006 異世界の少年(中編)
「これから王になるのか。謁見ってやつだな」
「はははは、何を言ってるのかな?」
素性の分からない者を謁見なんかさせる訳無いだろうに。
「まずは休める所に案内するよ。それから俺が報告に行ってくる」
「あっそう。じゃあ頼むわ……ええと」
「あぁ、そう言えば名乗ってなかったかな? 俺は聖騎士団所属のカイムだ。君は?」
「俺は譲二……いやジョーだ。そう呼んでくれ」
「ジョーね。分かった」
城に併設されている聖騎士団の詰め所に連れていき、業務を同僚に引き継いでおく。
さて、俺は報告書の作成だ。創作物のような内容を書いて提出しなきゃいけないのか。やだなぁ。
提出から2日経過した。
城では大騒ぎになっている。まぁ内容が世界の軍事バランスを崩壊させかねない物だからなぁ。
何で俺が城に居るかと言うと、宰相様に呼び出されたからだ。
間違いなく報告書の件か、ジョーという少年の件だろう。
「呼び出したのは、魔法陣の事についてだ」
「はっ」
「そう固くなるな。ここは私の執務室、他に入ってくる者はいないし他人に聞かれる事も無い。楽にしたまえ」
「そう言われてもですね……」
「国の運営をしている私と、国いや世界を保護している聖騎士団の君、ある意味君の方が立場は上だよ。非公式にだけどね」
笑いながら宰相様はそう言うけど、この国に生まれ育った自分としてはどう考えても宰相様の方が偉い。
「いつまでも堅苦しくされると困るのだよ。これからは色々と連携していかなければならないからね」
「連携ですか?」
「現状でも魔法陣の事やあの異世界人の事があるだろう? 忌憚なき意見を求めるのには同等でなければ困る」
「は、はぁ」
「まぁ、すぐにという訳にはいかないのは分かるが、努力してくれ」
「分かりました! 分かりましたので頭を上げてください!」
宰相様に頭を下げられるなんて心臓に悪い! 穴に入ってた方が精神的にはまだマシだ。
「時間も無い事だし、早速要件に入ろう。勿論だが、何か疑問や意見があればその都度発言してくれ」
「了解しました」
「本命の話をする前に軽く異世界人の事について話そうか。君も気にはなっていると思う」
「そ、そうですね」
気にしてないと言えば嘘になる。
「彼はこの国の人間として扱う事となった。勿論能力については秘匿とするがね」
「少年はそれに納得しましたか?」
「簡単に納得したよ。身分証が必要だろ?と言ったらすぐにね」
軽いなぁ。自分の凄さを自覚していないのだろうか?
「後はあらゆる手段を用いて、この国に忠誠を誓わせる。まぁ彼の性格を考えれば一ヶ月もあれば落とせるだろう」
「早いですね……」
「彼は駆け引きや調略に慣れていないようだからね」
国が本気を出せば少年一人を陥落させるなんて容易いだろうな。
俺もやられた事があるが、ハニートラップや借金を負わせるとか何でもやってくるのが国という組織だ。俺は引っかからなかったが。
「もう既に伯爵家の娘と交流を始めている。いずれは結婚してこの国の貴族となるだろう」
「平民と伯爵家が結婚するのですか?」
「そこについては最後に話そう。彼については現状ではそんな所だ。さて本命の話としようか」
何で最後に話すのだろう? 出来る方法があるならサクッと話してくれれば良いのに。
まぁ良いか。俺は別に貴族と結婚したくないし、聞かなくても困るような話じゃない。
「魔法陣の事だが、どこまで知っている?」
「どこまでとは?」
「起動方法だよ」
「ええと魔物石に魔力を貯めて、それを魔法陣に設置し、術者が魔法陣に手をついて呪文を唱える、だったと思います」
「さすがだな。正解だ」
「恐縮です」
「あれは危険な物なので、二度と発動させないようにすると決まったのだ」
まぁね、それが順当だろう。
軍事バランスを崩壊させるような人物を呼び寄せるなんて、危険以外の何者でもない。
今回はたまたま敵対しない人物が来たが、最初から敵対心丸出しの者が来てたら国の崩壊もあり得た。
どんなに危機的状況でも呼び出して利用するなんてありえない。
ドラゴンに襲われているからとドラゴンを呼び出すようなものだ。
ドラゴン同士が戦ってくれれば良いが、呼び出したドラゴンがドラゴンに向かうと決まっていないのだ。
というか近くに居る弱い自分達をまず襲うだろう。
もし飼いならせるとしても、100%信用出来る訳がない。飼いならした者が王になろうと考えれば王を狙ってくるのだから。
呼び出して利用してやろうと考えの者は短絡的な考えの犯罪者くらいだろうな。金が無いから他人から盗もうって考えるようなヤツ。
「魔法陣を壊すのは一番なのだが、なぜだか消す事も壊す事も出来なかった。
考えてみれば何百年と残っているのだから当然なのかもしれないがね」
「そうですね。確かに私が見た時も綺麗でした。掃除したり書き加えたりしたのかと思いましたが」
「元からあの状態だったようだ。という事で再度封印しようと考えたのだよ。元のように入り口を封鎖するなどしてね」
「発見前の状態に戻すのですね」
「そうだ。しかしそこで問題が発生した」
「問題ですか?」
「あぁ。設置した魔物石が外れなくなっていた」
「魔物石が?!」
「あぁ。しかも研究院が調べた結果、周囲から魔力を勝手に集めて貯めているらしい」
「……では、いずれ」
「あぁ、使用可能になってしまうだろうな。その状態で封印するのは危険過ぎるので、人員を割いて監視する事となった」
「しかし術者が呪文を唱えなければ起動しないのでは?」
「それは碑文の内容だな。読み解いた内容が正しいとは既に思われていないのだ」
確かに。
魔法陣の解析や碑文の読み解きが正しければ、未来へ送るだけの装置のはずなのだから。
「という事で、あの場に居た聖騎士団のメンバーは協力してもらいたい」
「監視ですか?」
「いや、監視は研究院の者がする。魔物石へ魔力が貯まった場合、何が起きるか不明なので、その時に居てもらいたいのだ。
秘匿情報なので、誰でも良い訳でもないしな」
あの場に居た者なら既に状況を知っているから問題無いという事か。
聖騎士団なら変かする状況にも対処出来るだろうし。
「了解しました」
「詳細はまた知らせる。あぁ、それに伴って新たな階級も作るのでよろしく。給料も上がるぞ」
あまり嬉しくない情報だ。危険手当って事だろ?
「おっと、最後になったから言っておくか。
平民が貴族と結婚する方法だが、聖騎士団になれば良い。聖騎士団は男爵家扱いとなっているぞ」
「えっ?! 聞いていませんが?!」
「そりゃそうだ。昨日決まったからな。だから聖騎士団に加入すれば、貴族とも結婚する事は可能だ。カイムも可能だぞ、良かったな」
「嬉しくありませんよ……」
「だからあの異世界人はいずれ聖騎士団に加入する。よろしくな」
「…………はい?!」
最後の最後に爆弾発言しやがった、この宰相様は。