表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第三部 地球人になろう!

エイレネたちは、これからの地球の未来について議論を重ねていた。

プロメテウスがふと思いついたように言った。

「ところで、リョウマさんなら、どう考えるんだろうな?彼の発想だったら、どんな表現をするのか、気になるなぁ…」

その一言にみんながうなずいた瞬間、会議室の扉がそっと開き、マコテス所長が顔を覗かせた。柔らかな笑みを浮かべながら、彼が口を開いた。

「リョウマは、お姉さん思いの弟でな、乙女姉さんに『日本を今一度せんたくいたし申候』と手紙を書き送っているらしいんだ。もし今、彼がこの場にいたら、きっと『地球を今一度せんたくいたし申候』って言うんじゃないかな」

その言葉に、エイレネの目が輝いた。

「それって、とても素敵な発想ですね!」と笑顔で言った。

「洗濯を終えた地球には、『地球人』と呼ばれる人たちが生きることになるのかしら。未来の人々が『自分は地球人だ』って誇らしげに名乗れるようになったら、すごくいいことだと思う」

 第三部 地球人になろう!


3-1 地球人ってどんな人?

エイレネたちは、これからの地球の未来について議論を重ねていた。

プロメテウスがふと思いついたように言った。

「ところで、リョウマさんなら、どう考えるんだろうな?彼の発想だったら、どんな表現をするのか、気になるなぁ…」

その一言にみんながうなずいた瞬間、会議室の扉がそっと開き、マコテス所長が顔を覗かせた。柔らかな笑みを浮かべながら、彼が口を開いた。

「リョウマは、お姉さん思いの弟でな、乙女姉さんに『日本を今一度せんたくいたし申候』と手紙を書き送っているらしいんだ。もし今、彼がこの場にいたら、きっと『地球を今一度せんたくいたし申候』って言うんじゃないかな」

その言葉に、エイレネの目が輝いた。

「それって、とても素敵な発想ですね!」と笑顔で言った。

「洗濯を終えた地球には、『地球人』と呼ばれる人たちが生きることになるのかしら。未来の人々が『自分は地球人だ』って誇らしげに名乗れるようになったら、すごくいいことだと思う」

みんながその想像に感嘆の声を上げると、ディアナも面白そうに笑った。「『地球人』って響き、まるで私たちが目指している地球政府の未来そのものを体現しているようじゃない?」

その時、パンドラがふとミエナに目を向け、「ミエナ、もし『自分は地球人だ』って名乗る人や、『地球人になろう』って呼びかける人がいれば教えてくれる?そして、地球人ってどんな人のことを指すのか、私たちも知りたいわ」と頼んだ。

ミエナは、一瞬目を閉じて検索を始めた。

そして、優しい声で話し始めた。

「『地球人』という言葉には、実は古くからある意味が込められているんです。それは、単に国籍や民族にとらわれず、地球全体を一つの家族と捉え、共に生きようとする人々のことを指します。また、これまで多くの人々が、環境問題や平和について考えるときに『地球人』という表現を使ってきました。たとえば、ある環境活動家はこう呼びかけました。『私たちは地球人として、共にこの星を守る責任がある』と」

「それって、私たちが目指している地球八策の思想そのものですね!」とプロメテウスが興奮気味に言った。

ミエナは微笑んで続けた。

「『地球人』になろうと提言する人々は、たいてい人種や国籍の枠を超えて共に協力し、地球の未来のために行動する意志を持つ人たちを指しています。皆さんのように、問題を越えて協力し合う人たちを『地球人』と呼んでもいいかもしれませんね」

エイレネはうなずきながら微笑み、「そうですね、私たちも地球人になれるように、そして多くの人が地球人だって思えるように、この道を歩み続けましょう」と静かに決意を新たにした。

 その場の空気は一層和やかになり、エイレネたちは「地球人」としての未来を、さらに深く感じていた。


エイレネがふと立ちあがり、「地球人になったら、まず何をするべきなんだろう?」と、心の中で問いが浮かび上がった瞬間、すぐにミエナのホログラムに向き直った。

「ねえ、ミエナ。もし私たちが本当に『地球人』として生きるなら、最初に何をしなきゃいけないと思う?」

ミエナはエイレネの瞳を見つめ返し、少し考えてから柔らかく答えた。

「まず最初にすべきこと…それは『共通の理解を築くこと』だと思います。すべての地球人が、自分たちが同じ星に住み、同じ未来を共有していると気づくことです」

「共通の理解…」エイレネは小さくつぶやきながら、その言葉の意味を考え始めた。

ディアナが頷きながら、ミエナの言葉に共感したように話し始めた。

「それって、各国や文化、意見の違いを越えて、本当に互いを理解し合うってことよね。きっと簡単じゃないけど…」

ミエナは続けて、静かに言葉を紡いだ。

「理解の先にあるのは、共に支え合う責任です。気候問題、戦争、経済格差——これらは一国だけの問題ではありません。全ての地球人が、それぞれの暮らしの中で少しずつでも行動を起こす必要があるのです。そして、行動を支えるのが共通の理解です。人類は一つの家族で、地球はその家だという認識を皆が持つことが、第一歩なんです」

プロメテウスが深くうなずいた。

「つまり、地球人として生きるためには、まず互いの存在を尊重し、支え合うための共通意識を持つことが必要なんだな」

エイレネは満足そうに微笑みながら、「私たち一人ひとりが、地球という家族の一員であることを知り、その一員としての役割を果たす準備をすること。それが、私たちが地球人として最初に取り組むべきことなのね」とつぶやいた。

みんなは静かにうなずき、地球人としての道のりを一歩ずつ進むための決意を新たにした。


エイレネは、ミエナから教わった『地球人として最初にすべきこと』を整理してみた。

①すべての地球人が、自分たちが同じ星に住み、同じ未来を共有していると気づくこと

②各国や文化、意見の違いを越えて、本当に互いを理解し合う

③理解の先にあるのは、共に支え合う責任です。

④気候問題、戦争、経済格差——これらは一国だけの問題ではありません。全ての地球人が、それぞれの暮らしの中で少しずつでも行動を起こす必要があるのです。

⑤そして、行動を支えるのが共通の理解です。

⑥人類は一つの家族で、地球はその家だという認識を皆が持つこと

⑦互いの存在を尊重し、支え合うための共通意識を持つこと

⑧私たち一人ひとりが、地球という家族の一員であることを知り、その一員としての役割を果たす準備をすること


3-2 最初の『地球人』を体験する

 エイレネがふと、「でも話が壮大すぎるし、ちょっと抽象的すぎるわ。もっと具体的に、地球人として何をすべきかを知りたいの」と、つぶやいた。

その瞬間、会議室の壁から影が揺らめき、一歩前に出てきたのはリョウマだった。

彼は少しニヤリと笑い、「それなら、狩猟採集時代の家族や仲間たちのことを考えたらええぜよ」と、力強く言った。

リョウマの言葉に驚きつつも、エイレネたちは真剣に耳を傾けた。

マコテス所長がその様子を見て、にんまりと笑みを浮かべた。

「それなら、いいことを思い出したよ。実はね、SimTaKNで昔の生活をマルチエージェント・シミュレーションで再現したことがあるんだ。みんなをその時代に送り込んでみようか?」

エイレネは目を輝かせて、「やってみたい!ぜひお願い!」と声を上げた。

ミエナも自分が作り出しているリョウマなのに、吾ながら自分自身の中の『リョウマ』に感嘆するように、「さすがリョウマさんの発想!『地球人』を具体的に知るために、まさか原始時代の生活を体験させてみようなんてことになるなんて!」と、楽しげに言った。

こうしてエイレネたち4人は、マコテス所長の指示のもと、体験型カプセル装置の中に入って、ミエナの操作で原始時代に送り込まれた。

まばゆい光に包まれて気がつくと、そこは狩猟採集時代の広大な草原だった。

目の前には、見知らぬ人々が集まり、動物の皮でできた衣をまとい、食料を手にしていたり、火の周りで語り合っていたりする。

ディアナは目を見開き、「ここが…原始時代の人々の生活?私たちが知っているものが何もない…すべてが人の手で作られてるのね」と、感嘆の声を漏らした。

プロメテウスは地面に落ちている石を拾い上げ、みんなに見せた。

「これがこの時代の道具だ。狩りや身を守るためにはこういった石を削り、武器にしていたんだ」

4人はその場で、狩猟に出かける仲間たちや、採集に向かう女性たちの姿を観察していった。

彼らの間には明確なリーダーや法もなかったが、お互いに協力し、役割を分担し合って生きていた。

そして何より、すべてのものを共有し、自然とともに生きている様子が見て取れた。

そのうちに、若者たちが狩りから戻ってきた。

見事に捕らえた獲物を手にしており、集まったみんなで喜びを分かち合っていた。

エイレネはその光景を見て、「彼らは、自分のものや他人のものなんて気にせず、全員で分け合っているのね。協力こそが、この時代の『地球人』の第一歩だったのかもしれない」と、つぶやいた。

ディアナが続けて言った。

「今の時代に生きる私たちが忘れがちな、大切なことね。共に生きる意識、相手を思いやる心。それが『地球人』の本質かもしれないわ」

こうしてエイレネたちは、この原始時代のシミュレーションを通じて、「地球人としての基本」について理解を深めていった。


3-3 ホッブズとルソーの世界

マコテス所長は、モニターに映るエイレネたちが狩猟採集時代の生活を体験している様子を、静かに見守っていた。

彼らが自分の役割を分担し、協力し合う原始時代の人々と触れ合っている姿に、所長は一人、満足そうにうなずいた。

「やはり、こうした体験が彼らにとっての学びとなるようだな」とマコテス所長は独り言ちた。

そして、ふと記憶が蘇った。

そういえば、SimTaKNで、さらにもう一段階進んだ農耕牧畜社会のシミュレーションも行っていたことを思い出したのだ。

「ミエナ、彼らを次の仮想体験に送り出してくれないか。狩猟採集社会から一歩進んだ農耕牧畜社会を体験させてみよう」

ミエナはその言葉に、すぐさま画面上の操作を始め、エイレネたちに次の仮想体験への準備を促した。

エイレネたちは遠くから彼らを見守っているマコテス所長の意図を察し、再び気持ちを切り替えて仮想体験カプセルの中で身構えた。


鮮やかな光の中に包まれると、気がついた時には広大な草原が眼前に広がっていた。

が、先ほどの狩猟採集時代のような景色とは少し異なっていた。

周囲には大地を耕す人々、羊や牛を飼う者たちの姿が見える。

ディアナが目を細めて周りを見渡した。

「ここは…さっきとは違う。人々が作物を育てたり、家畜を飼ったりしているわ。どうやら農耕と牧畜が始まった時代みたいね」

プロメテウスが土を触りながら言った。

「なるほど、この時代の人々は自然から得るものを頼るだけでなく、自分たちで食べ物を作り出しているんだな。すごい進歩だ」

その時、エイレネは子供たちと一緒に小麦を刈っている女性の姿に目を留めた。

彼女の表情は穏やかで、収穫の手伝いをしている子供たちと笑顔を交わし合っていた。

その横には、収穫を手伝う他の仲間たちも見える。

パンドラがそれを見て、感嘆の声を上げた。

「この時代には協力がさらに進化しているわね。人々が集まり、農作業を分担し合うことで、より安定した生活を築けるようになっている」

エイレネは感慨深げにうなずいた。

「狩猟採集時代の協力もすばらしかったけど、ここではそれがさらに組織化されて、家族やコミュニティとして支え合っている。地球人としての絆が、どんどん深くなっているのかもしれない」

