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騒動

更新します。

 ユークスたちは地上へ戻るなり、その足で冒険者ギルドへ。

 そして蓮司がダンジョンにて死亡した旨を報告する書類を慣れた手つきで手早く作成すると、冒険者ギルドの受付窓口に遺品である剣と共に提出した。

 あとは手続きの完了を待ち、見舞金と返却される証拠品を回収するだけ。

 見舞金はパーティー全体の評価と脱退した冒険者個人の評価の乗算によって算定される。

 ユークスたちのパーティーは、冒険者ギルドの中でも三指に入るほどの高レベル。仮に脱退した冒険者の評価が最低だったとしても、十分多額の見舞金が期待できる。

 加えて蓮司は、冒険者としての活動歴は3カ月と短くはあったが、その間様々なクエストに参加しつつ森でのモンスター狩りも日課として取り組んでいた。お陰で撃破数だけなら相当数を稼いでおり、クエストの達成率も上々。

 乗数はかなりの高値を期待できる。となれば必然、見舞金の額にも期待が高まる。

 見舞金を受領するまでの間に、3人はあれこれと使い道を話し合っていた。

 館の購入や高級な食事に酒、旅行や新しい装備など、湧き出す欲望はまさしく底なし。

 だが、彼らが口にする金の使い道の中に一つとして、蓮司への手向けや供養と取れるような使い道は無かった。冒険者として名を馳せる彼らの使い道に、かつて仲間だった者への尊敬も感謝も無い。酷くドライで冷酷と言える。だが、その非情さこそが冒険者として生きる上で必要な資質ということだろう。

 蓮司は、その辺りを理解出来なかった。物語で見た冒険者という生き方に、夢を抱き過ぎた。シビアな現実と甘い夢――どちらを見るべきか、その答えはここに出たと言えるだろう。


『そういえばさ、あの受付係君……名前はレオンだっけ? アイツ、何か蓮司の死亡報告受け取った時、露骨に悲しんでなかった?』

『ああ、そういえば確かにそうだったかも知れません』

『成程。ということは恐らく、彼がレンジに余計な入れ知恵をした犯人か。これは、放ってはおけないね』

『そうね。お喋りなヤツには罰を与えないと。レンジの後を、追わせてあげようじゃない』

『私はあの子可愛いから反対! そんな酷いことしなくても、私が躾ければOKでしょ?』

『うわぁ……ニコロの教育とか、絶対に死んだ方が幸せだと思うわ』

『クリスティ、君の意見に完全に同意だよ。ニコロは容赦がないからね』

『酷っ! ちょっと苦悶に満ちた表情を堪能するだけじゃない!』


 楽しい話を切り上げて持ち上がった話題は、物騒で危険な結末に着地する。

 これからレオンの身に訪れる死よりも苦しい絶望の日々を思い、同情の念を禁じ得ないがゆえにニコロに半眼を向けるユークスとクリスティ。

 だが、そんな和気藹々とした時間を過ごしていた時だった。


 ドォオオオオオオオオオオン!


 冒険者ギルドの建物奥、丁度エントランスの辺りから轟音が轟く。


『ぎゃぁああああああああああああああああっ! ぐえっ!?』

『や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおっ! のぎゃっ!?』


 そして次々聞こえてくる、野太い声の悲鳴と断末魔。

 絶えず響くその声からして、只事でないのは明白。幸いダンジョンから戻ったままの格好故に武装は完璧なユークスたち。顔を見合わせて一瞬で意思疎通を取ると、一気に駆け出して悲鳴の響く方へと駆け出す。

 近付けば近付くほどに鼻を突く血臭が強くなり、それでも匂いを我慢しながら駆け抜けて漸く現場たる冒険者ギルド入口に到着した瞬間――


『うわっ! こ、これは……』

『酷い……うぷっ!』

『何ですの、コレ……』


 直視に堪えない凄惨な現場に、3人は一斉に顔を顰め顔面蒼白となる。

 見慣れたエントランスは屋根と壁の一部が削がれたように消し飛び、そこかしこに三十はくだらないだろう夥しい数の冒険者の骸が転がっている。

 至る所に血が飛び散り、地面にも血溜まりが出来上がっている――目を覆いたくなるようなこの凄惨な現場は、さながら激戦が繰り広げられた直後の戦場といったところか。転がる死体はどれもが見事な切れ味の刀剣で一刀のもと切り捨てられており、一人として例外なく深々と刻まれたその傷からして全員一撃で事切れたことは明白。

