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25 愛でられたい仮面の少女を攻略する

「いてて……ここはどこだ……?」


 目を覚ませば、未だに夢の中みたいだ。

 周りを見渡せば、続く限りの真っ黒な空間に、枯れた灰のような砂が上から降ってきている。

 地面に降り積もっているこの砂も、夢の一部なのか?


 そんな不明な世界で、俺は目を凝らした。


「咲夢さん」


 幸いなことに、咲夢さんは俺と同じ場所に不時着していたらしい。

 夢なのもあって、十字架に括りつけられている咲夢さんに傷ひとつ見当たらない。むしろ、十字架なのが功を奏したのか、斜めに突き刺さって衝撃を殺してくれたようだ。

 とはいえ……伸ばした手が足りなかったのは、悔やまれるんだけどな……。


 俺はその場で立ち上がり、ゆっくりと近づいた。


「今自由にさせるから」


 迷うことなく、具現化させた銀色のナイフで、咲夢さんを括りつけていた呪縛を切り裂いた。


 解かれるままに倒れ掛かってきた咲夢さんを、俺は両腕を広げて静かに受け止める。

 意識を失っているだけで、小さな呼吸、胸の揺れは確かに感じる。


 ――咲夢さん、待たせてすまなかった。迎えに来た。


 安堵するのも束の間だった。

 砂を踏む音が聞こえて、後ろを振り向けば、そこには夢々が立っていたんだ。


「……夢々」


 現実の咲夢さん、そして夢の中の咲夢さん――夢々に挟まれる形なのは、やっぱりなれたもんじゃないな。

 というかこの雰囲気、面倒くさそうだ。


 ここに落ちてくるまでに何があったのか、夢々の服は何気にボロボロで、黒い服とスカートは大事なところだけを隠す(いにしえ)の服みたいな恰好になってやがる。

 夢とはいえ、夢々の力が切れた、もしくはこの場所が影響して修復できないんだろう。


 隠そうとしていない豊満な胸の上部分に、ボロボロ布になったスカートから覗く下着……夢だとしてもこれはあかんでしょう?

 何気に白い肩も見えているわ、もっちりとした太ももも見えているわ、欲深い感情をちくちくと刺激しやがる。


 夢々は何かを察したのか、片腕にもう片方の手をかけてから、俺の方にゆっくりと歩んできた。


「どうして……どうして彼女じゃないと、オリジナルじゃないと駄目なの……」


 夢々の問いに、俺は正直面倒くさくなった。

 抱いていた咲夢さんを、傷つけないように瓦礫になった地形を壁にして座らせる。

 俺は着ていたパーカーを脱ぎ、夢の中でも咲夢さんが風邪を引かないようにかけた。


 一段落してから、俺は頭を掻いて、夢々を見たんだ。


「夢々もオリジナルじゃないのか?」

「……え?」


 狐を模した欠けた仮面は、驚きを見せた瞬間、地に落ちたんだ。

 仮面という素顔を隠すものが取れると、まんまるな大きい水色の瞳に、ぽかりと開いた口がまじまじと見える。


 夢々、咲夢さんと同じ姿をしているから、こいつも可愛いんだよな。

 夢々はやっぱり納得していないか。


「確かにさ、夢は全てを現実にして、あんなことやこんなこと……しまいには壊したり、消したり、出来ない事を出来る場所――いわば仮想空間そのものさ」


 夢は領域だとルディアは仮説を立てていたが、それは間違いないだろう。

 自分の持つ記憶の整理を行い、自分の望む願いを実現して満たされ、現実では領域から解き放たれて絶望する……個の持つ願いだから。


「でも、その中でも夢々は……意識を持って、一人の存在として、俺と咲夢さんの前にいるじゃないか」

「……それは、翔様が一番よく知っているでしょう」

「ああ。俺があの依頼を失敗したから、夢々が咲夢さんの主導権を握って、俺の記憶を意識として消した」

「だから、私はただ分離しただけの、二重人格みたいなもの」

「本当に二重人格の一つだとしても、今までの行いに道理性のある納得を通すのは不可能だろ?」


 夢々が生まれてしまった原因は、他の誰でもない……俺だ。

 だから終止符を打つってわけじゃないけど、多少心残りはあるんだよな。

 遠まわしに説明をしていても、夢々はピンとこないのか、首をかしげている。


 少し臆病にうるうるとしている水色の瞳。これだから、咲夢さんが美人だと思える理由もあるんだよな。


「わあったよ。分かりやすく言ってやるよ」

「……」


 反応は無いが、まあいいだろう。


「夢々……お前が俺に見せてきたあの記憶は、幻じゃなくて実際にあったことだ。でもそれってさ、夢々が咲夢さんを陰ながら見守っていた、意識ある存在だからじゃないか? 夢々が咲夢さんに興味無いと具体的な場面にならないだろうしな」


