表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

聖女がキレた!


私の旦那様はーー黒色の艶やかな髪は漆黒、目の色は燃え盛る炎の色を宿した方、闇夜に燃えあがる炎のように情熱的に私を褒め称える。


僕は初めてこんなに美しい人と出会った、可愛くて可憐で聡明で美しく魔法まで使える、私の女神。


過分だ過分過ぎる、父親にまでここまで言われたことはない。


○んち王子にはーー私と同じ銀髪に冷たい氷の青を目に宿した王子にはーー凄い君にはいつも助けられてるみたいな誉められ方しかしたことがない。


女性として、誉めろよ!!。


思い出す度にチクリと痛む、旦那様のことはちゃんと好きだ、そうでないとキスなんて受け入れられない、私は人より少しだけ潔癖であるようなので。


だけど今だにチクリと痛む、旦那様が○んちと真逆だと思う度にチクリと、好きだったことまで忘れないでと言うように。


「忘れなくて良いんですよ」

ある日に、旦那様はキスする前に言った。


「キスも出来なかった初恋の相手にまで、嫉妬しませんから」


嘘だと思った、分かりづらいが一緒に居ればわかる。


女ったらしのプレイボーイの癖に、「キスも出来なかった初恋の相手」にまで、この人は嫉妬しているのだ。


「忘れなくて良いんですか?」

分かっていたのにそう聞いた。


旦那様は、頷いた。


嫉妬の炎をちらつかせるその顔に、無理を言っている自覚はあった。


「初恋を引きずっている愚かな女でも、愛してくれますか?」

「ーー相手の男は殺したいほど憎らしいけど、君が僕を愛してくれるなら、初恋の人を思う君の心ごと僕は愛そう」


焼かれそうなほどの情念を微笑みで覆い隠して、唇を血が流すほどに噛みしめ、旦那様は笑う。


やせ我慢!!。


めちゃくちゃ無理をしているのが明らかだったので、私は○んち王子を忘れるよう日々努力した。



でも舌をいれられたら燃やした。

私は!慣れてないから加減して下さいと言っているでしょう!?。




そんな、ある日のことだ。

母国から一通の手紙が届いた。


宛名には、聖女様の名前。


書かれていたのは、一文だけだった。


王子から、全て聞きました。



聖女に私の暗躍がバレた。


しかも、○んち王子からのお漏らしだ!許さない!!。



手紙が届いて数日後に、旦那様から我が国への聖女来訪を聞かされた。


旦那様、旦那様、私が聖女様に殴られても見ていて下さい、女のけじめなので。


「え、可愛い君が殴られるくらいなら、僕が変わりに殴られるけど?」


女のけじめなので。


「じゃあ女装しようか?」


……そういう問題でも……。



聖女来訪は、大々的に国民に知らされ、聖女フィーバーは我が国にも訪れた。

私のおかげだという、どこで漏れたのかわからない噂話しを元に、私を称える歌も聞こえてくる。


ある意味私の所為だけど、称えられようなことではないので心苦しい。



聖女が訪れるまで、沙汰を待つ罪人のような心境でいた私は、だから。


「クレア様!、ここってもしかして水洗トイレありますか!?」


数年ぶりに会った聖女が思いの外フレンドリーに接してきて、面食らったのだった。


「魔道具って家電じゃない……ヤバイですよ!」

聖女様は、何を見てもどこへ行っても嬉しそうにテンションが高かった。


「あー私、この国に降臨したかった……」

一通り騒ぎ疲れたのか、私に進められるままにソファに座り、聖女様は紅茶に口をつけて一息つく。


「そう言っていただけると、民も喜びます聖女様」

旦那様はお世辞ではなさそうな聖女様の言葉に、喜んでいるようだった。


その場合は、私はここにいませんけどね!旦那様!。


「クレア様は良いですね、私にあんな唐変木押し付けて、素敵な旦那様もいて、魔道具に囲まれて!!魔道具羨ましい!!」

聖女の声は、後半になるほどでかくなっていった。


「あの聖女様、私が嫁いだことで魔道具を含めた国交が魔法王国とこの国とで始まる予定です、よければ魔道具をお送りましょうか?」


「えっ良いですか!?ありがとうございます!、お礼にこの国を安行でもしますか?」

「そこまでしていただくわけには……」


魔法王国にいる頃、こんなに明るい顔をする聖女様を見たことがなかった。


「お礼もありますが私がしたいんです、この国はどこか私が以前住んでいた場所に似ているのでーー」


それが母国を思ってのことだと、母国から離れされた悲しみ故だということを、私自身が母国から離れた今、少しだけ理解出来た。


あれほど王子にすがっていたのもきっと、生まれ育った母国が恋しくて、でも戻れないからだったのだ。


「そう言っていてだけるのは大変嬉しく思いますが、聖女様の長期滞在は国交問題になりかねないので、魔法王国の許可を頂いてからでしたら、うちはいつでも歓迎させていただきます」


聖女の境遇に同情していると、私が流されかねないのを感じたのか旦那様が口を挟んできた。


「私の体も力も私のものなのに、どこに行くのも何をするのも魔法王国の許可なのよね」


うんざりしたように聖女は口にして、私を見た。


「クレア、様は」

それから旦那様を見て、首を振る。

「……発明王子様、どうかクレア様と二人きりでお話しをさせて下さいませんか?」


「旦那様、私からもお願いします」

「……危険なことはしない?」

「殴られても、自業自得ですので」

「殴らないけど!?、えっクレア様私のことなんて言ってるんですか!?」


私は、私と同じことをして恋愛○んち王子に惚れされられたら殴る自信があるから!、あれ好きになったら色々終わりだから!、好きになってもらえない相手にずっと片思いとか地獄では?。



