08 彼女が眠っている時は幸せなのか?
「咲夢さん!!」
俺は慌てて目を覚ました。
壁に備え付けられているデジタル時計に目をやれば、まだ丑三つ時だ。
変な夢を見ちまったな。でも、考える面では悪くなかった夢なのかもしれない。
助ける宣言……俺は一体、咲夢さんの何を知っていて、そう言ったんだ。
恥ずかしいにも程があるだろう。
暗殺業から離れすぎて、ついには頭の中もお花畑ならぬゲーム脳になったって言うのか?
――このおんぼろマンションもだけど、設備的な金銭面でも辛かったし、考えてみるか。
俺を肯定する言い訳に過ぎないが、金銭的には自分一人を養うだけで精一杯だ。
咲夢さんがどこに住んでるかは不明でも、内容次第では依頼を引き受けてもいいかもな。
どこに逃げようにも、咲夢さんが本当に夢から干渉してくるなら、俺は逃げられないんだ。
どこに居ても、どこで眠っても、咲夢さんは俺の夢に入ってくる。なら一層、清々しく近くで依頼として遂行した方が身のためなのかもしれないな。
外壁を固められてしまえば、俺はどの道選択権が狭まるだけだ。
――俺は、咲夢さんに怯えているのか?
そんなの世迷いごとに過ぎないか。
朝にでも雇う内容を確認しようと、もう一度眠りにつこうとした時だった。
「……は? なんで居るんだよ……」
布団をかけ直そうとした時、手は確かに柔らかな感触をとらえた。
暗闇に目を凝らせば、咲夢さんが俺のお腹の上で心地よさそうに寝息を立てて眠っている。
あのすいません、間違って咲夢さんの肩を掴んだのですが、こういう時に限ってどうして胸を触るとかのラッキースケベパラダイスじゃないんだよ!
男っていうのは、正々堂々触るのが正直嫌なんだ。
手すりとかを持とうとした時に、す、すいません、くらいのお互いに謝る気まずい空気がありつつも、柔らかな手を触っちゃったぜラッキーな条件が一番残るんだよ!
と妄想は膨らませたのは良いんだけど、どうして咲夢さんがここに居るんだ?
俺は確かにお風呂から上がった後、彼女を俺のベッドで寝かせている。
いくら記憶を忘れやすい俺でも、これは絶対に間違えていない。
女の子に触れるのは、寝ている相手だから気まずいんだよな。
「はあ。人の気も知らずに、心地よさそうに眠ってよ。……床にカーペットが引いてあっても、風邪ひくだろ」
咲夢さんはワンピース型のパジャマであり、温かそうなのだが、今は寒い季節なので風邪を引かないとは言い切れないだろう。
髪を洗う決断をしたあの時間を無下にされたら、普通に困るんだよな。
俺は咲夢さんに聞かないといけない事もあるし、まだ眠気が襲ってきている。
「……どうするか」
俺は頭を悩ませた。
時間的には丑三つ時で、咲夢さんを叩き起こすには早い。
とはいってもこのままでは風邪を引かれてしまうので、俺は自分にかけていた布団を咲夢さんにかけた。
――とりあえず、ベッドに運ぶか。
俺は咲夢さんを起こさないようにして、お姫様抱っこをした。
咲夢さん、胸はでかいんだけど、意外と軽いんだな。
女の子の体重を気にするには失礼かもしれないが、俺的には綿を持っているみたいで本当に軽いんだ。
シチューを食べて泣いていたみたいだし、しっかり栄養を取れてるのか?
俺はそんなことを考えながら、自分のベッドへと咲夢さんを運んでいく。
「手間をかけさせやがって……」
咲夢さんをベッドで横にさせ、布団をかけた俺は、思わず息を吐き出した。
寝ている時の咲夢さん、幼い子みたいに幸せそうな笑みを浮かべているけど……人の夢と繋がる、つまりは嫌な部分も全面的に受けている可能性があるんだよな。
部屋に入ったのはいいけど、裸足なのも相まって意外と冷たかった。
「寒いな。手は出さねえから、俺も入れろ」
俺は何を思ったのか、ベッドの大きさ的に空きがあったので、同じ布団の中に潜り込んでいた。
咲夢さんに手を出さないけど、寒いのは寒いんだよ。
……女の子って、意外と温かいんだな。
布団をかけ直した際に咲夢さんと距離が詰まったのもあり、俺は確かな温かさを実感した。
「……別に他意はないからな」
俺は自分に言い聞かせるように、瞼を閉じた。