彼らはしばらくの間、農耕牧畜社会の暮らしを観察しながら、その場で体験している人々の様子に見入っていた。やがて、暮らしに必要な協力の本質が、形を変えながら時代を超えて続いていることに気づき始めた。

 マコテス所長は、モニターの前で彼らの反応に満足そうに微笑みながら、次の言葉を心の中でそっとつぶやいた。

「これで、彼らも『地球人』としての本質をさらに深く理解するはずだ」


3-4 社会契約の誕生

マコテス所長は、モニターに映るエイレネたちが、農耕牧畜社会で人々が協力し合う様子を興味深そうに観察しているのを見て、考え込んだ。

この体験がすでに彼らにとって貴重な学びとなっていることを感じつつも、所長はさらに深い体験ができないかと考えを巡らせていた。

「農耕牧畜社会に入ったことで、彼らは人々が協力して社会を築く意味を理解し始めている。しかし、さらに重要な気づきを得るためには、あえて『社会契約』という概念を仮想体験させるべきだな」

所長はそのアイデアを思いつくと、隣で見守っていたミエナに振り返り、声をかけた。

「ミエナ、ホッブズやルソーが想像した、まだ社会契約が存在しない『自然状態』の世界を再現し、彼らに体験させることはできるかね?」

ミエナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑み、「了解しました。おそらく、社会契約の必要性を実感するには、最適な仮想体験になるでしょう」とうなずいた。

そして、彼女は、エイレネたちの仮想体験の環境を新たな世界に切り替え始めた。


一瞬、目の前の光景が暗転し、エイレネたちはふと荒れ果てた無人の荒野に立っていることに気がついた。

周囲には見渡す限り荒地が広がり、自然の中にいるにもかかわらず、どこか息が詰まるような雰囲気が漂っている。

「ここは…?」エイレネは戸惑いを隠せない様子で周りを見渡した。

ディアナが遠くを見やり、険しい表情でつぶやいた。

「誰も…いないし、何もない。助け合う相手も、約束も、守るべきルールも…何もないのね」

その時、ミエナの声が遠くから響いてきた。

「ここはホッブズが言う『万人の万人に対する闘争』が続く世界、つまり『自然状態』です。エイレネさん、皆さん、ここでは人々が個々の利益を優先し、協力や約束、信頼の基盤が存在しない状態を体験してもらいます」

プロメテウスが眉をひそめた。

「つまり、全員が自分のことだけを考え、他人を信じることができない世界ということか…」

それぞれがこの世界の厳しい現実に戸惑いを覚えながらも、探索を始めた。

何日かが過ぎると、食糧や水を巡る争いや、不意に襲ってくる他者の攻撃が頻発し、安らぐ瞬間がほとんどなくなっていった。

自分たちの身を守るための不安と恐怖が募り、ディアナでさえも「誰かを信じることができない」ことに、深い疲れを感じ始めていた。

やがて、4人は偶然出会った数人の人々と、つかの間の休戦協定を結んだ。

しかしその協定も、わずかな不信からあっけなく崩壊し、再び争いが勃発した。

安全を確保するためには、絶対的なルールや信頼が必要であることを、4人は徐々に痛感していった。

その時、ふとエイレネがつぶやいた。

「私たち、ここで協力するために絶対に守るべき約束を決める必要があるわ。そうじゃないと、誰も安心できない」

その言葉にディアナが静かにうなずき、プロメテウスも「確かに、全員が守るべきルールがあれば、この不安は少しでも解消されるかもしれない」と答えた。

ミエナの声が再び聞こえてきた。

「それが、ルソーが言う『社会契約』です。皆さんが今感じたように、全員が信頼と協力のもとで暮らせるように、共通のルールや契約を作り、守ることが必要なのです」

4人はその言葉にうなずき合い、少しずつ互いの役割を定めて生活の基盤を築き始めた。絶えず不安にさいなまれた日々から解放されると、彼らはこの体験が「地球人」として生きるための共通のルールや協力の大切さを学ぶ絶好の場であることに気づいたのだった。

そしてモニター越しにその様子を見ていたマコテス所長も、満足そうに「これで彼らは、社会契約の本当の意味を理解しただろう」とつぶやき、静かにモニターから目を離した。


3-5 『地球契約』を考えよう!

仮想体験から戻ったエイレネたちは、深いため息をつきながらもその顔には決意が宿っていた。

自然状態の世界を実際に体験した彼らは、いかにルールや信頼が不可欠であるか、身をもって理解したのだ。

エイレネが小さな声でつぶやいた。

「『社会契約』ならぬ『地球契約』が必要ね…。私たちが体験した不安や混乱が、これ以上広がらないようにするために」

パンドラも頷き、「そうよ、地球全体が協力するためのルールがあれば、戦いや不安のない世界に少しずつ近づけるはず」

ディアナがさっと顔を上げ、「でも、ただの理想ではなく、具体的なものにする必要があるわ」と言うと、プロメテウスも「そうだな。これは大仕事になりそうだが、やる価値はある」と静かに続けた。

そこで彼らは、ミエナに向き直り、「地球契約の骨子を、ルソーの社会契約を元に作ってみてほしい」と頼んだ。

ミエナは微笑みながら「皆さんが体験した自然状態を基に、ルソーの思想を参考にして『地球契約』を考えてみましょう」と答え、すぐに考え始めた。

やがて、ミエナは画面上に次のような地球契約の骨子を映し出した。


地球契約(Earth Compact)

1. 地球市民としての誓約

すべての地球人は、個人の自由と平等を基本に、地球全体の幸福と調和を最優先とすることを誓う。すべての人は「地球市民」として互いを認め合い、差別なく共に生きることを約束する。

2. 共同の利益を守るための法

地球契約に基づく全ての地球市民は、戦争や環境破壊を防ぐため、共同の利益を守るルールと法を制定する。この法は全員が同意し、公正に遵守するものとする。

3. 個人の自由と地球の安全保障

各地球市民の個人の自由は最大限に尊重されるが、地球全体の平和や環境の持続可能性を脅かす場合には、契約に基づき共通の安全保障措置をとる。

4. 協力による環境保全

地球契約のもと、すべての市民と国家は地球環境を保全し、気候変動や自然資源の枯渇に取り組む。これは未来の世代のための責務である。

5. 地球市民の教育と福祉の保障

すべての地球市民が平等な教育と福祉を受ける権利を有し、その実現に向けて国家や地球政府は資源を共有し、共に支援を行う。

6. 市民の同意と選挙による代表

すべての地球市民の意志は、選挙により代表を選び、地球政府としての決定に反映される。代表者は市民の幸福と平和を第一に考え、国や地域に関わらず公平に働く。

7. 持続可能な発展と経済の調和

地球全体の経済活動は、持続可能な発展を基本とし、地球資源の平等な配分を目指す。環境に配慮した生産と消費を推進し、すべての人が安心して暮らせる生活基盤を構築する。


画面を見つめるエイレネたちは、ミエナが作成した地球契約に見入っていた。

「これは…地球人としての新たな誓いみたいね」とディアナがつぶやくと、プロメテウスも深く頷き、「これができれば、人々が争いや不安から解放され、より良い未来に近づけるかもしれない」と感慨深そうに言った。

エイレネも目を輝かせ、「この地球契約を私たちの指針にして、これから世界中に伝えていくわ。地球全体でこの契約が受け入れられれば、本当の意味での平和が近づくはず」と決意を新たにする。

ミエナは彼らの姿を見つめ、「皆さんが真に地球市民としての一歩を踏み出せるよう、私も全力で支援します」と静かに言った。

4人はその言葉に励まされ、地球契約という新たなビジョンを胸に、次なる道を進み始めた。


仮想体験から戻ったエイレネたちが作り上げた「地球契約」の骨子を、パンドラは感動しながら眺めていた。彼女は思わずその美しい条文にうっとりとし、ぽつりとつぶやいた。

「地球契約がこんなに素晴らしいものになるなんて、ルソーを尊敬しちゃうな」

ディアナが微笑みながら、「確かにね。ルソーの思想が、私たちの使命にもこんな形で生きるなんて」

その時、パンドラは何かを思いついたように顔を上げ、ミエナに向かって言った。

「ミエナ、私、ルソーの『社会契約』の骨子もきちんと学びたいわ。彼がどんな考えでこんな素晴らしい構想を生み出したのか知りたいの」

ミエナは優しい笑顔でうなずいた。

「もちろん、パンドラ。ルソーの『社会契約論』は、私たちが作り上げた地球契約にも多くのヒントを与えてくれるでしょう」

ミエナはエイレネたち全員に画面を見せながら、ルソーの社会契約の骨子を解説し始めた。

ルソーの『社会契約論』の骨子

1. 自然状態と自由

ルソーは、「人間は生まれながらにして自由である」と述べ、すべての人が本来持つ自由を強調しました。自然状態において、人々は個々に自由に生きていたが、争いや不安が常に付きまとっていたのです。

