ビジネス
先走り短編
目を覚まし、何気に風の冷たい方を向くと、月にも似てつるりとした坊主の頭部が夜空に映えた。縁側で背を見せている永角という名のその坊主は、私の目覚めに気付いて、庭から流れ込む夜の冷気と鈴虫の声を肴に、こくりと薄酒を一口やった。
「お目覚めですか。お寒いでしょう。遺体は隣の部屋に安置しておりますよ」
私は「では約束のお金を」と言い、布団の隣に置いてあった黒いバッグから、一〇秒持っていれば腕が疲れるような札束を取り出した。
栄角は恭しく両手で札束を受け取った。そして何も言わず、金さえ貰えばこの世は太平無事、といった様子でどこか別の部屋に行った。使われていなさそうな――別の言い方をすれば金庫にでも使われていそうな――部屋に行ったかと思うと、そこの電気が付いて障子を明るくし、何やら金庫を開けて札束をしまっていそうな、ごそ、ごそした音が聞こえてきた。手際が良いことだ。甚だしく俗物的な手際が。
私は隣の部屋に向かって南無帰依仏――と唱え、そうしてから襖を開けた。若い男の遺体だ。私がこれからとあるビジネスに用いようとしている遺体。