異世界から聖女が現れた!
設定がふんわりなので、Okな方だけどうぞ!。
予定のない婚約者の訪問。
嫌な予感を感じながらも屋敷に招き入れ、応接室につくなり王子は椅子に腰掛けもせずに言った。
「異世界から聖女が現れた、すまないが婚約破棄と聖女と仲良くなるためのアドバイスをお願いしたい」
はぁぁぁぁ!?。
「出来れば、恋のサポートも手伝ってくれると助かる」
………………。
「僕達が今までまともな婚約者だと周りから見られていたのは、全部君のおかげだと分かっているんだ。だから今回も力を貸してほしい」
王子が頭を下げた、尊い血が流れた高貴な頭を、下げてはならない頭を、非公式の場とは言え私に下げた。
私は臣下として、頷くのが当然と思いながら王子を屋敷から追い出した 。
「婚約破棄はして差し上げますから、今日の所は帰ってください!」
王子を屋敷から追い出すという不敬を働いてーー使用人達は目を白黒させていたーー私はため息を吐いた。
二百年前に現れたという伝説の聖女。
その力は触れずに四肢欠損すら癒し、尊き心で民の心をも救ったとされている。
だが我々にとって重要なのは、聖女自身の癒しの力よりも、聖女の癒しの力が遺伝するという事実だ。
王族は必ずその血を取り込もうとするだろう、現王家に今も多大な支持があるのは、以前にも現れた聖女の血を取り入れ、癒しの魔法を有しているからだ。
とは言っても癒しの力を十全に揮えるのは、今は王子を残すのみ。
だから良い気持ちがしないとは言え、婚約破棄はわかる。
王家で結婚適齢なのは王子しかいない、聖女の血を取り込むのは国の一代事業だ、それは婚約者と言えども家臣である私が身を引くのは当然。
そこまではわかるがーー聖女を落とすためのアドバイスにサポートだ!?はぁぁぁぁ?はぁぁぁぁ?はぁぁぁぁぁぁぁ!?。
元婚約者に婚約破棄して欲しいと言った直後のどの口で言う!?。
恋愛○んちめ!フラれろ!聖女にフラれろ!!!。
一通りの罵倒を頭の中で思いうかべ、ため息をついた。
だが彼は恋愛○んち、このまま私のお役御免ですにならないような気はしていた。
「私からも頼むクレア、王子と聖女の恋のサポートをしてくれ」
公爵のお父様は、帰ってくるなり私に頭を下げてきた。
「王もそして王子をよく知る者達も、お前なしじゃあ王子が聖女を落とすのは無理だと判断した」
彼、恋愛○んちですもんねーー。
「すでに他国の王子で、当国に留学していたベッツコク王子は動きだしている、王子のサポートは急務だ。お前もわかるだろう?これは国の未来をかけた一代事業だ!」
あの○んち王子、婚約中はともかく婚約破棄後も迷惑かけてくるとか、どうしてくれよう……。
落ち着く時間ももらえないらしいので、私はため息をつく。
「私に何をさせたいのですか?」
「悪役になって欲しい」
「娘に、泥を被れと?」
「私はお前を愛しているが、この国をもっと愛している!!」
「お父様は公爵の鏡で私の誇りですが、娘の私には最低ですわ!」
お父様の言うこともわかる、家臣としての私は彼の言うことを全肯定している。
だけど!あの○んち王子を助ける内にわずかながらに育まれた愛情が!、私にそんなことさせるんしゃねぇぇ!と叫んでいる。
「他に使えるコマはないのですか?」
「コマはあるが、お前が一番適任だ」
お父様はごねる私に胸元から、書状を出してきた。
「国王様からの依頼でもある」
う○ちの親もうん○だな!!。
かくして私はーー私を悪役とした物語を考えた。
やっつけだ、一時間で考えた完全にやっつけ仕事だ、これで無理なら諦めてください。
草案を書いた書類を提出し、いくつかの簡単な修正を経て、私の案はほぼほぼそのままの形で実地されることとなる。
やっつけ仕事を後悔するのは、現場に立ってからだった。