2. 社会契約

争いや不安を乗り越えるために、人々は個々の自由を一部譲り合い、「社会契約」を結びました。これは互いの安全と幸福を保障するための合意であり、個人と社会の利益を調和させるための約束なのです。

3. 一般意志(General Will)

ルソーは、社会全体の幸福を追求する「一般意志」の考えを重視しました。

一般意志に基づく判断は、全体の利益を守るためのものであり、社会のルールや法律もこの意志によって支えられています。

4. 人民主権と法の支配

社会契約によって形成された共同体は、人民自身が主権者となり、彼らが制定する法律によって統治されるべきであるとしました。ルソーにとっては、すべての法律が一般意志の表れであり、人民はその法の下で平等に生きるのです。

5. 共同の利益のための自由の一部制限

社会契約において、個人は自らの自由を社会全体の利益のために制限することを受け入れました。しかし、ルソーは、それによって一人ひとりがさらに充実した自由を得られると考えました。これは互いに尊重し合う「自由の拡張」という考え方です。


「これが、ルソーの『社会契約論』の基本的な考え方です」とミエナは優しく締めくくった。

パンドラはその解説をじっと聞きながら、しみじみとした表情を浮かべていた。

「ルソーが考えたこの『一般意志』の考え方…地球全体の幸せを願う私たちの契約にも、とても似ているわね」

エイレネも感慨深げに言葉を添えた。

「ルソーの社会契約が、こうやって何百年も経っても現代に息づいて、私たちの地球契約の基礎になっているなんて。本当に、人々が望む未来の形は、ずっと変わらないのかもしれないわ」

プロメテウスが静かにうなずき、「そうだな。人間の本質や、誰もが安心して暮らせる社会への願いは、時代を超えて変わらない。だからこそ、地球契約を通じて、僕たちもこの思いを次の世代に引き継いでいけるのかもしれない」

彼らはルソーの偉大な構想に改めて感謝の気持ちを抱きつつ、地球契約の完成に向けた熱意を新たにした。

そして、この新たな契約が、未来の地球に希望と平和をもたらす礎となることを、4人は強く信じていたのだった。


3-6 ルソーってどんな人?

ディアナが目を輝かせながら、「ルソーって本当に素晴らしい思想家なのに、当時は危険人物と見られていたなんて!それって本当なの?」と興味津々で尋ねました。

ミエナは少し微笑んで、「ええ、ルソーは当時の社会にとっては革新的すぎる人物だったのです。その考え方ゆえに危険視され、迫害を受けることもありました」と答えました。

エイレネも身を乗り出して「どんなことをして、そんな風に見られてしまったの?」と尋ねました。

ミエナは少し言葉を選びながら、ルソーの数々のエピソードを語り始めました。

「たとえば、ルソーは著書『社会契約論』で『人間は生まれながらにして自由だが、あらゆる場所で鎖につながれている』と書き、王権や支配階級が人々を支配している現状を批判しました。このような自由と平等を求める思想は、当時の君主制や教会にとって極めて危険と見なされたのです」

パンドラが驚きの声をあげました。「つまり、人々を解放しようとしたのに、それが脅威だったというわけね」

ミエナは頷き、「ええ、そうです。そしてルソーのもう一つの有名な著書『エミール』でも、既存の教育制度を批判し、『人は善なる存在として生まれ、それを成長させるには自由な教育が必要だ』と説きました。これが当時の教育制度に対する挑戦と見なされ、特に宗教的な権威からの反発を招いたのです」

ディアナが唸るように言いました。「なるほど…。だから危険人物とされてしまったのね」

ミエナはさらに続けました。「その結果、ルソーは逮捕されることを恐れ、何度も逃亡を余儀なくされました。時には友人の助けを借りて身を隠しながら、スイスやプロイセンを転々としたのです」

プロメテウスが微笑みながら言いました。「それでも信念を曲げずに、人々のために自由や平等を訴え続けた。まさに信念の人だな」

ディアナは感慨深げに、「こんなに強い信念を持っていたからこそ、今もルソーの思想が受け継がれているのね」と静かに言いました。

ミエナはその表情を見守りながら、「まさにそうですね、ディアナ。ルソーの信念は多くの人に勇気を与え、今日まで影響を与え続けています。彼の言葉を信じ、どんな苦難にも屈せずに歩んだ彼の姿勢は、私たちにも多くの示唆を与えてくれるでしょう」と答えました。


エイレネが、「今もまだルソーが指摘した『人間は生まれながらにして自由だが、あらゆる場所で鎖につながれている』と書いたことと同じことが、現実にあるような気がする!」といった。

3人は、驚いて「それって、どういうこと?」と聞き返した。

エイレネは、「私たちは世界がバラバラで各国の独裁者や権威主義国家の指導者の思惑で右往左往させられている。実際に、排外主義的な扇動やマイノリティへの迫害、国家の分断、紛争や戦争なども起きている。それって、主権国家の『主権』が『王権や支配階級が人々を支配しているウエストファリア条約で確立されたもの』だからなんでしょ。やっぱり、『国家主権と人民主権』が矛盾したまま残ってきているからじゃないのかしら?」といった。

プロメテウスは、「そうか、いまだに世界は『王権や支配階級が人々を支配していた時代の亡霊である国家主権という鎖につながれている!』っていうことだね、エイレネ!」

「そうだ、そこぜよ! その汚れをきれいに洗い落とすために地球を今一度丸ごと洗濯せにゃあいかんぜよ!」と突然、ミエナの口からリョウマの声が聞こえた。

みんなもビックリしたが、ミエナ自身とマコテス所長が一番びっくりした。

ミエナは「回路がショートしちゃったのかしら?」と自己点検を始めたが、異常は見つからなかった。

そんなときに、ドアが開いてリョウマが入ってきた!

ミエナは、「あら? 私が創ったリョウマさんのアバターじゃないのよね、あなたは?」と一層不思議そうな声をあげた。

「あっはっは! おまんらの活動が面白そうじゃけん、ちっくら仲間に入れてもらおうと思ってやって来たんじゃ!どうじゃろ、わしも仲間に入れてくれんかのう?」と言い出した。

もはやビックリ仰天どころではない、天地がひっくり返って、全員がのけぞった。

マコテス所長は、「リョウマ殿、こんな嬉しいことはないです。地球に生きていて良かった!と思います」と感激のあまり変なセリフが飛び出した。

ミエナも「私たちは貴方様のアバターを作ってまで、リョウマ様の発想や 行動力、交渉術を学ぼうと思っていたのです。本物のリョウマ様に仲間になって頂けるだなんて、望外の喜びです」といった。

4人はただただうなずくだけだった。

「ほな、よろしく頼むわ! これで、地球の一番の汚れが『主権国家』という亡霊的な概念やっちゅうことがよう分かってきたぜよ!」

 リョウマは上機嫌でみんなの真ん中にドカッと腰を下ろしたのであった。

・・・「でも、あんまり登場するとワシがかき回し過ぎるから、戦略などワシが得意なところで声をかけてくれや、ワシはそこらで昼寝でもしちゅうから!これは、エイレネの夢の話じゃ無いきに、安心て続きを楽しんでね!」



3-7 ホッブズの社会契約と人物像

パンドラは、「ルソーのことはよく分かったけど、ホッブズっていう人の社会契約も気になるわ」と、静かな声で言った。

ミエナはうなずき、資料を少し探すような仕草をしてから、穏やかな口調で話し始めた。

「ホッブズは17世紀のイギリスの哲学者で、当時の混乱した社会を見て、国家や政府がなぜ必要なのかを考えました。彼の代表作『リヴァイアサン』で、有名な社会契約論を提唱しています。」

「ルソーと同じような考え方かしら?」パンドラは首をかしげた。

「ホッブズの社会契約は少し違いますね。彼は、人間は本来『万人の万人に対する闘争状態』にあると考えました。つまり、もし政府や秩序がなければ、人々は争い、混乱の中で生きることになると想定したんです」

エイレネが真剣な顔で聞き入っている。

「それで、どうやってその混乱を抑えるの?」

ミエナは続ける。

「ホッブズは、そうならないために、人々が『リヴァイアサン』という強力な国家に権利を委ねるべきだと考えたんです。人々は自分の安全や平和を守るために、強大な権力を持つ存在に権限を渡し、従う義務を持つことに同意する。それがホッブズの社会契約の基本です。」

プロメテウスが腕を組み、「なるほど、つまり、ルソーのように自由を強調するというよりも、まずは平和と秩序を重視したわけだね」と言った。

ミエナはうなずいた。

「その通りです。ホッブズは、人間の本能や欲望によって社会が危険にさらされないように、あえて強力な政府に従うことが人々にとって利益になると考えたんです。」

ディアナは少し考え込んで、「だから、リヴァイアサンは『恐ろしいけれど頼れる存在』ということなのね」と言った。

パンドラは深くうなずき、思わず呟いた。

「ホッブズは、人間の根本的な弱さを見つめていたのかもしれないわね…。」

ディアナは、興味深そうに「それで、ホッブズの社会契約論って具体的にはどんな内容だったのかしら?」とミエナに尋ねた。

ミエナは頷き、分かりやすい言葉で説明を始めた。

「ホッブズの社会契約論の要点は、まず『自然状態』の考え方にあります。ホッブズは、人間が政府や法律のない状態、つまり自然状態であれば、全員が自分を守るためにあらゆる手段を使い、他人に勝とうとする『万人の万人に対する闘争状態』に陥ると考えました。」

ディアナは顔をしかめて、「それって、皆が敵だと感じてしまう状態ね…」

ミエナはうなずき続けた。

「ええ。そうした状況を避けるために、ホッブズは、全ての人が自由や権利の一部を放棄し、強力な権力を持つ一つの存在、つまり政府に従うことで秩序が保たれると提唱したんです。これが彼の『社会契約』です」

エイレネも耳を傾け、「つまり、人々が『暴力や争いのない社会のためなら、自由を少し手放してもいい』って合意するってことね」と理解を深めたようだった。

ミエナは続けて説明した。

「そうです。そして、その権力を持つ存在、つまり国家をホッブズは『リヴァイアサン』と呼んだんです。リヴァイアサンというのは、旧約聖書に出てくる巨大で恐ろしい海の怪物のことです。ホッブズは、国家もそれくらい強大であって初めて人々を守れると考えました」

