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24 終点まで

 俺は夢々を完全に視界に入れ、無意識……夢の中でしか生きられない意識の自分を、ゆっくりと歩ませたんだ。

 繋がっていた糸は切れるように、俺の腕からぷつりぷつりと途切れていく感覚がある。

 夢の中だから、夢々の独壇場なのは変わらない。


 それでも今の今まで見せられていた光景で、俺は攻略の糸口を見つけたんだ。

 誰も傷つけない、誰も見捨てない……そんな幸せを、幸せを見つけられるような、夢を見れるように、な。


「やめなさい、やめなさいよ!」

「やめろだ? 最初に武器を取り出したのは……夢々、お前の方だ」


 夢々の感情と共鳴してるのか、映し出されていた記憶は全て解けて、俺にめがけて風が吹き荒れてきやがる。

 夢々の周囲を舞う白い埃は、黒い欠片を混ぜて肉がちぎれそうな力で飛ばしてくる。

 時間稼ぎか。でも、俺は迷いなく攻略できるんだ。


 助けを呼ぶ、咲夢さんの元に向かわなきゃいけない。


「夢は夢のままに、夢のように儚い雪と解ける命。その全てに、今は感謝する」

「夢が、保てなく――」


 自然と目を開けば、夢々の見せていた記憶は形を保てなくなったのか、割れたガラスのように落ちて、粉々に砕け散った。


 砕け散った破片は中心に吸い込まれ、小規模な光の爆発を起こした。

 爆発があっても、俺は目を逸らさないで、夢々を見ている。


 爆発が収まれば案の定、奥に続く鍾乳洞の上……咲夢さんの括りつけられている十字架のある場所に戻ってきた。

 あの記憶の世界は、所謂仮想空間に近いものだったのか。

 この夢を現実だと置き換えるのなら、その夢の中に夢の結界を作って、まるで現実のような夢見心地を体験させていたんだな。


 とはいえ、その記憶のおかげで俺は助かったが。


 俺が咲夢さんに近づこうとすれば、夢々は怯え始めていたんだ。


「……まさか、あなた」

「ああ。ありがとう、夢々。君のおかげで、自分は自分を取り戻すことが、攻略することが出来たよ」

「その笑みをやめなさい!」


 目の前に立ちはだかる夢々も気づいたか。

 どうして俺が、組織の中でも誰も成し得ない暗殺者として存在していたのかを。


 ソラ――そのイニシャルは名前の翔から取ったものじゃない、俺の行動そのものから取ったコードネームだったんだ。

 それは誰よりも、過去を知っている夢々なら知っているだろう。


 俺が誰からも恐れられ、誰も成し得なかった感情を持った暗殺者『ソラ』だったことを。

 踏みしめた地の音は鳴り、止めるものはない。


「夢々……どうして咲夢さんに固執する」

「あなたに答える気はない」


 夢々は意地でも抵抗する気か、狐を模した仮面を片手で抑えて、俺の歩幅に合わせて後ろに下がっている。


「くっ、これなら……どうして……?」

「……在庫切れか? いや、保てないようだな」


 夢が記憶の整理であるのなら、ズレた意識の弾みは波のように後になって響くだろう。


 それは今までの空間の割れ、記憶の変化、黒い手の感覚から、全てお見通しなんだよ。

 夢々、お前が今相手にしているのは、咲夢さんの唯我の気持ちを知る俺だ。


「なら、ゼロイズムを使って私を消せばいいじゃない。さすれ――」

「二度目は騙されないぞ。お前を殺したところで、夢が集まる限り、お前は復活して、もう一度俺の記憶を消して、咲夢さんと同じことを繰り返させる。俺が記憶を取り戻した時点で……攻略はもう、終わってるんだよ」


 ゼロイズム……あれは感情を消し、自身の感覚を鋭くするもので、俺には向いていない技だったんだ。

 感情を露わにした暗殺者だったから。


 ゼロイズムを使えば、俺は迷いなく夢々を斬っていただろう。

 だが感情を持って計算できる俺に、迷いが無ければ、攻略対象や刃を向けられない限りは無駄な殺生はしない。


 夢々はふらついた足で咲夢さんの居る方まで下がり、目付近の仮面を一部割ったんだ。

 その真ん丸な大きな水色の瞳も、濁ってしまっては愛せないな。

 俺は咲夢さんであっても、夢々であっても、幸せそうな姿が大好きだから。


「さあ、時間だ」

「いやよ! いやぁあああ!!」

「嘘だろ。崖が崩れて!」


 夢々の叫びは余計なことをしてくれた。

 突如、地面は揺れて、夢々と咲夢さんの括りつけられている十字架のある場所を繋ぐ鍾乳洞にヒビが生えやがったんだ。


 煙を立ててズリズリと真っ黒な夢の奥深くに落ちていきそうな中、俺は慌てて地を蹴った。


 削られた断面に体が重なる瞬間、一気に蹴りを入れて飛ぶ。


 落ちてゆく咲夢さんと、夢々、その二人を救いたい。

 面倒なことに、夢々は速度が速すぎて追いつけない。少しは無駄な脂肪を削ぎ落しておけよ、この野郎!


 苦肉の策だが、俺は括りつけられている咲夢さんの方が危険と判断して、宙に舞っている地形の破片を蹴りながら近づいていった。


「咲夢さん!!」


 落下していく中、俺は手を伸ばして、彼女の名を叫んでいた。

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