第96話 連携
【魔術師】であるハーフオークの[シールドルーム]に対して、聖女が、
「また、これですの。」
と、眉間にシワを寄せた。
一年生書記が「こちらのグループには、魔人の妹さんがいるので、あの時の生徒会長みたいに」と言いかけたところ、【騎士】のハーフエルフ兄が、豹の獣人に、
「奴の意識を俺達から逸らしてくれるか?」
と尋ねたのである。
「ええ、いいわよ。」
「でも、あっちの方が、私よりもレベルが上だから、もって2分といったとこかしら…。」
と、述べた豹に、
「それだけあれば充分だ。」
とハーフエルフの兄が返した。
「了解。」
と、受けた豹の獣人が、
スタタタタッ!
と駆けていきながら、敵の右側へと回り込み、体を白く〝カッ!〟と光らせたのである。
ハーフオークのオスが、これに釣られて、直径2Mの青い魔法陣を出現させ、それと同じ幅の歪な“クリスタル形の氷”を、
ドンッ!
………。
ドンッ!
………。
と、かなり雑に飛ばしていく。
これは、[アサシン]の【挑発】(消費MPは1回につき40ポイント)というスキルであり、レベルが100以下だと1日5回が限度で、100以上であれば10回になるそうだ。
更に、同格が相手の場合はタイムリミットが5分であるものの、格上になればなるほど、4分30秒、4分、3分30秒、3分、…、と減少してしまうらしい。
だが、格下には、5分30秒、6分、6分30秒、7分、…、と増加するとのことだった。
いずれにせよ、これを用いられると、怒りで冷静さを失い、物理であれ魔法であれ、攻撃が大振りなってしまうのである。
また、“挑発”を発動した者しか、狙えなくなるらしい。
あたかも、他は目に映っていないかのように。
そうなると、全ジョブ中で一番のスピードを誇るアサシンであれば、容易く躱し続ける事が出来るのだそうだ。
さて。
半豚の魔術師が、豹にのみ集中させられている間に、キューブに近づいたハーフエルフ兄が【シールドスウィング】を放つ。
これによって、防御室に、幅20㎝の罅が〝ビキビキィンッ!〟と入ったのである。
再び全身を白く光らせた騎士の槍が、熱を帯びてオレンジ色になった。
それは、バンプレート状の、銀のランスであり、長さは3.8M程のようだ。
その切っ先で、【シールドルーム】の亀裂を、
ガツンッ!
と突いたところ、
ボォオオオンッ!!
と、爆発して、直径50㎝くらいの穴が開いたのである。
ハーフエルフ兄が、右に〝スー〟と移動した。
そこを、“黄色に輝く矢”が、
ビュオッ!!
と通過していき、ハーフオークの左肩に、
ズブシュッ!
と、刺さって、
ビリビリビリビリィッ!!
と感電させたのである。
どうやら、冒険パーティーのリーダーであるエルフ姉が射ったようだ。
ちなみに、二人とも【伝導】を使ったらしい。
なにはともあれ、敵が、
「ぐうぅッ!」
と、呻きながら、右膝を着いたことによって、防御室が〝フッ〟と消えた。
魔術師のハーフオークが、雷撃に痙攣しながらも、どうにか意識を保とうとしている状況下で、
「皆、よくやった。」
と声を掛けた[国主補佐官]が、スキルを発動する。
すると、敵の足元から、白銀で半透明の、幅15㎝×長さ5Mの“鎖”が、4本、
ビュンッ!
と、現れた。
そして、ハーフオークの、右腕・左腕・胸部・左脚に、
グルグルグルグルッ!
と巻き付いて、地面と固定させたのである。
それは、【抑制】(消費MPは1回につき80ポイント)というスキルらしい。
LV.100以下の場合は1日5回で、100以上は10回となり、その効力(制限時間)は、アサシンの“挑発”と同様との事だ。
一年の生徒会書記が、興味津々で、
「私にも収得できますか?!」
と、補佐官に窺うも、
「残念ながら、エルフ族の“ハイクレリック”ぐらいしか得られないようです。」
との答えに、
「そうですかぁ…。」
と、気落ちしてしまったのである。
しかし、
「それ以外に可能性があるのは、聖女と、騎士の進化系である“パラディン”です。」
「あとは、人族のクレリックから稀に派生するユニークスキル“クレリックランサー”が扱っていたとの伝承がありますよ。」
と教えてくれたことによって、
「おおーッ! クレリックランサー!!」
と、瞳を輝かせる一年生書記だった―。