4話 司祭は呑気
その後、エリシアの部下らしき者達に男達を引き渡した後、クリスの安全を考えエリシアが教会まで付いて行ったのだが、問題が起きてしまう。
問題というのは、教会に着いたクリスがエリシアと一緒に教会の中に入り、マリベルと遭遇するところから始まる。
「あの〜司祭様?」
「ん、どうしましたか?」
「何でここに姫様がいらっしゃるのでしょうか?」
「実は帰り道に襲われてしまいまして(男3人組に)」
「襲われた!?(姫様に!?)」
そう、ここに酷い勘違いが生まれてしまったのだ。
「幸い、怪我などはありませんのでご心配なく」
「それはよかった……のですかね?(そんなに激しい事を!?)」
「ふふ、あの時はすまなかったな。クリス司祭には少々刺激が強かったであろう」
「少々でしょうか?刺激が強すぎて固まってしまいましたよ」
「それこそ慣れてもらわねばならない。これからもクリス司祭には世話になるのだからな(戦場で)」
「…」ゴクリ
マリベルの勘違いは解けることはなく更に続いていき、頭の中でクリスとエリシアの絡み合う姿を幻視する。
以外とムッツリなのか想像を膨らませながらも、クリス達の会話を一言一句逃がさないとばかりに耳を研ぎ澄ませていく。
「しかし道外れに連れていかれた時には、どうなるかと思いましたよ。それも3人組でしたし」
(道外れってもしかて外で!?……それにまさかの複数人なんてそんな!!)
「それ程クリス司祭がモテている証拠だ(刺客に)」「モテたくありませんよ」
ハァ〜と溜め息を吐きながら項垂れる。
そんなクリスの姿を微笑みながら見つめるエリシアにマリベルは何とも言えない気持ちになる。
「あの、姫様」
「何だシスターよ」
「え〜と、ですね…」
言いよどむマリベルは、これから自分が無礼を働くのを覚悟でエリシアに忠告をする。
「ひ、姫様!婚姻もしていないのに、男性の方と交わるなどあってはなりません!ましてや司祭様となんて……不潔です!!」
「「は?」」
マリベルの発言に、教会の空気は凍りつく。
マリアベルの言葉に頭が追いつかず固まる2人は、目を丸くしてお互いを見つめ合い首を傾げる。
(姫様と交わる?)
(クリス司祭と交わる…悪くはないな)
ここで、マリアベルと自分達の間に大きな勘違いが発生している事を理解した瞬間、クリスはその勘違いを全力で正すのだった。
やがてーーー
「すまなかったな、シスター。こちらの落ち度だ」
「いっ、いいい、いえいえ、私の方こそ申し訳ありませんでした。酷い勘違いをしてしまい」
「いいえシスターマリベル。元の発端は私の言葉足らずだった為、申し訳ありません」
互いが互いに謝る、不思議な光景になってしまうのであった。
「ところで、何故エリシア様があの場にいたのでしょうか」
「司祭様…!姫様の名前を軽々しく言っては──」
「よいのだシスター、私からお願いしたのだ。それでクリス司祭何故私があの場にいたか、だったな」
「はい」
エリシアは指を顎先に添える。
その姿は、なるほど上品さを兼ね備えており大国の姫君だと理解させられる。
「まずクリス司祭に確認をしたいのだが、いいだろうか」
「構いません」
「それではクリス司祭、今回の戦争で敵側の死者が何名か知っているか?」
今回の戦争は領土での所有権が原因で起きた戦争であり、ここヴァーミリオン王国と隣国のテレーサ国が互いにぶつかっていた。
ヴァーミリオン王国の兵1万に対し、テレーサ国は5万と兵士の数に5倍もの戦力差があった。
この世界では魔法や他にも様々な力が存在し、数だけが戦争の全てではないがそれでもこの段階で劣勢を強いられていた。
だが、戦争の結果を見ればヴァーミリオン王国の勝利である。
それも“圧倒的“と、呼べるぐらいに。
「2万ですかね」
「惜しいな、3万だ」
「…その数は惜しいのでしょうか…?」
「では逆にこちらの死者数なのだが、なんと───」
エリシアはクリス達に片手を突き出す。
5本の指は全て開かれていて、死者数の数を予測させる。
「…5000?」
「いいや違う」
────50だ
相手3万人に対してこちらの被害は50人。
もはや戦争だったのかを問いたくなる差にマリベルは、驚愕を隠せなかった。
「そんなに違いが出るのですか?」
「我が軍の方が強かった、と言えればよかったのだが本来はあり得ない」
苦笑するエリシアは、あり得ないであろうことをした人物を見つめる。
