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遭遇

更新します。

『ここが……異世界!? すげぇ……』


 蓮司が降り立った場所は、レンガ造りの建物と石畳の道路に荷馬車が走る街中。

 ミズガルの中でも特に発展した二ホンから来た蓮司にとって、そんな光景はさぞかし珍しく映っただろう。目を輝かせて周囲の光景をキョロキョロと見回すその様は、まるで歴史的建造物が有名な観光地に来た観光客のよう。


『おっと、何時までもこうしてはいられない。セオリー通りなら、まずは冒険者ギルドだな! ええっと……どこにあるかな?』


 ゆらゆらと歩き出しながら、周囲の建物と掲げられた看板を見つめる蓮司。

 だが――


『な、なんて書いてあるんだろう? よ、読めない……』


 象形文字のような、ミズガルとはまるで違う言語。如何に目を細めたところで、まじまじと見つめたところで、その意味を理解することなど出来ようはずがない。


『こういう時、ステータス設定とかでどうにかならないかな? ステータス、オープン!』


 力強く叫ぼうとも、そんなものは出てこない。

 当然だ。ここは神に管轄されているとはいえ、電子の世界とは違う。

 都合のいいステータス表示など、ゲームの中の産物だ。ゲームの世界に迷い込んだならいざ知らず、この世界は――彼からすればゲームのような世界だろうが――ゲームではない。


『ええっと……どうしたらいいか――わぷっ!?』


 読めない文字に四苦八苦している頭を抱えている、その時だった。

 後方不注意で蓮司は誰かにぶつかった。尻もちを突きながら『すみません』と口にした蓮司だが、瞬間彼は思わず絶句してしまう。


『何だぁ、てめぇ! ごめんで済んだら衛兵なんぞ要らねえだろうが!』


 そこにいたのは、筋骨隆々で武骨な大男二人組。自分よりも遥かにガタイが良くて巨大で強面な、どこからどう見ても真っ当ではない風体の男たちに絡まれたことで、蓮司は恐怖から小さく悲鳴を漏らす。

 しかし、そんな悲鳴を上げたところで許してくれるようなら、最初から絡んでなど来ないだろう。大男のうち一人の腕がにゅっと蓮司の胸倉へ伸び、そのまま蓮司を掴み上げた。


『何とか言ったらどうなんだ? ええっ?』

『うぐっ! や、やめ……ごめんなさい!』

『だから、謝罪なんか要らねえんだよ! 金だよ、金! 迷惑料寄こせって言ってんだよ!』

『僕、お金なんか持ってないです!』

『何だと、この野郎! じゃあ、俺様を不快にさせた罰に――』

『おい、兄貴ちょっと待ってくれ! ソレ見ろ、ソレ!』

『――ああん? 何だって……ほう?』


 もう一人の男に促されるように蓮司の腰元へ視線を向けた大男。

 そこには見事な装飾の施された柄と鍔が印象的な細身の剣――ミズガルの名前ではニホントウとか言うらしい――がぶら下がっており、その剣を見て不敵な笑みを浮かべる。


『良いモン持ってんじゃねえか、坊主! 丁度いい! 金がねえなら、この剣を寄こせや!』

『――えっ? いや、困ります! これは大切な――』

『つべこべ言わずに寄こせ、ガキ! こんな上等な剣、テメエみたいなヒョロガキには不釣り合いだっての!』


 空いたもう片方の手を、蓮司の佩いた剣へと伸ばす大男。

 しかし蓮司も、剣を奪われまいと両手で必死に抵抗する。


『や、やめてくださいってば!』

『テメエ、抵抗すんじゃねえよ! さっさとその手を放せ! 痛い目見たいか?』


 あまりにもしつこく抵抗する蓮司に苛立ちが募ったらしく、大男は蓮司の首を掴み上げたまま、顔面に強烈なフックを叩き込む。口角が切れて血が滴り、口の中が血の味で満たされる。襲い来るじんわりとした痛みは、一瞬頭の中が真っ白になるほど。

