005 異世界の少年(前編)
城へ向かう道中に少年の持つ能力に付いて詳しく聞く。
話さないと自由は無いよと剣を見せつつ軽く脅すとペラペラと話してくれた。
途中からは聞いてもいないのに詳しく話しだしたので、実際は聞いてほしかったのかもしれない。
「"言語理解"ってのは異世界の言葉や文字が理解出来るスキルだぜ」
「そうなんだ。じゃあ『今喋ってる事も分かるかな?』」
「ああ、分かるぜ」
隣国の言葉で話しかけたんだけど、それも理解出来るのか。こりゃ便利だ。
「ってか、異世界の言葉なんてどこでも共通だろ?」
「君の世界ではそうなのか? 俺が知っているだけで、この世界には10以上の言葉がある。
それを全て理解出来るのなら凄い能力だと思うけどね」
「……確かに俺の居た世界も色んな言葉があったけどよ。おかしいな」
「何がおかしいんだい? 国が違えば言葉も通貨も風習も違うのが当たり前じゃないのかい?」
「異世界では共通なのが普通なんだよ!」
少年はどこでそういう間違った知識を得ているのだろうか?
「"アイテムボックス"ってのは、言葉の通り異空間に物を仕舞えるスキルだ。これと言語理解は定番のスキルだな」
「定番ってのが分からないけど、それは何でも入れられるのかい?」
「試してないから分からねぇけど、普通は容量無制限でデカい物でも入るし出せる、入れた物は時間経過が無いな」
「それが事実ならとんでもない能力だね! 後で少し実験してみようじゃないか!」
「定番のスキルに食いつくなよ! 固有スキルに食いつけよ!」
何を言ってるんだ、この少年は。
そんな能力があったら世界に激震が走るぞ。間違いなく少年の取り合いが始まる。戦争になっても不思議じゃない。
「最後は固有スキルでハズレの"村作り"だな」
「ハズレ……? 名前だけでも便利な能力だと思うけど?」
「昔これを貰ったラノベを読んだ事があるんだよ。使えないって貴族家を追放されてたな」
「えっ?! 何で?!」
「貴族家だぞ?! 戦闘系のスキルじゃないと使えないから追放されるだろうが!」
「いやいや、逆でしょ! 貴族に必要なのは戦う力じゃないよ?! 政治力や統率力だよ?!
貴族が先頭に立って戦う訳ないでしょ! 兵を集めて運用するのが仕事だよ。
後は自領を発展させるのが仕事。そう考えたら戦闘の能力よりもその"村作り"の方がどう考えても必要だって!」
その世界は常に貴族の一騎打ちで勝敗を決めているのだろうか?
自領の発展に興味が無いのだろうか? 歪んだ世界だなぁ。
「あっ、そうか。ハズレスキルを持ってるから、俺は追放されるんだな。
で、どっかで村作りをしていずれ国を作るんだ。それでハーレムか。なるほど」
「いやいや、全然ハズレじゃないから。間違いなく追放なんかされないから。絶対に優遇されるから。
後、勝手に村なんか作れないからね? もっと言えば国なんか絶対に作れないからね?」
「何でだよ!」
「それはこっちのセリフだよ。どこの国に行っても勝手に村を作って良い場所なんか無いよ。
今は減ったけど、領土問題で戦争が起きるくらいなのに」
「誰も住んでない荒れ地とかあるだろ? そういう所でやるんだよ」
「確かにそういう場所はあるけど、住めないから誰も居ないだけだからね? どこかの国の領土だからね?
仮に住めるようにしたとしたら、国にまで発展する前に即没収されるからね?
そもそも村に住む人はどうするのさ。もしかして人まで生み出せるとか言わないよね?」
「村人は行き場の無い流民とか獣人とかが勝手に来るんだよ。しばらくすると商人も来るだろうな」
「行き場の無い流民……それって国を追われた犯罪者じゃないか。犯罪者の村を作るのかい? 討伐対象になるよ?
それに獣人?だっけ? そんなの居ないと思うけど」
国や民をどう考えているのだろうか?
少年の居た世界では、国内の『人が居ない場所』に『居場所が無くなるような事をした人間』が集まって村を作っても文句を言われないのだろうか?
それともそんなに広大な土地があるのだろうか?
「失礼かもしれないけど、一応聞いておくよ。君の居た世界は文明があまり発達していなかったのかな?」
「アホか! 進んでるわ! この世界の何百年も先にまで発達してたわ!」
そんな世界に住みながら、子供でも知ってそうな事を知らないのか……。
あぁ、きっとこの少年の教育レベルが低いだけかもしれないな。可哀想に。少しは優しくしてあげよう。
後、騙されないように注意しないとな。教育もしてあげないといけないだろう。
「話を戻すけど、その"村作り"という能力は何が出来るのかな? 統治する能力かい?」
「使ってないからわからんけど、整地したり家や井戸を生み出したり出来るんじゃねぇの?」
「……そんな人物を追放? えっと、戦闘系の能力を重視してるって言ってたよね?」
「おう、どう考えても戦闘系じゃねぇだろ?」
「バリバリ戦闘系能力じゃないか!」
「どこかだよ!」
「進軍した先で野営するのにメチャクチャ便利な能力じゃないか!
水の心配はしなくて良いしテントを設置しなくても良い。進軍する場合の道も整地出来る。
これに気づかない貴族なんて居ないよ!」
「あっ、思い出した。家に居る内は使う場所が無かったから、スキルの使い道が不明だったんだよ」
「使い道の分からない能力を、検証もせずに追放したのかい?!」
「そうだよ。何か変か?」
あ、頭が痛い……。
例えば今、自分が"穴を掘る"という能力を得たとしよう。
その場合、すぐにしかるべき場所に報告をする。すると能力の検証が始まるだろう。
結果、5分でに出来る穴の直径や深さが腕ほどの長さだったとしても、非常に有能であると評価を受けるだろう。
食事で出るゴミや糞尿を捨てる穴を掘る事は進軍では必要だからだ。
他にも落とし穴としても使えるかもしれないし、沢山作る事で敵の進軍を遅らせる事も可能だ。
パッと思いつくだけでもこれだけの便利さが出てくるのだ。
"村作り"あんていう抽象的な物なら、どれだけの事が出来るか何年かけても検証する必要がある。
村にあるものなら何でも作れる能力というのなら、柵も作れるかもしれない。畑も作れるかもしれない。
平時でも軍事でも非常に便利な能力だ。追放? あり得ない。追放と言ったヤツを追放するべきだ。
俺が悩んでいる内に王都に到着してしまった。
これから報告しなきゃいけないのか。ふ、不安だ……。
GWの内に一区切りしたいと考えてます。出来るかなぁ…?