後ろ髪を引かれるように旦那様は何度も私の顔を見ながら、使用人を引き連れ退出していった。


談笑するのに最適な応接室には、私と聖女二人きり。



「後悔していますか?、王子のことを好きになったこと」


私から切り出したのは、胸に巣食う罪悪感からだった。


「……本当のことを言うとそれほどではないです、王子が心優しい人なのは分かってますから、ただ」

言葉を切って、少しだけ悔しそうに聖女は笑った。


「私の恋心が、この世界に来て唯一の宝物だったそれが、あなたの手の平の上だったのが気にくわなかっただけで、凄くーームカつきました」


「ごめんなさい、本当にそれ以上の言葉もないわ」


おのれ……王子のお漏らしさえなければ誰も不幸にならなかったのに!。


「でもそれは、あなたに対して腹立たしかったのは、今まで通りあなたを悪者だと思っていたかったからだって、後から気がつきました」

聖女は、残りの紅茶をカップの中でくるくる回している。

何かを思い出すように。


「……王子に言われたんです、私に好かれたかったから、自分があなたに悪者のフリをしてもらったんだって。王子のくせに人に好きになってもらうのが下手な自分が全部悪いから、恨むなら自分を恨んでほしいと」


私も、恨むなら王子にしてほしいです!。


「王子はバカですよね、そんなことしなくたって、きっと私はーーあの人は、自分の魅力が分かってないんです」


そんなに聖女様には、魅力的なんですか?。


「それに自分を好きな人に他の人との恋の手伝いをさせるなんて、王子はすごく酷い人。本当は、私に王子を好きになってほしくなかったんですよね?クレア様」


首を横に触れなかった、図星だったからだ。


「全部バレて聖女にフラれてしまえと、思っていました」


「あははは、全部バレましたし王子にはガッカリですし、この恋心は偽物だなーと思いましたけど、振りませんよ。好きだから」


「嵌められて作られた偽物の恋心でも、王子が隣にいてホッとするんです、これは嘘じゃない」


言って、彼女は自分で安堵しているようだった。


「聖女の力なんて後付けでもない、王子を思って溢れるこの暖かいものがきっと私の本当の宝物、だからクレア様、どうか私から王子を取らないで下さいね」


「は?ちょっと待って下さい、話がおかしいです聖女様!?いりませんから!私には旦那様がいますし、王子は聖女様にのしつけてあげた後なので安心して愛してあげて下さい!返品も受け付けてません!!」


「え?」


「確かに昔は好きでした!あなた苛めてる時もわりと演技だけじゃありませんでしたが、昔の話しです。国を離れる時に、全部全部“恋心”は捨ててきました!」


言いながら、私も私で納得していく。


ああこれで、私も本当の意味でこれとお別れ出来そうだ。


「私は王子を大好きな気持ちを捨てて、母国を捨てて出てきたんです。今は嫉妬深い素敵な旦那様を愛しているので、王子はいりません、だから絶対に勘違いしないで!嫉妬を隠すのが下手くそな旦那様に殺されますよ!王子が!」


怒っているような私の声に、聖女様が身を竦める。

「はっはい」


「あとーーそれから笑っちゃうんですが、王子からみたら私は友らしいですよ?。永遠の友ですって!最後まで……えっ本気で女と思われてなかった!?なんなんだあいつ!!」


そこまで暴露して、笑えました。


昔の不幸で可哀想な自分が愛しくて笑いました、笑う余裕がある自分が嬉しくて笑いました。


「王子は、本当に……()()()人ですね」


聖女様は私の言葉を聞いて、さすがにちょっと引いているようでした。


「でも優しい人なんです、だからなおさらムカついて……出来たらで良いんで、難しいとは思いますが大切にしてあげて下さい」


「はいなるべく、私最近はかなり怒っちゃうんですけど、今日ここに来たのも喧嘩してついカッとなって」


「どんどん怒って良いですよ、でも後からで良いのでなぜ怒ったかを説明してあげて下さい、察するというのが苦手な人なので」


「努力しますが、時々愚痴を言いに来ても良いですか?」


「大歓迎ですよ!。王子の悪口大会開いちゃいましょう!」


その後、心配して扉の外でやきもきしていた旦那様をよそに、私と聖女様は意気投合し、二人だけのお茶会を楽しんだのでした。



途中で魔が差してヘアドライヤー片手に旦那様自慢をしたら、普通に聖女様ぶちギレで怖かったので、ヘアドライヤーをプレゼントした。


速攻で聖女の機嫌は直った。



ーー魔道具で聖女様を煽るのは止めようと、私は深く反省した。




それから聖女が愛用していると噂を聞きつけ、今まで魔法の代用品だと魔道具を鼻で笑っていた国々が、手の平を返して世界中に魔道具ブームが訪れることになるのですが、それはまた別のお話しです。






魔道具ブームで忙しくてイチャイチャ出来ない!と発明王子は嘆きましたが、疲れている旦那様が甘えてくるので、クレア的には嬉しかったもよう。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