第80話 小さき英雄
両目を〝カッ!〟と開いた兎の王が、立ち上がるや否や、俺に襲い掛かってくる。
敵を倒したと思い込んでいた俺は驚いてしまい、身動きが取れなかった。
そんな俺の、胸の真ん中あたりに、王が繰り出した右の“4本の爪”が、
ズブシュッ!!
と刺さったのである。
俺の鎧は、ドワーフと魔石による代物ではないので、簡単に貫かれてしまったようだ。
いや、それらで作られた甲冑を纏っている面子も、割とダメージを負っていたので、俺が装備していたとしても防ぎきれなかったかもしれない。
それだけの攻撃力がロードにはあったのだ。
ちなみに、奴の【筋力増強】には、時間制限がないらしい…。
敵が〝スーッ〟と爪を引き抜く。
胸と口から、大量に血を流した俺が、[大地の槍]を、
ドスンッ!
と、落とした。
ボクサーや総合格闘家のようにクリンチした俺を、兎の王が哀れむかのように見下す。
皆が、それぞれに、「ご主君!!」「主様!!」と騒ぐなか、王の背中に、左の掌で直径1Mの黄色い魔方陣を展開した俺は、
「これでも、くらいやがれッ!」
と雷撃を発動したのだ。
ズババババァンッ!!
ビリビリビリビリィッ!!
といった二つの音が重なり、
「がはッ!」
と、呻きながら仰向けで倒れ、本来のサイズに戻ったロードが、感電によって、
ビクンッ!ビクンッ!
と痙攣している。
「くッ!」
と、地面に右膝を突いた俺は、
「王子よ、領主らと共に、止めを。」
と促した。
「は、はい!」
と、返事した兎の王子が、小走りで、
タタタタタッ。
と駆けてくる。
南方と西方の領主も側まで寄って来たところで、
「俺の槍を貸してやる。」
と、述べたのであった。
南方領主が左手で、西方領主が右手で、[大地の槍]を逆さにして持つ。
王子は両手で柄を掴んだ。
完全に気を失っている敵の左胸に、彼らが、槍の先を当てる。
「いきますよ、王子。」
と窺う西方領主に、緊張を隠せない兎の王子が無言で頷く。
「せーのッ!」
と、声を合わせた3体が、[大地の槍]で、
ズブシュッ!!
と心臓を突いたのであった…。
この世界では、格上の敵を死滅させれば、大量の経験値を得られて、ほぼ100%レベルアップ出来るらしい。
また、それに準ずる致命傷を与えた場合でも、かなりのExpが付与されるみたいだ。
俺は、2つ上がり、LV.112から114となった。
ステータスは、[HP:2280/MP:1140/基本攻撃力:912/基本防御力:684/基本素早さ:456]である。
当然、他のメンバーもUPしていた。
一年生書記がLV.34で、二年生書記はLV.40となっている。
聖女はLV.45の、勇者がLV.51だ。
小将軍がLV.53となり、中将軍はLV.57で、大将軍がLV.66である。
トロールはLV.68で、ミノタウロス元帥がLV.77となった。
ジャイアントアント参謀役がLV.54の、魔法剣士はLV.95になっている。
これは、以前の、“ミノタウロス軍”との戦いも含めての結果であった。
また、西方領主がLV.116で、南方領主はLV.118になったようだ。
更には、LV.1だった王子が13になっていたのである。
[異世界召喚者]の誰かしらが、「13って、不吉なんじゃ…。」と呟いた。
これに、LV.32の【魔女】である三年の留学生が、
「ノー。ナンバー“サーティーン”ワァ、カードゲーム(トランプ)ノォ、“king”ナノデ、スバラシイデェス。」
と、述べたのである。
一年の生徒会書記が、
「確かに…。そもそも、13という数字は、権力や富を表す縁起が良いものだと、聞いたことがあります。」
と補足した。
勇者の【ミドルヒール・ソロ】で、既に回復していた俺は、
「ま、ともかく、めでたいという事で、良さそうだな。」
と、微笑んだのである。
戴冠式が済み、兎の王子が、新たな王に即位した。
そんな彼を、国内の全ての者が“小さき英雄”として認めたようだ。
その日は、夜遅くまで大宴会となり、王都はとても賑わったのであった―。