「聖女様なんて大層な肩書きがあるけど、ただの小娘じゃない」
「クレア、聖女に暴言はよさないか!」
くそっこの王子は恋愛は○んちの癖に演技は上手い。
嫌らしい言い方をした私に、上手いこと息を合わせてくる、腐っても元婚約者同士で息ぴったりだ、嬉しくはない。
「私は聖女なんて大層なもんじゃないです……」
黒髪の異世界から来た聖女は、私に軽く罵られただけで、震えて縮こまった。
私がやっつけ仕事を後悔するのはこういう時だーー聖女の打たれ弱さを想定していなかった。
「今なら問題事にしないでおく、聖女の前から消えてくれ」
私のアイコンタクトにすかさず王子が決めていた台詞を吐く。
「言われなくても!」
本当は、聖女とは名ばかりの平民と話していたら喉が腐るーーみたいな台詞も草案にあったが、聖女様はとてもじゃないけど追い討ちかけて良いような状態ではなかった。
支える王子にすがりついている。
それは恋愛的なものではなく、どちらかと言うと溺れるものの藁の掴み方だ。
これは依存させるのには良く、そして効果的で有用なのだろうが、私は嫌だった。
同じ女としてせめてまともに聖女様には恋をして欲しい、相手があの恋愛○んち王子なのはーーたいへん申し訳ないが。
私という分かりやすい悪役のおかげで、王子と聖女の仲は急速に接近していった。
作戦を意地悪一割でフォロー九割にしたのも良かったのだろう、恋をしているという聖女の目に、私は安堵のため息を吐いた。
舞台は最後のステージにうつる、卒業式後のパーティー会場だ。
「公爵令嬢クレア、私はお前との婚約破棄を宣言する!」
わかりやすくみんなに悪事(この日の為の仕込み)を暴かれ、婚約破棄され(元々されていたが皆には黙っていた)、その場を退散する私は、難題をやりとげた達成感でいっぱいだった。
王子の隣に立つ聖女も、私のチクチクに少しずつ悪口に慣れたのか、会場ではこちらから目をそらさずに睨み返してきていたし、あれならまあ王子が国王になった後もギリギリ王妃としてやっていけるだろう。
私はお父様に手配していただいてた馬車に乗り込み、これからのことを鼻歌交じりに考えていた。
家に帰ると、家中の使用人とお父様とお母さまが出迎えてくれて、今までありがとうご苦労様と労られた。
うーんお父様サプライズ、こういう所が嫌いになれないんですよね。
私の好物だらけが並ぶ食卓で食事を楽しんでいると、国王様から労いの書状と褒美が届けられる。
丁寧な労りの言葉がつづられた書状の最後には、何か合った時には出来うる限りの便宜を図るという破格の言葉が綴られていた。
お父様はそれを額縁に納め、眺めると少しだけ涙ぐんだ。
「お前を産んで良かった」
お父様、私を産んだのはお母様ですよ?。
食後に渡された私への褒美は、お父様と国王様がありとあらゆる手を尽くして探してくれた、条件の良い縁談の山だった。
大きい仕事を終えて肩の荷が降りた私は、しばらくゆっくりするつもりだったのだけど、結婚は生物だ早ければ早い方が良いというお父様の言葉に押されて、山と積まれた中からこの人が良いという縁談を選ばされる。
その国は、元々は神に見捨てられた国として有名だった。
我が国は、魔法使いの聖地と名高く周辺国に比べて魔法使いの数が多い、それに比例する形で国力も豊かだ。
だが彼の国は中々魔法使いが生まれないことで有名で、以前は神に見捨てられた国という悪評そのままの薄ら寒い国だったらしいーーが、彼が王子として手腕を振るうようになってからは国力を伸ばし続け、豊かになっているという。
発明王子と渾名される彼との縁談を、私は望んだ。
癒し魔法の聖女が王子と結婚し、望まずともますます魔法の価値が絶対的になるだろう我が国に置いて、それを重要視しない国との交流があった方が良いと考えた。
