アルテザの子供
アルテザの街の南部には貧民半分、平民半分程の割合で人々が暮らしていた。
北部にはお貴族様や富豪達が住むエリアがあり、明確に壁によって分けられているわけでは無いが、暗黙の了解で出入りが憚られている。
街の南側には森林が広がっていて、たまに魔物化した動物達が襲ってくるので貧しいもの達は自警団を組織して警戒に当たって暮らしている。
どれほどの効果があるかはわからないが、
粗末な防護柵も設置しているようだ。
街というからには代表を務める街長も当然いる。
それは有力な貴族から選出されている。
アルテザの街長はドレバンス子爵がつとめていた。
ドレバンス子爵は、特に私欲を肥やす為だけに全力を尽くすようなゴミでは無かったが、特出した政治力を持った人物でも無かったようで街の運営は可もなく不可もなくといった様子だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「本当にキノコがあったの?」
「ああ、うそじゃないって!両手いっぱいに獲れる群生地を見つけたって言ったろ?」
緑髪の少女の問いに黒髪の少年が答えた。
「エバは疑い深くてやんなるよ」
少年が、あーやだやだと頭を振る。
エバと呼ばれた少女が頬をぷーっと膨らまして
「マイルの言う事は半分も当てにならないじゃない!こないだも光のかたまりが森を飛んでたってウソついてたじゃない!」
と言う。
二人は生まれてから6年間、ずっと行動を共にしている幼馴染でよく喧嘩もするが基本的には仲がいい二人だ。
二人でわーわー言いながらも、どうやら仲良く手を繋いで森へと向かうようだ。
「キノコは本当にあるから安心しろよエバ!
今晩はキノコ鍋だな!」
「おとうさんが喜ぶよ。キノコ好きだからね!」
二人で森の中を1時間ほど歩いていくと、どうやら目当てのキノコの群生地に着いたようで大小様々な大きさのキノコが見えてきた。
「本当にあった!マイルお手柄だよ!」
「だから言ったろ?さ、採ろうよ。」
二人は仲良く手馴れた様子でキノコを収穫していく。
少女エバが何本目かのキノコに手を伸ばした時、背後から何かに突き飛ばされた。
「エバ!ああ!フォレストディアーか!」
どうやらそのままの名前のようだが、エバは鹿の魔物に突き飛ばされたようだ。
メスの個体のようで小さな角で助かったようだ。
マイルはエバを庇い鹿の魔物の前に立ったものの、身体が震えるのを止める事ができなかった。
「……いっつ…マイル…逃げよう」
「…逃す気無さそうなんだよなぁ、コイツ…」
エバの方を見ずに鹿の魔物を凝視しながらマイルが答える。
マイルは、なんとか手頃な木の枝を確保して振り回しながら逃げる機会を窺うのだった。