滑稽的アイロニー
チャイムがなり終わった後。廊下の静寂さを侵すように、教室のドアが開かれた。「あぁもう!なんて非人道的なテストを作るのかしら!?あの女教師は東京裁判ならA級戦犯ね!」そういいながら廊下をズカズカと一人の少女が歩いていく。その後ろを俺はついていく。少女は怒りを表現するかのように歩き続ける。「だいたい、あのミニスカートはなに?あんな醜悪なおばさんの足を公共の場で見せびらかすなんてどうかしてるわ。歩く公害テロリストね」早歩きで少女の背中を追いかける。少女の悪態はブレーキというものを知らないみたいだ。「まともな教師なら脳みそに一般的教養をインストールしてからきてほしいわね」それはお前もだろうと思う。彼女はキュッと立ち止まり、肩までで切り揃えられた黒髪を振り回しながら振り返る。そこには血色のよい少しぷっくりした唇があり、スッと伸びた鼻筋を上にたどると、長いまつ毛を携えた大きな瞳がこちらを向いていた。思わず見惚れていると、足に痛みが走る。彼女が俺の足を踏んづけていた。「何を惚けているのよ?私の言葉を聞いてなかったの?」眉間に皺を寄せながらそう尋ねてくる。俺が答えに詰まっていると彼女はため息をつく。「はぁ、しょうがないわね。もう一度特別に言ってあげるわ。あんた、お尻をだしなさい」言われた通りにズボンを下げようとすると、先ほどよりも強く足を踏まれた。「あんた馬鹿?あんたの脳みそがそんなに重症だなんて知らなかったわ」「いや、てっきり掘られるのかと思ってな」そう答えると彼女は心底憐れむような目を向けてくる。「いい精神科と脳外科を紹介してあげるわ。それから葬儀屋もね」そういいつつ、彼女は俺を後ろに向けて頭を押さえる。ちょうど彼女に尻を突き出すような間抜けな格好だ。何をされるのだろうと考えていると、尻に衝撃が走る。その衝撃は脳みそまで伝わり、思わず前につんのめる。盛大に転けた。尻をさすりながら彼女を抗議の目で見上げる。彼女はスッキリした顔をしていた。「あんたはやっぱりサンドバッグが天職ね。きっと前世は世界チャンプの相棒だったんでしょうね」そして、俺の抗議の視線に気づく。「なに?その目は?こんな美少女に蹴られることの良さがわからないなんてあんたもまだまだお子ちゃまね。髪も人間関係も孤独になった数十年後のあんたなら、私を見てきっと天使だと思うでしょうね」こんな殺人的な蹴りをかます天使がいるのなら、悪魔はきっと尻尾を巻いて逃げるね。彼女は倒れる俺の腕を掴み、思いっきり引っ張り起こす。そして腕を掴んだまま走り出す。「おい、どこにいくんだ?まだテストは…」彼女は笑顔で走り続ける。俺は内心ため息をつきながらも、力強く引っ張っている、その小さな背中を見つめた。前にイチャイチャしてるカップルがいた。「退きなさいっ!超重戦車で引き延ばすわよ!」こんな奴について行っていいんだろうか?そんな考えを吹き飛ばすかのように、彼女は走り続けた。