恋愛○んち王子と関わることが多かったからか、あまり男の人に求めるものが少なくなっていた私は、国益を優先しての選択だった。
お父様は私の選んだ縁談を、目のつけどころがさすが私の娘だと褒め称え、お前が男だったら生涯手放さなかったのにと嘆かれた。
敏腕のお父様にずっとこき使われるのも勘弁なので、私は女で良かったですけど、お兄様も跡取りとはいえ大変そうですし。
お父様が私を誉めるために、今日の残業を全~部お兄様に押しつけてきたの知ってるんですよ!。
そうして○んち王子との悪縁はようやく切れ、発明王子に嫁ぐことなる前日の夜。
ーー王子から、手紙が届いた。
見慣れた可愛らしいカスミ草の封筒に、クレア様への堅苦しい宛名。
喧嘩をした時は、手紙で謝罪というルールが私達にはあった。
だから相手からの手紙を開く時、いつも複雑な心境になる。
今日もーー同じように複雑な気持ちで、封筒に手をかけた。
私の最愛で永遠の友へーー。
便箋を開いて最初に目に入った書き出しが最悪で、顔がひきつる。
そういえば王子との婚約が正式に決まった時も「自分には恋愛とかよくわからないから、親友のように隣に居てくれたら嬉しい」みたいなことを言われた。
まさかそれがそのままの意味で、王子が本当に恋愛○んちなのを知らなかった私は、気を使わないで良いという意味にとったのだが、数年後言われた意味をちゃんと理解し絶望した。
この人本当に私と親友と思ってるし、扱いが女じゃないし!恋愛しようとする気がま・る・で・な・い!ふざけんな!。
それでも聖女が現れるまで仲睦まじい婚約者同士と周囲に思わせていたのだから、私の手腕を誉めてもらいたい。
それを皆に認められて求められて悪役令嬢になったって?嬉しくなーい!人生ってままならなーい。
私の最愛で永遠の友へーー。
君には昔から迷惑をかけてきた、思い返すと謝罪を何度重ねても足りないくらいだ、本当にすまなかった。
人の愛が良く分からなかった私が、それでも周囲に溶け込み王子として立つことが出来たのは隣りに立ち教えて導いてくれた君のおかげだ、感謝している。
どうしてダメかはわからないがやってはダメなことを、君が僕に遠慮なく教えてくれた。
こうして手紙を書いていると、僕は君に怒られるのが好きだったのだなと改めて思い返すんだ。
今まで僕を怒ってくれて叱ってくれて罵倒してくれてありがとう。
今聖女とある程度意思疎通が出来るのは全て君のおかげだ、この国がしばらく安泰なのは全て君のおかげだ、この後続くこの国の歴史書に君の名前を刻もうと思う。
君が遠くの国に嫁ぐことを今日知った、寂しくてたまらないが遠くにいても君の幸せを願っている。
私の最愛の生涯で唯一の君へーー
私は苦虫を噛み潰したような顔をした。
この王子は○んちだが悪い○んちではないのだ、ただどうしようもなく恋愛が○んちなだけで。
優しい人だった、手助けをするといつも感謝をくれた。
だから本当は、恋愛おんちで人の愛し方を知らないこのダメな王子を、ずっと側で助けてあげていたかった。
全てが終わって、新しい旅立ちの時になってようやく涙が出てきた。
くそっみんなして私が何も感じてないと思ってる。
きっと○んち王子の世話係を卒業して、幸せになると思っている。
たぶん王子自身でさえ。
本当はずっと時間が欲しかった、愛情が未発達の王子をずっと側で見守ってきたのだ、情なんかうつるに決まってるだろう。
私は、彼の婚約者でいられなくなったのが本当に悲しかったし、聖女が彼に恋していく様子を見るのがーーそう仕向けたのは私だがーー辛かった。
唯一の救いは、やっぱり王子が恋愛○んちで聖女に全く惚れていない所だけれど、それは私に対してもそうだしな!。
私はーー彼にそれが一生理解出来なければ良いと、意地の悪いことを願った。