第94話 オーク軍・其之肆
俺の右隣に〝スッ〟と並んだ森人族の長が、金のナックルガードが付属している柄(通称:スウェプトヒルト)を両手で握り、自身の顔の左側で、細身の剣を構えたようだ。
そう、彼女は左利きなのである。
そんな国主の、レイピアの刃部分から、
バチッ!バチバチッ!バチィッ!
と、電流が発せられていく。
「はッ!!」
と森人族の長が剣を突き出したところ、幅10㎝ほどの雷が、
ズバォウッ!
と、放たれ、ハイオークに、
ズババババァンッ!!
と、直撃したのだ。
少なからず驚きつつ、
「アーティファクトか?!」
と訊ねる俺に、
「いいえ。“伝導”という、エルフ族の少数が得られるスキルです。」
と、国主が答えた。
(そういや、“可視化”でみたとき、そんな表記があったな。)
と記憶を辿った俺が、
「武器で魔法を使えるってことか??」
と、疑問を呈したところ、
「まぁ、ほぼ正解ですが…、厳密には〝魔法を武器に伝わらせる〟能力です。」
と答えたのである。
「それって、狙撃手のエルフや、騎士と剣士のハーフエルフ兄妹も、収得しているんじゃなかったっけ?」
と、聞いてみたら、
「あの子たちは、自国に居たころにはそれを得ていませんでしたが…、旅を経て成長したようです。」
と森人族の長が微笑んだ。
ともあれ、仰向けで倒れていた敵が、いささかフラつきながらも立ち上がる。
「おッ!? あいつ、タフだなぁ。」
と俺が感心していたところ、豚の獣人に近づいていったトロールが、右手に持った“棘の棍棒”をアッパースイングした。
しかし、“鋸の大剣”を横にしたハイオークに、
ガシンッ!!
と、阻まれてしまったのだ。
今度は逆に、敵がラージソードを右から左へと薙ぎ払う。
だが、左手に持っていた縦長で五角形の“大楯”に身を隠すと共に、トロールが全身を光らせた。
装飾が施されている紫色のグレートシールドは、縦の長さが4Mで、最大横幅は1.3Mである。
いずれにせよ、〝ブンッ!〟と迫る“鋸の大剣”を、真正面から、
ガンッ!!
と受け止めたのだ。
これは、【防ぎきる者】(消費MPは1回につき100ポイント)という“騎士”のスキルであり、自分よりレベルが高い者の攻撃であっても、完全にガードすることが可能らしい。
ただし、現段階でのトロールは、1日5回が限度みたいだった。
レベルが100を超えれば、倍の回数になるようだ。
ちなみに、【伝導】(消費MPは1回につき50ポイント)は、LV.100以下だと1日10回で、100以上は20回である。
にも関わらず、森人族の長は“無制限”となっていた。
そういうところが、彼女が“天才”と呼ばれる所以であろう。
多分、きっと、おそらく、maybe。
ん?どれも一緒だな。
…………。
気を取り直して!
俺のスキルに“回数の縛り”が無いのは、同化した【旧魔王】がそういう存在だったからだろうと推察できる。
ま、こればかりは“チート”だとしか言いようがない。
それはさて置き。
密かに、
(つーか、出番なくねぇッ!?)
と、思わずにはいられない俺であった―。