第83話 新商品
俺たちは、聖女の【瞬間転移】で王城に帰ってきた。
誰も使用していない一室の大広間にて、サータ王が、
「“兎の国”が一件落着したそうで、何よりです。ご主君。」
と、お辞儀する。
「まあな。」
「ところで、駅や空港は見学したか?」
「まだ完成してねぇけど…。」
と訊ねてみたら、
「ええ。とても素晴らしかったです。」
「サータ国でも導入できないかと、トーキー王たちと話していたところです。」
と、答えたのだ。
「そっか…。」
とトーキーの王らに〝フッ〟と視線を送った俺は、
「お前ら、それ、どうしたんだ?」
と、少なからず驚いてしまったのである。
その理由は、トーキー王に宰相と賢者が、眼鏡をかけていたからだ。
これに、[科学開発班]の責任者が、
「実は、予てより、賢者殿から相談を受けておりましたので、作ってみました。」
と説明したのである。
更に、その責任者が、
「もう一つ、相談部の主任に注文されていた品も完成しました。」
と、自身の[アイテムBOX]から、何やら取り出す。
「おおッ! それはッ!!」
と感動する俺に、同行していた一年生書記が、
「そうです!」
「羽なし扇風機ですッ!!」
と、得意気になったのである。
何はともあれ、責任者の男性教員がボタンを押したところ、冷やっこい風が流れてきたのだ。
これには、賢者以外の、こちらの世界の面子が、
「おお―ッ?!」
と目を丸くした。
どうやら、賢者は、この件に携わっていたようだ。
サータ国の王が、
「一体どういう仕組みです?」
との疑問を呈したので、責任者が、
「我々の世界に存在している科学製品と、こちらに存在している“風と氷の魔石”を組み合わせました。」
と、説明したのである。
「これの大量生産は可能なのか?」
と窺う俺に、男性教員が、
「眼鏡もそうですが…、ご主君の許可が下り次第、すぐにでも出荷できるよう、王都の職人らが、既に、それなりの数を製造しておりますので。」
と、返したのである。
俺が、
「よし。じゃあ、早速、販売しよう。」
と促していたら、サータ王が、
「これらの品々を輸入させてもらっても、よろしいでしょうか?」
と、尋ねてきた。
俺は、
「ああ、構わん。」
「詳しいことは、トーキーの王に、宰相や、科学開発班の責任者と、決めてくれ。」
と首を縦に振ったのである。
それからは、サータ国の王を持て成す為の宴が、三日三晩、催された。
サータ王が10人の従者と帰路に着いた小一時間後、今度は、ドワーフの[国主補佐官]が、案内係の“コボルド”を伴って、訪れたのである。
彼女たちは、どうやら、馬車に乗ってきたらしい。
タキシード姿の運転手は、オスの獣人である“ワーシップ”のようだ。
豪華な客間にて、
「お久しぶりです。」
と、頭を下げて挨拶した彼女は、ワクワクして仕方なかったのだろう、休む間もなく、“科学開発班”及び“相談部”の案内で、各方面への視察に足を運んだのである。
その結果、駅と空港は元より…、魔銃だけでなく、眼鏡と扇風機にも、目を輝かせたらしい。
案の定―。