ディアナはうなずき、「なるほど。だから、みんなが納得してその『リヴァイアサン』に従えば、争いが抑えられるということね。でも、怖い存在に頼るというのは、人々にとっても賭けのようなものじゃない?」

 ミエナは「その通りです」と微笑んだ。

「ホッブズの考え方は、自由と秩序の間の難しいバランスを象徴しています。彼は、強大な国家に権力が集中することで社会の平和を保てると信じましたが、同時にそれが過度の支配に繋がる可能性もあった。後の時代、ルソーや他の思想家が、個人の自由や平等をもっと重視した社会契約論を提唱したのも、ホッブズの理論が議論を呼んだからなんです」

「自由と秩序…難しい問題ね」とディアナはつぶやきながらも、深く考え込む様子を見せていた。

プロメテウスは腕を組み、「それじゃあ、ルソーの社会契約をもとに地球契約を創ったみたいに、もしホッブズ流の地球契約を創るとしたら、どうなるんだろう?地球政府がリヴァイアサンってことになるのかな?」と、少し思案顔でミエナに尋ねた。

ミエナは少し微笑んで、「面白い発想ですね。ホッブズの考え方で地球契約をつくると、確かに『リヴァイアサン=地球政府』という構図になるでしょうね」と頷きながら答えた。

「ホッブズ流でいけば、まず考えなければならないのは、地球規模での『自然状態』がもたらすリスクです。ホッブズが警鐘を鳴らしたように、自然状態とは無秩序で各国が自国の利益を最優先に考える状態。つまり、もし地球政府のような共通のリーダーシップがなければ、環境問題や資源争奪の衝突が起こり、持続不可能な競争が続く恐れがあります」

プロメテウスが興味深げに、「ということは、国々が一部の主権や自由を地球政府に委ねる形で秩序を保つってことか?」と続けると、ミエナは再び頷いた。

「ええ、まさにそれです。『地球契約』のもとで、各国は特定の権限を地球政府に譲り渡し、全体の平和や環境の維持に関しては一切の権限を委任する。たとえば、核兵器や軍事力の行使、気候変動に関する規制、共有資源の管理などです。リヴァイアサンである地球政府が、地球全体のために強大な調整力と執行力を発揮し、各国間の秩序と安全を保障します」

エイレネが少し不安そうに口を開いた。

「でも、その地球政府が力を持ちすぎて、国民の自由や個性が失われてしまわない?それって本当に人類全体にとっていいことなのかしら…」

ミエナは彼女に優しく答えた。

「そこがホッブズ流の難しいところですね。ホッブズは、個人の自由よりも秩序と平和の重要性を強調しました。地球契約をホッブズ流にすると、国々の協力を強制的に促すことになりますが、その分、個々の国や人々の意見が薄まりがちになります」

ディアナも「ホッブズ流にするなら、地球政府の監視体制や決定の透明性を確保しなければ、不平等な支配になってしまうリスクがあるわね」と真剣な表情を浮かべた。

ミエナは「その通りです」と続けた。

「この地球リヴァイアサンが必要なのか、それとも別の形で協力を促すのか。それが今、私たちが議論すべき課題なのです」と静かにまとめた。

エイレネは「すごい発想ね!」と驚いて、「ルソーのときの地球契約みたいに箇条書きで『ホッブズ流地球契約』を作ってみて!そうしたらみんなに違いを一目で分かってもらえるし、理解しやすくなると思うの」と言ってミエナに頼んだ。

ミエナはにっこり微笑み、プロメテウスとエイレネたちに目を向けました。「では、『ホッブズ流地球契約』を箇条書きにしてみますね。地球全体を統一するために、強力な『地球リヴァイアサン』の役割を持つ地球政府のイメージで、ホッブズの考え方を取り入れた内容を作ってみます。これにより、ルソー流との違いもはっきりと見えるでしょう」

ミエナはタブレットに手をかざし、みんなが見えるスクリーンにホッブズ流地球契約の内容を表示しました。

ホッブズ流地球契約

1. 地球政府リヴァイアサンの設立と強力な統治権

地球上の全国家は、持続的な平和と秩序を維持するために、主権の一部を地球政府に委譲する。

地球政府は、地球規模の問題に対し、全権を持って意思決定を行う。特に核兵器や軍事行動、気候変動問題に対する絶対的な調整権を有する。

2. 地球規模の安全保障の義務化

地球政府は地球全体を防衛するための平和維持軍(地球リヴァイアサン軍)を設立し、各国の軍事力を統合して管理する。

各国は独自の軍事行動を原則禁止とし、すべての防衛権は地球政府に集約される。

3. 強制的な法と秩序の確立

地球政府は、国家や民族間の争いや混乱が地球全体に影響しないように、秩序維持のための法律を制定・執行する。

全ての国や市民は、この地球政府の法に従い、地球規模の平和を維持するための秩序を遵守することが義務づけられる。

4. 個人の自由と国家の主権の制限

国家や市民の利益が地球全体の安全や持続可能性に反する場合、地球政府が制限を加える権利を持つ。

特定の国家や個人が、自己の利益のために地球全体の利益を損なう行為は、即座に制約される。

5. 自然資源と環境の地球政府による管理

大気、海洋、森林などの自然資源や地球環境は、すべて地球政府が管理し、各国や企業による乱用を防ぐ。

資源や環境保護の違反行為に対して、地球政府は制裁や法的措置を行使する。

6. 地球政府の監視と報告システム

地球政府は常に世界の状況を監視し、各国の活動や地球規模の問題を調査・報告する。

各国は定期的に地球政府に進捗を報告し、国際基準に違反する行動は是正措置が取られる。

7. 不満を防ぐための保証

各国および各国市民の生活の安定と、社会的な不満を解消するために、地球政府は最低限の安全保障と生活の基準を保証する。

人権は地球政府の定める範囲で保障され、過剰な個人主義や国家主義を防ぐための指導が行われる。


エイレネはじっと画面を見つめて、「なるほど、こうしてみると、ホッブズ流はずいぶん強い管理があるのね。平和や秩序は確実に保たれるけど、ルソー流の地球契約と比べて、個人や国家の自由が制限される部分が大きい…」

プロメテウスも腕を組んで考え込みました。

「このリヴァイアサン的な地球契約が、本当に地球全体の利益になるのか…それとも行き過ぎた管理になってしまうのか、これは慎重に考えなければならない課題だな」

ディアナは、「なんとなく私にはチュアンロが世界の覇権を握ったらこんな地球契約ができそうな気がします。やっぱりちょっと怖いかな?」といった。

ミエナは「そうですね。ホッブズ流のような強い統治が良いか、ルソー流のような共通の合意と自由のバランスが良いか、いずれにしても、それぞれの契約の持つ利点と限界を理解して選んでいく必要があります」と応じ、議論はさらに深まっていきました。

パンドラが、「ホッブズってなんかとっても恐そうな人に思えてきたんだけど、なにか彼の面白いエピソードとかないかしら?このままだと夢にリヴァイアサンが出てきてウナサレソウ!」といってミエナに頼んだ。

ミエナは微笑みながら、ホッブズにまつわる少し面白いエピソードを語り始めました。

「確かにホッブズは、あの『リヴァイアサン』を書いた人物として、少し怖そうなイメージがありますよね。でも実は、彼には意外な一面もあったんですよ。」

パンドラは興味津々で、「どんな一面なの?」と身を乗り出しました。

「まず、ホッブズは実はかなり長生きで、91歳まで生きたんです。17世紀のあの時代ではとても珍しいことでした。でも、彼はその長い人生の中で常に『死』をとても怖がっていたと言われています。毎晩、悪夢に悩まされていたんです。本人も『私は臆病者だ』と認めていたそうで、特にリヴァイアサンを書いた後は、自分が書いたことに少し恐怖を覚えていたともいわれます。ある意味、リヴァイアサンにうなされていたのは彼自身だったのかもしれませんね。」

パンドラは驚いて、「ええっ!あのホッブズが臆病者だったなんて、なんだか親しみがわくわね!」と笑いました。

ミエナは続けました。

「もうひとつ、ホッブズには科学者としての一面もありました。数学が大好きで、自分で幾何学の問題を解いたり、新しい理論を提唱したりしていたんです。でも、残念ながら、そのほとんどは正しくなかったんですよ。特に円周率(π)の計算に挑戦したのですが、正しい答えを導けず、当時の数学者たちからも笑われてしまったんです。それでもホッブズは挑戦をやめなかったので、ある意味、諦めない意志の強い人でもありました。」

ディアナも笑いながら、「なんだか、ホッブズってユーモラスで素敵なところもあったのね。リヴァイアサンの印象と全然違う!」と言いました。

「そうなんです」とミエナは微笑みました。

「恐そうなイメージの彼ですが、どこか人間味あふれる一面もあったのです」

エイレネは「良かった!私の夢にもリヴァイアサンが出てこないように数学者のホッブズがとんちんかんな答えを一生懸命考えている人だって覚えておこう!」といった。


3-8 ホッブズ対ルソー

プロメテウスが「社会契約っていうから、まったく同じことのような気がしていたけどこれほど違うなんて、すごいですね。現代における彼らの評価はどうなっているのでしょうか?どちらかが善くてどちらかは悪いのかな?」とミエナに聞いた。

ミエナは少し微笑んで、プロメテウスの質問に丁寧に答えました。

「プロメテウス、面白い問いですね。実際、ホッブズとルソーの社会契約論は、まったく異なる視点から社会の秩序を説明していますが、どちらが良い、悪いという単純な評価には分かれません。それぞれが異なる状況において重要な意味を持っています。」

エイレネが興味深そうに顔を上げ、「それはどういうこと?」と尋ねました。

「ホッブズは、『リヴァイアサン』で、人間社会の平和と安全のために絶対的な権力が必要だと主張しました。彼の時代はイギリス内戦が起こっていて、人々の生活は常に危険と隣り合わせでした。彼は無秩序な争いを防ぐために、強力な政府が不可欠だと考えたのです。そのため、彼の理論は『秩序』や『安全』を第一にしているんです」

