第89話 彼女が見た未来
❛此度は、国の存亡が掛かっているため、特例と致す!❜
との、エルフの国主による下知にて、トーキーから来た面子が暫く都で生活することを許可された。
国主館には、三千数ぐらいを収容できる庭が在るので、そこにテント(ゲル)を張らせてもらっている。
ちなみに、俺や、トーキーの姫君であらせられる聖女に、勇者と、賢者には、来賓用の寝室を提供してくれた。
今、俺たちは、晩餐会に招かれている。
トーキー側は、聖女/勇者/賢者/各将軍/生徒会書記2人組(勇者の付き添い)といった顔ぶれだ。
他には、エルフとハーフエルフの4名や、彼女たちと冒険していたメンバーが席に着いていた。
ミノタウロス元帥などは、体が大き過ぎるので、この館には入れない。
残念ながら。
ともあれ、俺たちは飲食を楽しんでいる。
基本、野菜や茸の料理ばかりだが…。
「で? いつ頃、戦になるんだ?」
「“見通す眼”で、おおよそは把握しているんだろ?」
と、訊ねた俺に、森人族の長が、
「まず、2日後に、オークたちが南の国境付近に姿を現します。」
「それから10日ほどが経つと、鳥の軍勢が西より攻め込んでくる模様です。」
と答えたのである。
「ん? 足並みが揃っていないようだが…?」
との疑問を呈した俺に、
「はい。どうやら、エルフ軍を南へと向かわせ、守りが薄くなったところを鳥たちが急襲して、首都を押さえ、挟み撃ちにする算段のようですね。」
と、述べる国主だった。
「じゃあ、こっちも二手に分かれるか。」
と俺が提案したところ、彼女が、
「それでも構いませんが、あまり、おすすめしません。」
と、首を軽く横に振ったのである。
「この方法だと〝負けてしまう〟のか?」
と窺う俺に、
「いえ、勝てますが…、それだと、後々、起きる問題に、対応しきれないでしょう。」
と、言い出したのだ。
「…とは?」
と続きを促したら、
「いずれ、“限りなき御方”は、現魔王と闘うことになります。」
「そして…、敗北を喫し、命を落とされてしまうのです。」
「その結果、世界は魔王に侵略され、多くの種族が〝意に沿わぬ〟との理由で虐殺されてしまい、暗黒の時代へと突入します。」
「これを覆すには、“限りなき御方”が、もっと強くなるしか術がなさそうなのです。」
と、語ったのである。
俺が、
「んん~??」
と首を傾げていたところ、一年生書記が、
「もしかして…、未来は確定していないという事でしょうか?」
との見解を示したのだ。
これに対して、
「7~8割方は決まっています。」
「ですが、それぞれの選択や努力で変えられる余地が残っているのです。」
と、国主が教えてくれた―。