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01 元暗殺者と仮面の少女の出会い

「どうやら……めんどうくせぇなぁ」


 新作ゲームの発売当日だというのに、絶対に面倒な事件に巻き込まれる匂いが香ってくる。

 俺こと上村(かみむら)(かける)は、人目のない道で、通りかかろうとしていた路地裏前で横たわっている数人の黒いスーツの男を見て、頭を掻いた。


 変な夢まで見て気分が悪いのに、不幸はこうも重なるものなのか、と自分に小一時間問い詰めたくなってしまう。


 耳を澄ませば、暗い路地裏から微かだが、か弱くも美しい声が聞こえてくる。


「……たすけ、て。おねがい、助けて、くだ、さい……」


 怯えている猫の声にも似た、女の子の声だ。

 聞き覚えがないのに、どこか胸の内をかいくぐる、そんな切ない声。


 同時に聞こえてくるのは、その助けを求める声の主に迫っている輩の声だ。


 今ここで路地裏に飛び込めば、俺は瞬く間もなく事件に巻き込まれるだろう。

 手前に転がるやつは息があるが、いつまで持つかは不明だ。見たところ外傷は無いが、服の内側は傷を負っていると瞬時に理解出来るのだから。


 俺はその場に立っているだけなのに、手は震えていた。

 武者震い、いや、ただ過去を忘れたいだけの臆病の震えだ。


 ちょっとため息をついて、俺はそこら辺の小石を拾い上げ、ポケットに隠して路地裏に足音もなく入っていく。


 ――たかが娘一人に数人の男がわらわらと、情けねえ話だな。


 路地裏に入れば、薄汚い男に今にでも攫われようとしている――狐を模した白い仮面をつけた少女がいた。

 そして男は数で三人。それぞれガタイがよく、黒スーツの男が倒れていたのも納得だ。


 俺はわざと足音を立て、餌に群がる男共に近づいていく。


「おい、その子を離してやれよ? 怯えてんじゃねぇか」

「あーん? てめぇ、誰だ?」

「……にげて、ください」


 自分が攫われそうだっていうのに、他人の心配を出来るのは称賛に値する。

 か細い声の少女さん、あんたの言葉は確かに受け止めた。だがよ、男は時に、その足で立ち向かう覚悟が必要なんだ。


 人々の幸せを望む……それが今の俺の夢だから。


 高校生の俺よりもガタイのいい大人の男は、二人で前方と後方を塞ぎながら囲ってきた。


「わりぃけど、その子を離してくれ。二度は言わねぇぞ」


 ギロッと睨めば、どうやら怒りを買ってしまったらしい。


「兄ちゃん、俺らに喧嘩を売ったこ――」

「口よりも手を動かせよ……素人が」


 とりあえず、後ろから話していたやつの顔面に肘をねじ込んだ。

 鼻の骨は折れたかもしれないが、俺は生憎手加減を知らないんだわ。


 どさっ、と音を立てて倒れる男を目にしてか、前の男は怒りを込み上げさせていた。


「ちっ、このクソガキィ!」


 銀の光を帯びた刃物。

 喧嘩とはいえ、それを出したらもう、ただでは済まないだろ。


「くらいやがれぇっ!!」

「おいおい、ちょっと借りるぜ」


 俺は僅かな動作で、ナイフの軌道を目前ギリギリで避ける。そして、正面から突っ込んできたやつの手から、ちょっとナイフを拝借させてもらった。

 ついでに勢い余った男の足をかけ、男の胴体を宙に浮かせる。

 反抗する奴ほど、力の入れ方の重心がなってない時が多い。むしろ、感情的になったやつほど、な。


「ほら、返すぜ」


 俺はそいつにナイフを返すついでに、赤い花を頭に活けた。

 相手が悪かったな、としかこれはいいようがないな。

 俺はただ、その場に立っていただけだ。


 淡々と片づけたのが不味かったのか、少女を拉致していた男が逃亡を図り始めていた。


「ば、化け物が!」

「きゃっ!」


 男は背を向け、少女を片腕にはめて奥へと逃走を図った。

 もちろん逃がすつもりはない。

 手際よくポケットを探り、俺はさっき落ちていた小石を取り出した。


「頭に気をつけな」


 俺はそう言って、小石を壁に向かって勢いよく振りかぶる。それと同時に、俺も走り出す。


 小石はカンカンと音を立てて壁を跳ね、逃げていた男に追いつく。

 タイミングよく男の通る直線をめがけて軌道を修正し、頭に当たって男はバランスを崩した。


 すかさず壁を蹴って追いついた俺は、そいつの股間に思いっきり蹴りを入れ込む。

 

 鈍い音と共に男が少女を離したので、ありがたく頂戴させてもらった。


 男は泡を吹いて倒れてしまったが、悪く思わないでくれよ。これでも、出来る限りの手加減はしたんだ……約一名を除いてだが。


 俺はとりあえず少女の手を取り、路地裏を出た。


「お嬢さん、怪我はないかい? ……すまなかったな、悲惨な現場を見せちまって」


 見たところ、仮面の少女に外傷はなく、綺麗なまま攫われそうになっていただけらしい。

 光の当たった場所で改めてみれば、少女は仮面をつけている不思議はあるが、清楚なお嬢様の服を着ている。また、同じ年ごろくらいの子と比べても何と言うか、胸がでかくないか?


 そんな少女をどこかで見たような気はするが、生憎俺は物忘れが激しいんで勘違いかもしれねえ。


 表情こそは見えないけど、艶のある白髪を後ろでツインテールさながらの三つ編みにしている少女は、服に付いていた埃を払っていた。

 惨劇を見たって言うのに、この子、やけに冷静すぎる。見た感じ、俺と同じ高校一年生くらいだが、生憎この胡散臭い町では見たことがない雰囲気を持っている。


「助けていただきありがとうございます」

「別に俺は助けた訳じゃねえよ。……急に居なくなって、悲しむやつを見たくないだけだ。分かったら、とっと家に帰るんだな」


 悪いが、俺が関与できるのはここまでだ。

 なぜなら俺は、この後新作のゲームを買う予定があるからな。


「……はい、私です」


 気づけば、少女は携帯を取り出し、誰かに電話を掛けていた。

 めちゃくちゃ小声過ぎて聞こえないんだが?


 電話の相手に聞こえているのか、聞いているこっちが不思議なくらいだ。

 少女は話が終わったのか、携帯をしまい、俺の方を見てきた。

 仮面をつけているので視線は不明だが。


「あなた、お名前は?」

「……上村翔」

「翔様ですか。……そこのゴミは私たちの方で隠蔽しておきますので」

「俺のまえでよく隠蔽って言えるな?」

「無礼を承知の上で頼みたいのですが、翔様の家に連れて行っていただけませんか?」

「……は?」


 仮面の少女の唐突な申し出に、俺は頭がこんがらがるのだった。

お読みいただき誠にありがとうございます!

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