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1話 司祭は戦場にて

 この光景を何度見ただろうか。

 兵士達の雄叫び、炸裂する魔法の騒音、焼き焦げた大地、腐敗臭の臭い、折り重なる死体。

 戦場ではこの光景はありふれていて今更特に思う事はないが、控えめに言っても「地獄」だ。 

 その戦場で俺が何をしているかというとですね。


「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール」

  


 戦場の後方側にて負傷者が運ばれる簡易施設で、ひたすら回復魔法(ヒール)を掛け続けてます。

 だって俺司祭ですもん。


 運ばれた負傷者を治療し、また戦場へ送るか死ない様に処置するかその判断をするのは俺じゃない。

 俺は目の前に運ばれている人達に《ヒール》を掛け続けるだけだから。


「おねが、い、します…祭様」

「助けて、助けて〜」

「あの野、郎〜…ぶっ殺し、てやる!」


「ヒール、ヒール、ヒール」

 

 耳に届くうめき声が煩わしく手早く《ヒール》を掛け黙らせる。


 多くの戦場を回ってきた男の《ヒール》は他の司祭より数段も洗練されており数多くの負傷者を治療していった。

 その光景を見た1人の兵士は感嘆と共に男に近付く。


「流石ですね。これほどの負傷者の数をたった1人で治療されるとは」

「…そんな事より他に負傷者は?」

「はっ。現在戦場では我々が勝利し落ち着く頃合いです。負傷者の方も他の司祭の方達や回復術師、そして残る薬品などで応急処置も済ましてます」

「そうか」


 深く息を吐き、男は簡易施設の天幕を出ようとする。

 

「司祭様どちらに?」

「…少し疲れた。休む」

「それでは、休息の取れる場所に」

「いい。その場所は他の人達に使わせる様に」

「!?……寛大なお心感謝します!」


 柔らかいベットなどの休息が取れる施設には限りがあり、そこでは高位な者や、戦場で活躍した者が使われる。

 司祭の男も十分過ぎる程の活躍をしたため本来はその施設を使える筈だが、他の者の為に辞退したのだ。

 その姿に兵士は感動し、男の姿が見えなくなるまで敬礼を解く事はなかった。


♢♢♢♢


(誰があんな偉そうな奴らが集まる所に行くか!)


 どうも、司祭を務めさせていただいてますクリスです。

 戦場も落ち着きましたので一休みといきたいとこですが、そうはいかないみたいです。


「兵士の治療感謝するクリス司祭」

「…姫様」

 

 クリスに話しかける女性の名はエリシア・ヴァーミリオン。

 今回の戦争で勝利したヴァーミリオン王国の姫君であり、戦場では「戦血姫」として恐れられてる。

 実際、元の赤髪が霞むぐらい髪の色が血で紅く染まっている。

 着ている鎧も所々が返り血で濡れており、戦場でどれ程の兵士を殺してまわったか想像できない。

 姫君というだけあって顔は彫刻の様に美しいが他の者達は見惚れるどころか恐怖で顔をそらしてしまう。


「余りその姿で出歩くのもどうかと思いますが。まずはお召し物を変えてはいかがでしょうか?」

「何、今の私の姿に恐怖する兵士など鍛錬が足りない証拠ではないか。そうだろお前達」

「姫殿下のおっしゃる通りです」

「ええ。我が国にはそんな軟弱な兵士はおりません」

「だそうだが」


 エリシアの後ろに控えていた兵士達は頷き肯定する。

 兵士達は《戦血姫》であるエリシアを崇拝しておりもはや肯定するだけのカカシとなっていた。


「いらない心配でしたね。それでは私は疲れましたのでこのあたりで」

「まぁ待て」


 立ち去ろうとするクリスを呼び止めるエリシアは、クリスの肩を掴み呼び止める。


「クリス司祭此度の其方の活躍には目を見張るものがある。何か褒賞を与えたいのだが、望む物はないか」

「…教会に寄付金を頂ければ私は満足です」

「勿論、今回世話になった教会には多額の寄付金を送るつもりだ。しかしそれは教会のであって其方ではなかろう。本当に望む物はないのか?」

「……」


 暫くの沈黙を挟み口を開く。


「でしたら、今回死んでいった兵士達の家族に充分な報償金、また今回の戦争で職を失った者に新たな職を与えたりして頂けないでしょうか」

「そんな事言われずともするつもりなのだがな」

「それでしたら他に私からは何もありませんので失礼いたします」


 そう言い立ち去るクリスを呆然と見送るエリシアはその姿が消えた瞬間、堪らないとばかりに肩を震わせ笑う。


「ふ、ふふっ…相変わらずだなあの者は」

「よろしかったのですかエリシア様」

「ああよい、寧ろクリス司祭はそうでなくてはな。それでこそ『聖者』の資格に近いとされる男だ」


 鮮血に濡れるエリシアは朗らかに笑う。

 その笑みは兵士達を魅了するのに充分過ぎるな程綺麗だった。


♢♢♢♢


 ヴァーミリオン王国の城下街には今回の戦争で勝利した事への祝い事が催されていた。

 賑わう住民を見渡しながらクリスは人気のない裏路地で頭を抱えていた。


「あ〜勿体無いな〜褒賞欲しかったな〜!!でも貰えるわけないだろ!俺司祭よ。個人的に褒賞貰ったら教会の奴等に睨まれるだろ。クソッ!安月給のくせしてな〜にが『司祭とは民の幸せを願う者』だ。司祭の幸せはどうでもいいのか。クソッタレ!!」


 司祭としてあるまじき姿で。


主人公には2つの顔が存在しています。

・司祭モード

・心の声みたいに欲望と悪口のオンパレード状態

これらを使い分けて物語を進めていきます。


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