 そうして抵抗がなくなったことに気を良くした大男は、『最初から大人しくしてりゃいいんだよ、このガキっ!』と悪態を吐いて、再度蓮司の剣へ手を伸ばす。

 だが――


『……めろ……』

『あん? 何か言ったか?』

『やめろって言ったんだよ、このクソ野郎が!』


 理不尽に殴られたその瞬間、遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。

 蓮司は激情のままに剣を引き抜くと、一閃。刃は大男の胴を脇から捉え、そのまま逆側の肩へと抜けていく。


『――がっ!? えっ?』


 何が起きたか分からないまま、胸から上から徐々にズレ落ちていく大男。最後には完全に胸から上が地面を転がり、そして残った胸から下も力なく崩れ落ちていった。

 街中で突然引き起こされた凄惨な出来事を前に、困惑した市民たちから上がる悲鳴。

そして人を殺した感触に震える蓮司と、兄貴分を殺されて動揺しながらも憤る弟分。


『てんめぇ! よくも兄貴を……許さねえぇ!』


 背中から担いでいた獲物の両刃の大斧を掴んで構えを見せる弟分。

 敵を前に、幾許かの冷静さを取り戻した蓮司はゆらゆらと立ち上がると剣を構える。


『死ね、この野郎!』


 激情に任せて吠えながら、獲物の大斧を大上段に掲げて迫りくる弟分。

 しかし、蓮司はそれを冷静に見極めると。


『はっ!』


 大振りの隙間を縫うようにして足を運び、すれ違いざまに横薙ぎの一閃。

 すると弟分の腹部に一本の赤い線が引かれ、その線から夥しい量の血と臓物が噴出。


『ぐぎゃああああああああああああああああああっ!? ち、ちくしょう! てめえ!』


 苦悶の表情で悔恨の一言を残し、弟分もまたその場に崩れ落ちた。

 そして蓮司は、血塗の剣を一振りして血を払うと、剣を鞘へしまい込む。

 そのままくるりと踵を返すと、地面に転がる大男の亡骸の思いっ切り踏みつけ始める。


『お前らがいけないんだ! お前らが……この……このこのこのぉっ!』


 骸を蹴るたびに飛び散る血飛沫をその身に浴びながら、一心不乱に亡骸を踏みつける蓮司。そんな折。


『凄いね、君。その二人をたった一人で、しかも一瞬で屠るなんて……大した腕だ!』


 拍手と共に響く、称賛の声。

 踏みつける足を止めて声のする方へ視線を向ければ、そこにいたのは三人組。

 白銀の鎧と背に背負った大剣が目を引く蓮司と同世代らしき少年一人と、その脇を固める二人の少女。一人は身の丈ほどの杖とローブ姿に銀縁眼鏡といういで立ちからして魔法使いであり、もう一人は白い法衣とお淑やかな雰囲気を纏うサポート役だろう聖職者。


『おい、アレ……ユークスじゃないか?』

『えっ? この街最強の冒険者パーティーを率いているっていう、あの?』

『ああ! 魔法使いと聖職者の少女を連れ歩いているって話だし、間違いないぜ!』


 周囲の人々から羨望の声を一心に受ける少年――ユークスは、道に転がる死体を避けながらツカツカと歩み寄ると、蓮司に向かって人懐っこい笑顔と共に手を差し伸べる。


『その腕前を見込んで言おう。君、よければ僕たちのパーティーに入らないかい?』

『……えっ?』


 差し出された手と少年の顔を見比べながら、思わず目を白黒させる蓮司。

 しかし、そんな蓮司の手を半ば強引に取ると、一歩的に固い握手を交わしてきた。


『いやぁ、最近前衛の一人が殉職してしまってね。折角腕のいい後衛が二人もいるのに、前衛が僕一人しかいないからバランス悪くて困っていたんだ。

そこで優秀な前衛職を探していたんだけど、こんなところで出会えるとは……見たところ君は駆け出し冒険者の様だけど、もう既にどこかのパーティーに入っているのかな?』

『いえ。まだどこにも……この街に来たばかりで、右も左もわからな――』

『本当かい? それは丁度いい……いや、もう運命だよ! 是非、君をパーティーに迎えたい! あっ、まだ名乗ってなかったね! 僕はユークス。ユークス=リーデルだ。君は?』

『……蓮司。神矢代蓮司……です』


 仲間と共に冒険したい。そう願って異世界まで来た蓮司にとって、この展開はまさに願ったり叶ったり。まして、この街で最強と称されるというパーティーからの直々の誘いであり、加えてパーティーメンバーとなるだろう少女二人――特に魔法使いの少女の顔立ちは蓮司のストライクゾーンど真ん中ときている。まさに完璧な状況。断る理由など微塵もない。


『よろしくお願いします……ユークスさん』

『仲間になるんだし、ユークスでいいよ。よろしく、レンジ!』


 蓮司自身も運命を感じるこの出会いへの感謝と誘われた喜びに顔を綻ばせながら、一方的に握られていた手を強く握り返す。

 異世界へ来てよかったという歓喜と運命的な出会いへの感謝。今の蓮司の心の中に不安や悲観など一切なく、ただ新しい異世界ライフへの輝かしい希望に満ち溢れていた。


如何でしたでしょうか?


よろしければブクマ・評価など頂けると幸いです。

宜しくお願い致します。

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