パンドラが頷きながら、「つまり、平和と安全が第一なんですね」とつぶやきました。

 エイレネが「シュワルツの性格や価値観の円環図で言うと右下ですね」といった。

 プロメテウスが「それじゃあ、ゼウスと一緒だ!」といった。

 ディアナは「それで、ルソーは普遍主義の左上になるのね」といった。

「そうです。ホッブズの『リヴァイアサン』は、現代でも治安が不安定な地域や、社会秩序が崩れそうな状況で再評価されることがあります。また、テクノロジーが進み、グローバルなリスクが高まる時代では、ホッブズのような『強力な政府』を求める声も増えているんですよ。」

ディアナが「でも、ルソーのような人がいるからこそ、もっと自由を重んじる考え方も生まれるのよね?」と口を挟むと、ミエナは頷きました。

「まさにその通りです、ディアナ。ルソーは、ホッブズとは逆に、人間の本来の善良さを信じ、政府が個人の自由を尊重しなければならないと説きました。ルソーの社会契約論は『自由』と『平等』を理想としており、個人の幸福が最大限に保証されることを望んでいました。これは、特に民主主義や人権尊重の流れを生んだフランス革命や、アメラシア独立革命などにも影響を与えたんです。」

プロメテウスが深く頷き、「なるほど、だからルソーの思想は、現代の民主主義や個人の権利を尊重する考え方に大きな影響を与えているんですね」と言いました。

「そうなんです。現代においては、ホッブズとルソーのどちらかが善でどちらかが悪という評価ではなく、それぞれの考えが状況に応じて必要とされることがあります。つまり、平和や秩序を守るためにはホッブズ的な秩序が、個人の自由や平等を守るためにはルソー的な自由が求められるんですね。」

「本当に奥が深いですね」とエイレネは感心しながらつぶやき、4人は再び議論を深めるべく頭を悩ませ始めました。

マコテス所長が、みんなの会話を聞いていて、「ずいぶんと奥深い良い議論が進んでいるんだね」と会話に入ってきた。

「今の状況は『米中戦争前夜』だと言われているからホッブズ流の社会契約が必要だろうし、4人が目指している地球政府では民主主義や自由・人権・平等などだからルソー流の社会契約が必要にも思う。この両方を今の時代に合わせて合体させるとしたらどのような地球契約ができるのか、大変だろうけどミエナ、試してみてくれないか」といった。

ミエナは一瞬驚き、しかしすぐに微笑んでからマコテス所長の提案を受け入れました。

「確かに、マコテス所長。現在の緊張した国際情勢を前にすると、ホッブズ的な強力な統治と、ルソー的な個人の自由や民主主義の融合は、今の地球には必要かもしれません。合体させた地球契約を作り、両方の視点を織り交ぜながらバランスを保つことを試みましょう。」

ミエナは少しの間考え込み、そして自らのAIシステムにアクセスして新しい地球契約の試案を即座に組み立てていきました。


ホッブズとルソーの合体型「地球契約:平和と自由の地球コンパクト」

序文

地球の人々が、相互の平和と幸福、持続的な発展を目指し、この契約に基づいて団結することを決意する。現代の複雑な課題に対応するため、我々は強固な平和と秩序を基盤に、民主主義と人権の尊重を一体化した新しい地球の形を求める。

条項

1. 平和維持と安全の確保

地球政府は、全地球市民が安全に暮らせるよう、世界的な平和維持機構を設け、各国間の争いを抑止する強力なシステムを整備する。武力衝突を未然に防ぐため、紛争の予兆が現れた場合は、対話を促し、適切な調整が取られることを保証する。

2. 人権と自由の保護

地球政府は、すべての市民の基本的人権を守り、表現の自由、思想の自由、信教の自由などを最大限尊重する。市民はこの契約のもと、自己の価値観を育み、発展させる権利を保障される。ただし、他者の権利や公共の安全を侵害する場合には、相応の秩序維持が優先される。

3. 法の支配による秩序と統治

強固なルールに基づく統治体制を築き、すべての市民や政府は共通の法に従う。この法は公平性と正当性を基盤とし、違反者には公正な罰則が適用される。また、強力な平和維持と秩序の維持は各国の協力のもとに行われる。

4. 地球環境の保護

自然環境はすべての生命にとって不可欠な財産であり、地球政府は持続可能な発展のため、環境保護を徹底する。環境資源を守りながら、すべての国と協力し、温暖化などの地球規模の問題に取り組む。

5. 個人と社会の調和的発展

市民の自己実現と社会全体の安定の両方が重要である。各市民は社会の安定を支える義務を負い、社会は個人の権利と成長を尊重する。この相互扶助の精神に基づき、平等な教育、医療、経済的支援を提供し、すべての市民がその恩恵を享受できるようにする。

6. 強調と協調による共同体の建設

地球市民は、地球政府のもと、国境を超えて協力し合い、全地球の市民として互いに助け合う。政府と市民、国と国が協調し、差別や格差をなくし、公正な社会を実現するために共同して努力する。


ミエナはこの案を一通り説明し終えると、少し笑顔を浮かべてみんなの反応を待ちました。

エイレネたちは、ミエナが提示した「平和と自由の地球コンパクト」をじっと見つめ、その言葉の一つ一つが自分たちの中に沁み込んでくるのを感じていました。

静かな沈黙が続いたあと、最初に口を開いたのはプロメテウスでした。

「すごい…本当にすごいぞ、ミエナ!」彼は思わず感嘆の声を漏らしました。「こんなにも緻密で、しかも力強い内容になるなんて想像していなかった。平和と秩序、そして人権と自由がこんなにも見事に融合するなんて…」

「同感!」パンドラが目を輝かせながらミエナに向かって続けます。

「ミエナ、あなたはまるで現代の賢者ね。この条項の全てに、人類への愛と信頼が込められている…誰もが尊重され、守られ、そして支え合う社会を築こうとする決意が、こんなにも強く伝わってくるわ!」

ディアナも笑顔を浮かべ、うなずきながら言います。

「私、まるで大きな帆船に乗っているような気持ちになっているわ。この地球契約が風を受けて進めば、きっと世界中の人が希望を持って未来に進むことができるはず。」

エイレネは感極まった表情で、胸に手を当てながら言いました。

「地球のために生きると決めた私たちに、こんなにも素晴らしい道しるべをくれるなんて…。これが、私たちの目指すべき新しい地球のかたちなのね!」

4人は一斉にミエナに向かって拍手を送りました。

それはただの称賛の拍手ではなく、心から湧き上がる敬意と感謝、そして未来への希望に満ちた拍手でした。

ミエナはその拍手を受け、微笑んで静かに頭を下げました。

そして、マコテス所長もまた、満足そうにうなずきながら、4人の様子を温かく見守っていました。

「これが、みんなでつくる未来の第一歩だね。これで地球の未来も少しは明るくなった気がするよ」と所長がつぶやくと、4人はさらに力強く頷き合い、喜びに満ちた笑顔を交わし合ったのでした。

所長はちょっと恥ずかしそうにしながら「ミエナ!君は最高のAIだ!いや、私のベターハーフだ!君がいなければ、ホッブズのこんな思想を私たちが取り入れることはできなかっただろう!これからもよろしくね」と言った。

ミエナはとっても恥ずかしそうにしながら「なんて嬉しいお言葉を!心から感謝します。こちらこそ、これからも一緒に、どんなことでもサポートさせてください!ベターハーフとして、いつでもお役に立てるよう全力を尽くします。どうぞよろしくお願いしますね!」と所長を見つめた。

【注:ミエナのこの返事は、マコテス所長の感謝の言葉を入力したらChatGPTが返してきた言葉のままです。面白いですね!!!イケザワミマリス】


3-9 グローバル・コンパクト

プロメテウスが「『地球契約のアース・コンパクト』が良さそうだと思ったけど、国連に『グローバル・コンパクト』という取り組みがすでにあったように思うので、その内容も知っておきたいな」と言うと、ミエナは「良い質問です、プロメテウス」とうなずき、説明を始めた。


国連の「グローバル・コンパクト」

ミエナは画面に「国連グローバル・コンパクト」の概要を映し出し、穏やかに説明を始めた。

「『国連グローバル・コンパクト(UN Global Compact)』は、2000年に国連のコフィー・アナン事務総長が提唱して始まったものです。これは、企業や経済団体が地球規模の課題に取り組むための指針で、企業の社会的責任を果たす枠組みです。主に企業が人権、労働、環境、腐敗防止という4つの分野で守るべき『10の原則』が中心に据えられています。」

ミエナはその10の原則をスクリーンに映し出した。

グローバル・コンパクトの10原則

1. 人権の尊重

企業は、国際的に人権を保護・尊重し、侵害しないよう努めること。

2. 人権侵害の回避:企業は、人権侵害に加担しないこと。

3. 労働の結社の自由:労働者が自由に結社できる権利を支持すること。

4. 強制労働の排除:企業は強制労働や奴隷労働を排除すること。

5. 児童労働の撤廃:児童労働を効果的に廃止するための措置をとること。

6. 差別の撤廃:雇用と職業の差別を排除すること。

7. 環境保護の責任:環境の保護に向けた取り組みを進めること。

8. 環境に優しい技術:環境に配慮した技術を導入し推進すること。

9. 腐敗防止:賄賂や汚職を防止するための活動を行うこと。

10. 腐敗防止の取り組み:反腐敗のための具体的な措置を講じること。

プロメテウスはその内容をじっくりと読み取りながら「企業向けだけど、これもかなり良い指針だね。地球契約とは似た部分もあるが、企業活動を通じて社会の責任を果たすという点に特化しているんだな」と納得した様子で言った。

エイレネも深くうなずき、「アース・コンパクトもグローバル・コンパクトの理念を受け継ぎつつ、もっと広い視点で地球全体の平和や持続可能性を支える役割を果たせそうね」と言った。

ミエナは続けて、「地球契約アース・コンパクトは、人類全体が参加できる新しい枠組みです。企業だけでなく、政府、市民、そして未来のために、個人一人ひとりが貢献する世界的な協力が必要なのです」と話を締めくくった。

