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001 えっ?未来の話?

今回は「未来に行く?行かない?」というテーマの話になります。

私の名はカイム。聖騎士団の一員だ。


聖騎士とは何かを少し説明しよう。

この世界には「穴」が存在する。国や地域によっては「ダンジョン」やら「スポット」やら「迷宮」と呼ばれているが正式には何故か「穴」だ。

研究者によると魔力の流れが何らかの原因で溜まる事があるようで、一定数溜まるとそこに穴が出来るらしい。

水の流れに物を置くと水が溜まっていき、いつか溢れる。そんな感じと説明された事がある。

自然の摂理を研究して解明する研究者は凄いと思う。魔力とか目に見えない物まで調べるなんて頭が下がる。俺には無理だ。

おっと話が逸れた。


さて、その穴だが、魔物と呼ばれる獣に似た生物が発生するのだ。迷惑この上ない。危険なので立ち入る事が禁止されている。

しかし良い事もあるそうで、歴史家によると「領土を巡って各国が戦争をしていた時代が終わった」との事だ。

今でもちょこちょこと起きているとは思うのだが…。昔はもっと酷かったという事なのだろう。

その魔物を討伐する為に国を超えて編成した組織、それが聖騎士団だ。


自分で言うのも何だが、これには国所属の騎士の中でも優秀な者しか入る事が出来ない。自慢じゃないが。

優秀と言っても強さだけではない。状況を考える能力も必要だ。指揮する能力も。バカでは強くてもなれないのだ。

自分はその中でも上の地位に居る。自慢じゃないが。


ここまで話すと「その穴は壊せないのか?」と思うだろう。壊せなければ増えるばかりだからな。

勿論壊せる。最奥に居る魔物を倒す事で発生する武具があるのだが、それを穴から出せば崩壊するのだ。

何故武具?と思っただろう? それは誰もが思った事だ。だが未だにその謎は解明されていない。研究は続いているのでいつかは解明されるだろう。


ここでまた新たな疑問が出ただろ? そう、その武具だ。

勿論誰も使うような真似はせずに、持ち帰り研究者に渡された。

調べた結果、むちゃくちゃ優秀な武具という事が判明したのだ! 鉄でも斬れる剣、軽くて頑丈な鎧、等々。

喜んで使う? 最初の頃はそうだったらしい。だが、ある日世界を揺るがす事が発生したのだ!


その武具を中心に大規模な爆発が発生したのだよ。一国が焼け野原になるレベルの。詳細は省くが、研究の結果、武具が原因だと判明させたそうだ。

装備者は王都に居たようなので、戦闘中でも無かったらしい。持ち歩いていたらある日突然爆発……。恐ろしい。

各国は大慌て。研究者は何をしていたのだ!と追求まで始まる始末。

しかし、どれだけ研究してもその仕組みは分からないらしい。


ではどうする?とすぐに各国の王が集まり会議が始まった。

一箇所に集めて捨てる? 集めた事であの規模の爆発が倍増したらどうする?という事で却下。

穴を壊すのを止める? 増え続けてるのに壊さないという選択肢は無理じゃね?という事で却下。

良い案が出ないまま、悩み続ける王達。会議は一ヶ月にも及んだそうだ。


だがここで、朗報が入る。

各国所属の研究者、占術者、歴史家、等も王と共に集結して話し合いや研究をしていたのだが、そこからの朗報である。

それは「武具はある鉱物を用いると破壊出来る」というモノだった。

これには誰もが大喜びだった。そりゃそうだ。爆発物を壊す事が出来るのだから。


各国はその鉱物を集める事を即座に決定。

しかしここでまた問題が起きた。

その鉱物は、穴の中で発生した魔物を倒した時に稀に現れる小石程度の鉱物だった。

ちなみに魔物は倒すと溶けて無くなるのだ。不思議な事に。その時に空中に発生し、コロンと落ちてくる。

いくつかは研究の為に持ち帰っていたのだが、ただの石に見えるので無視されてきた。討伐する事の方が重要だからだ。


まぁ、つまりだ。数が無いのだ。当然聖騎士団はフル活動で集めたよ。

だがこの鉱物、凄く硬いのだ。叩いても壊れない。

最初は石器時代のように木にくくりつけて金槌のように使っていたが不便すぎた。

なので溶かして形成、つまり鋳造したかったのだが、熱では溶けないという性質があり断念。

やはり石器時代方法かと諦めていたら、穴で最初に出会う魔物のスライムの放つ酸で溶かす事が可能と偶然判明。

溶けた鉱物は水で固め直す事が出来、やっと鋳造が出来るようになった。


そんなに硬いなら武具を作れば良いんじゃね?って思うだろ?