 いくら夢とはいえ、記憶を保管しておくにも限度があるはずだ。

 その中でも夢々が見せてきたのは、明らかに二人を見守っている、そんな光景だった。

 だから俺は確信を持って、夢々が夢々であると理解できたんだ。


「だから、夢の中で会える夢々……いや、咲夢さんもオリジナルだし、現実の咲夢さんを見守れたんじゃないのか?」


 夢々は力が抜けたように、腕を自然とぶらさげた。

 それでも拳はぎゅっと握りしめられ、力が入っているって目に見てわかる。


「どうして、そうやって言えるのですか……」


 震えた声は、確かに俺の耳に届いている。

 俺は無意識のうちに、夢々に近づいていた。

 夢々を寄せるように抱きしめると、その体は確かに震えているし、夢なのにあったけぇ柔らかさを実感させてきやがる。


 本当に、罪深い奴だよ、夢々は。

 抱きしめたせいか、横に見える夢々の瞳に、目尻に水が溜まっているのが見えた。


「寂しい思いをさせて、気づいてやれなくてすまなかった」


 夢々は分離した意識の一つだ。

 その中でも夢々は、咲夢さんの持っている、愛でられたい欲求的な感情の一つだったのかもしれない。

 だから俺は夢々を、夢の中の咲夢さんの攻略方法を決められたんだ。


 俺は夢々を泣かせるために、力を入れて更に抱きしめた。

 大きな胸が俺の胸板で形を変えて変形しちまうほどに。


「お前の助けは、聞こえていた。……最初に出会った咲夢さんは、夢々だったんだろ?」

「うん。だって、翔様を渡したくなかったから……咲夢の奴、仮面を外したのを機に意識を戻して、翔様に手をかけてもらって、ズルすぎるのよ」

「そうか」


 別に彼女との意識関係にとやかく言う気は俺に無い。

 だけど一つだけ、言わないといけないことがあるんだよ。

 俺は夢々の耳に口を近付けて、覚悟を決めた。


「俺が心から愛せるのは現実の咲夢さんだけだ。でもな……夢の中でのもう一人の咲夢さんも愛してやる」

「……馬鹿じゃないですか……翔様は優しすぎるのですよ」

「感情を持った暗殺者で、ゲームに溺れた攻略者だからな」


 そう、夢々の攻略方法は、愛する事だったんだ。

 夢々は夢の中で咲夢さんと本来一つだったが、夢の中でしか生きられない意識……その寂しさや孤独から生まれてしまった、もう一人の悲劇のヒロイン。

 そして咲夢さんの夢と波長の合う俺と出会って、夢々は歪んで、夢という理想の境界を超えちまったんだろうな。


 俺は夢々の温かさを堪能してから、そっと体を離した。

 その泣いた顔も、かわいいんだけどな。


 ――俺はここにいる。だから、好きなだけ泣いておくんだな。


 夢々は俺の胸に顔を埋めて、小さくも、か弱い啜り声を漏らしていた。

 夢々の頭を撫でながらそっと見上げる頭上は、光も差さない暗い地の底なのに、明るいな。

 少しすれば、夢々は落ちついたのか、俺を見上げている。


「翔様、これは私からの依頼です。現実の私を、咲夢を愛してくださいね」

「……できたらな」

「できたら、じゃないですよもう。夢の中でだけ格好つけるのは格好悪いですよ」

「かっこつけてねぇよ」


 泣き終わったら泣き終わったらで、こいつはおせっかいを焼いてきやがる。

 とはいえ、夢々とはここでお別れか。


「翔様、言っておきます。ここは夢の最奥地、所謂意識(いしき)墓場(はかば)です。でも、翔様は大丈夫ですよね」

「……ああ」


 俺は夢々を心配させないように、力強くうなずいた。

 すると、落ちてくる砂に紛れて、夢々の後ろに大きな窓みたいなもんが現れたんだ。

 窓が開くと、夢々は後ろに下がっていった。


「翔様、ここで私とはお別れです」

「ああ、先に行っててくれ」

「……私を愛してくれて、ありがとうございます」


 ぱたんと、窓は締まり、姿を消していた。


 俺は残っていた夢々の感触を、両手で握りしめるように自身の胸元に寄せていた。


 ――愛でられたい仮面の少女……攻略完了だ。


 首を振ってから、後ろで眠っている咲夢さんに目をやる。


 ――現実の……過去からの出会いの咲夢さんと向き合わないとな。

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