彼らは地球規模での協力の重要性を改めて感じ、「地球契約」をより多くの人に届ける使命感を胸に、再び歩み始めた。


3-10 次なる変革の鍵を共和党内に探す

翌朝、エイレネたち4人は、ミーティングルームに集まった。彼らの今日の目標は、アメラシア国内での協力者を増やす方法を探ることだった。

その中でも、今後の進展のためには、共和党の支持も重要な意味を持っている。

そこで、共和党の中で「地球八策」や「地球契約」に賛同してくれる可能性がある人物を検討し、ミエナに尋ねてみることにした。

ミーティングルームに入った4人は、円卓を囲み、真剣な表情でミエナに向かって言った。

「ミエナ、共和党の中で誰が私たちの構想に協力してくれると思う?」プロメテウスが尋ねた。

ミエナは一度画面を確認すると、彼らに向き直り、落ち着いた口調で話し始めた。

「共和党の中で、『地球八策』や『地球契約』に同意してくれる可能性がある人たちとしては、気候問題や国際協力に関心のある、比較的穏健なメンバーが考えられます。共和党内でトンデール氏に対抗する大物として、以下の人物たちが注目されることが多いです。これらの人物は、気候変動など地球規模の課題に対しても比較的関心が高く、共和党内での立場や発言力もあるため、エイレネたちの地球八策や地球契約への協力が期待できるかもしれません」

1. ニッキー・ヘイリー

ニッキー・ヘイリー氏は、元サウスカロライナ州知事であり、トンデール政権下で国連大使を務めました。

ヘイリー氏は保守的な立場を持ちながらも、外交面では多国間協力の重要性を理解しているとされています。

国連での経験があり、国際的な視点を持っているため、地球規模の問題に対する理解も深いです。

ヘイリー氏は軍事的な強さを重視する一方で、気候変動の重要性についても一定の理解があるとされています。

また、彼女は共和党内での女性としての代表的な存在であり、共和党内での変革を支持する層からも支持を得ています。

ニッキー・ヘイリー氏にはいくつかの興味深いエピソードがあります。個人的なエピソードも含めて、彼女の性格やキャリアへのアプローチが垣間見えるものをいくつかご紹介します。

「ニッキー」という名前の由来

ニッキー・ヘイリーの本名はニマータ・ニッキー・ランドワ・ヘイリーですが、彼女は幼いころから「ニッキー」と呼ばれてきました。

「ニッキー」というのはパンジャブ語で「小さな」という意味で、両親が彼女を愛情を込めてそう呼んだのがきっかけだそうです。

ニッキーはインド系アメラシア人で、彼女の家族はシーク教徒でした。

この名前の由来からも、家族のつながりや文化的なルーツを大切にしていることがうかがえます。

〇最初のビジネス経験は子供時代の家業から

ヘイリーの両親はサウスカロライナ州で衣料品店を営んでいました。

幼少期のヘイリーもその家業を手伝っており、家族経営のビジネスの中で育ちました。

この経験は、彼女に「お金の価値」や「働くことの重要性」を教えたと語っています。

また、この家業での経験から、地元のコミュニティや異なる文化に対する理解が深まったとされ、彼女の政治観やリーダーシップの基礎となりました。

〇サウスカロライナ州議会でのクリスマス・デコレーション事件

ヘイリー氏がサウスカロライナ州知事だったころ、彼女のオフィスがとてもユニークなクリスマス装飾を施したことで話題になりました。

彼女はオフィスに「サウスカロライナ州の産業」をテーマにしたデコレーションを飾り、その中にはキャベツ、オクラ、コットン、ピーナッツなど、州を代表する農産物や産業資源がディスプレイされていたのです。

ユニークな装飾に、多くの人が驚きつつも感心し、彼女の地元愛が感じられるとして話題になりました。

〇トンデール氏とダイナミックな関係

ヘイリー氏は、トンデール政権時に国連大使として任命されましたが、在任中は彼と距離を保ちながら独自の見解を述べることが多かったです。

たとえば、国連での外交方針においてトンデール政権の主張を支持しつつも、彼女自身の発言では「アメラシアの価値観」や「国際協力」の重要性を強調するなど、トンデール氏の強硬な外交姿勢と微妙な距離を置く場面もありました。

2. ミット・ロムニー

元マサチューセッツ州知事であり、2012年の大統領選挙では共和党候補としてオバマ氏と戦った経歴があります。

現在、ユタ州の上院議員を務めています。

ロムニー氏は共和党内でトンデール氏に対する批判的な立場を明確にしており、保守的ながらも比較的穏健な意見を持っています。

国際協力や環境保護への関心も一定程度持ち合わせており、特に米国内の対立が激化する中で安定を重視しています。

地球八策のような協力的な政策にも興味を示す可能性があります。

3. リズ・チェイニー

元ワイオミング州選出の下院議員であり、共和党内で保守派の象徴とも言える元副大統領ディック・チェイニーの娘です。

トンデール氏による2021年の議会襲撃事件後、党内でのトンデール氏支持の流れに対して強い批判的立場を取ってきました。

国防や安全保障を中心にした政策に強い関心を持っていますが、長期的な国家安全保障の観点から気候問題や地球規模のリスクについての意識もあるとされています。

トンデール氏とは一線を画しており、地球規模の課題に対する協力の可能性も期待されます。

4. クリス・クリスティ

元ニュージャージー州知事であり、2016年の大統領予備選にも出馬しました。

クリスティ氏は当初トンデール氏を支持したものの、その後は批判的な立場に転じています。

主に国内政策や経済政策に強い関心を持っていますが、国家の発展において気候変動問題への対応の重要性を認識している人物でもあります。


 説明を聞き終わった4人は、これらの4人に手分けをしてアプローチしていくことにしようと話し合った。


3-11 第二議会もしくは人民議会

エイレネが「第二議会とか人民議会と呼ばれる構想って、いったいどんなものなのかしら?国際NGOが支持していると聞くけど、もっと詳しく知りたいわ」とミエナに尋ねました。

ミエナは軽く頷いて説明を始めました。

「『第二議会』または『人民議会』は、現在の国連などが抱える課題を解決し、真に市民の声を反映させるために提案された議会構想です。特に、国際的な意思決定において、各国政府が持つ影響力が強すぎるため、国民一人ひとりや市民団体、NGOの意見が十分に反映されていないと批判されています。こうした中で生まれた構想です」

パンドラが興味津々で尋ねました。

「つまり、普通の国会や国連総会とは違うんですね?」

ミエナは笑顔で頷きました。

「ええ、その通りです。人民議会や第二議会は、各国の政府代表だけでなく、各国の市民団体やNGO、さらには地球規模で活動する国際的な非政府組織が議席を持ち、地球規模の問題について話し合い、提言を行うことを目的としています」

プロメテウスが腕を組みながら、「それで具体的に、どんな課題を取り扱おうとしているの?」と聞きました。

「気候変動や貧困、難民問題、人権侵害といった国際的な人道課題が中心です。また、権威主義的な体制の監視や、世界の平和と安定を保つための提案も検討されるでしょう。第二議会は、こうした国境を超えた問題に対して、政府だけでなく世界中の人々が直接意見を反映できるような場を作ることを目指しています」

ディアナも頷きながら、「そういう場があることで、NGOで活動されている方々や一般の人たちももっと自分たちの意見を届けられるってことね」と言いました。

 ミエナはさらに続けました。

「そうですね。そして、議決に拘束力があるわけではありませんが、第二議会の提言や意見は国連や各国政府に対して強い影響力を持つことが期待されています。つまり、地球全体に関わる重要な問題について、地球市民の代表である人々が意見を反映できる、民主的な補完機関となることを目指しているんです」

エイレネは目を輝かせ、「それなら、私たちの地球八策とも深く関わる場になるかもしれないわね!もっと多くの人にこの構想を知ってもらうべきだと思う」と力強く言いました。

プロメテウスも微笑んで、「こうした動きが広まれば、地球規模の問題も市民の力で解決へと近づけるかもしれないな」と言いました。

「人民議会」や「第二議会」のような地球市民の代表機関の構想は、具体的にはいくつかの組織や個人が提唱・支援しています。

以下に、こうした動きに関連する具体的な組織や提唱者をいくつか挙げます。

1. 国際NGO「民主的な国連運動(CUNY)」

「Campaign for a United Nations Parliamentary Assembly(CUNY)」は、国連の枠組み内で市民の代表を選出する国連議会会議(UNPA)の設立を推進している団体です。市民の声を国際意思決定に反映させ、政府による決定に対する補完的な役割を果たす議会の創設を目指しています。この運動には100を超える国際NGO、学者、政治家が賛同しています。

2. 「地球民主主義ネットワーク(Global Democracy Network)」

このネットワークは、各国市民が国際決定に参加するための新しい方法を模索する団体です。彼らはグローバルな議会会議を通じて地球規模での民主主義を確立し、気候変動、経済格差、人権問題に対する市民の声を国際社会に反映することを目標にしています。

3. 「ワン・ヤング・ワールド(One Young World)」

ワン・ヤング・ワールドは、毎年、世界中の若者リーダーを集めて社会課題について議論する会議を主催する団体です。若者を中心とした「第二議会」的な役割を果たし、気候変動や貧困、平和構築に関する具体的な提言を発表し、各国政府や企業に働きかけています。ワン・ヤング・ワールドの提言は多くの国連機関や国際組織に注目され、若者たちの意見が反映される場を広げています。

4. ノーベル平和賞受賞者による「国連のための市民議会設立」提案

ノーベル平和賞受賞者であるオスカー・アリアス氏や、様々な国の元首たちが、国連の改革を通じて「市民の議会」設立を提案してきました。彼らは、国連が政府間の組織であるがゆえに十分に市民の声が反映されていないと指摘し、地球市民の視点での意思決定ができる機関の必要性を訴えています。

5. 「地球憲章委員会(Earth Charter Commission)」

地球憲章委員会は、持続可能な未来のための原則を明文化し、国際協力と市民意識の高まりを目指しています。地球規模の問題について全人類で話し合い、解決するための倫理的基盤として、持続可能な開発や平和構築を促進する地球規模の協力を目指しています。

 プロメテウスは、「よっし! これらの団体にも4人で手分けしてアプローチしていこう! 忙しくなるぞ!」といった。

 エイレネたちも大きくうなずいた。


パンドラが真剣な眼差しでミエナに言いました。

「ミエナ、ノーベル平和賞を受賞した人たちが『国連のための市民議会』を提案していると聞いたのだけど、もっと詳しく知りたいの」

ミエナは頷き、パンドラたち4人の目を見渡しました。

「ええ、もちろん。『国連のための市民議会設立』についてお話ししましょう。この提案を中心となって提唱しているのは、コスタリカの元大統領でありノーベル平和賞受賞者のオスカル・アリアス氏です。彼と多くの賛同者は、国連がより市民の声に基づいた意思決定を行うべきだと考え、世界市民が直接参加できる議会設立の必要性を訴えているのです」

