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11 夢は人類が望んだ願いを込めた聖域なのか?

「本来ならば、夢の中でお話ししておくはずだったのですが、邪魔が入ってできなかったのです」


 俺が驚いていれば、咲夢さんは淡々とした声色で話を進めた。

 邪魔……つまりはあの黒い手の話だろう。

 俺もあれを咄嗟の判断で切ってしまったが、間違いなかったようだな。


 混乱している脳の整理をしていれば、咲夢さんは話を続けた。


「私が翔様に依頼したいのは他ではなく、唯一、私に干渉できた翔様に、夢で私を守っていただきたいのです」

「夢で、守る?」


 夢で守るって、どういうことだ?


「分かりやすく言ってしまえば、私は周期的に、他の人の夢を自分の夢に取り込んでしまうので、翔様はその護衛をしていただきたいのです」

「……一歩通行じゃないのか?」

「言い難いのですが、私は他者の夢に入ると云うよりも、繋げて集めてしまう、に近いのです」


 咲夢さんの言葉に、俺は頭を整理した。

 夢の中で会った咲夢さんが仮にエーだとすれば、今居る咲夢さんは現実のビーとなる。

 仮にビーが人と出会ったのをキッカケで集めたのなら、エーが夢の中で具現化させてしまうという事だろう。


 あの黒い手を俺が夢の中で言った攻略対象だと推定するのなら、俺は悪夢と敵対している、と考えた方が良いな。

 ゲーム感覚で考えているが、夢の中で仮に捕らわれてしまえば、恐らく目を覚ますことは無い。それほど、切り裂いた時の感覚で理解できている。


 一か八かの賭け……今回の依頼は、あの日以来の危険な大金が動くものかも知れないな。


「なるほどな。つまり、俺は咲夢さんを命がけで守ればいいと」

「はい、そういうことです」

「となると……どうやってその、周期的なものを見つけているんだ? 俺が依頼を受けていない間は、どうやって凌いでいたか、それも気になるな」


 その疑問を口にした時「それは私が説明しようかねぇ」とルディアが部屋に入ってきた。


「ここは咲夢の夢を研究する、ドリームプロダクション……私の研究施設さ」


 ルディア曰く、若くしてその腕を財閥に買われたらしく、今は咲夢さんを守るための研究に没頭しているらしい。

 というか、いつの間にかルディアは白衣を着崩してやがる。


 先ほどは隠されていたが、ヘソ出しにパンツの紐が見える服のスタイル、こいつもなかなかに刺激的なファッションをしている。

 仕草をするたびに大きな山が揺れる咲夢さんに比べりゃあ、俺からすれば物足りないがな。


 何を考えているんだよ俺は、と内心で突っ込みを入れ、ルディアの話に耳を傾けた。


「咲夢の周期には咲夢本人の意思が関係しているんだよ」

「咲夢さん本人の意志?」

「そうだねぇ。人の神経波数や脳波数には波があってね……そこの機械とかで推測して、危険な日は浅い眠りにして夢を観測してるんだよ」


 この人、何気にヤバい研究をしていないか?

 人の夢をモニターで見るって、明らかに文明の発展に貢献した方が良いくらい敏腕だよな?


「だからねぇ、翔君には私の実験に付き合いつつ、咲夢を守ってほしいんだよ。元暗殺者で、咲夢の夢を攻略するって息巻いたんだ、簡単な話だよねぇ?」

「――俺に二言はねぇよ。てか、なんで夢の話を知ってるんだ?」


 夢を観測していたからに決まってるじゃないか、と言ってくるルディアに俺のプライバシーは無いも当然なのか?


 ルディアがマッドサイエンティストなのかは不明だが、警戒するに越したことは無さそうだ。

 俺はあくまで、咲夢さんの依頼を受けたに過ぎないんだよな。


 夢の中で咲夢さんを守っているだけで衣食住が保証されるなら、俺は楽な依頼を受けたのかも知れない。


 契約の内容がそれだけなら、俺は喜んで受けても構わない。

 まあ、こんな施設を見た後で断れば、人体解剖されそうで怖いんだけどな?