世の中、そんなに上手くなってないんだ。

鋳造すると脆くなっている。生まれてくる武具を壊すと同時に、鋳造した物も壊れる。それどころか鉄の剣にも負ける。道端の石にも負けるんじゃないか?ってくらい。

なので武具破壊専用道具となっている。




とまぁ、長々と説明したが、その鉱物「魔物石(通称ミスリル)」によって作られたハンマーは現在各国に2本ある。

1本は国が所有し、1本はその国が編成した聖騎士団が所有している。

魔物と戦い、脅威である穴を崩壊させ、生まれてくる武具を破壊出来る組織。それが聖騎士団なのだ。


その私が、今は何故か陛下の前に居る。急に呼び出されたのだが、理解が追いつかない。

聖騎士団所属だが、平民出身な俺。王族や貴族とは無縁なのだが……。

新たな穴が発生したという事だろうか? だがいつも通達が来るだけなのに。


「聖騎士カイムよ、面を上げよ」

「ははっ!」

「此度は重要な案件の為、異例ながら陛下自らがお話をされる。しかと聞くように」

「ははっ!」


どエラい事のようだ。ヤバい、めっちゃ緊張する!


「昨日占術者より連絡が入った。その内容は500年後に多数の穴が同時に生まれるとの事だ」

「……」

「そこで聖騎士を未来に送ってはどうか、という謎の議論までされた」

「えっ? あっ、失礼しました!」

「良い。発言を許す」

「ははっ!」

「これについてどう思う? 忌憚なき意見を述べよ」

「ははっ!」


私は少し考えてから話す事にした。まとまりなく話すのは無礼だからな。


「3つの点から、それは不要だと考えに至りました」

「ほほぅ、話してみよ」

「ははっ! 500年も時間がある点が重要です。それだけの時間があるなら魔物石も多く集まっている事でしょう。現在から未来へ持っていく必要性を感じません」

「その通りだな」

「それだけの時間があるのならば、研究も進むでしょう。現在の古い知識を持って行っても意味がありません。

 魔物石の良い加工方法も発見されているかもしれません」

「それも理解出来る」

「聖騎士団も今よりも更に強くなっているでしょう。この3点を持って、不要と考えました」

「うむ。私達も同じ考えだ。どうやら間違った考えでは無いようだ。安心したぞ」


良かった。陛下や宰相様や高官の方々と同じ考えだったようだ。


「発言を宜しいでしょうか?」

「うむ」

「2点、質問しても宜しいでしょうか?」

「簡単な説明しかしていないからな。当然疑問に思う事もあるだろう。質問を許す」

「ありがたき幸せ。

 私が浅学なのかもしれませんが、聖騎士を未来に送る方法があるのでしょうか?」

「転送魔法というモノを研究している学者が居てな。それが理論的には可能と言っているらしいぞ。

 その転送魔法というのは古代遺跡から発見されたらしいがな。本当に出来るかどうかは疑わしい話だが……」

「そうでしたか。では、どうして聖騎士を送るという事に……?」

「今言った古代遺跡の件が関係している。

 古代には転送魔法を開発するほどの文明があった。それが滅んでいる。ならば500年の間に今の文明が滅ぶ可能性もある。

 未来は魔法が衰退し、文化レベルも下がり、戦闘能力も下がっているかもしれない。だから現代の優秀な人材を送ろう。

 穴から発生した武具を何も知らずに聖剣や聖具と呼んで使用しているかもしれない、だから破壊出来る者を送ろう、と思ったそうだ」


陛下がため息交じりに語られている。

そりゃそんな与太話を言われても困惑するだろうなぁ。

演劇の見すぎじゃないだろうか? 発想が飛躍しすぎている。


「実はな、恥を偲んで各国の王にも聞いているのだ。勿論どの国からの返答も『不要』の一言だがな。

 各方面の声を集めて不要としておかなければ、吹聴しそうな雰囲気があったのだよ。

 なので聖騎士団からも意見が欲しかったのだ。くだらん話に付き合わせて済まなかったな」

「いえっ! 陛下がそのように言われる必要はありません!!」

「ふふふ。これからも期待しているぞ。下がって良い」

「ははっ!!」




こうして私は開放された。

あ~緊張した。


しかしどこのバカだ、そんな寝ぼけた話をしたのは。陛下を困らせる要職者とか問題だな。

要職だから簡単にクビにも出来ないだろうし。


……しかし、そのバカのお陰で、陛下に名前と顔を覚えて頂いた。これは実に名誉な事だ。

今日は良い酒が飲めそうだ。

おっと飲みすぎには注意しないとな。聞いた与太話を話してしまうかもしれないし。ほどほどが大事だ。

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