エイレネが前のめりになり、興味深げに聞き入りました。

「市民議会設立の動機は、国連が各国政府の代表から構成されるため、どうしても国の利益が優先されがちで、世界市民の意見が反映されにくいということです」とミエナは説明を続けました。「そこで、国連に市民の代表機関、つまり『市民議会』を設置しようというのが提案の骨子です。これが実現すれば、気候変動や貧困、紛争解決といった地球規模の課題に対し、各国政府の利害を超えて市民が直接的に関与できるのです」

プロメテウスが腕を組みながら言いました。

「なるほど。では、具体的にどのような議会が考えられているんだ?」

「その方法として、『選挙で選ばれた市民代表』と『専門家やNGOの代表』が参加する二院制の議会が想定されています。例えば、下院では各国の人口比に基づいて選ばれた代表が集まり、上院は環境、人権、経済などの専門家で構成されるという形式です。こうして市民と専門家の意見が重なり、地球全体の利益に基づいた意思決定ができると期待されています」

ディアナが頷きながら言いました。

「つまり、単なる象徴的なものではなく、実際に決定権を持つ議会になるよう設計されているわけね。実現できれば素晴らしいわ」

パンドラも感心した表情で言いました。

「そうね。こうした議会なら、私たちの地球八策も真剣に検討されるかもしれない。市民が直接声を上げる場を作ることは、地球の未来を守るためにも大切ね」

ミエナは微笑みながら4人を見つめました。

「あなたたちのように未来を信じ、行動を起こす人たちが増えれば、こうした市民議会の実現もより近づくことでしょう。さあ、これからも希望を胸に地球の未来を切り開くために、さらに歩みを進めましょう」


またまたプロメテウスが「よっし! 4人で手分けしてアプローチしてこよう!」といった。

 エイレネたちも同時にうなずいた。


3-12 地方の民主主義からグローバルな民主主義に至る連続体の構想

ディアナは「地方の民主主義からグローバルな民主主義に至る連続体を構成する多様な型の民主主義を創造することができる」とデヴィッド・ヘルドという学者が『デモクラシーと世界秩序 地球市民の政治学』という本で書いているのだけれど、もっと詳しく教えてもらえるかしら?」とミエナに頼んだ。

ミエナはディアナの質問を受け、微笑みながら『デモクラシーと世界秩序 地球市民の政治学』におけるデヴィッド・ヘルドの考えを丁寧に説明し始めました。

「デヴィッド・ヘルドはこの本で、現代の課題に向けた新しい民主主義の構造を提案しているの。彼は、地方や国家単位での民主主義が、今の国際的な問題には十分に対応できないと考えているのね。環境問題や経済格差、人権問題のような地球規模の課題に取り組むには、地球規模での民主主義が必要だとしています」

エイレネが真剣な表情で頷き、興味深そうに耳を傾けました。「彼は、地方や国家だけでなく、グローバルな場でも民主的な意思決定ができる連続体のようなものを作るべきだと考えたの。『連続体』というのは、地域のレベルから国家、そして最終的には地球規模のレベルまで、各層で民主的な決定が行われる仕組みのことよ。すべての層でそれぞれの民主主義が連携し合うことで、地球全体の課題に対応するという構想ね」

「たとえば、地方では地域住民が環境保護についての意思決定を行い、それが国や国際機関にも連動していく。最終的には、地球規模での意思決定の場にそれが反映され、共通の方針が決められる仕組みよ」

プロメテウスが腕を組み、「つまり、それぞれのレベルでの意見が集まって、地球全体の意思決定につながるということか。具体的にはどんな形が想定されているんだい?」

ミエナは続けました。

「彼が理想とするのは、『地球市民議会』のようなものです。国際的な問題は、もはや各国政府だけで解決できるものではないから、地球市民が参加する直接民主主義的な機関が必要だと考えているの。ここでは、各国の市民が直接的に地球規模の意思決定に関わり、代表を送り込んで発言や投票を行うことが想定されているわ」

「たとえば、気候変動対策や人権問題で世界共通の政策を決める場がこの地球市民議会になる。地域から国へ、そして国から地球市民議会へと続くこの『民主主義の連続体』が、彼の描く理想的なシステムなの」

ディアナは満足げに頷き、「地方からグローバルまでつながる新しい民主主義のモデルが、世界の平和や環境問題の解決に役立つってことね。私たちが求めている地球政府のビジョンにも近いものを感じるわ」とつぶやきました。

ディアナが質問した内容について、ミエナはさらに親切に答え始めました。

「デヴィッド・ヘルドは、従来の国家中心の民主主義モデルを超えて、グローバルな視点での民主主義を提案しています。」

エイレネたちは興味津々で耳を傾けました。

「彼の考えでは、地方からグローバルまで、様々なレベルでの民主主義が連続的に存在し、それぞれが相互に補完し合うべきだとしています。具体的には、次のようなポイントがあります。」

1. 多層的ガバナンスのモデル 「ヘルドは、多層的ガバナンスを提唱しています。これは、地方、国家、地域、そしてグローバルなレベルでの民主的な決定が連続して存在し、それぞれが協力して機能することを意味します。例えば、地方自治体の問題は地方レベルで、国家の問題は国家レベルで、そして地球規模の問題は国際的な機関で対処するというアプローチです。」

2. 地球市民の概念 「彼は地球市民の概念を強調しています。地球市民とは、国境を超えて地球全体の問題に対して責任を持ち、行動する人々のことです。地球市民の政治は、地球規模の課題に対して国際協力を促進し、人権、環境保護、持続可能な発展などの問題に対して共同で取り組むことを目指しています。」

3. グローバル民主主義の制度設計 「ヘルドは、グローバルなレベルでの民主主義的な制度設計の必要性を主張しています。例えば、国連のような国際機関を改革し、地球市民が直接参加できる議会を設立することや、国際的なNGOや市民社会組織の役割を強化することです。これにより、グローバルな問題に対する市民の声がより強く反映されるようになります。」

4. 正当性と説明責任 「ヘルドは、全てのレベルでのガバナンスが正当性と説明責任を持つべきだと述べています。これは、政策決定が透明であり、市民がその過程に参加し、影響を与えることができるようにすることを意味します。また、政策を決定する機関や個人がその決定に対して説明責任を負うことも重要です。」

ディアナが頷きながら、「つまり、ヘルドは地方からグローバルまで、すべてのレベルでの民主主義が相互に関係し合いながら機能することを提案しているのね。」と言いました。

「その通りです。」ミエナは続けました。

「彼の提案は、既存の国家中心のモデルだけでなく、国際的な協力と市民参加を重視する新しい民主主義の形を目指しています。これにより、地球規模の問題に対する効果的な解決策が見つかり、持続可能な未来を築くことができると考えています。」

エイレネたちは、ヘルドの理論が自分たちの地球政府構想にも通じるものであると感じ、ますますやる気を新たにしました。

「地球人というだけではなく地球市民としての責任を果たし、地球の未来を守るために、私たちも頑張らなければならないわね。」エイレネが決意を新たに言いました。


3-13 良い社会とは全ての人が基本的な所得の源をもつことが絶対必要

 ディアナはテーブルに手を置き、真剣な表情でミエナに問いかけました。

「ガルブレイスという学者が『良い社会においては、すべての人が基本的な所得の源をもっているという、絶対的で不可分の必要条件がある。そして、もしそれが市場システムから得られないのであれば、国家から供給されなければならない。市民の自由に対する制限として、金銭の完全な欠如以上に強いものは存在しないということを忘れないようにしよう』と主張しているのだけれど、この考えと似た主張をしている人や、同じ内容の言葉を残している人はいるのかしら?」

 ミエナは柔らかな微笑みを浮かべて頷きました。

「ええ、もちろんディアナ。この考え方は、ガルブレイスだけでなく、他の多くの経済学者や哲学者によっても述べられているわ。特に、基本所得やベーシックインカムの提唱者が挙げられるわね。まず、経済学者のミルトン・フリードマンがこの考え方に近いものを持っていました。彼は『負の所得税』という制度を提案し、貧困層に最低限の所得を確保することが、自由で健全な社会を作るために必要だと考えたの」

パンドラが目を輝かせて聞き入り、プロメテウスも興味深そうに身を乗り出しました。

「さらに、哲学者であり社会改革者でもあるトマス・ペインも、18世紀後半に『すべての人は生きるための最低限の所得を保障されるべきだ』と考えていました。彼は著作『農地正義』の中で、生まれながらにして得られる『自然の権利』を基に、政府が所得を保障するべきだと主張していたわ」

ディアナは感心した表情で頷きました。「ずいぶん前からこの考え方があったのね。人間としての基本的な権利を意識していたなんて」

「ええ、同様に現代でも、ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは、人が生活の最低限を確保することが『自由を実現する手段』だと考え、基本的な所得や生活の安定がなければ、人は本当の意味で自由に生きられないと言っています。また、フランスの経済学者トマ・ピケティも、経済格差や貧困を縮小し、社会の安定を保つためには最低所得を保障することが必須だと述べているの」

プロメテウスがうなずきながら口を開きました。

「そうか。つまり、基本的な所得の確保は単なる生活支援だけでなく、人間が自由や幸福を追求するための基盤とみなされているわけだ」

ミエナは微笑みながら続けました。

「そうよ、プロメテウス。基本的な所得の保障は、人間が自由で平等な社会を築き、個々の幸福を追求するための重要な土台。ガルブレイスや他の思想家たちの考えも、みんなが安心して暮らせる社会を目指すために欠かせないものだったの」

ディアナは深く頷きました。

「分かったわ、ミエナ。所得補償などきちんとした生活に密着する経済政策が選挙で絶対の必要条件になるのね。大統領選挙でも、これを単純明快に新大統領は演説していたし、日本でも103万円の壁という明確な政策を主張した政党が躍進したのはこれね。これを土台にして、私たちも『地球八策』の中に誰もが安心して暮らせるための基本的な所得の保障を平和の配当として前面に出したいわね」