 その時「決定だねぇ」とルディアは言って、中央の空白のスペースの近くにある……一つだけ伸びた機械のボタンに歩を進めていた。


 何やら怪しいボタンすぎる……俺、生きて帰れるよな?


「翔君、君にはどのベッドで咲夢と寝るか決めてもらおうか」

「……は?」

「翔様、どうなさいましたか?」


 いやいや、どうなさいましたか、ってなんで平然と言えるんだよ!?

 どのベッドで、と聞かれた時点で嫌な予感しかしないだろう。


 それともあれか? 俺が飢えた狼か暴くために、心理的攻撃を仕掛けてくる高等テクニックか?

 咲夢さんが体を傾けて胸は揺れるから、明らかにそうだよな。


 ゲーム成分が不足し始めた俺からすれば、この状況は不味い。

 ガチャン、と床は開き、ベッドが姿を見せた。


「ほら、何を動揺しているんだい? こっちに来て、二人で寝るベッドを決めたらどうだい?」


 いやいや、なんで咲夢さんは何の戸惑いもなく近づけるんだよ。

 呆れていれば、カプセル型からハート形、二人で近い距離で眠るようなベッドが次々床から姿を見せやがる。

 ……あれか? ここは夢のポケットでも下に内蔵されてて、ベッドを自由に選択できる画期的なシステムでも導入されているのか?


 こっちに来な、と怪しい笑みを浮かべているルディアに、ため息一つこぼすしかない。

 咲夢さんと現れるベッドを眺めていれば、ルディアが口角を上げた。


「夢……いわば、共存戦略から逸脱した個々の結界とも言える場所だよ。しかし、その結界内で行われる現象に参入、有無の確認、人類はそれら全てができなかった」


 突如語り始めたルディアに、頭がハテナしか浮かばない。

 咲夢さんに関しては、またですか、と言いたげな表情で見ている。


「私の観測によるとだねぇ、脳の周波数が記憶を整理する中での残留思念としたんだよ」

「……残留思念ってなんだ?」

「定義は今は曖昧だよ。本当はこうしたかった、こうやって生きていたかった……それらを夢で実現させた時、幸福に満たされても、現実は満たされない。つまり、自分の願望が夢となった時、思念として夢に残留してしまうのではないか、と私は考えたんだよ」


 よく理解できねえけど……つまりは死んだら墓まで骨を自分で持っていけないってことか。

 マッドサイエンティストが考えるのは、いつの時代も平凡な人間には理解できない事ばかりなのか?


「それじゃあ、咲夢に翔君、私の哲学を聞くのはいいが、決まったかな?」

「では、この貝殻のベッドにしましょうか」

「咲夢のセンスなら問題ないねぇ」


 ちょうど目の前に出ているのは、煌びやかな真珠で彩られた、蓋つきの貝殻を模したベッドだ。

 あの、男の俺としては面倒な想像をしちまうし、一緒に寝たらビンタを食らいそうなのですが?


「……俺の選択権はどこいったんだよ?」

「翔様は、否が応でも反抗するでしょう?」

「反抗するに決まってんだろ」

「では、私が権利を持っていてもおかしくないです」


 こいつ、仮面を被ってたら人の話を聞かないな。


「そうそう、翔君」

「あ?」

「そう圧をかけるものじゃないよ。今の咲夢の夢は周期的だ……だから、次の執行日は四日後になる。それまでに、咲夢との距離を縮めておくことだよ」


 呆れたところで決定事項ってことか。


 ――四日後、クリスマスじゃないか。


 クリスマスとは縁も無縁だが、よりによって行事に重なるのはどうなんだろうな。


「翔様と、距離を縮める……」

「なんでお前は照れてるんだよ」


 その後、俺は自分の住まう場所と学校の件、荷物を受け取るのだった。

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