 こんな技量、最早人間業ではない。となれば考えられるのは。


『まさか、モンスター? モンスターが攻めて来たって言うの?』

『バカな! ここは冒険者ギルドだよ? そんなの、普通に考えてあり得ない!』

『でも、これはそうだとしか……こんな腕力、人間じゃないわよ。ユークスでも、こんな斬殺不可能でしょ?』

『それは、まあ……確かに。それにしても、一体どんな奴が――』

『ゆ、ユークス……クリスティ……み、見て……アレ』

『何? どうし――っ!?』

『――なっ!? 嘘……そんな!』


 ニコロが恐怖で震えながらも指差した方へ視線を向けた瞬間、ユークスとクリスティは思わず絶句する。そこにいたのは、骸転がる凄惨な現場のど真ん中に悠然と立ち尽くす、返り血塗れの一人の男。その男に左腕は無く、足も肉が削げてズタズタで痛々しい。皮膚は至る所が焼け爛れたようで、目を覆いたくなるほど無残で醜い姿。最早人間らしい原型など留めていない。

 それでも、僅かに見える瞳の色と佇まい、加えてその手に握られた酷く見覚えのある形状の剣が、その正体を告げてくる。絶対にあり得ないハズの、その正体を。


『れ、レンジ……なの? でも、そんな筈は……』

『あり得ないわよ! それにあの剣だって、私たちが確かに回収した! アイツが持っているワケ――』


 恐る恐る繰り出された問いに答えることなく、男は静かにユークスたちを一瞥。

そしてそのまま静かに、まるで瞬間移動でもしたかのように一瞬で姿を消す。


『なっ!? 消えた?』

『そんな……全然見えなかった。一体どこ――ぐふっ!?』


 辺りをキョロキョロと見回していたクリスティから、驚愕と疑問と苦悶の声が漏れる。

 当のクリスティの状況認識がまるで追い付いていないほどに、一瞬の出来事。辛うじて攻撃を受けたことだけ理解できた彼女は、恐る恐る視線を下げてみる。すると目に飛び込んできたのは、自身の背中から突き刺さり胸に抜けている刃。刃渡りからして根元まで深く刺さっているその剣を見て漸く、クリスティは自身が致命傷を負ったことを理解した。


『嘘……そんな……がふっ!?』

『クリスティ!?』

『そんな……いやぁあああああああああああああああああっ!?』


 夥しい量の吐血を地面にぶち撒けるクリスティの姿に、ユークスとニコロは驚愕と動揺を禁じ得ない。それでも、動揺を沸き起こる憎悪で押し殺しつつ剣を抜き放ち、全力の踏み込みからクリスティを手に掛けた男へ接近するユークス。


『こんのぉおおおおおおおおおおおっ!』


 仲間を手に掛けた憎い敵に向かって、憤りのままに剣を振るう。

 そうして迫る危機を瞬時に察した男は、手早く乱暴にクリスティの体から刃を抜くと、その華奢な体の首根っこを掴んでユークスが繰り出す白刃の前に晒して見せる。


『――なっ!? くっ!』


 寸でのところで刃を止め、クリスティの脳天をかち割ることを回避したユークス。

 そうして動きを止めて油断を晒してしまったことが、完全な命取りとなった。


『死ね、ユークス。クリスティと一緒になぁ!』


 クリスティの頭越しに聞こえる聞き覚えのある声に気付いたのも束の間。盾として使われたクリスティの体を死角に利用して繰り出される刺突の一撃がユークスに迫る。


『うぐっ!?』


 動揺しつつも何とか反応したユークスは、バックステップを繰り出すことで回避。だが、虚を突かれたその一撃から完全に身を躱すことは難しく、わき腹に深い裂傷が刻まれる。


『お前……お前は……やはり……レンジなのか?』

『…………』

『答えろ!』


 わき腹を抑えながらも吠えるユークス。

 すると男は、もう一度クリスティの体から無造作に剣を抜き放つと、首根っこを掴んだままクリスティの体を反転。自分の方へ、その顔を向ける。


『いいザマだな、アバズレ。まあ、因果応報ってヤツだ。それにしても折角仲間と一緒に死なせてやろうと思ったのに、ユークスは薄情だな……そう思うだろ、クリスティ?』


 男が問いを投げたところで、絶望の表情のまま生気を失ったクリスティは何も答えない。

 そんな姿からクリスティが事切れたことを悟った男は、小さく舌打ちをするとゴミでも捨てるかのような乱暴さでクリスティの体を放り投げる。


『あーあ、もう死んでる。折角もう少し苦しめてやろうと思ったのに、根性ないなぁ』


 そして男は、手にした剣の切っ先を悠然とした動きでユークスへ向ける。


『次はお前だ、ユークス。殺してやる……俺の手で、必ずぶっ殺してやるよ!』

『やはり……やはりお前は、レンジなんだな!』

『ああ、そうさ。お前たちを殺すために、遥々地獄から戻って来たんだよぉ……喜べよ? 喜べよ、ユークス!』


 狂気を孕んだ高笑い声が、建物内に木霊する。

 その声に、その異形なる姿に、滲む怨念に、ユークスは怖気と恐怖を禁じ得なかった。



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