ただ1人で戦況を大きく変えてしまった者を。
「今回、クリス司祭が襲われたのはおそらく、テレーサ国が関係てしいる」
「司祭様を消して、ヴァーミリオン王国を弱体化させるためですね」
「正解だ」
「…許せない」
憤るマリベルは憤怒の炎をたぎらせる。
クリスの内情を知らないマリベルにとって、人の命を救うために戦争に参加したクリスを亡き者にしようとするテレーサ国が許せなかったのだ。
因みに、クリスの内情は「金が稼げるヒァッッホウーー!」なのだが。
「とにかくクリス司祭」
「はい」
「暫くの間、1人で出歩かないほうがいい」
「そうですね。またいつ襲われるかわかりませんし誰かと一緒にいようと思います」
「一応、騎士団からも何名か護衛としてクリス司祭やこの教会の警護にあたらせる」
「それは助かります。シスターマリベルや教会に手を出されればどうしようかと思いましたので」
「うむ。それでは今日はもう遅い。私は城に戻り、護衛の人選やテレーサ国の調査を進めている」
「何から何まで私のためにありがとうございます」
「それこそ気にするな。クリス司祭はこの国にとっても大切な存在だ。……私にとってもな」
最後の一言は誰の耳にも届くことはなく、教会をを立ち去るエリシアを眺めながらマリベルは軽い軽い溜息をこぼす。
「これからどしましょうか司祭様」
「そうですね。とりあえず明日も冒険者ギルドに行ってみようかと思います。あそこでしたら知り合いも多いですから、相手側もギルド内で襲撃することは出来ないでしょうから」
「なるほど」
関心するマリベルだが、実のところクリスには別の考えが存在していた。
(襲われるのは嫌だけど、これって小遣い稼ぎのチャンスなのでは?毎日冒険者ギルドに通えばそれなりに稼げるよな)
自分の身に危険が迫ってるなかどこまでもお金のことしか考えてない姿には、いっそ凄いと思わせてくれるが、本人はいたって真面目である。
「そういえば司祭様」
心の中で、思いを馳せていたクリスを現実に戻させたマリベルは、両の指を忙しなく動かす。
その姿は、まるで親に怒られ言い訳を探す子供のように、あるいはこれから大事な告白をする際の緊張を紛らわせるかのようにどこまでも忙しない。
「…何でしょうか」
マリベルのそんな姿に、クリスは何事だと思い訝しむ。
「その~、…司祭様と…姫様は、どういった関係、なのでしょうか?」
まるで、神に懺悔するかのように聞いてくるマリベル。
どうやらエリシアとクリスの関係を疑っているみたいだが、それも無理はない。
マリベルに限らずこの国の民達にとって、エリシア・ヴァーミリオンという存在はとても大きい。
ヴァーミリオン王国の姫君であり、戦場で《戦血姫》の異名を持つ強者。
そんな存在とクリスが、もしもただならぬ関係だったら、この国で大騒ぎになることは必須だ。
特にこのスラム街では、クリスに救われた者も多く感謝や恩義、重いものだと信仰の域に届いてる者まで現れ、クリスの為ならば命を失っても構わない程だ。
そんな者達がエリシアとの関係を知ってしまい、応援をするだけならばいい、だが変に拗れてしまえばヴァーミリオン王国に反逆する可能性が出てしまう。
マルベルはそれを理解いているので、クリスの返答に特大の緊張を持つ。
心情的には、裁判での判決を待つ囚人に近い。
「関係と言われましても、ただ戦場で顔をよく合わす、戦友…?みたいなものですよ」
返答は、特別な関係を示すものではなく、あくまで戦場で共に戦う仲間だと言うクリスの発言に、マリベルは深く、深く、深い息を吐き安心と共に近くの椅子に座り込むのだった。
マリベルの中に、クリスを疑う気持ちは全く無くエリシアとの関係を信じたのだ。
「?」
安心しきったマリベルを不思議そうに見て首を傾げるが、深く追求はせずにそれからは他愛もない会話を繰り広げ、就寝の時間になると挨拶をして自室に戻り、今日一日を終わらせるのだった。
マリベルとクリスの言葉遣いが一緒だから使い分け難しいですね。2人で話すならいいんですけど3人の時には、上手いことどっちが話してるか分かるように気をつけないといけないですね。(口調変えようかな)
ちなみに、スラム街でのクリスに信仰を持ってる者は狂信者が大半で、クリスの為ならなんでもします。
文字通り“なんでも“です。
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