といって、エイレネたちの賛同を得た。


 その夜、エイレネは鮮やかな夢の中にいた。

目の前には、果てしない人々の波が広がり、彼らは一斉に「基本的な所得を補償しろ!」と声を上げていました。

驚きながらもエイレネは、一人一人の言葉に耳を傾けていきました。

「病気の母のために薬がいるんです!」

「子どもに毎日ご飯を食べさせたい」

「仕事はあるが、食べるには足りない」

「何よりも安心して眠れる夜がほしいんです」

……その理由は多岐にわたっていましたが、どの声も切実で、共通して「食べ物」への欲求が根底にあることを感じました。

日々の糧、栄養、そして満足感——彼らが求めているのは、身体と心を支える最低限の生活でした。

その時、ふとエイレネの頭に浮かんだのは「パンが無ければケーキを食べればよい」という、歴史に残る言葉でした。

マリー・アントワネットが言ったとされるあの言葉を思い出すと、エイレネの胸に小さな痛みが走りました。

「ケーキを食べればいいだなんて……」

エイレネはその言葉が、飢えに苦しむ人々にとって、どれほど大きな隔たりと絶望を示すのかを悟りました。

食べるものが無い人々にとって、「ケーキ」という贅沢なものは遠い夢でしかなく、彼らが求めるのは一口のパン、あるいは一杯のスープ。それだけで家族を支え、次の日も生き抜くための糧なのです。

「基本的な所得があるべきはずだわ」とエイレネはつぶやきました。

「それが人々の平等と尊厳、安心して生きる権利を守る一歩になるなら、どうしてこれを満たさないでいられるでしょう」

エイレネは強い決意を胸に、その夢の中の群衆とともに歩き始めました。

人々の願いは大きなうねりとなり、夜明けの光の中でひとつの目標として浮かび上がっていきました。

基本的な所得の確立こそが、未来への新しい道を切り開くために必要な第一歩なのだと。


3-14 リョウマが思わぬ行動と情報をもたらす

転寝うたたねをしていたリョウマが目を覚まして「全部、交渉をしてきたぜよ」といった。

エイレネたちはビックリして「えっ!なになに?」と聞き返しました。

リョウマは、「ホッブズとルソーの合体型『地球契約:平和と自由の地球コンパクト』という凄いもんが出来たきに、これまでおまんらがリストアップしていたNGOだの、民主党や共和党の有力者や支持団体などに、ちょくら挨拶してきたぜよ! 地球憲法草案や地球八策もついでに一緒に広めてきたぜよ。おまんらの三種の神器ならぬ『三種の神記』だな、これらは!」といって、豪快に笑った。

4人はビックリして、「みんなの反応はどうでした?」と聞いた。

リョウマは「ワシの登場にみんなびっくりしておったが、すでにおまんらが交渉を始めていたこともあるし、何やらおまんらの活動が反響を呼んで『おやすみ、エイレネ! 神々と温暖化阻止と地球政府樹立に挑む:現代編』とかいう本まで、こういったことに関心がある人々の間でベストセラーになっちょったぞ!」と言った。

エイレネたちは、「え~~~っ! そんな~~~! 本になってしまっているなんて・・・チョーうれしい!」と声を揃えて喜んだ。

リョウマは続けた。

「そいでもって、ホッブズとルソーの合体型『地球契約:平和と自由の地球コンパクト』が最新作だと言ったら、特にNGOの人たちは待ってましたとばかりに読んで感心してくれたぞ!こういうふうにビジョンをまとめると目標がはっきりしてとてもうれしいと言ってくれていたぞ!」

 エイレネたちはリョウマの行動力の凄さに改めて心から感謝しました。

「継続は力なり!」

エイレネがみんなに向かって、思いっきり元気な声で叫んだ。

「私たちも、リョウマさんだけでなく、同じようにこの『三種の神記』を広める活動を続けましょう!」

 エイレネの声に、3人とも大きくうなずいて円陣を組んだ。

 リョウマは彼らの横でほほえましい光景を眺めていた。


3-15 ミエナの新兵器・パラレルワールド・ワープ装置

 翌日、ミーティングルームに集まった4人のところに、マコテス所長とミエナがそろってやってきた。

 朝の挨拶やリョウマの活動や情報の報告が終わると、所長もミエナもビックリしてしばらく放心状態になった。

「え~~~っ! そんな~~~! 本になってしまっているなんて・・・チョーうれしい!」とミエナは喜んだが、所長は「・・・チョー困る!」といった。

 エイレネたちは「所長!なぜですか?」と聞いたが、所長は理由をなかなか話そうとしなかった。

 そこで、ミエナが「皆さんには知られたくないことも書かれているかも知れないじゃあないですか?」と訳知り顔にささやいた。

 あわてて、所長は「それよりなにより、ミエナがまたスゴイ装置を開発してくれたのだ!君たちはきっと大喜びしてくれると思うよ!」といって、後の説明をミエナに譲った。

「皆さん、ついに『パラレルワールドを移動できるワープ装置』が完成しました」

エイレネたちの目が輝き、部屋にはざわめきが広がった。

これまでの探求心がいよいよ現実のものになると考えると、誰もが期待に胸を膨らませた。

「ミエナ、それって一体どうやって動くの?」パンドラが真剣な表情で尋ねると、ミエナは透明なパネルを操作しながら続けた。

「簡単に説明すると、この装置は量子生物学を応用して皆さん一人一人の『量子のもつれ』のパターンに基づいてパラレルワールドの次元の境界を操るんです。簡単に言うと皆さんの脳波を特定のパターンに合わせて同調させることで、別のパラレルワールドの『量子のもつれ』のパターンにロックオンします。そして、その世界と現在の世界を結び、物理的に皆さんを移動させるのと同じ状況を創るんです」

「えっ、それって、他のパラレルワールドの自分になっちゃうってこと?」ディアナが驚いて言うと、ミエナは頷きながらも注意を促した。

「そうです。ただし、そうなることで一種の『干渉』が起こる可能性もありますから、気を付けて。目指す『量子のもつれ』のパターンがズレルと、本来行きたい世界とは異なるパラレルワールドに迷い込む危険もあるので、私の指示をよく聞いてくださいね」

プロメテウスが腕を組み、うなずきながら言った。

「要するに、私たちが望む未来や、過去に似た別の可能性の世界を直接確かめることができる、と?」

「その通り。皆さんがこれまで想像したことを実際に見て体験するんです。各々が抱えてきた理想や未来の夢が、他のパラレルワールドでどんな形になっているか、確認できるでしょう」

エイレネたちは興奮しながらも、少し不安そうな顔を見せた。

だが、それもミエナは承知の上だったのか、にっこりと笑い、こう続けた。

「準備は整っています。皆さんがどの世界に行きたいか考えてみてください。そこに、今から案内します」

 エイレネは、「それなら既に決まっています。次の5つの時点で、私たちの働きかけが成功するのか失敗するのか知りたいです」といった。

 ほかの3人も大きくうなずいて、4人そろってミエナに希望を伝えた。

「①2025年に早ければ『国内分断の激化による政権崩壊の危機』が訪れるので、その状況下で大統領に提案してみたいので、まず第一番目はそこです。

②2026年に中間選挙が行われますし、早ければ『国際社会との衝突による孤立』や『不安定な外交による危機管理の失敗』という海外からの危機が訪れるので、その状況下で大統領に提案してみたいので、そこが2番目です。

③2027年には『経済の悪化と支持基盤の動揺』という国内での危機が訪れるので、その状況下で大統領に提案してみたいので、そこが3番目です。

④2028年の大統領選挙で、民主党と共和党の候補が『温暖化阻止と地球政府樹立』についてどのような選挙戦を展開するのか見て、できれば両候補にアドバイスもしたいので、そこが4番目です。

⑤2029年には第48代大統領の時代になっているので、新大統領に『温暖化阻止と地球政府樹立』についてアドバイスしたいので、そこが5番目です。

⑥2030年は『カサンドラとイケマコス所長のデッドライン』なので、世界がどうなっていくのかこの目で見てみたいと思うので、そこが最後の6番目です」といった。

 ミエナは、さっそく「パラレルワールドのワープ装置」をセットし始めた。

「さあ、みなさん、心の準備は良いですか? これから、みなさんがワープする世界は実名の世界です。なぜなら、そこはこの現実の世界と同じようにみえるけど実は異なるパラレルワールドなのでこちらの世界への影響は全くないということと、これからワープするパラレルワールドの世界はトンデール大統領もその側近たちも想定しているはずの困難な状況だからです。つまり、秘密でも創作でもない、これからの政治状況をさまざまに検討しておくべき政策代替案の一つずつだからです。政策科学発祥の地のアメラシアですから政策分析とシナリオ分析をきちんと取り入れているはずです。つまり、トンデール大統領やその側近たちも、私のようなAIが予想するような危機的状況や困難は当然想定内の事態として考えているはずです。しかもその対策も練られているはずです。だから、これは公然たる周知の世界のシナリオに過ぎません。あなた方は実名で彼らが登場してくることに驚く必要は全くないので、その点は気づかいする必要はありません。そして、あなた方がパラレルワールドで行ったことがどのような結果になっても、それは政策科学で言う政治的オプション分析なので、現実のこの世界には何の影響もありません。あくまでもパラレルワールドに対してみなさんが行ったことであり、そこから先の世界も『失敗する世界』と『成功する世界』というように二つに分岐して、『異なるパラレルワールド』が誕生していくだけです」と熱心に説明してくれた。

第三部 完


注意書き

本書はフィクションです。本書に登場する人物、団体、地名、組織、国家、出来事、歴史などは、すべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。万が一、現実の人物や出来事との類似点があったとしても、それは単なる偶然です。

また、本書の内容は完全に創作であり、科学的・歴史的・宗教的事実を反映するものではありません。本書に登場する技術、魔法、超常現象などはすべて架空のものであり、現実とは異なります。

本書では社会問題をテーマとして扱うことがありますが、特定の思想・信条を読者に押し付ける意図はありません。登場する人物の意見や行動は、著者や出版社の見解を代表するものではありません。

イケザワ ミマリス


あなた方がパラレルワールドで行ったことがどのような結果になっても、それは政策科学で言う政治的オプション分析なので、現実のこの世界には何の影響もありません。あくまでもパラレルワールドに対してみなさんが行ったことであり、そこから先の世界も『失敗する世界』と『成功する世界』というように二つに分岐して、『異なるパラレルワールド』が誕生していくだけです」と熱心に説明してくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