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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小学1年生、街を作る

作者: あがた

 私は保育園に入園してから中学二年生まで、同輩から暴力と罵倒と無視を受けて暮らしていました。


 小学校一年生になった時のことでした。

 私は友達に飢えていました。どうして自分が嫌われているのかまだわからず、みんなと仲良くしたくて、どうすればいいか考える日々でした。

 そこで私は、教室に街をつくることにしたのです。


 街を作れば、教室でお店屋さんごっこが出来ます。物を買ったり売ったりできたら楽しいでしょう。

 発案者が私ならば、仲間に入れてもらえるかもしれません。

 私は、一縷の望みをかけて、画用紙にハサミを入れ始めました。


 そう、私が最初に作ったのは『銀行』でした。

 店を開くにも、物を買うにも、お金がなくてはいけません!当時の私は、貨幣は必需品だと思ったのです。


「なあにこれ?」

「おかねじゃん!」


 紙でお金を作った私の机の周りには、瞬く間に人だかりができました。

 私は、私が作ったお金を無料で人々に配り、貨幣経済の基礎を作り上げました。


「へん!買う物ないじゃん」


 暴力と無視をしてくる者が陰口をたたきます。私はにっこり笑って「お店を開くといいよ」と言いました。


 次の日、学校に行ってみると教室は様変わりしていました。

 生徒たちの椅子の後ろには、白い画用紙が貼ってあり、それぞれに「花屋」とか、「ごはん屋」とか「洋服屋」とか名前が書かれていました。

 「剣屋」なんてのもありました。みんながみんな、めいめいお金を持って自分の店から他人の店へ、買い物に出かけています。

 私は一日にして、教室に街を作り上げたのでした。


 しかし、物事はそう上手くは行きません。その後、私がさっそく物を買おうと自分の使ったお金を持っていくと、私の作ったお金は使えないと、門前払いされました。

 貨幣の置換が起こっており、私の作った貨幣は一夜にして価値を失っていました。


 私は打ち砕かれた気分で、しょんぼりして、机に戻りました。

 そして、ずっと何も買ったり売ったりできないまま街を追放されてしまいました。


 時が経ち、私は大人になりました。

 既に故郷から引っ越し、土地を離れていた私ですが、墓の掃除のため家族とその土地を再訪しました。

 帰り際、父が言いました。


「どこか寄りたい所はあるか」


 私は少し考えて、「小学校に寄りたい」と言いました。

 父は車を回して、小学校に行ってくれました。

 私は、車から降りて、早足で一年生の教室まで歩いて行きました。

 一年生の教室は、一階の角部屋です。

 ドキドキと心臓が鳴り響きます。後二メートル、一メートル。

 私は教室の前に立ちました。そして、中を覗き込みました。

 その日は休日で、教室にはもちろん人っ子一人いません。

 人気のないがらんとした教室の、椅子の後ろ側に、確かに「花屋」や「ジュース屋」と書かれた画用紙が貼られています。


 街はいまでもそこに生きていたのでした。


 私が居なくなっても、小学一年生が代替わりしても、仕組みだけを残して存続しつづけていたのです。

街を作った私の行動はまったくの徒労ではなかったと、教室は証明してくれました。

私が作り出した街は、今もって小学一年生たちに影響を与え続けていたのです。


 私は、首を引っ込めると、黙って踵を返しました。

 私はもう戻れない。もう一度子供になって、この教室に入り、子供たちと街を歩き回ってつらい記憶を楽しい記憶に変えることができたら、どんなに良いでしょう。

もちろん、そんなことは不可能です。

だけど、街は今でも生きている。


 もう自分が二度と暮らすことのできない街を背に、私はゆっくりと歩き出しました。


 誰にも言うあてはありません。だけど、私は叫びたかった。

 この街を作ったのは私です。と。

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