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王都までの旅路.1

閲覧ありがとうございます。


主人公クツィルが人間やらエルフやらに溺愛されるお話です。

最終的にはマルチエンディングになる予定で、5,6パターンのエンディングを考えています(変更するかも)。

本格的な溺愛パートに入るまでが長そうですが、丁寧に書いていきたいと思っていますのでお付き合いいただけると嬉しいです。


ご感想や評価などいただけると励みになります。誤字脱字があれば指摘していただけると助かります。

「かわいいね、かわいいクツィル」

「なんてかわいいんだ。本当に、おまえの父親そっくり」

「さぁこっちにおいで。甘い果物をあげよう」

四方八方から伸びて、俺の頭や頬を撫でる手に俺はひたすら困惑していた。

なんでこんなことになったんだ…。


*王都への旅路.1


ことのはじまりは、亡くなった父が亡くなったことだった。


父は王都の王立学園で教授をしていた。亡くなった原因も過労だと言われている。仕事が好きで、止められてもやめなかった。そのせいで俺の母は父に嫌気がさし、父を王都に置いて実家のある田舎にひっこんだ。俺は母に連れられて田舎に引っ越したので、父とはもうずいぶん会っていなかった。


学のある父親とは違い、俺は勉強はからきし駄目だった。ただ動物には好かれるたちだったので、村の貸し馬屋で働いていた。母の両親と母と俺、裕福ではないけれど4人で平穏に暮らしていたのだ。


そんなある日、いつものように仕事を終えて帰ってきた俺に母が言った。


「お父さんが、亡くなったらしいの」


母は離婚した父のことを「お父さん」と呼んだ。久しぶりに耳にする響きだった。


「……え、」


父とはもう20年近く会っていない。

亡くなった、と言われても実感はなく、どんな反応をしたらいいか分からず、俺はただ母を見返す。


「もうずいぶん会ってないから、そんなこと言われてもって感じよね。でもあの人は他に家族がいなかったから…私のところに連絡が来たみたいで」

「亡くなったのって…いつ?」

「もう1ヶ月前。何せ王都は遠いから…」


母が俺に手紙を差し出した。

日付は確かに、1ヶ月前だ。中を見ると、確かに父が亡くなったと書いてある。王都の外れにある共同墓地に埋葬する、とも。


「悪いけど…あんた、王都にお父さんの私物を取りに行ってくれない?」

「…え?」


手紙の末尾には、確かにそのようなことが書いてある。

しばらくは父の研究室をそのままにしておくので、片付けにきてほしい。価値のある研究書などもあるから、おそらくちょっとしたお金にはなるだろう…とのことだ。


「お金っていうより…会ってなかったけど、父親だし。形見分けしてもらったほうが良いかと思って。あんた、別れる前はお父さんっ子だったし」


母に言われて思い出す。

そういえば、俺は父のことが好きだった。父の研究の話を聞くのが楽しかったのだ。

父は生活能力が皆無だったから、到底俺を育てることはできないって、母についていくことになったけれど。


「王都に行く機会もそうないし、ついでにゆっくり王都見学してきたらいいんじゃない?あんたは、お父さんに似て頭がいい子だから、いろいろ見るだけでも楽しいでしょう。田舎で、ちゃんとした学校にも通わせてあげられなかったけど…」


母はどこか、悔いるような表情だ。


「いや、俺は頭が良くなんて…」

「…覚えてないの?あんた、小さい頃は公国語の他に、共用語と古代語も話せたんだよ。話す相手もいなくなって、いつの間にか話さなくなったけど。お父さんとふたりで、よく話してたでしょう」


……え?

そうだったっけ…。


「当時の私は、そういうのも周囲の子に溶け込めない原因になっちゃうんじゃないかって思っちゃって…。でも今思い返せば、あのままお父さんと育ったらどんな子になっただろうって、ちょっと考えるわ」

「それは…でも、お母さんとこの村に来たから、ジェナとか、友達ができたわけだし…」

「やさしい子ね」


ジェナは隣家(と言っても、歩いて5分くらいはかかる)に住む2歳上の幼馴染で、親友だ。本当の兄みたいに慕ってもいる。

ジェナの他にも村には友人がいるし、隣町の知り合いや、いろんな人にも出会えた。母とこの村に来なければ、関わらなかった人たちだ。


「私はおじいちゃんとおばあちゃんを置いていけないから。お父さんの私物の片付け、頼まれてくれない?」


確かに父の私物は、捨てるにしろ売るにしろ、誰かが片付けなければならないのだろう。それに母の言う通り…王都にも、ちょっと興味はある。

手紙の中には、けっこうな金額のお金が同封されていた。よく途中で盗まれなかったな。運が良かったとしか言いようがない。


「こんなにあったら、もうひとりくらい行けるんじゃない?ジェナでも誘って行ったらどう?ジェナが一緒だったら、私も安心だし」

「行ってくれるかな…」


でも、確かにジェナが一緒に行ってくれるなら安心だ。ジェナは時々、仕事で王都にも行っている。

仕事のついでに、一緒に行ってくれたら嬉しい。明日にでもジェナを誘ってみよう。

父の遺品整理だと思うと気が重いが、ジェナと旅行に行くと考えたら楽しそうだ。俺はつとめて明るく、ポジティブに考えることにした。


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