって、いくつくらいの子供なんですか?」
「え?うーん…100歳か、150歳くらいかな?」
イーヴの言葉に、俺は押し黙った。
*
俺の村では風呂というと大量の薪を必要とする。だが王都では、魔力でお風呂を沸かすらしい。
まず、浴槽に水を溜める。浴槽に魔力の溜まった青い石が設置されていて、これに触れると石から水が出てくる。そして同じく浴槽に設置されている赤い魔石に触れると、その水があたためられるということだった。
魔導士の多い王都だからできる入浴方法で、田舎の村でできるはずもない。
「私は一瞬であたたかいお湯を溜められるけどね」
人間とは魔力が桁違いだというエルフのイーヴはそう言った。一応、俺にお湯の入れ方を教えてくれているのだろう。100歳くらいの子供を思い出すそうだし。
「さぁ、まずはお湯につかって。身体をあたためよう」
浅い湯船に横たえられる。下半身は手拭いで隠しているけれど、俺は気恥ずかしくて「もういいですよ」と言った。
風呂の入り方が分からないと言った俺に、イーヴは丁寧にも入浴方法を教えてくれているのだ。だが、きちんと服を着たままのイーヴの前で裸でいるのも恥ずかしいし、そわそわする。
もう大丈夫。あとはひとりでできる…。
「もうひとりでできる、って思ってる?」
「えっ!?」
なんでわかった。
驚く俺に、イーヴはにっこりと笑った。
「せっけんって、使ったことある?」
「せ…っけん?」
*
けっきょく俺は、頭を2回、身体を少し硬めの風呂用の手拭いでこちらも2回、せっけんで洗われた。1度目はあまり泡立たなかったが、2回目は泡がもこもこになって、目に入って痛かった。
「ちゃんと目をつぶってなきゃ。やっぱり、クーは赤ちゃんだなぁ」
「赤ちゃんじゃない!……って、すみません」
思わず敬語が抜けてしまった。イーヴは俺が小さい時にあれこれ世話を焼いてくれたジェナのようすにそっくりだ。ずっとにこにこ笑っているし、嫌な気はしないけれど。
「いいよ、敬語なんて。気軽に話そう」
「でも…イーヴって、えらいエルフなんじゃ…」
「うーん、…えらいエルフじゃなくて、私はクーと友達になりたいんだけど」
「友達…ですか?」
エルフと人間。
王に招待される重要人物と、ただの田舎者。
あまりにも釣り合わないと思うけど…。
「そう。…だめかな?」
イーヴはまた、懇願するような目をする。
キラキラの緑の目で見つめられると…弱い。
「じゃぁ…友達になろう」
「やった。人間の友達ができて、嬉しい」
「俺もエルフの友達は初めてだよ」
最後にあたたかいお湯を、頭からざばりとかけられる。目に入る水が不快で、俺は頭を振った。
「ふふ、かわいい」
「かわいくない、俺もう24歳だから…」
「24歳は、赤ちゃんだよ」
エルフとの常識の差がすごい。
イーヴが俺の目に入ってくる水を払うように、頬を撫でる。するとあっというまに、全身が乾いた。
「これも、魔力?」
「そうだよ。水を出すのと反対のことをしただけ」
さも簡単なことのようにイーヴは言うが、そんなことをできる人間は村にはひとりもいなかった。村には…だけじゃないのかもしれない。エルフにとっては簡単なことかもしれないが、人間にとってはどうかわからない。
これに慣れないようにしないとな…と、俺は思った。




