第8話 仕返し
「城に案内せよ。」
と命じた俺に、大将軍が、
「御意。」
と、答える。
都の北西に位置する王城へと俺たちは向かった。
全長18Mだという城は大庭園の中央に聳え立っている。
庭には2万人ほどを収容できるらしい。
その周囲には、高さ5Mの城壁がある。
およそ2000体の魔物を庭で待機させた俺は、大将軍たちの先導で〝玉座の間〟へと通された。
そこでは、国王や、女性の宰相を始めとした各大臣に、中将軍と小将軍が跪いて待っていた。
玉座にドカッと腰掛けた俺は、
「では、始めるか。」
と彼らを見回した。
玉座の間には幅3Mの赤絨毯が敷かれており、その絨毯上に勇者とお仲間たちが、直立している。
「さて、勇者よ、お前は“統べる者”でレベルが低い者たちを無理矢理に戦わせて、死なせたな。」
「しかも、その者たちを見捨てて逃げ帰るとは、言語道断!」
「そう思わんか?」
と、俺が発言すると、国王が、
「な!? その者たちは自ら盾となりて、勇者殿たちを退却させたのではなかったのですか?」
と驚きながら勇者一行を問いただす。
「つまり…、嘘の報告までしていたというのか!」
と、睨み付けたところ、ひれ伏した勇者が額を床に着けて、
「申し訳ございません! 私たちの話し合いで決まったものでして…。」
と弁明してきた。
「どういう事か、詳しく話せ。」
と、促すと、
「生徒会の秘書に“アサシン”がおりまして、その者の可視化によって、敵の強さを知り、副会長に相談しましたところ、〝レベルの低い者たちはどうせ足手まといだから、餌にして逃げよう〟と…、一応、理事長や、私共の担任と、クラスメイトにも意見を窺ったところ、満場一致でしたので、つい…。」
[特進コース]の連中は、世界的にもトップレベルの大学に入れるほど成績が良い者や、親が政治家や財閥人に芸能人といった金持ちのところは学園のスポンサーにもなっているため、理事長を筆頭に、教師陣は、彼女たちを甘やかしており、それ以外は正直どうなっても良いみたいなところが、昔からある。
また、[特進コース]の生徒達は、〝自分たちは特別〟という自意識過剰の集まりなので、他者を見下し、切り捨てるのも厭わない。
「要は、お前ら全員が共犯という事だな…。」
と殺意を抱いたところに、理事長・副理事・勇者の担任が、兵士たちに連れられて来た。
「役者が揃ったな。」
フンッと鼻で息をした俺は、
前列の中央に勇者、その左隣に理事長、更に左に担任を、勇者の右隣には二人の秘書を立たせた。
この面子は、皆、女性だ。
「では…。異世界召喚者たちは、全員、土下座しろ!」
と、命じる。
どいつもこいつも、【絶対服従】には逆らえず、言いなりなった。
「王よ…。」
「はッ!」
と、国王が頭を垂れる。
「お前は何故、俺たちを森林に向かわせた?準備不足だとは思わなかったのか?」
「は…、いえ、そのぉ…、早いところ一定の成果を見たかったものでして…。」
と口を濁す。
「宰相よ。」
齢70の彼女は、白色と灰色が入り混じった髪の毛で、瞳は薄っすらと青く、身長は160㎝くらいだ。
背中は曲がっておらず、顔つきは穏やかである。
なんでも、先代の王から仕えており、最初は低い身分だったものの、聡明であるとの理由で、あれよあれよと出世したらしい。
「はい。」
と、柔らかく返事した宰相に、
「お前は反対しなかったのか?」
と聞いてみたところ、
「反対しましたが、将軍たちも乗り気だった所為で、王に却下されてしまいました。」
俺は、3名の将軍たちに、
「お前らも元凶か~ッ!」
と、歯ぎしりする。
「誠に、申し訳ございませんでした!!」
と将軍たちが土下座して床に額を擦り付けた。
LV.42の大将軍が、
「チヨーダ森林のモンスター達は、それほど強くないとの情報でしたので、異世界召喚だけで勝てるものと踏んでしまいました。」
LV.35の中将軍と、LV.31の小将軍が、
「心よりお詫びします。本当にすみませんでした。」
と、続いた。
中将軍は、40代の【戦士】で、茶色の髪は眉あたりで切り揃えており、目は細く、無精髭を生やしていて、恰幅が良い男性だ。
【剣士】の小将軍は、青黒い髪をツーブロックにしており、陸上選手のような肢体の、30代の女性である。
いすれにせよ、国王と三将軍も全裸のうえに正座させた俺は、少し思案した。
そして…。
連中に、木材で作らせたプラカードを持たせ、北の大通りを歩かせた。
プラカードには、“私共は無能です”“中身が空っぽで、ごめんなさい”“ポンコツで、すみません”“私が噂の、ぽんこつ勇者です”といった、様々な文字が書かれている……。
大通りを挟んだ城の対面には、俺たち用の宿舎が4つ在る。
異世界からの召喚を国事として決定した際に、魔法も使いながら急ごしらえで造ったらしい。
1つの宿舎につき、六畳の部屋が500室あり、トイレとシャワーは共同で、1階は食堂となっている。
宿舎の2つが男性用で、残り2つは女性用なのだが…、VIP待遇の勇者たちは城内で性活していた。
王城には、来賓用のルームが100室あるらしく、その殆どが20畳の広さで、トイレとシャワーが部屋ごとに設置されている。
勇者・生徒会のメンバー・勇者の同級生・理事長・副理事・勇者の担任、46名が寝泊まりしていた。
生徒会長に至っては30畳の部屋を使っていやがった。
俺は、こいつらが城内の部屋で暮らすのは贅沢だとして宿舎へ移動させて、勇者が生活していた一番贅沢なルームを手に入れたのである。
室内の壁には大きな鏡(縦5M:横3M)が貼り付けてあり、それで自分の姿を確認した俺は言葉を失った。
融合して以来、初めて見るのだから無理もなかったのだが……。
身長は変わっていなかったものの、肌は青みがかった灰色で、眉より少し長い髪は白銀になっていた。
額の左右に10㎝程の黒い角が1本ずつ生えており、眼球の白い部分は黒に、瞳は赤で中央は黒になっており、耳の先端は鋭く尖っている。
また、上下の歯が2本ずつ牙みたいになっている事にも気付いた。
試しに出現させてみた翼は、全体的に黒い。
(んー…、アイツってドラゴンだったのかな?)
(でも、〝個であり複数体である〟みたいなことを言ってたよな??)
首を傾│《かし》げる俺だった―。
一年生書記【クレリック】の特徴
身長155㎝ぐらい。
背中あたりまでの長さがある黒髪を“ゆるふわ三つ編み”にしている。
体型は標準的で、丸眼鏡を掛けている。
Eカップ。
顔立ちは割と可愛い。
15歳。